はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
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花嫁の秘密 327 [花嫁の秘密]

サミーは途方に暮れていた。
朝起きて、エリックと朝食を食べたところまでは平穏そのものだった。けれどもいま同じ場所に座って見えるのは、数時間前にプラットが用意した手つかずのままのティーセット。干からびて反り返ったサンドイッチ、熱々だった紅茶はすっかり冷めて飲めたものではないだろう。

マーカスはいったい何しにここへ?金の無心?それともあの時突然姿を消した理由をいまさら話してくれるとか?父に追い出されたからだとずっと思っていたけど、そうではなかった可能性もあることに最近気づいた。なぜならマーカスはエリックとまったく違うからだ。

せめていまどんな姿をしているのか見ておくべきだった。そうすれば彼の魂胆も容易に想像できただろう。それなのに、たかが名刺に書かれた名前を見ただけで、無力な子供のように怯えて馬鹿みたいだ。

けど彼はなぜ肩書も書かれていない名刺を?いまは何をしているのだろうか。

「まさか俺が出掛けてからずっとそこに座ったままじゃないだろうな?」背後でエリックの嫌味な声が聞こえ、サミーはようやくマーカスの事を考えるのをやめた。

「着替えているのが見えないのか」着替えただけで、ここに座ったままなのは否定できないけど。

「たいして変わっていないが」そばにやって来たエリックが身をかがめて左頬にキスをする。まるで当然その権利があるというように。

「今日は出掛ける予定もないし、別にいいだろう?」そこで初めてサミーはエリックを見た。「エリック、その髪どうしたんだ」いつも束ねているトレードマークのしっぽがない。

「なんだ?お前が切れと言ったんだろう」エリックは短くなった襟足を右手で掻き上げた。「まあ、お前と同じで後ろは少し長めに残してもらったけどな」

「切れとは言っていない。ただ、なぜ伸ばしているのか気になって訊いただけだ」サミーは改めてまじまじとエリックを見た。なにも切ることはないのに。伸ばしている理由が何であれ、エリックには意味のあるものだったに違いない。

「切らないのかと訊いただろう?ったく、自分が言ったことも忘れたのか」エリックはテーブルの上のティーセットを見おろし、顔を顰めた。「俺は昼食を食べ損ねて腹が減っている。プラットに言って、何か用意させてくれ」

「下にいなかったか?」サミーはそう言って、炉棚の上の置時計に目をやった。出掛けるとは言っていなかったし、この時間なら執務室かな。

「出迎えたのはカインだ」エリックはソファの肘掛けに腰を引っかけ、上着のボタンを外した。

「カイン……ああ、彼か」そういえばカインもマーカスを見ている。何か言葉を交わしただろうか?

「クリスが雇うにしては珍しいタイプだが、見た目よりも経歴で選んだんだろうな」

エリックの言葉に、サミーはカインの姿をはっきりと思い浮かべてみた。彼は表に出るわけだし、上級使用人を容姿で選ぶのは珍しくはない。「確かに、ちょっと彼は目立ち過ぎるな。でもまあ、護身術の心得があるからアンジェラにそういうのを教えてくれると、クリスの心配も減っていいんじゃないかな」

「心配しているのはお前だろう?髪を切ってよかったよ」エリックは苛々と言い、サミーを急き立てるようにしてソファから立たせると荒っぽく口づけた。

またアンジェラに嫉妬をしているのだとしたら、本当に馬鹿馬鹿しいし見当違いもいいところだ。けど、僕もちょうどエリックを味わいたかったところだ。

一人で過ごす時間をこんなに心細く思う日が来るとは予想外だった。

つづく


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