はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

花嫁の秘密 347 [花嫁の秘密]

「とにかく、カインのことを僕に言うのはやめてくれ。気に入らなければクビにすることはできるけど、勝手には動かせない」サミーはこの話をこれ以上するつもりなら、今後一切君とは話をしないと言外に匂わせていた。

さすがのエリックも口を閉じた。
ここにあるものすべてお前のものだろうと言ってもよかったが、この状況では火に油を注ぐだけだ。

カインのことは気に入るも入らないもないと思っていたが、読みを誤ったようだ。こっちで手を回して秘かにことを進めることにしよう。クリスには許可を得るとして、今後の動きも把握しなきゃならんし、例の箱の調査状況についての報告も兼ねて手紙を出すか。

「それで、そこの空白は?」エリックはサミーの走り書きを見ながら尋ねた。

「報酬額はブラックに記入させようかと。君は彼にいくら支払っているのか言わないだろう?」

「相場くらいわかるだろう?」言ってもいいが、こっちの手の内をあまり明かしたくないのが正直なところだ。

「使用人の相場ということならね。たぶんうちの使用人は他所よりも多めに貰ってはいるだろうけど、君の言うところの調査員を雇うのは初めてだからよくわからない。ブラックも僕が支払えない額を記入しないだろうし、僕が納得しなければ契約は結ばないという選択もある」

「ブラックもその辺は弁えているだろう」まったく。サミーはブラックを信用しすぎだ。あいつが吹っ掛けないとも限らないのに。あとでブラックに釘を刺しておくか。

「彼はどこまで僕の言うことを聞いてくれるんだろう。彼は前は何をしていたんだ?」

「そういうことは本人に聞け」

「どうせ調べればわかることなんだから、いま教えてくれてもいいだろう?」

「育ちは悪くない。経歴は、まあ色々だ。忠告しておくが、こういうのはあまり探ったりするもんじゃない。もしどうしても知りたければ契約の項目にでも入れておくんだな」

サミーは一瞬不満そうな顔をしたが、すぐに納得したようでひと息吐こうとようやくペンを置いた。軽く腕を伸ばし、ティーカップを手に取る。

「新しいのを持ってきてもらうか?」エリックは自分のカップを覗き込み尋ねた。

「君が欲しいなら頼んだら?」素っ気なく言って、冷めた紅茶に口を付ける。

俺がいま欲しいのはお前だと言ったら、またカッカするのだろうか。素直になったかと思えば、次の瞬間には冬の湖に吹く風のように冷え冷えとした態度だ。フェルリッジのあの湖はサミーの散歩コースではないだろうが、あそこには近づかないように忠告しておこう。

「そうだな。あとでブラックが出しそうな条件をその紙に書いてやるから、お前も付き合え」

「僕はもうずっと君に付き合っているけど」呆れているのか鬱陶しがっているのか、頬杖をついて手元に置いていたベルを鳴らした。

ほんと素直じゃないが、サミーに振り回されるのは承知の上だ。

つづく


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花嫁の秘密 346 [花嫁の秘密]

外出から戻ったサミーとエリックは、図書室に紙の束とペンを用意し向かい合ってテーブルに着いた。傍らには、サンドイッチと紅茶。昼食は済ませたと言ったが、エリックは無視してプラットに二人分持ってこさせた。

誰かと契約を交わすのは初めてだ。まずは僕の希望を書き出して、それをブラックに確認してもらうのが面倒が少なくて済む。問題は彼がどのくらいの報酬を望むかだが、いまエリックからいくらもらっているかを明かす気はないだろう。

となると、エリックに直接聞いてみるのが手っ取り早い。

サンドイッチを頬張るエリックを尻目に、サミーは思いつくまま紙にペンを走らせていた。近侍としてそばにいてもらうとして、服装に関して縛りは設けない方がいいだろう。もちろんそれなりに相応しい格好というものがあるが、現時点でそう趣味も悪くないしいまのままで構わない。

「――おい、聞いているのか?」

サミーは顔を上げてエリックを睨むように見た。サンドイッチを食べていると思ったら、すでに食べ終わっていて、お前もさっさと食べろという目で見ている。

「お腹は空いていない」ぴしゃりと言って、視線を落とす。

「聞いていなかったな」エリックが苛立ったように言う。

「だったら何?」食べ終わったから早く助言をさせろということだろうか。

「カインをこっちにもらいたい」

カイン……?カインが何だって?

