はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

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不器用な恋の進め方 第一部 1 [不器用な恋の進め方]

花嫁の秘密 スピンオフ 

アーサーとメリッサの物語です。
第一部は花嫁の秘密舞踏会編でのお話と並行してます。



ロンドンのメイフェアに立ち並ぶ邸宅のなかでも、とりわけひっそりとした佇まいの邸宅。その一室でアーサーは新聞記事に目を通していた。
これからシーズンの盛りを迎えようというのに、すでに色々なパーティーの出席に嫌気がさしてきた。
アーサーは社交界の集まりはとんでもなく退屈でくだらないと思っている。だが一応子爵と言う立場では、受けなければならない招待は意外にも多い。なおかつ今はあの日以来落ち着かない日々を送っているのだから、くだらないパーティーでもいいから参加して気を紛らわせたかったのだ。

あの日、劇場でメリッサ嬢を目にしてからというもの始終彼女のことばかり考えている。稲妻に打たれたかのように、全身に電流が走った。身体が痺れほんの一瞬だが動けなかったほどだ。

そう、アーサーは一目で恋に落ちていたのだ。
いや、もうこれは愛なのだと本人は自覚している。

友人のメイフィールド侯爵クリストファー・リードことクリスも同じような感覚を味わったのだと言う。

『魂がそう呼びかけた』

かつてクリスが侯爵夫人と出会った時に感じた事だと言う。正確に言うなら、彼の場合出会う前から何かを感じていたらしいのだが。
最初この言葉を聞いた時は、馬鹿馬鹿しいと思っていたが、まさか自分も同じ気持ちになるとは思いもしなかった。

そして今朝新聞の記事の中に彼女の名を見つけたのだ。

メリッサ嬢引退の文字。
彼女がどれだけ女優として素晴らしかったかということが書き連ねてあったが、最後には彼女を侮辱するような文字で締めくくっていた。

――女優を引退した彼女の暮らしは今後も安泰だろう。なぜなら複数のパトロンが彼女の面倒見るのは間違いないのだから――

ここで言うパトロンは、ロゼッタ夫人の様な純粋に支援している者のことではなく――アーサーは出来る限りメリッサについて調べている。そこでロゼッタ夫人がメリッサを支援しているという事を知った――単純に『愛人』を意味している。しかも複数。

アーサーはこの低俗な新聞を読むのは今後一切やめようと決めた。

女優と言う職業が世間からどう見られているかは俺だって知っている。実際そういう愛人を持ったこともある。

高潔な彼女が愛人の庇護のもと暮らしている姿が全く想像できなかった。

もはや新聞記事が間違っているとしか思えない。

アーサーは新聞を丸め暖炉に放り込んだ。

つづく


>>次へ

あとがき
こんばんは、やぴです。
劇場でメリッサに一目ぼれをしたアーサーのお話です。
メリッサの過去も少しづつ分かってきます。
第一部は仮面舞踏会でのあれこれ…
この話が続くかどうかは未定… 

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不器用な恋の進め方 2 [不器用な恋の進め方]

急遽決まった、メイフィールド侯爵夫人の誕生祝の仮面舞踏会。

招待状が届いたのが十日前だから、一体なぜこんなにも急なのかと招待された客は思っただろう。すでによそのパーティーに出席予定だったものは慌てふためいたはずだ。
現在ロンドンにいるもので、クリスよりも爵位の高いものはそう多くないはずだからだ。

アーサーは舞踏場の壁に寄り掛かり、招待客を眺めていた。
みな仮面をつけているため誰が誰やらさっぱりだ。

だが彼女だけは違った。
仮面で顔が半分隠れていようとも、もはやアーサーにはこの舞踏場のひしめく人々は見えておらず――いや、存在すらしていないも同然だった。

ただ彼女だけがアーサーの目には映り、その目に映っていなかったとしても、ざわめき昂る心が彼女の存在を知らせてくれる。

彼女――メリッサは招待客の一人と踊っていた。

あれは――

そこでアーサーははっとした。メリッサと踊っているのがエリックだと気付いたのだ。
エリックはコートニー家の次男で、かなり胡散臭いが一応ジャーナリストだ。
本日の主役の侯爵夫人の兄でもある。

クリスからメリッサとエリックの関係はなんでもないのだと聞いていたが、劇場で会った時も一緒だったし、彼女はどこへ行くにも彼と一緒なのだ。
何もないはずないではないか。

