はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

花嫁の秘密 324 [花嫁の秘密]

「満足したか?」

ん?と、何のことだと、ソファでまどろむサミーは無防備な顔をエリックに向ける。

腹がいっぱいになった途端こうだ。俺の事を給仕係か何かだとしか思っていないらしい。

「君の言うように、自分の家を持つのもいいかもしれない」サミーがぽつりと言う。数日前突如エリックによって投げかけられた課題は、サミーの新しい悩みとなっていた。

もちろんエリックもサミーの心の動きには気づいている。そうなるようにエリック自身が仕向けたからだ。けれども、サミーにのめり込むうちに、この思いつきはあまりいい考えではないような気がしてきていた。

「お前がそうしたいならいくらでも手伝ってやる」ゆったりと椅子の背に身体を預け、サミーの乱れたままの髪を見て頬を緩ませる。人に髪を切れと言うわりに、サミーの髪もなかなかの無法地帯だ。

「もう適当な住まいを見つけたんじゃないのか?」

サミーもこっちの考えはお見通しってわけだ。

「いくつかな。けど、売りに出してる持ち主が売り渋っている」クリスマスイヴの訪問が無駄だったとは思いたくないが、手応えがあったとは言い難い。

「売りに出しているのに?」サミーが疑問を口にする。当然誰もがそう思うだろう。

「人にやるとなったら惜しいんじゃないのか。欲しいならうまく交渉するが」エリックはサミーの反応を探った。

「その時になったら頼むよ。いまはまだ寒いし動きたくない」

サミーは誰のどこのどんな屋敷か尋ねることはなかった。その気がないのか、俺を信頼しているのか。いまはまだ、サミーは暖かく安全な場所でぬくぬくしていればいい。

「俺は少し出てくる」エリックは意を決して立ち上がると、身体を伸ばしてサミーにサッと口づけた。「プラットに下げに来るように言っておく」

「どこへ行くんだ?」サミーはエリックを仰ぎ見た。

「自分の家に行ってくる」

「あの狭いアパートに?」

「そっちじゃない。あそこよりもう少し広い。そのうち招待してやる」どうせならひと部屋やったっていい。世話のし甲斐があると、タナーはさぞかし喜ぶだろう。

「いくつも住まいを持っていてよく管理できるね。僕はきっと無理だな」サミーは顔を左右に振った。

「管理人を置いているし、お前が住む場所にも当然執事を置くだろう?ここにプラットがいるように」

「どうかな、そうそう信用できる人が見つかるとは思えないけど。もちろん彼らは仕事だって割り切って、誠心誠意尽くしてくれるだろうけど、家に仕えるのと個人に仕えるのとではやはり違うよ」

エリックは優しくサミーの頬に触れた。自己評価が低いのは生い立ちそのものの不遇さにあるが、いまは持たざる者とは違う。自由に使える金もそれを増やす才能も、周りに信用できる人間も多くいる。自分で気付いていないのかもしれないが、信用できない男に大事な仕事を任せるか?ブラックへの信頼は俺の存在があってこそかもしれないが、それでも信じたことには変わりない。

「数時間で戻る。土産は“公爵のチョコ”でいいか?」

つづく


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花嫁の秘密 323 [花嫁の秘密]

カーテンの隙間から日が漏れている。
サミーは重たい瞼を何とか持ち上げた。どうやら眠っていたようだが、いまは朝なのか昼なのか、部屋は暗いままでよくわからない。

身体を起こす気にもなれず、手を伸ばしてベッドを探るが、そこにエリックはいなかった。もうどこかへ出掛けたのだろうか。

のんびり過ごすとはなんだったのか。昨日あれだけしておいて、よく朝から動けるものだ。僕は何もする気が起きないっていうのに。

喉の渇きと空腹を覚え、サミーは諦めて上掛けから這い出た。

「起きたのか?」

足元の方へ顔を向けると、ソファの向こうでエリックが腰をかがめて何かしていた。

「そこで何してる?」

「火を大きくしている」エリックは火かき棒を手に振り向いた。「朝食は部屋に持ってくるように言っておいたから、もう少し待ってろ」

ということは、まだかろうじて朝ってことか。「まるで既婚女性みたいな扱いだな。ところで、もしかして君もここで朝食を?」枕を背に座り、ガウン一枚で部屋をうろつくエリックを目で追う。カーテンを半分ほど開けて、ベッドに戻って来た。