サミーは困惑して、ただただエリックを見つめた。エリックとカインに何の関係が?

「クリスに話を通さなきゃならないのは重々承知している。だからここでこれまで通り働いてもらうとして――」

「僕がブラックを取ったからその仕返しなのか?」けど、カインの雇い主は僕じゃない。それにカインがエリックの望むような仕事ができるとも思えない。

「なんで俺がお前にそんなことをする必要がある?お前がブラックを動かしている間、誰がお前のそばに?カインは護身術の心得もあるし、何より気も利く。お前を守るくらいなんでもない」

エリックは僕を説き伏せようとしているけど、逆効果だ。

「カインに護身術を習えと?守ってもらわなくても、僕だって暴漢を倒すくらいは出来る」

「銃を使うのか?」エリックが当てこする。

エリックは本当に嫌なことを思い出させる天才だ。最近は忙しく、せっかくあの男のことを思い出さずにいられたのに。けど、思い出したからにはついでに色々聞き出すのもいいかもしれない。

ブラックに調べさせるまでもない。

つづく


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花嫁の秘密 345 [花嫁の秘密]

サミーの面白いところは、自分が周りからどう思われているか全く気づいていないところだ。

おそらく自分では馴染めていると思っているのだろうが、ティールームの隅で紳士が一人でケーキを食べている姿がありふれた光景だとでも?好奇心いっぱいにサミーを見つめるご婦人方の中には、自分の娘の相手にどうだろうかと考えている者もいれば、自分の愛人にと思っている者もいる。

そんな中にいつまでも放置しておくほど、俺は寛大な心は持ち合わせていない。

エリックは帽子をひとつ購入し、サミーが姿を見せるのを辛抱強く待った。あの給仕が俺の伝言を正しく伝えていればもう間もなくやってくるだろう。もちろん逃げ出さなければの話だが、残念ながら出口はすでに押さえている。

「君の用事は済んだのか?」すっと隣に立ったサミーが言う。

「まあね。お前の荷物にチョコレートも紛れ込ませておいた。二日もあれば向こうに届くだろうが、寒い時期でよかったな」

サミーは購入したものを直接ラウンズベリー邸に届けるように手配していた。婦人ものの手袋や帽子、ショール、それにハンカチ等々。気前のいいことに向こうにいる女性みんなに贈り物をするらしい。
母様やマーサはいいとして、アビーに贈り物をしてロジャーが嫉妬しなきゃいいが。

「<デュ・メテル>に行ったのか?」サミーは感嘆の表情でようやくこちらを見た。店を無理やり開けさせたと責めるかと思ったが、素直に喜んでいるのを見ると少し無理をした甲斐もある。

「ああ、閉まっていたが、裏口からちょっとね。いいから帰るぞ」見送ろうとする帽子売り場の担当に礼を言って、サミーと一緒に店を出た。一旦戻って、まずは食事だ。サミーはいったいいつになったらまともに食事をする気になるのやら。

これならジュリエットとディナーに行かせた方がよかった。さすがに外での食事でケーキばかり食べたりはしないだろうから。

通りで馬車を拾い乗り込むと、向かいに座るサミーに買った帽子を差し出した。気に入るか入らないかは別として、反応は見たい。

「開けてみろ」

「いまここで?包みを破れと?」サミーは警戒するようにエリックを見た。外出の邪魔をされて不機嫌そうだ。

「別に帰ってからでもいいが、戻ったらすることがある」

「することね……。僕もちょうど話があるんだ」サミーはそう言いながら、百貨店のロゴ入りの包装紙を開けて、中の帽子を取り出した。

「耳当て付きの帽子だ。夜は冷えるからかぶって行け」エリックは気もそぞろに言った。話ってなんだ?まさかもう一緒には寝たくないとか言う気じゃないだろうな。

「子供がかぶる帽子じゃないか」サミーはもこもこの耳当て部分を左右に引っ張りながら言った。

そんなに不満がることもないだろうに。ちょっともこもこしすぎているが、これでも紳士用だし、かぶっているやつもそこそこ見かける。何よりあの販売員がこれがいいと勧めた。

