はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

花嫁の秘密 337 [花嫁の秘密]

晩餐の時間に間に合うよう帰宅したエリックを待っていたのは、サミーではなくブラックだった。報告すべきことがある時は、いつも待ち構えている。

「どこへ行ったって?」訊き返すまでもなくもちろん聞こえていたが、反射的にそうしていた。

「今夜はプルートスで食事をすると言って、暗くなる前に出掛けて行きました」

澄ました顔で答えるブラックに、お前の仕事は何なのだと耳元で怒鳴ってやりたい衝動を抑え、エリックはゆっくりと息を吐き出した。

「一応止めましたよ」ブラックは何の意味も持たない言葉を付け加えた。

「だったらなぜお前はここにいて、サミーはいない?」もちろんサミーを止められなかったからだ。

「まさかついて行けと言うつもりじゃないでしょうね?あの方は好きなように行動するし、そもそも俺の言うことなんて聞きやしませんよ」

そんなこと言われるまでもなくわかっている。サミーはいつだって勝手にする。それをどうこう言うつもりはないが、ほんの数時間ばかり俺の事を待てなかったのか?

「サミーは他に何か言っていなかったか?」

「他に、とは?」ブラックは他に何かあっただろうかと、数時間前の記憶を探った。「いきなりデレク・ストーンと殺し合いはしないと、言っていたくらいですかね」

エリックは呆れて天を仰いだ。いかにもサミーが言いそうなことだ。

「まあいい、話がある。ついて来い」エリックはコートをフックに引っ掛け、ブラックについてくるように言った。

サミーがブラックをくれと言うので、一応意見を聞いておく必要がある。ここへ潜り込ませたのは期間限定が前提だったが、サミーの従者としてこれから先継続して働く気があるのかどうか。もちろん報酬次第だろうが、万が一サミーの世話など御免だと思っていたとしたら、こっちで手を打つ必要がある。

居間へ入ると、いつものソファに座った。いつもなら目の前の無駄に大きなソファでサミーがまどろんでいるが、なぜか今夜は一人でいたいらしい。いったい何をするつもりなんだか。

「贈り物の手配なら俺じゃありませんよ」背後からブラックが先に口を開いた。

「なんだって?」いったい何の話だ?「誰が誰に――」と言いながら、我ながらくだらない質問だと失笑した。サミーがジュリエットを置いて他に誰に贈り物をすると言うんだ。「その話を詳しく聞きたいが、まずはこっちの話を聞け」

腹が立って仕方がないが、うまい具合にサミーを懲らしめる策を講じていた自分を褒めたい。これに関しては、サミーの自業自得だ。明日、痛い目を見ればいい。

つづく


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花嫁の秘密 336 [花嫁の秘密]

父の葬儀の出席者の名簿は何冊かあったが、ダグラスは僕が欲しがっていた名前の載っている名簿をうまくブラックに渡してくれたようだ。

この名簿は誰がまとめたものだろう。出席者の詳細も漏れなく記入されている。おかげでブライアークリフ卿のパーティーで見かけた男の正体がわかった。

これでブラックに調べを進めてもらえるが、エリックはブラックに例の話をしたのだろうか?箱の調査を任せると言ってすぐに、またどこかへ出掛けてしまったけど。

直接僕からブラックに言ってもいいけど、現雇い主であるエリックがクビにしてくれないと話を進めようがない。それに報酬はいくらにすればいいのか見当がつかない。引き抜くわけだから五割り増しくらいでいいのだろうか。それとも倍は払わないと首を縦に振らないだろうか。

そういえば、ジュリエットにもうあれは届いただろうか。特に知らせがないということはまだなのだろう。夜はとても冷えるだろうから、明日身につけるのにちょうどいいものを選んだのだけど、彼女の好みはいまいちわからない。けど、彼女自慢の赤髪が映えるのは間違いない。

