はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

花村と海 ブログトップ
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花村と海 1 [花村と海]

花村拓海は迫田海の恋人だ。

付き合って一年と半年経つ。

それなのにまだ海の心を掴み切れていないのは、海に問題があるからだ。

寂しがり屋でかまってちゃんの海は、花村ごときでは満足できない。たとえ花村が束になっても無理だろう。

とはいえ、海は海なりに花村を大事にしている。もちろん、花村が海を大事にしているほどではないが。そもそも、花村の過剰なまでの愛情に応えるのは、相手がコウタのような一途な人物であっても難しいだろう。

そんな花村に限界が訪れる。

発端は、海が四条美影の兄、美高と廻るお寿司を食べに行ったこと。

いわゆる寿司デートだ。

花村はカンカンになって海に詰め寄った。相手に下心があるとなればなおの事。

出来れば美高に会って、首を締め上げてやりたいと思ったのだが、そもそも美高が花村の呼び出しに応じるはずがない。美影はぜひ締め上げるべきだと兄を差しだそうとしたのだが、そこに海が割って入った。

つまりは、美高をかばったのだ。

花村は母親のことで父親とやり合ったばかりだった。だからというわけではないが、非常に、むしゃくしゃしていた。海だけが慰めなのに、その海に裏切られて、花村はキレてしまった。

キレたと言っても、凧の糸が切れるようなもので、凧はどこかへ行き、糸は力なく地面に落ちるだけ。糸くず同然の花村は、自分から海に近付くことが出来なくなった。

そしてとうとう、海に出会う前の花村に戻ってしまった。

「朋さんのところに行くけど、君も行くかい?」

放課後、最近の花村を心配する美影が教室に現れた。図書室以外で目にすることのない先輩を目にして、クラスじゅうがざわつく。

「いいです、帰ります」花村は虚ろな表情で鞄を手にする。惨めなのは、海がすでに取り巻き数人と教室を出ているということ。誰も海と花村の関係がどうなっているのかなど、気にしない。

「あ、そう。せっかく君が欲しがっていた北野の情報、仕入れたんだけど」そっちがそうならと、美影は素っ気なく踵を返す。

「え!本当ですか?」

抜け殻の花村だが、情報にだけは食いつく。これがなくなってしまっては、もはや花村がここにいる意味はない。

「先に行っているから」美影はそれだけ言い残し、さっさと教室を出る。花村がついてくることはわかっている。情報は無視できないし、そろそろ兄弟たちに会いたくてたまらないはずだから。

花村は海と喧嘩してからカフェにも顔を出していない。あれだけ毎日のように通っていたにも関わらず。

こうなると、おせっかいな兄弟が何もせずにいるはずがない。どうにか引きずってでも、というのが兄弟たちの望みだったが、頼まれた美影がそんな無茶をするはずない。

貴重ではあるが、手に入れるのにそう苦労もしなかった情報で、まんまと花村を釣り上げたというわけだ。

つづく


>>次へ
 
あとがき
こんばんは、やぴです。
浮気性な海と花村がとうとう喧嘩してしまいました。
別れてみるのも手だけど、花村が可哀そ過ぎるかな?
短めでいきます。よろしくお願いします。

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花村と海 2 [花村と海]

”朋ちゃんのカフェ”のドアベルがカランと鳴った。

花村は美影の背中を追って、コーヒーの香る店内に足を踏み入れる。珍しく店内は静かで、カウンターにしか人がいない。美影はさっさと指定席に着き、花村はまごついたように店内を見回す。

ほぼ一週間ぶり。海と喧嘩してから、ここには来ていない。海と顔を合わせたくないのと、みんなに申し訳ないのとで、足が遠のいていた。

「花ちゃん久しぶりー。待ってたよ」

「海は来ないから安心しなよ」

手招きするコウタさんに、待ってましたとばかりにコーヒーを注ぐ朋さん。

こうやって出迎えてもらったら、頭の中で考えていた言い訳は口に出来なくなった。情けないのは僕。海がいなきゃどうしようもないのに、海を突き放した。もしかすると、海が泣きついてくれるかも、なんて考えたのかもしれない。海も同じように僕を必要としていると思いたかったから。でも違った。まだかろうじて別れてはいないけれど、それは本当にかろうじてだ。