「お前にぴったりだ」

サミーは帽子を包みの中にきれいに戻すと、脇にそっと置いた。ハニーの手紙のように大事に抱えたりはしないわけか。

「それで、話っていうのは?」沈黙に耐え切れず、エリックは尋ねた。

「もうすぐ屋敷に着く。それまで待てないのか?」

「あと五分はかかる。それだけあれば話せるだろう?」

サミーは大袈裟に溜息を吐いて、不本意さを主張した。「ブラックの契約書を作るのを手伝って欲しいんだ。ここで話す内容じゃないだろう?」

「ブラックを渡すのはもう少し先だぞ」それよりも、わざわざ契約書とはね。ブラックが細かく読んでまでサインするとも思えないが、こういうところがサミーらしい。

「準備をしておいて何が悪い?」

「いいや。手伝ってやる」ついでにカインのことも話すことにしよう。了承を得なきゃあの従僕は首を縦に振らないだろう。なかなかできた使用人だ。

つづく


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花嫁の秘密 344 [花嫁の秘密]

ラッセルがこの百貨店を買い取ったおかげで、年の瀬だというのに思い通りの買い物ができた。あと数時間で閉まってしまうようだが、三日ほど休んですぐに通常営業に戻る。従業員は大変だがそんなことはおくびにも出さない。よほど訓練されているのだろう。

結局朝食は昼食になってしまったが、ここのティールームは静かで男一人でいてもとても居心地がいい。

サミーはアルコーブの奥まった場所から、客や従業員の動きをのんびりと観察していた。
仕事をするというのはどんなものなのだろう。人に使われる側と使う側と。エリックはちょうど両方の立場にある。新聞社や雑誌社が欲しがっている記事を提供するのも、そう簡単ではないはず。依頼された記事を書き上げるまでに、何人くらい人を動かすのだろう。

ケーキの最後のひと口を口に運び、ここにセシルがいたらいいのにと、一緒に味わえないことを残念に思った。しばらくしてこっちに戻ったとしても、学校が始まればまた行ってしまうが、ここに残ってくれたらどんなにいいか。

そういえばセシルは大学で何を学ぶと言っていただろう。きちんと聞いておけばよかった。こっちに戻ってきたら、少し真面目な話をすることにしよう。それから、エリックとも。

こっちへ出て来てから色々なことが起こりすぎて、いったい自分がいま何をすべきなのかわからなくなっている。とにかく今夜ジュリエットとカウントダウンのイベントに参加する。そのことだけを考えていられたらいいのだが、屋敷に戻ったらブラックの契約書の概要をまとめてエリックにチェックしてもらわなければ。

しかしこんな時でも買い物客は結構いるものなのだな。ラッセルの戦略は当たったということか。彼はいったいどんな男なのだろう。ホテルに行けば会えるだろうか。とても興味がある。

「リード様」

ふいに声を掛けられ、サミーは左に顔を振った。視界の端に給仕が近づいてきているのが見えていたが、もしかして長居しすぎだと追い出されるのだろうか。

「僕に何か?」見上げて問う。なかなか見栄えのする給仕は、少しおどおどしていてまだ新人といった初々しさが見え隠れしていた。

「お連れ様から、一階の帽子売り場にいるから早く降りてこい、と伝言を承っております」給仕は顔を赤くしてお客様にこんな口を聞くのは不本意だとばかりにそう言うと、サミーが怒りださないうちにと急いで自分の持ち場に戻った。

お連れ様?そんなものはいないが、早く降りてこいと偉そうに言う辺り、一人しか思い浮かばない。きっとあの給仕に俺の言葉をそのまま伝えろとか偉そうに言ったに違いない。ここまで来ていたなら、なぜ席まで来ない?