アーサーはメリッサの素性を調べようとしたが、最初に頼んだ相手が「あなたみたいな人多いんですよね」と小馬鹿にしたような物言いをしたため、腹立たしさにそいつに決闘を申し込みそうになったくらいだ。

まずは彼女の名が、女優としての名なのか、本名なのか知りたいと思った。そしてありのままの姿も知りたい。
彼女はいつ見ても女優としてのメリッサで、上品で美しいが本当の髪の色すら分からないのだ。
今夜は黄金色に輝く金髪だが、初めて目にした時は赤みがかったブルネットだった。

瞳の色はまだ分からない。

この事をクリスに話したところ、<S&J探偵事務所>というところを紹介された。事務所の青年の態度はかなり悪いが、秘密を漏らすようなこともないし、アルフレッド・スタンレーやスタンレー伯爵という後ろ盾もあるのだという。

アーサーは伯爵の事はよく知らないが、アルフレッド・スタンレーの方は知っていた。彼のロンドンでの評判はすこぶるいい。

というわけでこの探偵事務所に依頼したのだが、なんとも横柄な青年に頼むことになり、幸せボケしているクリスを心中で八つ裂きにしてやった。

だが、この事務所の仕事ぶりには頭が下がった。
メリッサの本名は謎のままだが、彼女がフランスからやってきた事が分かった。まだ彼女が十二歳の時だという。父親はフランス人ですでに亡くなっている。母親はイギリス人で彼女が九歳の時に家を出たのだという。男と共に。
ここまで分かっていて、名前が分からないのも不思議だが、とにかく誰も知らない秘密なのだろうと思う。

まだ調査中だが、ここまで聞いただけでも、その生い立ちに胸が締め付けられた。

アーサーは意識を舞踏場へ戻した。
すぐにその目がメリッサをとらえる。
メリッサは舞踏場を出るところだった。しかも一人で。きっとこの暑苦しい場所から出て、夜風にでもあたりにいくのだろう。
アーサーはすぐさまメリッサを追った。

その姿を見ている者がいるとも知らずに。

つづく


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不器用な恋の進め方 3 [不器用な恋の進め方]

アーサーは蝋燭のわずかな明かりのみの薄暗い廊下を足早に歩きながら、彼女を追いかけてどうするのかを考えていた。

とにかく、誘うのだ。
乗馬でも、音楽会でも、劇場でも。

劇場?――彼女は女優だぞ。劇場だけはやめておこう。まずは朝のハイド・パークでの乗馬が妥当だろう。

ここで、アーサーはメリッサに追いついた。

「メリッサ嬢、どちらへおいでですか?」

背後から声をかけられ、驚いた様子で振り返ったメリッサを見て心臓がダンスを始めた。なんとも乱暴な踊り方だ。

「今夜は仮面舞踏会です。わたくしが誰でも、名前で呼びかけるのはおやめください。オークロイド子爵様」

極上の切り返しだ。

「では、ラベンダー色のドレスを着たお嬢様、どちらへ?」

「テラスへ。裏庭の方は人がいないからと」

「わたしもご一緒していいですか?」
断らないでくれと懇願する。

「ええ、どうぞ」
意外にもメリッサはあっさりと承諾した。
断られたくなかったはずなのに、実際はメリッサの返事に驚いていた。
未婚の貴族の令嬢ならば、男と二人でいる姿を見られただけで結婚を強いられるのだ。評判を守るために。

もちろんメリッサは貴族ではないが、男と二人きりになる事を気にしないとは思わなかった。

朝の新聞記事を思い出した。
彼女に複数のパトロンがいるという話を。
真実なのだろうか?

いや、そんなはずはない。

「どうかされたのですか?」

テラスへ出る寸前で、彼女が少し小首をかしげるようにして振り返っている。
女性の後をついて歩いていた情けない自分に驚きつつも、咄嗟に今考えていた事が口を突いて出てしまった。