名簿を書斎机の引き出しに仕舞い鍵を掛けた。ここには先日取り寄せた資産報告の書類も入っている。そのうちどこかへ移さないといけないな。

エリックがいつ戻ってくるのかわからないし、ちょっと出掛けるか。

支度をして玄関広間へ行くと、ブラックが待ち構えていた。プラットには出掛けることを伝えたがブラックには言い忘れていた。もちろん言う必要はないけど、一応彼は僕を見張るためにここにいるわけだし、今後の事を思えば知らせておくべきだろう。

「プルートスへ行ってくる。夕食も向こうで済ませてくるから、今夜はゆっくりするといい」

「一人で、ですか?」ブラックは怪訝そうに眉を顰めた。こいつは平気でこういう顔をする。だからこそそばに置くに相応しい。

「僕が一人で外も歩けないように見えるのか?」ブラックはコートを着せてくれそうにもないので、自分でハンガーから取って袖を通した。いつもそうしているから問題はない。けど、正式に雇ったら話は別だ。

「デレク・ストーンと揉めた後では、あまりいい考えとは言えませんね」ブラックは腕でも組みたそうな顔をしている。そのうちエリックみたいに溜息でも吐きそうだ。

「いくらあいつでも、いきなり殺したりはしないよ。それにあいつがどんな顔で僕の前に現れるのか、ちょっと興味があるんだ」険悪だけど、さすがに殺し合うほど仲が悪いわけではない。存在ごと消えてくれればいいだけだ。

ブラックはまだ不満そうな顔をしていたが――おそらくエリックになんて報告しようか考えているに違いない――かまわず帽子を頭に乗せステッキを手にした。

「それじゃあ、行ってくるよ」

つづく


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花嫁の秘密 335 [花嫁の秘密]

昼食後、ブラックが持ち帰った帳簿のようなものにサミーが夢中になっている間に、エリックは注文していたものを取りに仕立屋に向かった。もちろんアンダーソンのところではない。

特に中を確かめるでもなく商品を受け取ると、次にラッセルホテルへ向かう。仕立屋に直接ホテルに届けさせてもよかったが、メリッサの驚く顔を見逃す手はない。ついでにジュリエットの様子も確かめておきたかった。

やめておけばいいのに、サミーはジュリエットに何通か手紙を出していたようだ。作戦は変更すると言っても、サミーは自分の立てた計画を変更するつもりはないようで、こっちの手を煩わせることしか考えていないのかと思うほどだ。

ティーラウンジには客たちの視線を集めながら、優雅にティータイムを楽しんでいるメリッサがいた。ジュリエットが同席してないということは、特に仲良くはなっていないようだ。どちらにしても、明日には嫌でも一緒に行動する。その時の不協和音が楽しみだ。

「やあ、ビー。まだまだ女優としてやっていけるんじゃないのか」エリックはメリッサの向かいに腰をおろし、同じものを持って来いと給仕に身振りで示した。

「エリック、ごきげんよう」メリッサは口元だけで微笑んだ。目は笑っていないし、口調にもどことなしか棘がある。つまりいつも通りということだ。

「ジュリエットは?」エリックは前置きなしに尋ねた。

「さあ、出掛けていると思うわ」

どこかでめぼしい集まりがあっただろうかと、エリックは頭の中のメモ帳を引っ張り出した。ジュリエットはすでにサミーの事は諦めていて、次のパトロン探しに乗り出していたりするだろうか。さすがにありそうにもない考えだ。ジュリエットがサミーを狙うのはあくまでクリスの弟だからで、この考えはどうあっても覆らない。

「グウィネスはどうしてる?」機嫌を損ねていなきゃいいが。メリッサの呼び出しには快く応じたが、ここへ来ることに乗り気だったとは思えない。メグがいれば面倒はなかったが、他に頼るとしたらグウィネス以外ありえなかっただろう。