それより用事は済んだのだろうか?どこへ行くかは聞いていなかったが、僕よりも遥かに忙しいのは心得ている。つまり、これ以上待たせると後で面倒なことになり兼ねないということだ。

今朝のエリックはひどく苛々していたから、たまには素直に従っておこう。

つづく


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花嫁の秘密 343 [花嫁の秘密]

あからさまに喜ぶサミーの顔を見て、一緒に喜べるかといえば嘘になる。気に入らないわけではないが、まだハニーに負けていると思うと途端に自信がなくなる。これほど想って尽くしてもまだ足りないというわけだ。

「エリック、今日の予定は?」サミーは手紙を丁寧に封筒に仕舞うと、膝に置いた。大切そうに手の中で指を滑らせている。

「このあと少し出てくる。夕方までには戻るが、何かあるのか?」予定を尋ねたからには何かあるのだろう。ブラックのことか、それともカインのことをもう耳にしただろうか。

「僕も少し出てこようと思う。さすがに<デュ・メテル>は開いていないだろうから、百貨店に行ってくるよ」

手紙の礼にハニーに贈るつもりか。ったく。俺にもこのくらい尽くしてくれないものかね。「様子を見て来てやろうか?店は閉まっているかもしれないが、商品はあるだろう?」

「いや、あの辺もぶらつくからついでに覗いてみるよ。もしも君がかわいい妹のためにチョコレートを見繕いたいというなら、邪魔はしないよ」サミーは揶揄うような笑いをこぼした。

「かわいい妹であり、弟でもある。いつもこっちが優位にいるように見えるだろうが、これでなかなか扱いは大変なんだ。クリスが引き受けてくれて助かったよ」最後の一言は余計だと思ったが、言わずにはいられなかった。別に嘘ではない。いつもそう思っているし、そのおかげでいまがある。

サミーは納得するように頷いたが、顔は一瞬にして陰った。

「朝食は?ここに持ってこさせるか?」エリックは話題を変えた。

「いや、外で適当に食べるよ。今夜のことを思えば、早めに行動しておいた方がいいだろう?」

「別に今夜何があるわけでもない。ただ花火を見て、帰るだけだ」

そのためにわざわざメリッサを呼び寄せた。おそらくジュリエットは苛々して早く帰りたがるだろう。直前のディナーで有意義な時間を過ごせたとしたら余計に。

「人が多いからそんなに簡単な話じゃないだろう?」サミーは混雑する通りを想像してか苦い顔をした。普段一人で過ごしているサミーにとっては、苦痛でしかないだろう。

確かに、人込みから抜け出すだけでも時間は相当かかる。だが計画を練り直したいま、サミーがジュリエットに深くかかわる必要はない。途中で帰ったって別にかまわない。まあ、次の計画は伝えてないし、伝えていたとしてもサミーが言うことを聞くはずもないが。

「昼寝でもして体力を温存しておくんだな」エリックはサミーの手元を見ないように努めた。胸がむかむかして仕方がない。

「僕を馬鹿にしているのか?」サミーは不満そうに言葉を吐いた。

「いいや、心配しているだけだ。田舎の祭りとはわけが違うんだ。人込みに紛れて悪さをするやつもいる。集まるのは上品な連中ばっかりじゃないからな」まるでハニーに言い聞かせているみたいだ。いまこっちにいなくて、本当によかった。たとえクリスがいたとしても、さすがに二人は面倒見切れない。

「どうだかね」サミーは冷ややかな視線をこちらに向けたかと思うと、手紙を手に立ち上がった。「着替えて出掛けるよ」言うだけ言って、さっさと背を向けるとぐずぐずせず部屋から出て行った。

いったい何が気に入らないんだか。まあいい。こっちもぐずぐずせずに行動だ。まずはコートニー邸を開ける手はずを整えに行って、チョコレート屋の様子を見に行くとしよう。

つづく


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花嫁の秘密 342 [花嫁の秘密]

目が覚めて、ベッドでまどろみ、そこにエリックがいるのか手を伸ばして確かめる。大抵どちらかが先に起きてベッドから出た後は、一緒にいた痕跡を残さないようにさっさと部屋を出る。

この屋敷の誰が何に気づいたとしても、お互い別に気にはしない。それなのになぜ、と不満をこぼしそうになったところでほんの三日前、部屋で二人、朝食を取ったことを思い出した。