「俺がひと晩中何をしていたと?もうくたくただし、腹ぺこだ」ベッドに腰掛け片手をついてにやけた顔を向ける。

エリックは僕に何と言い返して欲しいのだろう。満足したと言えばいいのか?「君はここがクリスの屋敷だということを忘れてはいないよね?当然使用人も」この状況を見て使用人が何と思うか。

「お前はくだらないことを気にしすぎだ。ブラックに頼んだから心配するな」

ブラックに?まだいたのか。

短く二度擦るようなノック音がして、エリックが待ってましたとばかりに戸口へ向かう。ドアを少し開けて相手を確認すると、朝食の乗ったトレイを受け取りひと言ふた言言葉を交わして、肘でドアを閉めた。

『ああ、行ってこい』と聞こえたけど、エリックはブラックがどこに行くのか把握しているらしい。それもそうかと納得するしかないけど、きっとエリックは知っているとは言わないのだろう。それは僕のためかブラックのためか。

「食べたかったらさっさと顔を洗ってこっちに来い」エリックは暖炉のそばにあらかじめ動かしておいたテーブルにトレイを置き、早くベッドから出ろと顎をしゃくる。ポットからココアを注ぎ、パンかごをテーブルの中央に据えた。

クロワッサンのいい香りが漂ってくる。アンジェラの好きそうな朝食だなと思ったが、さすがに口には出さなかった。意外にもエリックは僕のアンジェラへの気持ちに不満があるらしく、口に出そうものならしつこく文句を言われる羽目になる。

「ベーコンもあるといいんだけど」そう言ってサミーは、ようやくベッドから出た。

つづく


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花嫁の秘密 322 [花嫁の秘密]

サミーの背中の傷を愛おしく思っているのは自分だけだと、エリックは自負している。『醜いだろう?』と傷ついた表情でそう言ったサミーに、そんなことはないと慰めの言葉を掛けなかったのは、そうされるのをサミーが嫌うと知っていたから。

けれどもその代わりに、サミーを抱くときには必ずこの場所に触れ、キスをした。痛むはずはないとわかっていても、優しく触れずにはいられなかった。

サミーは敏感に反応し、普段は出さない声を聞かせてくれる。とても魅力的な声だ。きっと俺しか聞いたことがないだろう。サミーの感じる場所を探り当て、普段は抑えている欲望をありとあらゆる方法で引き出す。これが出来るのもきっと俺だけだ。

「サミー、こっちを向け」エリックはサミーの背を抱き、耳元で告げた。今夜ほどおとなしくベッドへ招き入れてくれた日があっただろうか。

サミーはゆっくりと振り向き、濡れた瞳で見上げた。抱かれている時に見せる、いつもより青みの強いこの目の色は特にお気に入りだ。どんどんのめり込んでいく自分が怖くもあったが、いまさらもうどうしようもなかった。

エリックはサミーにキスをし、こいつは俺のものだと叫ぶ代わりに、自身を奥までぐっと突き立てた。サミーのくぐもった喘ぎは歓喜と抗議が入り混じっていた。

「なんだ?ここ好きだろう」

「そういう、下品なことを言うのは、やめてもらえるかな」エリックの下でサミーはまぎれもなく抗議の声をあげた。

「でも好きだ」ゆっくりと腰を引くと、サミーの身体を横にして焦らすように内壁を擦る。実際焦らされているのはエリックの方なのだが、あまりに性急な行為ではサミーを満足させられない。それにゆったりとした行為は一秒でも長く繋がっていられる。