これから先、どうしたらいいのか、まったくわからない。

美影さんのお兄さんは、どうということもない。海との間に何かあったとしても、長続きはしそうにない。問題は、ここぞとばかりに海にすり寄っている須山だ。以前、海とちょっとあったのを強みに、かろうじて現恋人の前でも遠慮がない。海の伸びた前髪を摘んで「うちに来たら切ってやるけど」などとほざいている。

花村は見ざる聞かざるを決め込んだ。口を出すなどとんでもない。

その結果、海はどんどん離れていき、花村は孤独の中に捨て置かれた。

「花ちゃん、ひどいんじゃない?海とは別れても、俺たちは家族なんだろう?」朋は拗ねた顔をして、カフェオレを花村の前に置いた。

「朋さん、二人はまだ別れていません」美影はぴしりと言う。まだという言葉を強調したように聞こえたのは気のせいか、気のせいではないのか。

「え?あ、そうだった。ごめん、花ちゃん」朋は舌をぺろりと出し、お詫びの品とばかりに、ずっしりと皿に鎮座するスイートポテトをカフェオレの横に置いた。

「本当のところどうなってるの?別れちゃうの?」コウタは心配そうに眉根を寄せ、食べかけのスイートポテトにフォークを突き刺す。

「わかりません」花村は首を振った。「友達ですらなくなったみたいだし、どうしたらいいんでしょうか?」

「今回のことは、海が全面的に悪いと思う。花ちゃんみたいにいい彼氏がいるのに、あっちもこっちもちょっかいだしてさ」朋はカウンターの向こうでスツールに腰掛け、コーヒーを啜る。

「今回、ちょっかいを出したのは、兄の方です。それに、クラスメイトの数名もここぞとばかりに言い寄っています」的確に真実を述べるのが美影。嘘や誤解はそのままにしておけない質だ。

「海は言い寄られると弱いんだって、前に言ってたよ。たぶんそれって末っ子だからだと思うんだ」コウタは頼りない兄だが、何度か相談されたことがある。たった二歳でも、人生においては先輩だ。

「末っ子とか言うより、両親に問題アリだけどな。というか、父さんに問題アリ」なにせ妻を溺愛するあまり、子供の存在を鬱陶しく思うほどだ。

「お父さんはお母さんが好きなだけだよ」理解を示すコウタ。何にせよ、兄弟の中で両親からの愛情が一番薄いことには変わりないからだ。

「それが問題なんだよ。痛すぎる親を見て育った海は自分はそうはなるまいとしているんじゃないかな?好きになりすぎるのが怖いっていうかさ。俺もコウタを好きになりすぎて、時々自分が怖いよ」女性客がいないからと、言いたい放題の朋。ここまで大っぴらに弟が好きと言える兄も、そうはいないだろう。

「僕は嬉しいよ」コウタはまんざらでもない様子で、スイートポテトの最後の一口を頬張った。

目下の問題は脇に置かれのろけ合う兄弟を尻目に、花村は情けない自分にそっと溜息を吐いた。

つづく


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花村と海 3 [花村と海]

「で、花村。海と別れるの、それともこれからも付き合っていきたいの」

美影はぐじぐじと思い悩む花村に厳しい口調で訊ねた。ぐずぐずしていたら、海はあっという間に他の人のものになってしまう。特に須山という男子には、まんざらでもない様子だし。

「別れちゃだめだよ。だって、海を任せられるのって、花ちゃんだけだもん」コウタが力を込めて言う。

任せられても困るのだが、花村は単純に喜ぶ。

久しぶりに見た花村の生気のある顔。美影は嬉しくなった。なんだかんだ言っても、花村は美影の記憶にある限り、初めて出来た友達だから。

「でも、花ちゃんがあんなに怒るのって珍しいよね?普段、怒らないでしょう?あ、お昼の残りのキャロットケーキ食べる?」朋は保存容器にかかるラップをはがして、ケーキのかけらを口に入れた。