エリックと暮らしたら毎日あんなふうなのかといえば、それは違うだろう。彼は仕事を持っているし、いつも何かと忙しくしていて、いま毎日一緒にいることの方が稀だ。

身支度はいつも通り一人で整える。ブラックに手伝ってもらうことがあるとすれば、正装するときくらいだろうが、それさえも必要かどうか。ブラックもきっとそういう仕事は望んでいないだろう。

今日は夜までの時間、契約書を作成することに費やそう。ブラックは細かく内容を決めたがるだろうか。それとも、大雑把に決めておいて裁量を欲しがるだろうか。もしかすると細かく決めた上で裁量を欲しがるかもしれない。あとでエリックにどうすればいいのか聞いてみよう。

少し寝坊したけど、さすがにまだ出掛けてはいないはず。

朝食はとっくに済ませたのか、エリックは居間で新聞を読んでいた。自分の記事でも載っているのだろうか。

「何か面白い記事でも?」サミーは部屋を横切りエリックに近づいた。

「いや、たいして面白くはないな」エリックは新聞から顔を上げた。「お前宛に手紙が届いている。そこだ」

サミーはエリックの指し示した方を見た。テーブルの上の銀トレイに見慣れない封筒が置かれている。その小ぶりな封筒を手に取ると、すぐに誰から届いたのかわかった。ほんのりと香る薔薇の香り。アンジェラからだ。何かあったのだろうか?

「君にも届いたのか?」尋ねながらソファに座り、ペーパーナイフを取りに行く手間さえ惜しみ手紙を開封する。

「いいや、俺には来ていない。薄情な妹だよ、まったく」エリックは信じられないといった口ぶりだ。

サミーは封筒から手紙を取り出したところで顔を上げ、エリックを見た。「来ていない?向こうに届いているんじゃないのか?使いはやったのか?」

「落ち着け。ハニーもクリスも俺がここにいることはとっくに知っている。忘れたのか?」

「万が一ということがあるだろう――」手紙に目を通して、ひとまず安堵した。何かひどいことが起きたのかと心配でたまらなかったが、クリスマスを一緒に過ごせなくて残念だという言葉と共に、これからのことが書かれていた。

「ハニーは何だって?」エリックは身を乗り出し、サミーに尋ねた。

「新しい年、おめでとうって。あの子らしいよ」クリスマスも大晦日も一緒に過ごせたらよかったけど、こっちで片付けるべき問題があるから仕方がない。

「それだけか?なんで愛しのエリックお兄様には寄越さないんだ」エリックは解せないとばかりに眉根を寄せた。

「一緒にいるとわかっているからだろう」実際の所はどうだか知らないけど、きっとセシルが余計なことを喋っているに違いない。あの二人が揃えば、一日中だって世の中のありとあらゆる噂について話していられるだろう。もちろんたっぷりのお菓子も必要だ。

いつまでラウンズベリーの本邸にいるのかはわからないけど、手紙と一緒に二人の好きそうなお菓子を送っておこう。まだ開いている店があればいいけど。

つづく


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花嫁の秘密 341 [花嫁の秘密]

大晦日の屋敷は賑やかな方が好きだ。

年越しの支度に追われる使用人たちはどこか楽しげで、見ていて気持ちがいい。この朝の慌ただしさが過ぎてしまえば、夜にはお楽しみが待っている。おそらくサミーは気前よく小遣いを渡しているはずだ。

「エリック様どうされましたか?」地階まで降りてきたエリックを見て、プラットが慌てた様子で声をかけてきた。

「いや、ただ早く目が覚めただけだ。落ち着いたらコーヒーを居間へ持って来て欲しい」目は覚めたが、頭はまだぼんやりしている。ベッドでサミーの寝顔を見ていてもよかったが、今日は夜までに片付ける用がいくつかある。

「部屋はすでに暖まっております。すぐにお持ちいたしますので、上でお待ちください」

プラットの言葉に従い、エリックは上に戻った。サミーはあと一時間は起きてこないだろう。クラブでの話を聞きそびれたが、今朝までに何の報告もないということは、特に変わったことはなかったのだろう。