これからの数日、サミーが断らなければベッドで過ごすつもりだ。身体の相性はいい。退屈はさせない自信もある。

サミーの乱れた息づかいが心地よい。強く突くとサミーの身体は悦びに震え、エリックはさらに奥深くへと身を埋めた。

「ああ、エリック……」サミーが声を絞り出す。懇願するような声音はとてつもなくそそる。

「もっとか?」

答えたくないのかサミーは頭をわずかに動かしただけだ。ほんと、素直じゃない。けどベッドの中で意地の張り合いをしても仕方がない。こっちにも限界ってもんがある。

サミーが望むなら何度だって好きな場所へ連れて行ってやる。それだけの時間もある。

つづく


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花嫁の秘密 321 [花嫁の秘密]

クッションのよく効いた三人掛けのソファは長身の男二人が寝そべるにはやや手狭だ。まあ、密着していれば別だけど。

押し潰さないように気遣うエリックの優しさは、母親譲りだろうかそれとも父親譲りだろうか。コートニーの人間は皆優しい。うちとは大違いだ。

「クィンにクラブを売れと、もう言ったのか?キスをする前に答えてくれたらありがたい」エリックの形のいい唇が目の前でぴたりと止まった。最近はキスする権利が当然あるかのように振る舞っているが、僕は一度だって勝手にしていいと言ったことはない。

「いや、内情を聞き出そうとしただけだ」

「何か教えてくれたのか」唇が重なってきたが、かまわず訊き返した。

「いきなり教えると思うか?あの男が」ひと通り味わって、エリックは返事をした。続きをしたければ答えるしかないからだ。

「どうだろう?彼はそう堅苦しい男でもないよ。少し世間話でもすれば、結構喋ってくれると思うけど」クィンが気さくにエリックと喋っている姿を想像してみたが、あまりありそうにも思えなかった。それこそビジネスに徹するなら、いい話し合いが出来そうではあるが。

「それはお前だからだろう?俺と気軽に話したいやつがそういるとは思えないが」

僕もいま同じことを考えていたと言う前に、会話は中断を余儀なくされた。待ちきれなくなったエリックがキスで言葉を封じ、二人の間を隔てるウールケットを乱暴に剥ぎ取った。

サミーはエリックの背中に手を回し抱き寄せると、キスを返した。チョコレートとワインで気分がよかったからか、エリックの飢えた顔つきに妙に心擽られたからか、日を追うごとに感情が変化していっている。

エリックの長い髪が頬を撫でた。サミーは目を開けて、エリックの頬に触れて髪を掻きあげた。

「切らないのか?」出会った時からずっとこの髪型だが、何かこだわりがあるのだろうか。例えば、以前付き合っていたやつの好みとか。

「何かと思えば、切って欲しいか?」エリックは髪を後ろに流しながら尋ねた。「てっきりお前は長い方が好きなんだと思っていたが」

僕がいつ……。艶やかなはちみつ色の髪は確かに魅力があるかもしれないが、まさか――「僕が君にアンジェラを重ねていると?」

「違うのか?」意外だといった声音。

まったく!なんて男だ。「髪と目の色以外何も似ていないのに、君を見てアンジェラを想うと思うか?」

エリックは真剣な眼差しを向けてきた。「さあね。お前の考えていることはよくわからない」指先にサミーの髪を絡めそっとそこにキスをする。何気ない仕草にサミーは顔が赤らむのを感じた。

「てっきり僕の考えはすべてお見通しなんだと思ってた」精一杯刺々しく言ってみるが、言葉は尻すぼみになった。

「くだらない計画はすぐにわかる」エリックがにやりとする。

くだらないね。つまり、僕がブラックを使って行動しようとしていることには気づいているわけだ。別に進んで喋る気もないが隠す気もないから、知られたってかまわないけど。

「それで、続きはするのか?」結局何もかも見透かされて腹は立つが、いつものことだし気にしても仕方がない。

「どっちの続きだ?クィンの話か、それとも――」

サミーはエリックの口をふさいだ。ひとまずクィンの話は明日でも遅くはない。

つづく


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花嫁の秘密 320 [花嫁の秘密]