「食べる」と即答したのはコウタ。美影も遠慮がちに手をあげる。

「そうでもないです。お父さんはいちいち腹の立つ人なので、僕は怒ってばっかりなんです。ところで、今日はお客さんいないんですね」花村はどうにも気になってとうとう訊ねた。

「うん。もう閉めちゃったから」朋はあっさり。

「え、あ、そうなんですね」あっけに取られる花村。もしもこの会合のために店を貸し切りにしたのだとしたら、いつまでもめそめそしてはいられないと気付いたようだ。

「ねぇ、試験も終わったことだし、みんなでまた集まろうよ。ほら、朋ちゃんの誕生日パーティーをするって言えば、海だって逃げられないでしょう?」

「コウタ!誕生日は二人で過ごすって――ああっ!でも、今回はみんなでいっか。その代わり、別の日にデートしような」物分かりのいい兄を装いつつ、ちゃっかり甘いひと時をコウタに確約させる朋。

「朋ちゃんたら……」照れ照れのコウタ。何を想像しているのやら。

「花村の気持ちはどうなの?」美影は訊ねた。花村の気持ちがどこへ向いているのかは、かなり重要だ。

「海とやり直したいです」花村は下唇を強く噛んだ。

「まだ別れてはいないんだよね?」朋が念のため訊ねる。こちらも色々考えがあるようだ。

「今の状況を考えると、あやしい気がします」花村は正直な不安を吐露した。

「僕もそんな気がする」マイナス思考コウタは最悪の事態を想定する。例えば、朋ちゃんの誕生日に海が新しい彼氏を連れてくるとか。

「そう悲観することもないと思うよ。海は単純だから、花ちゃんがしっかり所有権を表明すればいいだけ」朋が言うとすごく簡単に聞こえるが、事はそう単純でも簡単でもない。

これまでと違って、二人とも本気で喧嘩をしたのだから。

手っ取り早く仲直りするには、花村が海を許し謝ること。これに尽きると、美影は内心思った。納得いかなくとも、そういうものだから仕方がない。

つづく


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花村と海 4 [花村と海]

花村がカフェで作戦会議を開いているその頃、海は須山の家にいた。

大好物のアイスを食べて、テストの答え合わせのようなものをちょっとして、これからどうしようかというところ。

「うーみ。考え事?」

須山の声に海は目をぱちくりとさせた。

目の前には須山の綺麗な顔。今にもキスしそうな唇で顔を近づけてくる。でも海の頭の中は花村のことでいっぱい。

と言っても、恋しいとか会いたいとか、そういうのとは違う。花村の怒って無視してという態度に、ものすごく腹を立てているのだ。しかも俺が誰と何をしようがお構いなし。俺の花村らしくない。もしかすると、本当に愛想を尽かされたのかな。

「俺、帰る」海は気のない様子で、ソファ代わりに座っていたベッドから立ち上がった。新しいシーツの手触りは最高だけど、ここに横になる気はない。

そもそも須山が甘い声で海を家に誘ったのは、去年し損ねた続きをするためだ。そのとき海はまだフリーだったし、須山と付き合ってもいいという気持ちが少なからずあった。しかし、あの時と今とでは状況が違う。

「それはないんじゃない?」ベッドの下に座っていた須山は、海の手首を掴んで引き戻した。強い力を加えたわけではなかったが、海は須山の上に力なく倒れ込んだ。「まったく。重症だな」須山はぼやくように言った。

確かにいつもの海なら、須山の手を振り解くなど朝飯前。抵抗しきれないということは、する気がないか、精神的に参っているかのどちらか。

「怪我なんてしてないよ」重症の意味を取り違え、海はふてくされる。

「そうだな。見た目はきれいだ」須山は海を抱き締め首筋に唇を置いた。「噛みたくなるほどね」

「噛まれるの好きじゃない」陸と違って痛いのは嫌いだ。

「拒絶するんなら、もっとはっきりして欲しいな」須山は諦めたように身体を起こし、海にキスをする。やわらかくもっちりとした唇を舌先で割って、するりと舌を滑り込ませた。