「今朝の新聞記事は本当なのですか?」

メリッサは黙ったままじっとアーサーを見据えていた。
そしてゆっくりと口を開いた。

「どの新聞の、どの記事の事かしら?」
口元に笑みを浮かべ素知らぬふりをする。

アーサーはおかしくなって大きく笑い声をあげた。

「何がおかしいのですか?」

彼女の声が少し腹立たしそうになっている。
アーサーは上機嫌になった。彼女の女優としての仮面を少しでもはがす事が出来た事に。

「いえ、先ほどのあなたの忠告をほんの数歩歩いただけで忘れてしまった自分が、あまりにも愚かで」
そう言って更に笑った。
そしてメリッサも笑った。

その瞬間アーサーは心に温かいものが満たされていくのを感じた。それは紛れもなく愛で、彼女を絶対に妻にしようと再度心に決めた。

夜風は冷たく心地よかった。

舞踏場となっている大広間には多くの人がひしめき酸素も薄く暑苦しかった。それだけこの舞踏会には多くの人が参加している。
侯爵夫人は社交場に不慣れと聞いていたが――いや、だから仮面舞踏会なのだろう――見る限りではこの舞踏会は成功だ。
侯爵夫人は本日十七歳になったというが、そうは見えなかった。
小柄で痩せているせいだろうか、やはり結婚するには幼すぎるといまでも思っている。だがそんなことはクリスには言えない。一度言って、ものすごく気まずい雰囲気になったのだから。

アーサーは視線をメリッサに移した。
メリッサはテラスの手すりに手をかけ、屋敷の裏手に広がる庭を眺めている。

アーサーは仮面を脱いだ。
そしてメリッサに近づいた。

「あら、子爵様」
振り返ったメリッサが、たったいま出会ったような声を上げた。

「お芝居が上手ですね」
おどけて言ってみせた。

「ええ、女優ですから」そう言って彼女も仮面をとり、「もうやめましたけどね」と女優ではない彼女の素の笑顔を見せた。

「では、あの記事は本当だったのですね」
アーサーもメリッサの隣で手すりに手をかけ、彼女を見つめた。

「以前から考えていた事ですから。ちょうど舞台もひと段落したので、もうこの辺で引こうと決めたのです」
そう言ったメリッサが悲しそうに見え、アーサーは彼女の手の上に自分の手を重ねた。
手袋越しに触れた彼女の手がとても冷たく感じられた。

「中へ入った方がよくないですか?」

メリッサは小さく首を振り「わたくしはもう少しいます」と言った。

なぜだかわからないがその言い方に胸が締め付けられ、このまま彼女を置いてここを去ってはいけないと思った。
とにかく、今すぐにでも約束を取り付けよう。

つづく


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不器用な恋の進め方 4 [不器用な恋の進め方]

アーサーは気付かないうちにメリッサの手に重ねた自分の手に力をいれ、その手をぎゅっと握りしめていた。
そして、すっと近づき――

反対の手が彼女の顔を捉え――

そして、唇を重ねた。

アーサーは驚いた。

何をしている?彼女を乗馬に誘うはずだろう?早くやめなければ、彼女を軽んじていることになり、このままでは嫌われてしまう。

だが、身体は言う事をきかなかった。
それどころか、自分の手は彼女の身体をしっかりと包み込み、逃すまいとしている。

早くやめるんだ。

脳内で虚しく響く言葉に何とか従おうとする。
そしてアーサーは何とか彼女の唇から自分の唇を引き剥がした。

「子爵様、満足かしら?」
一呼吸おいてメリッサが言った。

あまりに冷静で無関心な物言いにアーサーは苛ついた。
そして思わず口にした言葉は常軌を逸していると自分でも思うような言葉だった。彼女に嫌われたいとしか思えないほどの。

「どうやら、新聞記事は本当の様ですね」
アーサーは先ほどと同じ問いかけをしたが意味は全く違うものだった。

メリッサが僅かに眉間にその言葉の真意を伺うような皺を寄せ「どういう意味ですか?」と訊き返した。

「引退後のあなたの生活が困らないと言う記事です」

メリッサはアーサーを睨みつけた。
いや、アーサーにそう見えただけで、実際はメリッサがアーサーを困ったように見やっただけだった。

「そうですね。特に生活が困るという事はありません」

「否定しないのですか?」
もうこれ以上何も言うんじゃない。

「どうしてその必要がありますか?」

「認めるんですね。パトロンの存在を」
いい加減にするんだアーサー!