暖かな部屋でお腹が満たされると、細かいことはどうでもよくなった。

サミーがいつもより素直なのは、隠し事をしているからだとわかっている。それを追求するつもりはいまのところはない。せっかく機嫌良くワインを飲んでいるのに、雰囲気をぶち壊すような真似をするのはあまりにも愚かだからだ。

「それで?君は今夜どこへ行っていたんだ」

エリックが追求しないからといって、サミーもしないとは言っていない。

「帽子屋へ行くと言っただろう」ひとまず月並みな返しをしたが、サミーが納得するはずもなく、じろりとひと睨みしてワインをちびりと飲んだ。

「それから?」サミーはテーブルにグラスを戻し、ソファの上に足を乗せてウールケットにくるまった。本格的に話を聞く体勢なのか、ソファの肘かけと背中の間にクッションを挟みもぞもぞといい位置を探っている。

「聞いてどうする?」それこそ聞いても無駄だろう。

「ただの世間話だよ。黙ってろって言うのならそうするけど」サミーはそう言って、目を閉じた。まさかまた寝ようってわけじゃないだろうな。

「たいしたことはしていない。帽子屋と仕立屋に寄って、それから雑誌社に顔を出した。頼まれていた記事をひとつ渡してきたんだ」そのあとS&J探偵事務所に寄ったが、これは言うべきかどうか迷うところだ。

「君はいつ記事を書いているんだい?僕は一度も君が机に向かっている姿を見たことないんだけど」サミーは挑発的な目をエリックに向けた。

「お前がのんびり茶を飲んでいる間に、俺が何をしていると?」こいつのために俺がどれだけ動き回っていると思っているんだ。時々自分でも馬鹿馬鹿しくなるが、一日中サミーの事ばかり考えている。いまはまだ考えていられる時間があるからいいが、そのうち仕事が入ればそんな余裕はなくなる。

「さあね。でも教えてくれたら、僕に何かできることがあるかもね」サミーはにこりとした。

エリックは思わず顔を顰めた。「酔っているのか?」渋面のままじっとサミーを見つめ返事を待ったが、酔っていると認めるはずがないことはよく知っている。

もう少し酒に強くなってもらわないと、おちおち一人でパーティーにも出席させられない。いったいいままでどうしていたのか。もちろんそんなものに出席しないし、酒も飲まなかったのだろう。

サミーが足先でエリックの太ももを突いた。「クィンの話はいつしてくれるんだ?」

「こっちへ来たら喋ってやる」エリックはサミーの足を掴み軽く引っ張った。ちょっかいを出してきたのはサミーだ。せっかく一緒に飲んでいるのに――サミーはほとんど飲んでいないし、もう飲んでいないが――離れている方がおかしい。

「君がこっちに来ればいい」どことなしか、揶揄うような声音。こういうきわどいやり取りをジュリエットとしているかもしれないという可能性が頭に浮かび、カッと頭に血がのぼるのを感じたが、誘惑には逆らえなかった。

エリックはほとんど横になっているサミーに重なるようにして距離を縮めた。

つづく


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花嫁の秘密 319 [花嫁の秘密]

エリックが暖炉の前に座り込んで髪を乾かす姿を窓辺の椅子に座って眺めながら、サミーは明日から何をしようかと考えを巡らせていた。

ブラックにはふたつ頼み事をした。ひとつはフェルリッジに行って、父の葬儀に出席した者の名簿をダグラスから受け取って、ここへ持ち帰ってくること。

ブライアークリフ卿のパーティーで見かけたあの男が誰なのかようやく思い出せたものの、四年前ちらりと見ただけだし、念のため確認は必要だ。決定づけられれば、彼らについて調べを進めることが出来る。