海は何かを確かめるように舌を絡ませ、須山の首に腕をまわす。花村より、細く長い首。すべてがバランスよく美しいけれど、どこか物足りない。

海は舌を引き、須山を押し戻した。

「俺、帰るね。須山とは仲良くしたいけど、もうこういうのはなし」理由はわからないけど、須山とはずっと友達でいる方がいい気がする。

「花村の方がいい?」

「何言ってんの?そういうんじゃないし」海はシャツの袖で口を拭った。キスは正直、甲乙付け難い。花村はなかなかキス上手だ。

「はいはい。ま、これからも友達でいよーな。二人が別れるまでの辛抱だし」

「何か言った?」

「いーや」須山はにっこりと笑った。まだまだ諦める気はないようだ。

つづく


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花村と海 5 [花村と海]

海が自転車をぶっ飛ばし家に帰ると、陸が包丁を手に玄関で仁王立ちしていた。

「今何時だと思ってんの?」陸は包丁を危なっかしく振り回し、言い訳があるなら聞こうじゃないかと、高圧的に顎を突き出した。

「出迎えとかいいのに」海は減らず口を叩いた。

陸の怒りはわかる。今日は食事当番だったし、まっすぐ家に帰らなかった自分が悪いんだけど、今は誰の小言も聞きたくない。

須山との関係がこれ以上発展することはないとはっきりさせてきたところで、しかもそれを後悔しているような気がして、ひどくむしゃくしゃしている。だから陸と言えども、てゆーか、最近ユーリとうまくいっているからって調子に乗ってる陸なんかに説教されたくない。

「朋ちゃんから帰るって連絡あったから、さっさとするよッ!」陸は海の心情を察してか、それ以上四の五の言わず台所へ戻った。

海は口答えせず、陸の後を追った。憂さ晴らしに、鞄は玄関に投げっぱなしにしてやった。

「今日何?」台所へ入るなり、目がチリチリした。

「カレー」

原因は玉ねぎか。

「また?この前もしたじゃん。ごはんは炊いてる?」

「仕方ないじゃん!カレー粉いっぱいあるし、野菜も肉もあったんだから。ごはんは五合にしたよ」

「え?足りる?おかわりのことちゃんと考えてる?俺、今日ものすごい食べるよ」

海の剣幕に、陸は顔をしかめる。「まさにいは今日は飲み会なんだってさ。だから足りるんじゃない?」手を洗う海のために場所を空ける。

「あー、足りるかもね」海は手を洗って、シャツの袖をまくった。「どこまでやってんの?」

「ほとんどやっちゃってるよ。あとは鍋に全部ぶっ込むだけ。お肉はそこにあるから、やってよね。俺はツナ缶開けるから」

「何それ?指引っかけてひっぱるだけじゃん」海はぼやくように言い、ガスコンロにカレー鍋を置いた。火を点けると同時に油を適当に入れて、鶏もも肉と野菜を一気にぶっ込んだ。陸がそうしろって言ったから。

「ふぎゃうぎゃう、ぎゃおうぎゃおうッ」

陸がツナ缶を開けた途端、ブッチがどこからともなく猛獣のような声を出しながら速足で台所に入ってきた。膨らませた尻尾を立てて椅子に座る陸の脚に頭突きをくらわせ、首を上下に擦り付け、おねだりマックス状態だ。

「猫缶と間違えてんじゃん」海は他人事のように言い、鍋の中をスパチュラでかき混ぜた。

「ンガーオ」ブッチは変な声を出して、陸の膝に飛び乗った。

いよいよピンチの陸。「もう、ブッチ。カリカリあげたじゃん。これはツナ缶。ブッチのじゃないんだからね」

魚の匂いのする缶詰を開けて、それはお前んじゃないと言われてもブッチが納得するはずがない。

「こないだ買った舌平目のやつあげたら。ゼリー寄せみたいなの」ホームセンターに行った時、陸は女子みたいにきゃあきゃあ言いながらブッチの缶詰を選んでいた。

「あれは特別な日用なんだけど」陸は不満げに唇を尖らせた。

「ブッチにそんなんないじゃん」あるとしたら、ブッチを拾った日くらいだろう。

「あるよ、色々。ほら、今度は朋ちゃんの誕生日があるじゃん。あ、それで思い出した。朋ちゃんの誕生日会するから、十月十日は絶対予定を入れちゃダメだってさ」

誕生日会?

