はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

ヒナおじいちゃんに会いに行く ブログトップ
前の10件 | -

ヒナおじいちゃんに会いに行く 1 [ヒナおじいちゃんに会いに行く]

クラブの休業が決まった。営業再開まで三ヶ月ほどを要する。

しばらく既存の会員は他のクラブに通うことになるが、客離れに関しては問題にはしていない。今回の件で、会員のふるい落としも兼ねているからだ。ついでにツケの回収も行うつもりだ。

従業員に関しては長期休暇、というわけにもいかない。ある程度まとまった休みを取らせるつもりではいたが、残念ながら休業中にもやることはたくさんある。

もちろん、これを指揮するのはジェームズとパーシヴァルだ。

二人は毎日そのほとんどを一緒に過ごし、クラブのために尽くしてくれている。当然だ。クラブはいまや、二人のものなのだから。

同時にバーンズ邸も慌ただしかった。

ヒナがウェストクロウから戻って二週間が経った頃、ルーク・バターフィールドが訪ねてきたからだ。彼はラドフォード伯爵に雇われていながら、こちら側に寝返った、なかなか優秀な事務弁護士だ。まだクビになっていないところを見ると、所長のクロフツには裏切りがばれていないのだろう。

「それで、用件は?」遅れて応接室にやって来たジャスティンは、ヒナの隣に座るなり訊ねた。

ルークはしきりにメガネをいじった。緊張したときの癖だ。ちなみにリラックスしているときは、メガネの存在そのものを忘れる。

「いえ、用と言うほどのものでは……先日、伯爵邸に行ってきましたので、そのお話をしようかと」

「フィフドさん、おじいちゃんのとこに行ったの?」ヒナはテーブルに手を着いて身を乗り出した。カップがソーサーの上でカチャカチャ鳴った。

ジャスティンはさりげなく、ヒナの周りから危険なものを取り除いた。冷めているとはいえ、カップをひっくり返しでもしたらことだ。

「そうなんです、ヒナさん。おじいさまにもお会いしてきました」ルークはとっておきの情報を漏らすとき特有の満足げな顔で告げた。

「会ったの?ヒナに似てた?」

「そうですね……どことなく、そんな感じはしましたけど……実はあまり顔は見ていないんです。なんだか見てはいけない気がして、というより恐ろしくて直視できなかったというか」

「もういい」ジャスティンはルークのグダグダ話を遮った。よくこれで弁護士が務まるものだ。「それで、どんな話をした?」

ルークは咳払いをひとつした。「伯爵は報告書だけでは不満だったみたいで、クロフツさんと僕が直接報告に伺いました。もちろん、クロフツさんは何も事情は知らないので、主に僕がお話をしたんですけど」

「余計なことは喋っていないだろうな?」どうも嫌な予感がする。

「もちろんです!報告書以上のことは喋らないように気を付けていました」

いました?

ジャスティンの表情に気付いたルークが慌てて言葉を補う。「は、伯爵がヒナさんのことを知りたがったんです!」あまりの慌てっぷりに声が裏返った。

「おじいちゃんが?」ヒナもつられて裏返る。

「そうなんです。もう、びっくりでしょ?」

前々から思っていたが、ルークはヒナに対して馴れ馴れし過ぎる。向こうでいくら仲良くなったとはいえ、ここではただの弁護士とバーンズ家のお坊ちゃまだぞ。身の程をわきまえるべきだ。

「どんなことを知りたがった?」ジャスティンは太股を指先で打ち鳴らしながら苛々と訊ねた。どうにもルークは信用ならない。

「まず、ヒナさんに会った印象を訊かれました。それから、言葉遣いだったり生活態度だったり、あとは屋敷の人たちとどう接していたか、ですかね」ルークはヒナを見ながら答えた。