「それを言う必要がありますか?」
メリッサは同じ言葉を繰り返した。

アーサーはなんとか自分を抑えつけようとしたが、その口は閉じることなくメリッサをどんどん傷つけていく。

「いいえ、ありません。女優と言うのはそういうものなのでしょうから」

アーサーは自分を殴りつけてやりたくなっていた。愛の言葉を囁くどころか、彼女を侮辱するような言葉を次々吐いている。

「子爵様のおっしゃる通りです。子爵様はまだこの場にいたいようですから、わたくしが失礼することにします」
メリッサは誇り高い青い瞳をアーサーに向けたまま、毅然とした態度で言った。
そしてその場を去ろうとした。

だが、アーサーは彼女の腕を捉え行かせなかった。

メリッサが非難の眼差しをアーサーに向ける。

カタン――

今、カタンと言ったのか?
アーサーは音のした方を見た。おそらくメリッサも。

テラスの扉の向こうに、侯爵夫人がいた。
そして彼女はなぜか囚われの姫を救いに来た王子様のように力強い表情でこちらを見ている。
アーサーが口を開く前に、侯爵夫人が先に口を開いた。

「子爵様、クリスが呼んでいます。メリッサ様は、わたしが、お話があるので――その、ここに残って下さい」

なんと、わかりやすい嘘だろうか。
アーサーとメリッサは同じ事を思っていた。
侯爵夫人がいつからこの場にいて、どこからこの醜態を見聞きしていたのかは分からないが、勇敢にもメリッサを救いに来たのには違いない。

アーサーはこの嘘に騙されようと心に決め、メリッサの腕を離すと、紳士らしく二人に挨拶をし、舞踏場へと戻っていった。

つづく


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不器用な恋の進め方 5 [不器用な恋の進め方]

「アンジェラ様。ありがとうございます」
何とかそう言ったものの、全身の力が抜けて倒れてしまいそうだった。

子爵にキスをされ、侮辱の言葉を浴びせられ、動揺も怒りも悲しみもすべての感情を抑えた。
こんな風に言われる事には慣れていたはずなのに、思いの外傷ついている自分がいた。

弱弱しい視線を侯爵夫人へ向けると、彼女の意味ありげな視線に気付いた。
そうだった。彼女の事はアンジェラと呼ばなければならないのだ。こういう場でも呼んでいいものか迷ったが、メリッサは「アンジェラ、ありがとう」と言い直した。

彼女は満足そうな笑みを浮かべ、「メリッサ、子爵様は、その、悪気はないと思います」と言った。

アンジェラのその言葉に、メリッサは驚かずにはいられなかった。
悪気がなくてあんなことを言えるものだろうか?

「どうしてそう思いになるのですか?」

「思うのではなくて、そうなのです」
アンジェラは言い切った。

彼女に驚かされたのはこれで二度目だ。
一度目は表現するのが難しいほど、とにかくとても驚いたのだ。

彼女はなんてすごい人なのだろうか?
メリッサは感心せずにはいられなかった。

この小さな身体で、しっかりと侯爵夫人としての役目を果たしているだけでなく、とても美しく威厳に満ちている。

メリッサは自然と微笑んでいた。

「アンジェラ、本当にあなたは素敵な女性ですね」
メリッサのその言葉にアンジェラは頬を赤くして、急に少女のように俯いてしまった。
これが彼女のいつもの姿。彼女は今夜十七歳になったばかりだ。

「あ、あの、メリッサ。とても恥ずかしいです」

「あら、どうして?」

「わたしのこと女性って……」

「ふふっ、本当に自然に出てきてしまった言葉だけど、二人とも男だと言うのにおかしな話よねぇ」
今度はメリッサは女優としての笑みを向けた。侯爵夫人と同じ、少女の様なおどけた微笑み。

アンジェラは幼い頃から女の子として育ってきて、身体は男の子なのだが心は少女なのだ。男だという事を内緒にして結婚したが、のちに夫であるメイフィールド侯爵には秘密を明かし、受け入れてもらっている。

メリッサは十二歳から女性を演じている。
過去はすべて捨てて、この地へ――ロンドンへやって来た。
それから十年という歳月が流れ、いつしか女優として成功をおさめたが、もう限界だと思っていた。

演じる事に苦痛はない。

だが何かが違うと、心の奥底にずしりと重たいものが圧し掛かっている。
それが何かは分からないが、アンジェラに出会いそれが何なのか見えそうな気がした。

迷っていた引退を決めたのも、それが理由だ。

引退は意外にもすんなりと受け入れられた。
それはアンジェラの兄でメリッサの一番の理解者のエリック・コートニーのおかげだった。

彼とは十一歳の時に出会った。
ロンドンへ連れて来てくれたのも彼だ。女優として成功したのも彼のおかげだ。

エリックがいなければ、自分は生きてさえいないだろうと、彼と同じ瞳をもつ心優しいアンジェラを見つめた。

つづく


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不器用な恋の進め方 6 [不器用な恋の進め方]