「朋ちゃんはコウタと過ごすんじゃない?」だからコウタの誕生日会はしなかったし、去年もそうしたはず。

「知らないよ」陸はどうでもいいとばかりに答えると、しつこいブッチを引き連れて台所を出て行った。特別な缶詰だってなんだって、ブッチが欲しいと言えばあげるしかない。

俺だって、欲しいもんは欲しいもん。

それより、誕生日会には花村も来るのだろうか?

つづく


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花村と海 6 [花村と海]

舌平目をぺろりと平らげたブッチは、暖かさの残る縁側でうたた寝を始めた。

陸は台所に戻り、煮込むだけとなったカレー鍋の前に佇む海に声を掛ける。

あまり言わないようにしてきたけれど、今言わなきゃいつ言う?

いまっきゃないでしょ!

「海、これからどーすんの?花村に謝ったらどう?」

「なんで俺が謝るんだよ。悪いのはあっちじゃん。俺は寿司食べただけだかんね」

海の反論は、ずいぶん子供っぽい。機嫌が悪い時の陸と同じだ。

「美影さんのお兄さんがぐいぐい来てたら、どーする気だったの?」陸は訊ねて、椅子に座った。

「知らないよッ!美高はぐいぐい来なかったし、俺はお寿司食べ過ぎて動けなくなってたし」

変な言い訳。でも、その状態ならよくわかる。

陸もよく、食べ過ぎて動けなくなる。そういうとき、ユーリは無茶したりしない。きっと美高も同じだったのだろう。

となると、まあまあ本気なのかもしれない。

陸の頭の中に、はっきりとした図式が出来上がった。

これはいよいよ花村ピンチなのでは?

「ふうん。ま、どっちでもいいけど。花村が海のことすごく大切にしてるの忘れちゃだめだよ」

善かれと思って言ったが、これがきっかけで喧嘩が勃発する。まるでこれまでの不満が噴き出すかのように、激しいものとなる。

「何説教くさいこと言っちゃってんの?そりゃ陸はいいよ。お金持ちのユーリにいろいろしてもらってさ!」

「お金とか関係ないじゃん!海だって、ユーリのおかげでいいお肉食べてるくせにッ!」

「時々じゃん!それにみんな食べてるしッ!」

「みんなは文句言わないもん!」

「まさにいはいつも文句言ってるよ。ユーリのこと、嫌いだもん」海が意地悪く言う。

陸はカッカして言い返す。「ユーリはあれでいいんだよ。みんなに気に入られるユーリなんて気持ち悪いもん。言っとくけど、花村のことはみんな好きなんだからね。だから海のしたことみんな許さないと思うよ」

「俺のしたことって何さ!何にもしてないのに、花村もお前もみんなして責めてさ……」怒鳴り疲れたのか、海は不意に口をつぐむ。

陸の足元には久しぶりの兄弟喧嘩をおっかなびっくり眺めるブッチがいた。うるさくて、寝られやしないというわけだ。

睨み合っていると、玄関のドアが開いた。

「お前ら、何してんの?外まで声聞こえてたけど」買い物袋を手にしたコウタの後ろの朋が、不快感も露わに言った。

言い合いに夢中で、迂闊にも朋の車が庭に上がってくる音を聞き逃していた。

「俺、悪くないからね」海が先んじる。

「俺だって、悪くない」陸も負けじと語気を荒くした。

「どっちも悪い。だいたいお前らが悪くなかったことなんてあるか?ハンパない記憶力の持ち主、まさにいに聞いてもいいぞ」朋は双子の脇をすり抜け、自分の部屋に入る。コウタは面白がるような顔つきで、買い物袋をテーブルの上に置いた。

「いいよッ。朋ちゃんだって記憶力いいんだから」わざわざ何言っちゃってんの!