「それは報告書で間に合うんじゃないのか?」ジャスティンは指摘した。

「あくまで僕個人の印象が知りたかったようです。報告書に載るのは調査員目線ですから」ルークは紅茶を飲んで、ケーキの皿を膝に乗せた。

「それで?おまえの印象を伝えた伯爵の反応は?」ジャスティンは無意識にヒナを抱き寄せていた。

「特にありません。ずっと無表情でしたし、言葉を返すこともなかったです」

ルークの無神経な物言いに、ヒナはジャスティンの腕の中で身を硬くした。これではまるでヒナに興味がないように聞こえる。

「変なこと言ったんじゃないだろうな?」ジャスティンはヒナの肩をぎゅっとした。ヒナは悪くない。

「まさか!ヒナさんの不利になるようなことは、何ひとつ口にしていません。あからさまに褒めるものおかしいし、かといってけなすのもアレだし……僕なりに精一杯考えて喋りました」

だからこそ不安なんだ。

「よし、最初から最後まで一言一句漏らさず教えろ」

ヒナもそれを望んでいるのは顔を見ればわかる。聞く覚悟はちゃんと出来ている。

つづく


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あとがき
こんばんは、やぴです。
タイトルがちょっと長くなってしまいました…。
無事、会いに行けるといいね。
心配なのはロス兄弟の恋の行く末かなぁ。 

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ヒナおじいちゃんに会いに行く 2 [ヒナおじいちゃんに会いに行く]

ルークが伯爵に話した内容は、さほど気にするものでもなかった。

ヒナは本が読むのが好きで、ネコが好きで、両親が大好きだってことを伯爵に教えてやったそうだ。

ヒナは自分の好きなこと、もの、ひと、を祖父に教えてくれたルークに感謝しているようだったが、ジャスティンの考えは違った。

結局のところ、伯爵がどう思うかまではわからない。ルークの印象ではそう悪いふうには受け止めていないように見えたらしいが、なにせルークの言うことだ。信用ならない。

だがジャスティンが質問をされていたとしても、やはりルークと同じように答えていただろう。甘いものが好きで、野菜は苦手、リボンが好きで、最近親友が出来た。口も達者になったし、文字も書ける。悪いところなどひとつもない。

けれどもヒナはヒナなりに思うところがあるようで、ルークが帰った後、部屋に引きこもってしまった。一人になったジャスティンは、ジェームズに促されるまま書斎で仕事をさせられていた。

「どう思う、ジェームズ」この問い掛けは、ルークが語ったことについてのものだ。

「さあ、伯爵の考えることはさっぱりわからないな。彼はヒナには興味がないと思っていたし、話を聞いた後でも、やはり興味が湧いたようには思えない」ジェームズの意見は辛辣だが的確だ。

「俺もそう思う。伯爵は何か企んでいると思うか?」

「当面は会わないと決めた孫に、これ以上何をするって言うんだ?僕には娘との共通点を見つけようとしたように思えるが、それだと伯爵らしくないように思う」ジェームズは壁紙のカタログから、ようやく顔を上げた。

「そうだな……そもそも伯爵が娘に愛情を持っていたとは思えない。が、あの手のタイプは感情を表には出さない。実際何を考えているのかなんてわかりっこない。本心ではヒナにすぐにでも会いたいと思っていてもおかしくはないだろう?」

ありそうにもないが、ヒナの為にそうであって欲しいというのが、ジャスティンの願いだ。

「なくもないが――」ジェームズは首を振った。「ないね」

ジャスティンは頬杖をつき、もどかしげに溜息を吐いた。「ジェームズ、ヒナの前では絶対にそういうことを口にするなよ」

「するわけないだろう?脅し文句は君のことだけに限定しているからね」ジェームズがニヤリとする。

「俺を使ってヒナに脅しを掛けるのもなしだ」

「でも、そうしないとヒナはすぐに暴走するぞ。今だって、もしかするとおじいちゃんに会いに行くとか言って、屋敷を抜け出しているかも知れないぞ。向こうにいるとき、一度やっているんだろう?」ジェームズはまるで他人事のように言い、壁紙の候補をいくつか書き留めた。