「あの、メリッサ、子爵様を許してあげてください」
アンジェラは心配そうな顔でおずおずと言った。

それは誰に対するどんな心配なのだろうか?
子爵に対するものなのか、わたしに対するものなのか……。
どちらにも取れるような表情だ。

「別に気にしてないわ。よくあることですもの」
アンジェラの心配を拭うように、出来るだけ平静を装い言った。

「よくあることって……その、キスのことですか?」

「いいえ、そちらではないわ」

「子爵様はあんなこと言うつもりではなかったんだと思います。だって……」
アンジェラはそのまま黙ってしまった。

「慰めてくださるの?でも大丈夫よ。本当に、あんなふうに言われるのは慣れているの――」

メリッサは喉に異物を押し込まれたように、言葉に詰まった。その声は涙に滲んでいた。

そんなメリッサを見て、アンジェラは泣き出しそうになっている。唇を引き締め泣かないように努めている。
そして少し躊躇った後、意を決したように口を開いた。

「子爵様は、メリッサの事が好きなんです。だからキスだってしたんです」

メリッサは目を丸くした。
ほんの少しだがパニックにもなっている。

胸に手を当て、とにかく落ち着くため、息を吸いこみ、ゆっくりと吐き出した。

「子爵様がわたくしを好きだとおっしゃいましたか?どうしてそう思われたのですか?キスをしたからと言って、好きとは限らないのですよ」

「えっ、あの、だって……」そう言ってアンジェラは俯き、悩み、顔を上げた。「クリスから聞いたんです。子爵様がメリッサを好きになって、それでリックとの関係を聞かれて、それはあたしも知らないから答えられなかったのですけど。――あの、でも、メリッサが男性だと言う事はクリスにも子爵様にも誰にも教えていません。だから本当に困ってしまって……」

メリッサは思わず吹き出してしまった。
今は笑う場面ではないのだが、秘密を愛する夫にも明かさずかたくなに守ってくれたことに、感謝と愛おしさを感じずにはいられなかった。そうしたら自然と笑いが口から飛び出してしまっていたのだ。

戸惑うアンジェラに抱きつき、「本当にかわいらしくて素敵な方ね」と、そっとはちみつ色の髪に口づけた。

つづく


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不器用な恋の進め方 7 [不器用な恋の進め方]

何という失態だ。
アーサーは自分の頬を殴りつけた。

あのまま侯爵夫人が来なければ、いったいどうなっていたのだろうか。
考えるのもぞっとするような、とんでもない醜態を晒していただろう。いや、すでにそのほとんどを晒してしまったのだ。

アーサーはぶつぶつとひとりごちながら舞踏場へ戻っていた。
ふと気づけば、細い通路に差し掛かっていた。
使用人用の通路だ。
アーサーはそこから階段を下り廊下へ出た。

そこで汗を滲ませ焦った様子のクリスと出くわした。
だが、アーサーはそんなクリスの様子に気付くはずもなく……。

「クリス……どうしてここに」
屋敷の主に向かってなんてものの言い方だ。どちらかと言えば自分の方がそう聞かれてもおかしくないというのに。

自己嫌悪に醜くゆがんだ顔を親友といえども今は見られたくなかった。

「どうして……だと?ハニーに何をした!」

クリスが何の勘違いをしたのかは分からないが、ものすごい剣幕で掴みかかって来た。
喉もとを締め上げる手は一切容赦ない。

本気だ。
アーサーはこのままではまずいと思った。

「おっ、おい、クリス。彼女には何もしていない」
なんとか声を絞り出した。

「じゃあ、誰に何をした!」
誤解はあまり解けていないようだ。

「とにかく、落ち着け。よければ、この手を放してくれ」
アーサーは首元のクリスの手をちらりと見ながら、情けない顔で懇願した。

いったいクリスは何に興奮しているんだと思ったが、おそらく妻の行方が分からず探し回っているのだと容易に想像できた。
結婚してからのクリスは、いかにも妻なしでは生きていけないといった情けない男になり下がっていた。