それともうひとつ、例の事件現場となった屋敷を手に入れた持ち主に、屋敷を手に入れるに至った経緯を確かめてくること。どちらが先でもいいけど、名簿が先の方がありがたい。ダグラスはすでに用意して待っているだろうし……。そういえばダグラスはクリスについてラムズデンに行くのだろうか。

当然ついて行くだろう。そうしないといけない。

「おい、いつまでそんな隅に逃げているつもりだ」エリックが痺れを切らしたように声をあげた。

「邪魔をしないように気を使っていたのに、文句を言うとはね」

「いいからこっちへ来い」

「はいはい」サミーは背中に挟んでいたクッションを手に立ち上がった。アンジェラが選んだクッションカバーはいかにもな花柄だ。少しずつ変化していく屋敷の姿に、エリックが言っていた言葉が思い起こされる。

自分の住まいを持つべきだろうか。ここは僕の家なのに僕のものじゃない。それでも、いつかは出て行かなければならないのだろう。

「少し付き合え」エリックはソファテーブルの上のボトルを手に立ち上がり、ふたつのグラスに中身を注いだ。今夜もクリスの秘蔵のワインを引っ張り出してきたようだ。酒に興味がないから、値段以外の価値はよくわからないけど。

「それを飲むならこれもあった方がいい」書き物机の上のチョコレート箱を掴んで、エリックの隣に座った。イヴにもらった<デュ・メテル>のチョコがあれば、飲み慣れない赤ワインも少しはマシに思えるかもしれない。

「俺はまずこれをいただこうか」エリックは皿にかぶせてあった銀製の蓋を取って、満足の笑みを浮かべた。ほら見てみろとグラスを掲げてやけに得意げだ。

「ビーフシチューにはぴったりのワインだって言いたいのか?いいから食べたらどうだい」まったく、いちいち僕の方を向く必要なんてないのに。

サミーはワインを一口飲んで、チョコレートに手を伸ばした。本当はワインなんかよりもココアが飲みたい気分だったが、今夜はもうみんな下がらせたし、エリックに付き合わなきゃ仕方がない。

エリックはおとなしくビーフシチューを肴にワインを飲んでいるが、しばらくしたら昨日聞きそびれたクィンの話でもしてもらおう。ついでに今日の行動も何か聞けたらいいんだけど、どうせ誤魔化されて終わりだろう。

つづく


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花嫁の秘密 318 [花嫁の秘密]

エリックが身支度を整え部屋から出ると、廊下でブラックが壁に寄りかかって待っていた。

「何か用か?」まだ湿ったままの長い髪にタオルを当てながら尋ねた。これで少しはマシな匂いになっただろうか。

「ええ、一応報告を」ブラックが含むように言う。

「サミーに何か?」エリックは短く訊いた。

「あなたに金で雇われているのかと訊かれたので、そうだと答えたら、仕事をひとつ頼まれました」ブラックは壁から離れ一歩近づくと囁くように言った。どうせ人はいないから声を潜める必要はない。

エリックは思わず額に手を当てた。前髪をぐしゃっと握り、深い溜息を吐く。わざわざ金で動くのか確認して何を依頼したのやら。「引き受けたのか?」

「ええ」ブラックの口の端が心持ち持ち上がる。

面白がっている場合か。ったく、頼む方も頼む方だが、引き受ける方も引き受ける方だ。

「お前がそう判断したのなら好きにすればいい」サミーが頼みそうなことはだいたい見当がつく。こっちで全部調べられそうなことばかりだが、俺に言わずに勝手に調べようと思ったのはなぜだろう。

「反対されるかと思いましたが」

「何を依頼されたのか知らないが、サミーがお前に頼んだのには理由があるんだろう」他に頼む相手がいなかったか、単にブラックと俺を試しているのか。だからさっきキスしても何も言わなかったのか。「口止めはされたのか?」

「いいえ。ですが最初に忠誠心だけであなたに仕えているなら頼まないと、釘を刺されています」ブラックは真面目くさった顔で答えた。

「忠誠心はあるんだろう?」まさかこんなことを確かめる羽目になるとは。確かに金で雇ってはいるが、信用できないやつにサミーを任せられるとでも?