ブラックにはサミーの従者になるにしても、こっちの契約が切れてからだと言っておいたが、サミーに頼まれれば許してしまいそうな気もする。我ながら情けないことだが、いまの関係からすれば仕方のないことだ。諦めるしかない。

エリックはひとまず、いつもの場所に座った。ゆったりと背を預け、目を閉じる。昨夜のサミーがやけに素直だったのは、ブラックを譲ってやったからだ。これほどまでに分かりやすいとはね。

サミーは賢いし度胸もあるが、危険なことには慣れていない。だからこそのブラックだが、もう一人別につける必要がありそうだ。

自分の手駒の中で相応しい人物がいただろうかと、リストの上から順に精査してみたが、納得のいく人物は思い浮かばなかった。リストから漏れている誰かがいそうだが、頭がすっきりしていないいまは、考えても無駄だろう。

しばらく半分眠った状態で考えに耽っていたが、コーヒーのいい香りで瞼が勝手に持ち上がった。カインがちょうど目の前のソファテーブルにトレイを置いているところだった。眠っているからと物音を立てずにいたのだろうが、コーヒーの香りがなければまったく気配に気づかなかったところだ。

「おはよう、カイン。忙しい時間に悪いね」ふと、カインの役目は何だっただろうかと思い出そうとしたが、そもそもちょっとした経歴以外何も知らないことに気づいた。

屋敷を半分しか開けていないいまは、プラットの下についてドアマンから給仕まで何でもこなしているが、この屋敷での地位はどれほどのものなのだろう。

「おはようございます、エリック様」カインは眩しいほどの笑顔で答え、エリックの前に差し出したカップにコーヒーを注ぎ入れた。

こういう場合、むやみに笑ったりしないのが使用人だが、先日のウェストへの対応は悪くなかった。もちろん直接対応したのがプラットなのはわかっている。

「カイン、クリスと直接話したことはあるか?」

「いいえ!まさか」カインは驚いた様子で後ろへ飛び退き、ピンと背筋を伸ばし直立の姿勢を取った。

サミーや俺と違って、雲の上の人というわけか。クリスにとっては多数いる使用人の一人にすぎないだろう。その方がこっちにとっては都合がいい。

「面接はダグラスが?」エリックは訊いた。

「はい。ですが、ダグラスさんともあまり話したことがありません」カインは質問の意味を考える暇もなく返事をした。

屋敷を開けている期間より、閉めている期間の方が長いからそれも仕方がない。次のシーズンはまだいいとして、その次はどうなるのだろうか。本当にクリスは田舎へ引っ込む気だろうか。今後の成り行き次第だろうが、それならそれでこの屋敷はサミーが管理したらどうだろうか。そうすれば感じの悪いあの男から屋敷を買わずに済むし、その分をクラブの購入費用に充てられる。

「カイン、俺のところで働く気はないか?」

ブラックはサミーにやった。こっちはカインをもらったって別にいいだろう?

つづく


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花嫁の秘密 340 [花嫁の秘密]

「いい加減こっちを向いたらどうだ?」

「てっきり君は僕の背中が好きなんだと思っていたよ」そう軽口を叩きながらも、サミーはもぞもぞとエリックに向き直った。「目を閉じてもいいか?」今夜はもうあと一〇分も起きていられないだろう。

エリックと一緒に寝るのも慣れてきたけど、あまりいいことではないなと思う。でもまあ、いまはまだ寒いし、暖かくなるまではしばらくこのままでもいいか。

「今日はやりたいことやって満足したか?」目を閉じるとエリックが言った。

「まあね。そっちこそ、すべて予定通り進んでいるようで何よりだ」嫌味っぽく返そうとしたが、エリックが抱きついてきて声がくぐもってしまった。

「明日の準備をしてきただけだ。お前のせいでゆっくりできやしない」エリックが忙しくしているのは好きでやっていることだ。僕の眠りを妨げているくせによく言う。

「そういえば、明日どうする?ジュリエットにディナーでも一緒にと誘ったら断られたから、一〇時頃に迎えに行くと伝えておいたけど、そっちは?」一緒に行動するなら、僕から伝えておけばよかったかな。