だが、自分がいざ恋に落ちてみると、その気持ちがわずかながら分かる気がした。

クリスはいまだ落ち着く気配はなかったが、とにかく手を離してはくれた。

助かった。

「彼女なら、メリッサ嬢とテラスにいる」
喉元を擦りながら大きく息を吸い込んだ。

「テラスに……メリッサ嬢と……?」

「ああ、侯爵夫人に、お前が呼んでいると言われたんだが…?呼んでいるはずないよな」
ものすごい剣幕で、かわいらしい嘘を吐いた侯爵夫人を思い出し、思わずふっと笑みをこぼした。

クリスは不思議そうな顔をしたが、「その……アンジェラは仮面はつけていたか?」と、まったくもってどうでもいい事を訊いてきた。

アーサーはあの仮面を思い出し、吹き出しそうになったが、今度は全神経を集中させ何とか堪えた。

「いや、テラスに姿を見せた時には、あのバカでかい仮面はつけていなかった。ものすごい目つきで睨まれたからな。あの子――いや、彼女があんな顔するとは意外だった」
うっかり、侯爵夫人を子供扱いするところだった。
今度こそクリスに絞殺される。

「睨まれた?お前何をしたんだ」
クリスの声に怒気がこもる。

「落ち着け、お前の大切な奥方には何もしていない。俺はほんと情けないよ……」

「なんなんだ」

「メリッサ嬢に愛の言葉を囁くどころか、侮辱の言葉を浴びせてしまった。今朝の新聞記事といい、今夜のパートナーといい……彼女は俺の事などなんとも思っていないばかりか、きっともう顔も見たくないほど嫌われてしまっただろうな」
思いだしただけで自分のした行為に吐き気がする。

「いったいどうしたんだ?お前らしくないな。女に甘い言葉を囁くのは得意中の得意だろうが。新聞記事って、女優引退の事か?」

「ああ、その事で彼女をひどく傷つけてしまった。それもこれも、あの男の顔がちらちらと目の前に浮かぶからなんだ」

「あの男?エリックの事か?彼だったら、本当にメリッサ嬢とはなんでもないぞ――そうアンジェラが言っていた」

クリスにそう言われても、まったく納得が出来ない。

「ならどうしていつも一緒にいるんだ?彼は彼女のパトロンの一人なのか?」

「アーサー!いい加減にしろ!ここでも彼女を侮辱するのか。それにエリックの事も侮辱しているんだぞ」

怒って当然だ。だが、思考はぐるぐると嫌な方向へ突き進み、今や奈落の底に落ちて言っている最中だ。

「すまない……ただ――」
ため息を漏らし、ぐしゃりと握った前髪を引きちぎりたい衝動に駆られる。

「とにかく落ち着いて話そう。そんなにため息を吐くのは悪い兆候だ」
クリスのその言葉に、アーサーは今にも泣きだしそうな子供のような顔でクリスを見た。
数か月前までは、立場は逆だった。
妻と上手くいかないと、クリスは泣き言を言っていた。
今から考えると、どうして上手くいかないと言っていたのか不思議だ。

「書斎へ行こう。極上のウイスキーがある。そいつをあおって、今夜何があったのかすべて聞かせろ」
クリスは黙ったままのアーサーの肩に手を添え、書斎へ促した。

つづく


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不器用な恋の進め方 8 [不器用な恋の進め方]

クリスに促され書斎へ入ったアーサーは、扉をしっかりと閉めると、たっぷりとウイスキーの注がれたグラスをクリスの手からひったくるようにして、一気に飲み下した。

「アーサー、もう少し落ち着いて飲めよ」

自分がウイスキーでも煽ってと勧めたくせに、あまりに乱暴な飲み方をするアーサーにクリスはとりあえず忠告すると、自分もグラスを口に運んだ。

「お前が俺をロンドンへ呼び出したときよりかはましだろう?」

以前アーサーはクリスに呼び出され、領地からはるばるロンドンまで出て来たことがある。その時、クリスは酒を煽り、酷いありさまだった。

今はすこぶる上手くいっている夫婦だが、一体あの時何に悩んでいたのかは今でもわからない。

特に知りたくもないが……。

クリスはアーサーが喋り出すのを待っていた。
そんなに待ちかまえられると、かえって話し出せないではないかと思いつつ、もったいぶったように口を開いた。

「先ほどテラスでメリッサ嬢と一緒だった」

「それはさっき聞いた。そのために、この舞踏会を開いたようなもんだ。それで、一体何がどうなっている」

「わからない。彼女に新聞記事について何か言って、それでキ…キスをして、いや、まずはキスをしたのか?とにかくパトロンがいるのかと、彼女を蔑むような言葉を吐いた」

目の前の友人が混乱した表情で自分を見ているのに気づいた。
お前のその表情はもっともだと、アーサーは心の中で思いつつ、自分でもどうしてこうなってしまったのか分からず同じように困惑する。