「そうだよ。まさにいに告げ口とか、大人げないからやめてよね」

兄の登場で、図らずも一致団結した双子だった。

つづく


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花村と海 7 [花村と海]

今夜はまさにいが不在。

というわけで、朋が家長を務める。

「それで、喧嘩の原因は?大きさがバラバラの人参のせいじゃないよな」

兄弟間の争いは出来るだけ早く解消したほうがいい。だからあえて尋ねる。理由は明白なのだけれど、別の可能性もなくはない。

双子の料理の腕は本当にひどい。ほぼ失敗ナシのカレーと言えども、油断はできない。けれど今日のカレーは余計な創作が加わっていなくて、かなりまともだ。

「バラバラくらいがいーの。いろんな食感が楽しめるでしょ」陸はこれを本気で言っている。コウタと同じくらい料理の腕があると、なぜか思い込んでいる愚か者だ。

「煮込み方がいいんじゃない?」と、明らかに自分の仕事に満足げな海。

「このツナサラダ、なかなか豪快だよね」コウタは乱切りキャベツの上にドンと乗っかるツナをつつきながら、混ぜるべきか否かをしばし悩む。

「マヨ醤油でどうぞ」と陸。顔つきを見るに、自信作のようだ。

朋はコウタに醤油を回してやり、代わりにマヨネーズを受け取る。そしてふと、双子が質問に答えていないことに気付く。まさにいなら、二人が答えるまで箸を止めさせているだろう。

「今日、美影さんと花ちゃんがカフェに来たぞ」朋は攻撃を仕掛けた。

「ふうん」海は気のない返事をして、口いっぱいにカレーを頬張った。

「あ、ちゃんと伝えたよ。朋ちゃんの誕生日会の事」陸が頼まれた役目は果たしたとばかりに言う。

「なんで急にやるの?コウタと二人で祝うんじゃないの?」海は口をもごもごさせながら、強い口調で訊ねた。

「それはまた別の日に」朋はコウタに向かってにっこりとする。「美影さんと花ちゃんがお祝いしてくれるって言うから、みんなで相談してカフェでやろうかって」

「そしたら常連さんも顔を出せるでしょ。朋ちゃん、モテモテだからさ」変なプレッシャーをかけられたコウタは、さりげなく仕返しをする。

「俺は、コウタだけでいいんだぞ」モテることを否定しない朋はあっさり切り返す。

呆れ顔の双子。海が代表して、心の声を告げる。「はいはい。そーゆーの、二人きりになってからしてよね。ったく、まさにいがいないからってさ」

「そういうお前も、まさにいがいないからって調子に乗るなよ。喧嘩の原因は花ちゃんだろう?」ズバリ切り込み、停滞する話を進める。

「陸が余計な事を言うから」

「だって、言わなきゃわかんないじゃん。浮気ばっかしてると、いつか一人ぼっちになっちゃうよ」

「浮気なんかしてないし、どうやったって一人になんかなれないよ。このうちにいる限りね!」

海のあまりの剣幕に、陸とコウタは唖然とする。

「じゃあ、出て行くか?」

朋の言葉に三人まとめて唖然とする。

あまりに落ち着いた口調だったからか、本気にしたようだ。朋としては冗談でも本気でもどちらでもよかったが、まさにいのような絶対権力は保持していないので、ただの脅しでしかない。

「コウタ、福神漬け取って」

反抗期の弟の扱いはまさにいの専門だ。

つづく


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花村と海 8 [花村と海]

海はベッドに横になり、足の間に上掛けを挟んで半回転して、壁に向いた。陸はユーリと長電話中で、気を使ってか和室に移動している。

ガミガミうるさいまさにいがいないのに、こんなに窮屈な思いをしたのは初めてだ。格下のコウタでさえ鬱陶しいと思った。

俺は悪くないのに……。

百歩譲って兄たちに責められるのは仕方がない。でも、花村には責められたくなかった。

そもそも花村に俺を怒る権利なんてない。俺はいつも花村の嫉妬と束縛に我慢しているのに、ちょっと他の人とお寿司を食べに行ったからって、あんなに怒ることない。

もしかして、お寿司を食べたのがまずかったのかな?花村とはスシデートしたことないから、それで怒ったの?花村とはいつも”さくらい”だもんな。

今度誘ってみようか。そうしたら、花村と仲直り出来るかな。

いやいや!