「いまはお昼寝中かしら。彼女にはホテル暮らしを満喫してもらっているわ。そういえば、チョコレートありがとう。グウィネスもとても喜んでいたわ」メリッサはようやく心からの笑みを見せた。母親のような存在とはいえ、最初はかなり気を使ったのだろう。

「賄賂の効果はあったってところか」たかがチョコレートとはもう言えないな。これはクレインの手柄だが。

「そのようね。それで今日はどうしてここへ」メリッサが尋ねたところで、給仕がティーセットを持ってやって来た。メリッサが何を食べていたのかよく見ていなかったが、サンドイッチにフルーツが挟まっている。こういうのは別々が美味いに決まっている。

「贈り物を届けに。荷物になるからフロントに部屋へ届けておくように言っておいた。あとで部屋で開けてみろ」ここで広げでもよかったが、ジュリエットがいないんじゃ意味がない。

「今度は何かしら?」メリッサは警戒するようにエリックを見た。「言っておくけど、あの人とはお友達になれそうにはないわ」

「お前がなろうとしても、向こうが嫌がるだろうな。最初からそこは期待していないから気にするな。お前は明日、俺の連れとして周囲の注目を集めてくれるだけでいい。そのための贈り物だ」

不満そうな顔をすると思ったが、メリッサは自信たっぷりに微笑んだ。「彼女よりも目立てってことね。知っているでしょうけど、そういうのは得意よ」

つづく


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花嫁の秘密 334 [花嫁の秘密]

二日経って、ブラックが名簿を手に戻って来た。カウントダウンイベントはもう明日に迫っている。

名簿にすぐにでも目を通したかったが、エリックが派遣していた調査員も例の箱を持って一緒に戻って来たので、ひとまず後回しにすることにした。

サミーは図書室の一角でプレゼント箱を見下ろしながら、アンジェラがこれを目にした時のことを思い胸を痛めた。

中身はクリスが知らせた通りの物が入っていたが、調べた後なのでただそこにナイフとハンカチがあるだけだ。調査員の報告ではナイフもハンカチも新しいものではなく、村で調達されたものではないとの事。

アンジェラの名前が刺繍されたハンカチには血が付着しているが、これが人のものなのか動物のものなのかは、現時点ではわかっていない。刺繍はアンジェラがしたものではないのは、ひと目見て分かった。もしかするとこれを見て、誰が針を刺したのかわかる者がいるかもしれない。

「誰が置いたか突き止めることはできたのか?」エリックが隣に立つ調査員に訊いた。

彼はスミスという名前らしいが、おそらく偽名だ。なんとなくぼんやりとした容姿で、あまり人の記憶に残らないタイプの男だ。それを思うとブラックは調査員には向いていそうにもないなと、サミーは秘かに思った。

「いいえ。けど、村の酒場に見慣れない男がいたのを確認しています。侯爵の下僕が引き続き調べを進めていますが、どこまで足取りを追えるのかは微妙なところですね」スミスはてきぱきと答えた。

エリックはナイフを手に取り、何か特徴がないかひっくり返してみたりしていたが、どこにでもありそうな安っぽいナイフにしか見えない。

「新しくはないけど古くもないから、それなりに管理されていたものなのかな?引き出しに仕舞われていたままとか」サミーはたまらず口を挟んだ。調べ物は得意ではないが、まったく蚊帳の外に置かれるのはいい気はしない。

「ナイフからわかることはないな。けど、ハンカチの方からは何か調べられそうだ。スミス、これをアンダーソンの所へ持ち込め。詳しく調べてくれるだろう」エリックは箱からハンカチを取って、スミスに渡した。

スミスはエリックに命じられた通り、ハンカチを薄紙で包みすぐに行動に移した。見た目より俊敏なようだ。

「アンダーソンって、仕立屋の?」スミスが行ってしまってから、サミーは尋ねた。アンダーソンは変わり者で有名で、新規の客のほとんどは追い払われてしまう。正直言って、ついている客も変わり者ばかりだ。