「もちろんあります。だから依頼されたことは報告しますが、内容は明かしません」ブラックは居心地悪げに足の位置をずらした。一応は二重に雇われることへのばつの悪さは感じているらしい。

「わかった。だがもしサミーに何か危険が及ぶようなら、すぐに報告しろ」エリックはタオルを肩にかけ、ブラックに背を向けた。さっさと髪を乾かさないと、このままでは風邪をひいてしまう。それにサミーがいつまでも待っているとは限らない。

「危険はないと思いますが、何かあれば報告はします。だからしばらくあの方の見張りはあなたがお願いしますよ」ブラックは廊下を行くエリックの背に向かって言った。

ああ、言われなくてもしばらくは目を離さないつもりだ。

つづく


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花嫁の秘密 317 [花嫁の秘密]

いったい僕は何をしているんだか。

サミーは頭の部分に貴婦人をあしらった真鍮製の火かき棒で、赤くくすぶる石炭をざくざくと突き暖炉の火を大きくしていた。

エリックはまだ戻ってこないが、食事は済ませてくるのだろうか。てっきり晩餐までには戻ってくると思っていつも通りの時間に食事を用意させたが、一向にその気配がない。今夜は一段と冷えるし、さっさと部屋へ引き上げたいのに。

「何してる?」

前かがみになっていたサミーは顔をあげて声の主を仰ぎ見た。「火を大きくしている」

「見ればわかる。食事は済ませたのか?」

「いつもの時間にね」サミーは火かき棒を台に立てかけ、エリックに向き直った。ひんやりとした空気がエリックから流れてくる。

「少しくらい待てなかったのか?」エリックはそう言いながら、炉棚の上に脱いだ手袋を置いた。

「少しは待ったさ。五分くらいね」その五分でさえ、待っている自分に馬鹿馬鹿しくなった。エリックは勝手にここに居座っているだけで、一緒に暮らしているわけでもないのに、なぜ合わせる必要がある?

「たった五分ね」エリックは呟き、サミーに手を伸ばした。腕を掴み引き寄せ、まるで熱を奪うかのようにきつく抱きついた。「しばらくゆっくりしよう」

「どういう意味だ?」なぜ抱きつく必要が?

「カウントダウンイベントまで面倒なことは全部棚上げだ」エリックは頬をすり寄せ、ほっと息を漏らした。

「メリッサに全部任せたから?」サミーは尋ねた。メリッサはジュリエットの監視を引き受けたが、本当ならその役目は僕にあった。面倒を押し付けてしまった気がして、ずっともやもやしている。

「いいや、全部手配が済んだからだ」エリックの冷たい手が頬に触れた。このあと何をされるのかわかっていても、いまさら騒いだりはしなかった。わざわざ声をあげて人を呼び寄せる必要もない。

重なってきた唇はかさついて冷たかった。外でいったい何をしてきたのだろう。性急に熱い舌が滑り込んできて、サミーは驚いてエリックにしがみついた。驚くことなどひとつもないのに、隠し事をしているせいだろうか、やけに心臓がどきどきしていてこれでは何かあったとすぐにばれてしまう。

「甘いな、デザートも食べたのか?」エリックが囁いた。

「勝手に味わうのはやめてもらえるかな?」サミーは震える声で言い返した。

「それに石鹸の香りがする」そう言いながらエリックは、当然の権利とばかりに冷たい鼻先を首筋にこすりつけた。

「食事の前に入浴も済ませたからね」

「感心だな」エリックは満足そうににやりとした。

いつもそうしているだけで、エリックのために支度をして待っていたわけではない。そう言い返してもよかったけど、なぜか機嫌が良さそうなのでやめておいた。提案を受け入れ、このままあと数日何も考えずのんびりと過ごすのも悪くない。どうせカウントダウンのイベントで、またあれこれ揉めるに違いないからだ。