「二人まとめてホテルで拾ってウッドワース・ガーデンズに向かえばいい。おそらく途中で降りて歩かなきゃならんだろうな」

そうなるとジュリエットは文句言いそうだけど、こればっかりはどうしようもないだろうな。ぐずぐずしていたらカウントダウンに間に合わなくなる。そもそも明日は僕のために予定を開けてくれていると思っていたのに、まさかディナーを断られるとは。先客っていったい誰だろう。

僕は一緒にいて楽しい相手ではないかも知れないけど、結婚を考えるなら食事くらい一緒に――

ふいにサミーは目を開けた。あることに思い至ったからだ。顔を上げるとエリックはいつものようにじっとこちらを見ていた。

「君、まさか」

エリックには僕の言わんとしていることがすぐに分かったようだ。ようやく気付いたかと、ニッと口の端を上げた。

「いったい誰が彼女の相手を?」訊いたところで答えるはずないか。まさか僕をジュリエットに会わせないために、ここまでするとはね。今年の終わりと新しい年を迎える瞬間を一緒に過ごすのに、ディナーがダメな理由がわからない。

「誰かは気にするな。それと、お前の方が魅力があるから気に病むことはない」

「魅力ね……」あると言えたらどんないいか。ジュリエットの興味は僕のお金で僕ではない。かろうじてエリックの言葉が慰めではないことが救いだ。

褒めてくれた褒美はキスでいいだろうか。今夜はこれで力尽きそうだ。

つづく


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花嫁の秘密 339 [花嫁の秘密]

ブラックはどうやら引き受けるつもりらしい。おかげで説得せずに済んだが、本当にサミーの面倒を見きれるのか不安が残る。

我ながら矛盾しているなと、エリックは失笑した。

サミーがこれまで一人だったのは、背中の傷も含めてそれなりの理由がある。もちろん自分だけが理解者だなどと言うつもりはない。けど、誰よりも理解しようとはしている。

ブラックには決して見るな触れるなと忠告しておいたが、どれほどの物か知ったらさぞ驚くだろう。

今夜はサミーには色々聞きたいことがある。たまには向こうから会いに来てくれてもいいものだが、サミー相手にそういうものを求めても仕方がない。あいつは誰かに自分から擦り寄ったり頼ったりはしない。

だが皮肉なことに、そのサミーがブラックを欲しがった。嫉妬こそしないが、あまりいい気はしない。

そろそろベッドに入った頃だろうかと、エリックはサミーの元へ向かった。静かにドアを押し開けたところで、ちょうど目が合った。ガウンを脱いでベッドに入ろうとしていたようだ。

「黙って僕の部屋に入るのは君くらいだよ」呆れているが追い出す気はないらしい。

「声を掛けたが、聞こえなかったか?」エリックは見え透いた嘘を吐いた。

サミーはふんっと鼻を鳴らした。「ブラックのことを聞きに来たのか?それとももう彼が報告済みなのか」

偉そうに腰に手を当てる前に腕を引いて抱き寄せた。こういう時、身長差がほとんどないのがありがたい。顔をまっすぐに見ることができるし、瞳の色の変化も見逃さない。いまは黒っぽくなっている。

「報告済みだが、話も聞きに来た。本当にあいつでいいのか?」

「彼なら味方になってくれるだろう?」他にいないのだから仕方がないといった口ぶりだが、信頼してなきゃフェルリッジまで行かせるはずがない。

「ああ、そうだな。けど、俺もいることを忘れるな」エリックはサミーの後頭部に手を置き、肩に頭を乗せた。

「君は目的のためには非情になるから信用できない」

その信用できない男の胸の中にいる気分はどんなものなのだろう。まったく。自分の方が勝手をするくせに、信用できないとよく言えたものだ。ジュリエットに贈り物をして、クラブには誰に会いに?