「ああ。ハンカチに刺繍糸、どこのものかくらいはわかるだろう。まずはそこから辿る」エリックは箱にナイフを仕舞うと蓋をした。

「君がアンダーソンを贔屓にしているとは知らなかったよ」

エリックはにやりとしただけで答えなかった。あまり深く追求するなと予防線を張っているのだろうか。

「それで?僕たちは何を?」箱の中身に関してはこっちで出来ることはない。となると箱自体の出所を探るのか。

「何も」エリックはのほほんとした口調で短く答えた。

「何も?任せて終わり?」

「ああ、そうだ。お前はお前ですることがあるんだろう?」エリックはサミーに視線を置き、鷹揚に眉を上げた。

気を利かせているのか、足手まといだと除け者にする気なのか。この二日、エリックはどこかへ出掛けていたが、何をしていたのか言う気はないらしい。マーカスのことは任せたのだから口出しは出来ないけど、進捗具合の報告くらいあってもいいだろうに。

でもまあ、時間をくれるというのなら、さっそくブラックが持ち帰った名簿に目を通すことにしよう。

つづく


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花嫁の秘密 333 [花嫁の秘密]

「こんな雨の中どうしたんです?」路地裏のパブのカウンターで一人飲んでいたクレインは、隣に雇い主が座ったのを気配で感じ囁くように言った。

今夜はもう仕事は終わりだと思っていたが、そう甘くはなかったか。

「ひとつ問題が起きた」

やれやれ、この数日問題だらけだ。これ以上何が起こるっていうんだ?

「デレク・ストーンの事でしたら対処中です」クレインは先んじて答えると、カウンターの向こうの給仕にエールのお代わりを頼んで、エリックを横目で確かめた。「髪、どうしたんです?」

「邪魔になったから切っただけだ」外套を羽織ったままのエリックは素っ気なく答え、ジンのソーダ割を注文した。

もう何年も同じ髪型で、いまさら邪魔になったと?どうせサミュエル・リードに何か言われたんだろう。

「寒い時期に切ると風邪を引きますよ」ふいに給仕の手が割って入り、ジョッキを目の前に、最初に頼んでおいた熱々のチーズグラタンを二人の間に置いた。フォークを二本適当に転がし、流れるように次のテーブルへ行ってしまった。常連というほどではないが、連れだということは覚えていたようだ。

「しばらくは風邪も引いていられないほど忙しい」エリックはカウンターの向こうからグラスを受け取ると、ひと口飲んで溜息を吐いた。横顔はいつも以上に険しい。

「それで、何があったんです?」尋ねながらチーズグラタンを口に運ぶ。火傷しそうだが熱々を食べなきゃ意味がない。

「俺が留守にしていた間にサミーの昔馴染みが顔を見せた。マーカス・ウェスト、前に調べてもらったことがあるだろう」

マーカス・ウェスト?ああ、あの男か。レスター卿の五番目の息子で、いまは何をしているんだったか……。確か少し前まではオールドブリッジにいたはずだが、そいつがなぜいまさらリードの前に?

「何か要求を?」まさか金ということはないだろうし、目的はかつての教え子本人か。

「いや、何もわからない。サミーは会っていないし、あの男は伝言すら残していない。おそらくサミー以外には話したくない内容だろうな」エリックはグラスを半分ほど一気に空けると、手元から離れた場所へ押しやった。かなり苛立っているようだ。

「軽く一〇年は会っていないのに、いったい何の用で彼の前に?まさか例の賭けと関係があるとか?」デレク・ストーンの少々行き過ぎたお遊びを、見えない場所から操っているのがウェストだったりするのだろうか。

「それは俺も考えたが、デレクたちとウェストとの間に繋がりがあるとは思えない。どちらかといえば、ジュリエットとの結婚の噂を聞いて訪ねてきたという方がしっくりくる」

目当てはあくまでリードってことか。「それで俺に何を調べて欲しいんです?」

「いや、今回は自分で調べる。レスター卿はまだ生きていたよな」

わざわざ確認するということは、直接乗り込む気かもしれない。あまりいい考えとは思えないが、口を出すほどでもないのでやめておいた。問題が山積の状態で、余計なことは口にするものではない。