謝るのは向こうだし、こっちから誘うなんて馬鹿げてる。

海は寝返りを打って、ベッドの下をのぞき見た。

ブッチがじっとこっちを見上げていた。

ぞっとして、思わずブルった。

「ブッチ、何してんの?まさかお前まで俺を責める気じゃないよな?」

ブッチは呼ばれたと勘違いしたのか、重い腰を上げて、どすどすと足を踏みならしながら、細いはしごをのぼってきた。

「ぶみゃ」とひと鳴きして、ごろんと横になった。

海はブッチを抱き寄せて、頬ずりをした。

「どうせお前は陸の味方なんだろ。もしかして、ユーリとラブラブしてるから今だけ俺の味方?嫌いな花村も来なくなって、海派になったとか?」

ブッチは返事をしなかった。目を閉じて鼻をごーごー鳴らしている。鼻づまりみたいな音だ。

「なあ、朋ちゃんのプレゼント何がいいと思う?ついでに言えばさ、コウタにあげるの忘れちゃってたから、お揃いでって考えてるんだ。陸と割り勘する予定だったけど、喧嘩中だからどうかな?陸と喧嘩なんかするつもりなかったのにさ……。だって、おかしくない?俺が美高とお寿司食べただけで、どうしてみんなあんなに怒るんだ?どう思う、ブッチ」

「ぐごッ」ブッチは確実に鼻を詰まらせた。

「はいはい。どーでもいいってことね」海はブッチの耳と耳の間を掻いて、同じように目を閉じた。

起きていても責められるだけだ。心が寂しくなったときに慰めてくれるのが猫だけなのは仕方ないにしても、花村がいっこうにメールのひとつも寄越そうとしないのは気に入らない。もしかして、このまま自然消滅もあり得るのだろうか?

だったらさっさと別れると言ってしまった方がましだ。朋ちゃんの誕生日で気まずい思いをするのはイヤだもん。

つづく


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花村と海 9 [花村と海]

朋の誕生日まで一週間となった土曜日の午後。

なんとか関係が改善した双子は、ユーリの車でモールに向かっていた。

プレゼントを買うためだが、ユーリはあからさまに海の存在を鬱陶しく思っている様子。いつだって二人きりで過ごせるのに、ほんの少しも邪魔されたくないなんて気持ち、海には理解できなかった。

「弟の事はどうなったの?」海は退屈まぎれに訊ねた。

ユーリの弟アラタはおバカちゃんらしく、強力なコネでうちの学校に編入することになった。うちって金持ちエリート学校だけど、馬鹿でもコネがあれば入れるのは周知の事実だ。