「君の方はひどい臭いがしているけど、シャワーを浴びてさっさと食事を済ませる気はあるのかい。みんなをもう休ませてやりたいんだけど」サミーはエリックを押し退け、小さな丸テーブルに置かれた本を手にすると、少し前まで座ってくつろいでいたソファに戻った。

「誘ってるのか?」サミーが睨むと、エリックは冗談も通じないのかと肩をすくめた。「そうだな、汚れを落として着替えてくる間に、何か軽くつまめるものを用意しておいてくれたら、あとは勝手にできるだろう?」

「勝手にするのは君ひとりで?それとも、僕も巻き込まれるのかな」寝る前に読み終えたい本があったけど、今夜は諦めてエリックが外で何をしてきたのか聞き出す方が無難か。

「お前は家族団らんにも付き合えないのか?ったく、いいから準備しておけ」エリックはぶつくさ言いながら、居間を出て行った。

家族団らんね……。まぎれもなく家族ではあるけど、それとは違う感情とどう折り合いをつけたらいいのだろう。問題を先延ばしにするのはあまりいいことではないが、いまのところ向こうが一方的に要求してくるだけだし、しばらくは成り行きに任せで様子見をするしかないだろう。

つづく


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花嫁の秘密 316 [花嫁の秘密]

「いや、俺の依頼だ」しかもほとんど個人的な。とにかくフェルリッジは最寄りの駅から遠すぎる。専用駅ならもしもの時――サミーやアンジェラに何かあった時――内密な移動が可能になる。

ステフにこんな頼みごとをするのも、父親から譲り受けた鉄道会社を当てにしてのものだ。父親のアストンは以前問題を起こしこの国を追われているが、先見の明はあった。持っていた鉄道会社は順調に成長し、莫大な利益を生んでいる。ステフは経営に口出しをしてはいないが、決定権は持っている。

「ハニーさんのためですか?」ジョンが訊いた。途端に興味を引かれたのか、ステフが前のめりになる。

この二人、ハニーの事はクリスを通じてよく知っているらしい。
クリスがここの顧客なのも不思議な話だが、先日ハニーの誘拐事件の再調査を依頼してきて、対応に困ったステフが連絡してきた。もちろん引き受けるわけにはいかないと断らせたが、クリスがそれで諦めるとは思えない。直接手を下した犯人は死んだが、黒幕がいるところまでは突き止めている。そのうち真相に辿り着くかもしれないと思うと、早いところ幕引きをしないと結婚生活さえ危うくなりかねない。

それでなくとも、サミーの余計な行動で当初考えていたよりも大幅に計画変更を余儀なくされたというのに、これ以上の面倒は避けたい。

「大雑把に言えばそうだな。だがあそこに線路を敷くことで利点もある。いま全部喋ってもいいが、生憎時間がない。それに、まだ土地の持ち主に許可を取っていない」

「なんだか胡散臭い話だな。話を持ち込んだのがあなたでなければ、詐欺だと思うところですよ」ステフはきれいに片付けられた机を、指先でトントンと打ち鳴らした。

「詐欺ではないが、確実な儲け話とは言い難いからな。お前の言い分もわかる」まずはクリスを説得して、そこから線路が通る予定地の村人への対応もある。耕作地が減る領民は反発するだろう。クリスがうまく代替え案を提供すれば、彼らにとっても悪い話ではないはずだ。

「話がまとまれば俺の一存で決めることもできますが、こっちである程度調査して返事をしてもいいですか?寒い時期にあまり動きたくはないですけどね」

まったく。これだから金のあるやつは。ステフがこの仕事をしているのも、単純にジョンの為だろう。俺と同じで、愛する男に居場所を与えたいから。

「ああ、急がないから好きに調べろ。こっちでも報告書類を作成しておく。クラブの方は、考えるなら今度連れて行ってやる」

つづく


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花嫁の秘密 315 [花嫁の秘密]