「まあ、高齢ですがしばらくは大丈夫でしょうね。お気に入りとは言えない息子の帰宅を喜んでいるのかどうかはわかりませんが」

なかなか面白い案件だと思ったが、手出しは無用って訳か。残念だ。

つづく


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花嫁の秘密 332 [花嫁の秘密]

サミーに全面的に頼られるのも悪くない。悪くないどころか、とても気分がいい。ついさっきまでひどく腹を立てていたと思ったのに、子供でも飲める程度の酒ですっかりおとなしくなるのだからかわいいものだ。

エリックはグラスをテーブルに戻し、サミーと同じように紅茶を飲むことにした。本当は濃い目のコーヒーと行きたいところだが、これ以上プラットの手を煩わせることもない。あと数時間、夕食まではサミーとゆっくり過ごしたい。さすがにもうこの数時間で問題が起きることはないだろう。

「なあエリック。ブラックを僕にくれないか?」

何の脈絡もなく発せられた言葉に、エリックは固まった。いま何を考えていたのかさえ忘れてしまうほど、強烈なひと言だ。

「なんだって?」とりあえず、訊き返した。

サミーは横目でじろりと睨み、どうしようもないなとばかりに溜息を吐いた。「酔ったのか?」

酔ったのか?まさかサミーにそんなことを言われる羽目になるとは。

「酔ってはいない。お前の言葉の意味が分からなかっただけだ」

「意味が分からない?僕はそんなに難しいことを言ったつもりはないけど」サミーは気だるげにソファの背に寄りかかり、手元のクッションを胸に抱いた。

「どういうつもりかは知らないが、あいつじゃお前を満足させられないぞ」ブラックとサミー?笑わせるな。

「そうかな」サミーはゆっくりと首を傾げた。

そうかな?「俺をからかって遊んでいるんだったら、いますぐやめておいた方がいいぞ」エリックはうなり声を漏らした。

サミーは凍えそうなほど冷ややかな視線をエリックに向けた。「君が何を勘違いしているのか考えたくもないけど、ブラックが頼んだ仕事をきちんとやり遂げたら、引き続き雇いたいと思っただけだ」

「お前が頼んだことなんかしれてるだろう?ブラックがやり損うわけない」サミーの依頼が何であれ、ブラックが出来もしないことを引き受けるはずがない。

「反対なのか?貴重な人材を僕にやるのは惜しい?」それまで強気だったサミーの口調が、途端に自信なさそうなものに変わった。断られるとは全く思っていないのだろう。なんて男だ。

「そうは言っていない」ブラックなら安心してサミーを任せられる。問題はない。だが、まさかサミーの方からブラックをそばに置きたいと言い出すとは予想外だ。

「けど、ブラックが引き受けてくれるとは限らない。だから君が説得してくれると助かるんだけど」

「説得なんかしなくてもブラックは引き受けるだろうよ」なぜそう思うのか考えたら嫉妬のような醜い感情が胸の内に湧きあがり収拾がつかなくなるので、深く考えたくはない。

ブラックにはサミーの近侍という名の監視を任せたが、役目を十分に果たしていたかといえば疑問が残る。俺はサミーに危険が及ばないように見張らせていたのに、ジュリエットに手紙を出すのを手伝い、あげくカウントダウンイベントに行かなきゃならなくなった。

つまりブラックは俺よりもサミーに従ったということだ。もちろんあいつなりに危険はないと判断したからだと思いたいが、今回サミーの仕事を金で引き受けたのも、もしかするとこれから先を見据えてのことかもしれない。

何にせよ、サミーには従者が必要だ。それはブラックを置いて他にはいないだろう。

つづく


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花嫁の秘密 331 [花嫁の秘密]