「うるさい。黙れ」ユーリは相変わらず海には冷たい。質問に答えるなどもってのほかといった感じ。

「ちぇッ!なんだよ。なあ、陸。いつもこんな沈黙なの」会話も音楽もなしなんて、息苦しくて仕方がない。

「んー、だいたいね。ユーリ、運転中はあんま喋んないからさ」助手席に座る陸が座席の間から顔を出す。

「あんな長電話するくせに?」海はぷぷぷと笑った。

「口を閉じろ。さもなきゃ降ろすぞ」

「はいはい。なんでユーリは俺には厳しいわけ?陸のどこが好きなのさ。俺とどこが違うっての?」

まったく口を閉じない海に、ユーリはイライラとこめかみに青筋を立てる。

「それ、俺も知りたい。前から不思議に思ってたんだよね」

「陸、お前も黙れ」

「いいじゃぁん」陸が甘えた声を出す。

ユーリはミラー越しに海を睨み、大袈裟に音を鳴らして舌打ちをした。

「陸はいい匂いがする」文句あるかと言わんばかりに言い切り、それきり口をつぐんだ。

”においだけ?他にいいところはないの?”陸は考えた。

”俺だっていい匂いするっての。朋ちゃんのシャンプー使ってるし。まさか、それでもくさいとか?”海も考えた。

結果、すっぱり話題を変えた。

「プレゼント、何にする?」

海の巧みな切り返しに、陸は飛びつく。

「俺たちのお小遣いで買えるもの。ユーリもちょっとカンパしてくれるんだよね?」

「いつも世話になってるからな。お前が」ユーリは陸の頭を軽く小突いた。さりげない親密な仕草に、海の胸はちくんとした。

「俺が世話してやってんの。間違えないでよね」陸は唇をすぼめて不満をアピールする。ユーリはそんな陸を横目でちらりと見て、ふんと鼻を鳴らした。

ユーリは親の金を湯水のように使うのに、まったく後ろめたさを感じないどら息子だ。
何はともあれ、ユーリの財布も加わるとなれば強力だ。

「エプロンとかどう?」海は提案した。

「前にもあげたよね?」陸は素早く却下する。

「んじゃ、キーホルダー?」いらないものナンバーワンだ。

「必要ないんじゃない?」当然の答え。

「だよね。それじゃあさ、鍋のセットとかは?コウタが前にさ、新しい圧力鍋欲しいって言ってたじゃん」海は自分のひらめきに、思わず目を輝かせた。

「あ、それいいねー。でもさ、鍋って高くない?ほら、この前朋ちゃんが買ったすっごく重い鍋、二万くらいしたって言ってたもん」

「高ッ!」鍋くらいって甘く見てた。

「そのくらいなら出してやるから心配するな」

そのくらい!?さすが太っ腹ユーリ。

「ほんと!足りないの、お願いできる?」陸は抱きつく代わりに、ユーリの腕で爪とぎをする。猫の仕草は甘えている証拠だ。

「足りないも何も、お前の小遣いなんか知れたもんだろうが」ユーリは小馬鹿にするように言い、大きくハンドルを切った。

モールに到着だ。

つづく


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花村と海 10 [花村と海]

予算の心配のいらなくなった双子は、ユーリの財布を借りて、無事圧力鍋をゲットした。

正直、二人とも圧力鍋の使い方などまったく知らなかったが、最初のメニューは豚の角煮で意見が一致していた。その際、ユーリももれなく夕食に招待することになっていて、陸は意地悪く花村も呼べばと言うのだった。

海はたちまち不機嫌になり、一人離れて行動を開始した。一時間後に、一階インフォメーションで合流だ。

ぷらぷらと館内を巡り、いつものように本屋に行く。特に目的はないが地元の情報誌のグルメ記事をチェックするのは欠かさない。

「よう、海。本屋で万引きか?」

心臓が飛び出しそうになった。振り返ると、当たり前のようにそこに喜助が立っていた。営業用のスーツ姿だが胡散臭さは拭えない。

「なにバカなこと言ってんだよっ!」おかげで隣のおやじが疑いの目でこっちを見てるじゃんか!

「それじゃあ、そのポケットにあるのはなんだ?」喜助は真顔で海のズボンを指差す。

海はさっとズボンの両ポケットに手を置いた。何もない。

「はははっ!馬鹿だなお前」喜助は軽薄に笑って、隣のおやじを顎先で追い払った。

「何なの?子供をからかって楽しい?」海はぷうっと頬を膨らませ、喜助の腕をグーで小突いた。意外にも筋肉質で驚いた。

「俺がそんなに暇に見えるか?」

暇と言うより、仕事をしているように見えない。そもそも海は、喜助の表向きの仕事の保険調査員がどんな仕事なのか知らない。

「まさか仕事でたまたまここにいるなんて言わないよね?」そんな偶然あるはずない。喜助の事だ、あとをつけてきたに違いない。花村のことで文句を言う気かも。

「仕事だ。たまたまこの辺でな」喜助はニヤリとした。「で、仕事はもう終わりだ。アイスでも食うか?」

「何たくらんでるの?」海は疑り深く目を細めた。

「教えると思うか?行くぞ」喜助は海に背を向け、アイスクリームショップに向かう。後ろ姿だけ見れば、立派な人間に見えるのだから不思議だ。

海は後を追い、横に並ぶと言った。「おごりだよね?」

そうじゃなきゃ、絶対についていくもんか。

つづく


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