「確認しておくが、確かお前はメリッサ嬢が好きだと俺に言ったよな。結婚したいとも言ったよな」

「ああ、そうだ。それは今でも変わっていない」

「キスは、わかるが、どうして彼女を侮辱するようなことを?」

「そのキスに何も感じて貰えなかったからかもしれない。彼女は、なんというか慣れたふうだった」

「それはしょうがないだろう?実際彼女にパトロンがいるかどうかは知らないが――俺はいないと思うが、そういうのも含めてすべてを受け入れなければ、女優となんて結婚も出来ないし、愛せもしない」

「わかってはいるが……くだらないゴシップだと分かっていても、彼女が他の誰かのものだったらと思うと耐えられなかったんだ」
アーサーはデキャンタを乱雑に掴み、ウイスキーをグラスに注ぐ。

「それは、分かる気がするな……。妻には誰も触れて欲しくないと俺も思う。噂程度でも、きっと髪を逆立て、嫉妬してしまうだろうな」

クリスは落ち着かない表情になっていた。きっと愛する妻を思い浮かべ、すぐにでも会いたくてたまらないのだろう。

それに気付いたアーサーはウイスキーをぐいっと飲み干し、「とにかく今日は帰る。少し頭を冷やして、近々彼女に謝りに行こうと思う」と、弱弱しく言った。

「そうだな、それがいいだろう」

ホッとしたような友人の顔を見て、アーサーは幸せな気持ちになった。

つづく


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不器用な恋の進め方 9 ~第二部~ [不器用な恋の進め方]

アーサーはメリッサの所有するいくつかの住まいのうち、ハイド・パークにほど近いテラスハウスにやって来ていた。
ここは彼女にとって、まったくのプライベートな場所で――もちろん例の事務所に調べさせた――今はもっぱらこちらに居を移していると聞いている。

アーサーは玄関前で暫く悩んだあげく――ここへ来るまでも相当悩んだ――ノッカーを鳴らした。
すぐさま使用人らしき少女が顔を覗かせた。

その少女は、明らかにアーサーを警戒している。

「どちら様ですか?」
警戒心むきだしのつっけんどんなその言葉に、アーサーは苦笑する。
とりあえずこの少女は、目の前の男を身なりだけで判断はしていないようだ。明らかに自分達より階級が上に見えたとしても、少女にとっては自分の主人の方が上なのだ。

「アーサー・クラークといいます。メリッサ様にお会いしたいのですが?」
そう言って名刺を差し出す。

少女は名刺を受取ったものの、更に警戒し、「お約束は?」と訊いてきた。

「約束はしていないが、先日のお詫びに伺いましたとお伝えください」
アーサーがそう言い終わるや否や、扉が大きな音を立て閉じられた。

暫くして扉が開き少女が「どうぞ」とぶっきらぼうに告げた。

***

応接室に案内され、すでに十五分ほど待たされている。
アーサーは先ほどと針の位置が全く変わってない事を確かめ、懐中時計を閉じた。
突然の訪問なのだから仕方がない。
女性が身支度に時間がかかることも承知している。

だがアーサーは、すでに一時間以上も待たされているように感じていた。
これ以上一分だって待たされることには耐えられないとアーサーが思った時、応接室にメリッサが入って来た。

「お待たせいたしております」

彼女の姿が見えた途端、待たされている間の苛々などすっかりなかったことになってしまった。
それなのにそれを素直に口にすることが出来ない。

「ええ、随分待ちました」
皮肉たっぷりな笑みを浮かべたアーサーは、自分が突然訪問した事など忘れてしまっている口振りだ。

「まさか、子爵様がこのような場所へおいでになるとは思いもしなかったものですから」
メリッサも皮肉たっぷりに返した。

メリッサの返しに笑みが零れる。
アーサーはやっと自分が勝手にやって来たことを思い出したのだ。しかも謝罪をするために。
どうして気持ちとは裏腹な言葉が口を突いて出てしまうのか不思議だ。
しかも、彼女にほんの少しでも袖にされることに耐えられない。