午後七時 <S&J探偵事務所>にて

「今日も暇そうだな」エリックは事務所に入るなり言った。どうせ誰もいないし遠慮することもない。

数日前に来た時も客が来た気配は微塵もなく、S&J探偵事務所の所員ステファン・アストンとジョン・スチュワートはひとつに椅子に二人で座って何かしていた。今日は珍しく離れた場所にいる。本当に珍しい。

「もう店仕舞いです。ミスター・コートニー」机に向かって頬杖をついていたステフが、不機嫌そうに返す。ふたつ年下のこいつは、ほとんどの場合相手が年上でも生意気な態度だし、ジョンに触れていないと不機嫌だ。

「どうせ開けてもいないんだろう?」エリックは来客用のソファに身を投げ出すようにして座った。あちこち歩いたせいか、足が重い。

「年の瀬ですからね。ここのところ新規の依頼はないんですよ」ジョンがやんわりと口を挟む。愛嬌のある黒っぽい瞳はいつもきらきらと輝いていて、いまの生活に満足していることがうかがえる。

「それで、何の用です?この前の案件なら、まだ調査中ですよ。一日二日でどうにかできることではありませんし」ステフは横柄な態度で椅子にふんぞり返った。

今日は客としてきたわけではないが、言い方ってもんがあるだろう?「いや、それとは別の話だ」

「何か飲まれますか?」ジョンは棚の上に並ぶボトルに目をやった。なかなかいい酒が揃っているが、これは誰の趣味なのだろうか。

「ありがとうジョン。このあとまだ寄るところがあるから、次回な」エリックはジョンの申し出を丁寧に断り、さっそく用件を切り出した。こういう話はぐずぐずしていても始まらない。「ステフ、お前クラブに出資しないか?ついでにフェルリッジの近くに新しく専用駅を作ってくれ」

ぽかんとするステフとジョン。当然の反応だ。これまで仕事の依頼をすることはあっても、ここまでの大きな依頼はしていない。依頼というより提案だが、どちらもはいそうですかと二つ返事で引き受けられるような内容ではない。

「えーっと……まずは――」何から返事をしていいのか、さすがのステフも言葉を詰まらせた。頭の回転の速いステフは、大抵において即答するのだが、今回ばかりはもう少し詳しい説明でもしないと、返事のしようがないといったところだろう。

ジョンはエリックの向かいに座って、心配そうにステフの方を見た。「株主になれってことですか?」エリックに向き直って尋ねる。

「クラブをひとつ買いたいと思っている。共同経営者にしてもいいが、出資だけでも別に構わない。ちなみに新しいオーナー候補の許可はまだもらっていないから、ひとまずの提案だと思ってくれたらいい」もちろんサミーが嫌だと言えば、この話はなしだ。

「どこのクラブです?俺に何の得が?」ステフは眉間にしわを寄せ、疑わしい目つきでエリックを睨むように見た。

「何の得もないかもな。ただ定期的な収入は得られる」ひとまずプルートスの名は避けた。顧客の金の動きを把握できれば、様々な方面で役に立つが、同時に守秘義務も発生する。まあ、それも状況によるが、おそらくステフにはどこのクラブだか見当がついているに違いない。

「金には困っていませんが、共同経営者にジョンの名前も連なるなら考えないこともないですよ」こういうセリフを嫌味なく言ってのけるのがステフだ。金に困っていたらとっくにこの事務所は潰れているだろう。

「それは出資割合によるな」エリックはジョンを見て言った。ジョンはこういう時あまり口出しをしない。ステフがいいと言えば、それに従うだけだ。駄目だと言えば、それまで。

「まあ、考えておきます。それで専用駅はメイフィールド侯爵の依頼ですか?」ステフはクラブの購入などたいした問題でもないとばかりに、次の話題に移った。

つづく


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