お腹が膨れた頃には、サミーは少々酔いが回っていた。それでもいつもよりは幾分かマシで、まっすぐに座っておくのが面倒な程度だった。

プラットに熱い紅茶を持ってくるように頼むと、窓際のテーブルから離れいつものように暖炉の前を陣取った。

エリックはキャビネットから別の酒とグラスを取ってソファテーブルに置くと、サミーから離れて座った。顔つきを見るに、これからどう動こうか考えているようだ。それよりも気になるのが、バッサリと切ってしまった蜜色の髪。ベッドの中で毛先が身体に触れる感触が好きだったが、もうあれは味わえないのか。

「それで、俺にどうして欲しい?」エリックが言った。

エリックにして欲しいことといえば、マーカスがいまどこで何をしているのか――いや、そんなことよりも彼をここに来させないで欲しい。魂胆が何であれ会いたくない。

僕はマーカスの父と僕の父が知り合いだということも知らなかった。当時は知ろうとも思わなかったし、知ったところで何の意味も持たなかっただろう。けど少なくとも、マーカスの経歴くらい知っておくべきなのだろう。

「なぜ僕に会いに来たのか調べることはできるのか?」アルコールのおかげか、怒りの感情はすっかり息を潜めてしまった。エリックが快く協力してくれると言うのなら拒むこともない。

「お前がそうして欲しいなら、もちろんできると答えるが」エリックは手にすっぽりと収まるカットグラスに口を付け、造作もないといった様子で答える。中身は透明だが、水ではないことは確かだ。

「僕が知っていなくても、君が全部把握してくれるならそれでいい。任せてもいいか?」結局信頼できるのはエリックしかいないし、動いてくれるのもエリックしかいない。こういう時、従者の一人でもそばに置いておけばよかったと思う。

「ああ。とにかくまた来ることがあるなら対処しなきゃならんだろう?」エリックはいともあっさりと引き受けた。最初からそうするつもりだったとしても、もう少しもったいつけるかと思った。

「プラットにもうまく対処するように言っておかないといけないな」ダグラスがここにいればと思っても仕方がないが、あいつはマーカスを知っている。扱い方も心得ているだろう。どちらにせよ彼は年明けにはクリスとアンジェラと一緒にラムズデンに行ってしまうから、この考えは無意味だ。

「ウェストとプラットは歳が同じくらいか……」エリックが呟くように言う。

「そうだね。僕の一〇歳年上、実際は九歳だけどね」つまり、マーカスは三十九歳か。エリックが何も言わないから、結婚はしていないのだろう。

エリックがニヤリとする。「そういや、お前の方が俺より年上だったな」

そうは見えないと言いたいのだろう。やけに僕の事を子供扱いするし、実際そう思っている。自分でもそう思うのだから、別に気にはしないけど。

つづく


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花嫁の秘密 330 [花嫁の秘密]

胸に何かつかえたような苦しさを感じるのはなぜだろうか。

食欲は一気に失せ酒でも飲みたい気分だったが、この話題はあまりに繊細過ぎて素面でなければまともな話し合いが出来そうにもない。
サミーが質問に淡々と答えてくれているのを救いと思うか、一瞬にして他人行儀になったのを嘆くべきか。

エリックは唾を飲み下し、サミーの次の攻撃に備えた。サミーは俺が勝手にウェストを調べたことを怒っている。おかげでウェストの魂胆を推測できるってのに、ただ責めるだけでそこを考慮することはないのか?