「先日の失礼をお詫びしようとお伺いしました」

メリッサはアーサーの向かいのソファに腰をおろし、立ったままのアーサーに座るように促した。

「それで、わたくしは子爵様にお詫びをされるような覚えはないのですが?」
メリッサが取り澄ました顔で言う。
アーサーが言い返そうと――正確にはとにかく何か言葉を発しようと――したところへ、先ほどの少女が紅茶をトレーにのせ入って来た。
やたらとかちゃかちゃと音をさせ、嫌がらせなのかとも思ったが、そんなはずはないといれたての紅茶をすすったが、やはり嫌がらせだとしか思えなかった。

何と冷めた紅茶だろうか?いや、すっかり冷めてしまっているならそれでもいい。何とも中途半端な温度で、気分が悪くなる。
これも彼女の仕業なのだろうかと、アーサーはメリッサをカップ越しに見やった。

メリッサは優雅に微笑み、カップに上品に口を付けている。見る限り、不快な表情は見えない。

本当にいちいち癪に障るが、それが余計に彼女に惹かれる原因にもなっている。

つづく


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不器用な恋の進め方 10 [不器用な恋の進め方]

アーサーはなぜだかわからないが焦っていた。それもかなり切迫した状態だ。

メリッサと出会ってからのアーサーは常に何かに追い立てられ、急かされるような感覚に陥っていた。
少しでも早くメリッサを自分のものにして傍に置いておきたいと思うのに、わざと回り道をするようなセリフしか吐けない自分にいい加減腹立たしさを抑えきれなくなっていた。
メリッサが自分を追い払おうとしている事がありありと伝わってくる中で、こんなことを言う度胸があるとは思いもしなかったのだが、らしくない自分に嫌気がさし、とうとう本心が身体の中から飛び出してくれた。

メリッサが何か喋っていた様な気がしたが、アーサーはお構いなしに自分のペースで言った。

「私と結婚してください」と。

メリッサが困ったように微笑んだ。
アーサーはカッとなった。
だが、アーサーは何とか自分を抑えた。
今の言葉がどうやらメリッサには聞こえなかったようだと、もう一度言う事にした。

「私の妻になって下さい」今度は言葉を変えて。

一瞬の沈黙ののち、メリッサが「お断りいたします」とにべもなく言った。

「なぜですか?」
アーサーは素早く言葉を返した。大した反射神経だと思わず感心する。

「なぜ?」
メリッサは顎先を上に向け、アーサーの言葉の意味が分からないと言うように訊ねた。

「どうやら聞こえなかったようですね。なぜ、私の結婚の申し込みをお断りになるのですか?」
アーサーはゆっくりと単語一つ一つを子供に言い聞かせるように言った。

「理由など、あげればいくらでもあります。わたくしは結婚をするつもりはないし、まず、子爵様の事を好きではありません。これは何とも思ってないと言う意味です。それに――」

「もう、結構です」
淡々と結婚を断る理由を述べるメリッサを、怒気を含んだ声で制する。

メリッサはわざとらしくため息を吐き――いかにも女優らしい――小さく首を左右に振った。

「お帰り下さい」

アーサーは唇を硬く引き結び、この屈辱に耐えようとした。
けれど、メリッサが使用人を呼ぶために卓上の小さなベルを鳴らしたのを見て、我慢が限界を超えた。

どうして彼女は自分に対してこのような態度を取るのだろうか?
たしかに結婚の申し込みは唐突で、よく考えれば贈り物はおろか花束ひとつ持参してもいないのだから、彼女が戸惑う程度なら許容範囲だ。
だが、こちらは妻にとお願いしているのに、まるで愛人にでもなれと言われたかのような態度は許せなかった。

ふと、なぜ自分はこんなにも必死になって結婚を申し込んでいるのだろうかと思った。今の段階ではいかにも相性は最悪といった感じだ。それなのに、それでも彼女を妻にしたいという気持ちが薄らぐことはない。

使用人の少女が部屋に入ってきた。
元々扉は開いていたのだから、今のやり取りを聞かれていても不思議ではない。
だが、メリッサの使用人がたとえ好奇心旺盛な少女だとしても、盗み聞きをするようには思えなかった。

「子爵様はお帰りになるそうだから、玄関までお送りしてさしあげて」
思わず見惚れてしまうほどの、美しい微笑みを向けられ、今まさに自分が追い出されようとしていることも忘れ、気付けば帰りの馬車に乗ってしまっていた。

つづく


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