「デレクはいたのか?」エリックは諸々の余計な質問を省いた。

「彼らは今夜いなかったよ。というより、今夜はこの前よりも人が少なかったな。のんびりできてよかったけど。あ、そうそう。君が書いた記事をじっくり読ませてもらったよ。あの書き方はもしかしてブライアークリフ卿の資金源を断つってことなのか?」サミーは顔を上げた。

「お前のロゼッタ伯母様もチャリティーに熱心だから、協力者の存在がどれほど大事かは知っているだろう?寄付した支援金が浪費癖のある息子に流れているとしたら?」多少歪曲した書き方だったが、デレクをクラブから追い出すためには仕方ない。

「デレクにそこまでの浪費癖はないだろう?」

「けど、金は確実にジュリエットに流れている」

「まあ、そうだな。なあ、僕は今夜こういう難しい話をしたい気分じゃないんだ。ベッドへ入りたい」サミーは両手をエリックに胸に置いた。

「誘っているのか?」押し退けようとしているのは無視した。

「違うと言っても、君は気にせずベッドへ入ってくるんだろう?」サミーは腕の中からすり抜けたが、指先はまだエリックに触れたままだった。エリックは迷わずその指を取った。

つづく


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花嫁の秘密 338 [花嫁の秘密]

特に何の問題もなく帰宅したサミーは居間と図書室を覗き、エリックがいないのを見て取って自分の部屋へあがった。

ドアを開けるとそこはいつも通り暖かく静かだった。エリックは帰宅はしているようだけど、珍しく自分の部屋にいるようだ。

今夜はデレクもその取り巻きもいなかったし、カードゲームで少し勝たせてもらって気分がいい。身ぐるみ剥いだってよかったけど、会員との良好な関係を保っておいて悪いことはない。それと思いがけない人物と話すことができたのも、今夜の収穫のひとつだろう。

上着をベッドの上に放り、カフスボタンを外してその上に投げた。こういうのをダグラスが見たら嫌な顔をしそうだけど――もちろん僕のいない所で――、彼はここにはいないし、結局自分で片付けるのだから好きにさせてもらう。

背後でノック音がして、静かにドアが開いた。エリックがノックするなんて、珍しいこともあるものだ。

「何か用?」振り向くと、そこにはブラックが立っていた。近侍らしい仕事をするつもりだろうか?「着替えなら一人で平気だけど」これまで手伝ったことなどないくせに、なんだって今夜に限ってわざわざここへ?

「そうして欲しいのかと思いましたが」ブラックはさも当然のように近付いてきた。

サミーは思わず一歩後ろへさがった。「着替えは自分でする。そんなことのために来たわけではないだろう?いったい何の用だ」

「いえ、そんなことのために来たんですよ。あなたが俺を雇いたいと聞いたので」近侍にしては背の高すぎるブラックは、次の主人を見下ろしながら言った。

エリックから聞いたのか。「そういう意味ではないことはわかっているんだろう?でもまあ、上着を掛けておいてくれるなら助かるけど。そういうこともしてくれるの?」

そもそも引き受ける気はあるのだろうか?エリックはいったいどういうふうに話をしたのだろう。こういう大事なことは帰宅してすぐに言うべきではないのか?姿を見せないと思ったら、わざとだったわけだ。

「本当に俺を雇いたいと思っているんですか?近くに人を置くのは嫌いだと思っていましたが」ブラックはベッドに手を伸ばし、上着の上に転がるカフスボタンを取った。仕舞う場所は知らないので、ひとまず鏡台の上に置きに行った。

「僕だって一人で出来ないことはある。それに、今回みたいに色々頼みごとを聞いてくれる者も必要だ。君なら一応信用できる」

たった一週間でこいつを信用するなんて正気とは思えないが、そもそもエリックとの関係がまともだとは言い難い。クリスの屋敷を拠点として、いったい僕らは何をしているんだか。

「ずいぶん買ってくれているんですね。俺がこれを盗まないと言い切れると?」ブラックは手の中でカフスボタンを転がした。

「盗むつもりなら勝手にどうぞ。だいたい盗みをするような男をエリックが雇うはずないだろう?」まったく、エリックと同じで面倒な男だ。「報酬は君が望む金額を出すよ。何か頼みごとをすれば特別手当も出そう。その代わり、僕に忠誠を誓って欲しい。それから、もしも逃げ出したくなったら早めに言ってくれると助かる」

忠誠を誓えは言い過ぎだけど、これだけ言ってダメなら、諦めてエリックをこき使うしかない。

つづく


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