「オールドブリッジで何を?まだ家庭教師をしているわけじゃないよね?」サミーはむっつりとした表情で尋ね、突然席を立った。どこへ行くのか見ていたら、キャビネットからブランデーボトル取って戻って来た。

「あいつがお前の家庭教師をしていたのは、父親同士が知り合いだったからだ」サミーの驚いた顔を見てエリックは口を閉じた。まさかそれすら知らなかったとか言わないよな。「大学を出てぷらぷらしていた息子をお前に押し付けたってわけさ。で、その後は金持ちの屋敷に入り込んでコンサルタントのようなことをしている」

サミーは黙ってブランデーを紅茶に注いで、ボトルをエリックに差し出した。「君も飲むだろう」

「お前は飲めないだろう?」毎回毎回決まってぐだぐだになるくせに、なぜ飲もうとする?「飲む気ならせめて何か食べろ。プラットに言って何か持って来させるか?」

「ここにあるもので十分。君もその食べかけの皿を空けたらどうだ」サミーはティートレイに乗っている焼き菓子を指先でつまんだ。

誰のせいで!と、ひと言言ってもよかったが、これで険悪な雰囲気が少しでも和らぐなら黙って言うことを聞いておくのも悪くない。先ほど押しやった皿を戻して、水を飲んだグラスにブランデーを注ぐ。サミーは結局甘いものにしか手を付けないようだが、食べないよりましだと思うほかない。

「コンサルタントって、まさか詐欺みたいなことをしているとか?」サミーはブランデー入りの紅茶をぐいとあおり、話を再開した。

「おい、無茶するな」と言ったところで聞かないのがサミーだ。「詐欺とまでは言えないな。口がうまいだけの男ではないようだし、それなりに結果も出している」

「だったら金に困ることもないんじゃないのか」

「そんなの知るか。俺が何でも知っていると思うな」サミーは疑わしげな目で見てくるが、俺が万能ではないことは自分自身よくわかっている。

本来ならウェストの所在くらい知っておくべきで、把握していない間にすでに過去となった男がサミーに近づくのを許したのは明らかに失態だ。クレインにすぐに調べさせてもいいが、このくらいなら自分で動いた方が早い。こっちに戻ったということは、父親の所にでもいるのだろう。

レスター卿は息子を快く迎い入れたのだろうか?いや、そうは思えない。が、最近何かが変化したことだけは確かだ。まさか死んだわけじゃないだろうな?だとしても爵位を継げるわけでもない。

何があったにしろ、おかげでゆっくり休むのはもう少し先になりそうだ。

つづく


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花嫁の秘密 329 [花嫁の秘密]

いま僕はどんな顔をしているのだろう。

顔から血の気が失せているのを感じていたが、下手な動きを見せればエリックに追及されてしまう。もちろん黙っているのは無理だと最初から分かっていた。けど、もう少し待てなかったのか?僕が喋りたくなるタイミングまで。

エリックはなぜ何でも知りたがるのだろうか。どうせもう知っているくせに、なぜ僕にわざわざ尋ねる?

サミーはゆっくりと息を吐き出した。弱さは見せたくない。

「ここへ来た理由はわからない。会っていないからな」それ以上言うべき言葉はない。

「対応したのはプラットか?」エリックは何も聞き逃すものかといった鋭い目つきで睨んでくる。かろうじて、なぜ会わなかったと訊かないだけの良識はあったか。

「プラット以外に対応できる者はいないよ」主人が不在のこの屋敷には、最低限の使用人しか置いていない。僕もエリックも従者を必要としないので余計に少ない。

「ウェストはプラットに何か言伝なかったのか?」エリックは早口に尋ね、食べかけの皿を脇へ押しやった。

「何も。不在だと言ったら黙って引き下がった。こういう場合、ジュリエットのように金の無心に来たと思うのが普通だと思うけど、となるとまた来るかもしれないね」何もわからない状況で考えられるのは、そのくらいしかない。

「金がらみはいい線だな。けどどこでお前がここにいると知ったんだ」

この疑り深い目つき。エリックはもしかして僕と彼が通じていると思っているのか?

「さあね。でも屋敷は開いているわけだし、クリスか僕がいると思ってもおかしくはないんじゃないのか」

「クリスがいたらあいつはここへ来ていない」エリックは怒気を含ませ断言した。

「マーカスのことをよく知っているような口ぶりだな」訊くまでもないが、訊かずにはいられない。「調べたのか?」声が怒りに震えた。

エリックが調べたのはマーカスか、僕か。答えは明白。デレクとのことは調べてもわからなかったと言っていたくらいだから、僕の周辺を徹底的に調べたのだろう。

「お前の家庭教師だった。そしてやめた後、色々な屋敷を渡り歩いている」エリックは淡々と言って、水差しを手に取りグラスを満たした。ひと息に飲み干し、深く息を吐く。「少し前まではオールドブリッジにいたはずだ」

過去も現在も知っているわけか。マーカスのことを知りたかったら、エリックに訊くのが手っ取り早いようだ。少し前までの僕なら、もっと詳しく話せとエリックをせっついていただろう。当時はどんな気持ちだったのか、いったい何があって僕を置き去りにしたのか、知りたいことは山ほどある。

でもこれまでマーカスを探し出してまで会いたいと思ったことはないし、実際彼がフェルリッジを去ってからは一度見かけたことがあるだけだ。

だが状況が変わったいま、彼の素性を詳しく知っておくべきだろう。

つづく


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花嫁の秘密 328 [花嫁の秘密]

エリックはいつも通り上品な仕草でティーカップに口をつけるサミーを正面に見据え、ベーコンのキッシュにかぶりついた。

腹が減っている上、腹も立っている。サミーのように上品ぶってられるか。

プラットはものの一〇分ほどで、居間のティーテーブルに望みのものを用意してくれた。サミーは昼食を取っていない。おそらくいつ声を掛けられてもいいように準備していたのだろう。

サミーは窓の外を見るばかりで、紅茶は飲んでも食事には手をつけようとはしない。雨粒を見ながら何を思っているのか。

サミーはマーカス・ウェストのことを言わないつもりだろうか?

デレクとの確執よりも言いたくない過去があるのは知っている。もちろんすべてではないが、ウェストがどういう人間かはわかっている。父親に虐待されていたサミーにとって、ウェストは唯一の救いだったに違いない。

ウェストはなぜサミーに会いに?まったくの予想外で、これは俺の失態だ。

ウェストはサミーにとって過去でしかなく、いまサミーがいる世界には存在しないも同然だった。でも違った。これが事実で現実だ。

「髪はどこで切ったんだ?切った髪は捨てたのか?」サミーはティーカップを置いて、ようやく食事に手を伸ばした。ココットの中の栗にフォークを突き刺す。

「欲しかったのか?」思いもしなかった問い掛けに、エリックは目を見開き笑いをかみ殺した。「うちの管理人に切ってもらったんだ。ほんとタナーは貴重な男だよ」サミーがもしも髪を切りたくなったら、タナーをここに呼ぶか。

「管理人にそんなことまで要求するのか?」サミーは顔をしかめ、今度はきのこを口に運ぶ。栗ときのこの煮込みは気に入ったらしい。

「タナーは手先が器用なんだ。元ホテルマンで大抵の要求には応えてくれる」面倒だから嫌がるだろうが、クラブの支配人に据えてもいいかもしれない。若い従業員をうまく動かしてくれるだろう。

「君の要求に応えるのはさぞかし大変だろうね」

「そうでもない。俺がいない間好きにやってるからな」いつまでもタナーの話をしている場合ではないのに、サミーは一向にあいつの話をしようとしない。おそらく言わないつもりだろうから、諦めてこっちから切り出すか。「それで、ウェストは何しにここへ来た?なぜ会わなかったんだ」

サミーの顔からすべての感情が消えた。一瞬にして二人の間に壁を作り上げ、これまで築き上げた関係を壊した。ここまであからさまな反応をするとは予想以上だ。せいぜいいつものような刺々しさを見せるだけだと思っていた。

まずい質問をしたのはわかっているが、サミーに答えないという選択肢はない。

けど、こうなってしまったサミーの口をどうやって開かせる?

つづく


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