「ああ、雨の中ぬかるんだ道を――おい、すごく嫌な予感がするんだが」ジャスティンは開いたままのドアを不安そうに見やった。

「だったら様子を見に行った方がいいんじゃないのか?書類にサインするよりも」ジェームズは廊下に向けて顎をしゃくった。

「おまえがサインしろと言ったんだろう?だいたい、この書類の束は何だ?何のために仕事を辞めたと思っているんだ。とにかく、続きはまたあとで。俺はヒナを見てくる」

ぐずぐずしていたら手遅れになる。そうならないように気を配ってはいても、完璧にヒナを守れるとは限らない。

「パーシヴァルがいたら、僕のところに来るように言ってくれるか?」急ぐジャスティンに、ジェームズがのんびりと言う。

「知るかっ!」ジャスティンは廊下から叫んだ。

つづく


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ヒナおじいちゃんに会いに行く 3 [ヒナおじいちゃんに会いに行く]

ルークが帰った後、ヒナを心配したダンが部屋に行くと、帽子をかぶったヒナがブーツの紐を不器用に結んでいた。ちょうどよかったとばかりにダンを見る。

どこへ行くのか、あえて聞く気にもなれなかった。

「ねぇヒナ。出掛けるのはお昼を食べてからにしません?時間が中途半端過ぎますよ」ダンはそう言いながらも、ヒナの前に立って不格好に乗っかる帽子を直した。

「いま行く」ヒナが頑固に言う。

「今はちょうどカイルも忙しい時間です。もう少し後にした方がゆっくり出来ますよ」きっとヒナは何を言っても引き下がらない。それなら僕は……従者としての役目を果たすべきだ。

ダンは跪き、ヒナの足を取った。しゅるりと紐を解き、結び直す。

「ダンがブルゥとゆっくりしたいんでしょ」

な、なんてことを言うんだ!

「僕はヒナの為に言っているんですよ」そりゃ、ブルーノに会えるのは嬉しいけど、それは二の次。これでも僕は、ヒナの為になることを一番に考えている。

そこはヒナもちゃんとわかっている。「ダン、ありがと」

「別に、いいんですよ……」ああ、もうッ!「さあ、急がないと。僕たちには時間がないんですから」

ヒナはムフフと笑った。

僕はヒナの策に引っ掛かったのだろうか?でもまあ、いい。ヒナはカイルにルークが来たことを話したがっているし、僕はブルーノに会いたい。だって、もう二日も会っていないんだから。

二人は裏口から通りに出て、小走りに帽子屋を目指した。昼食までには何としても屋敷に戻るためだ。念のために書置きは残しておいたし、何人かの使用人は二人が出掛けるところを目撃している。

何度かヒナは帽子屋には行っている。でもいつも旦那様かクロフト卿が一緒で、従者と二人きりだったことはない。

ああ……これが旦那様に知れたら僕はどうなっちゃうんだろう?

ダンはヒナの手をしっかりと握って、通りを駆け抜けた。いくらこの辺りの治安がいいとはいえ、完全に安全というわけじゃない。いざとなればヒナを守れるように、ダンはポケットにナイフを忍ばせていたが、出来ればこれを使う事態にならないことを願うばかりだ。

帽子屋が目の前に見えると、二人は歩調を緩めた。馬車の行き交う通りを用心して渡ると、住居側のドアをノックした。

「ヒナ、話が終わったらすぐに帰りますからね」ダンは息を切らせながら念を押した。

「はぁい」ヒナはほとんど息を乱していなかった。さすが、いつもちょろちょろしているだけある。

すぐにドアは開き、ブルーノが顔を覗かせた。執事姿のブルーノはいつもに増して素敵だけど、キッチンに立っているときの方がもっと好きかな。

「お前たち、何してる?」

驚いて当然。

「こんにちは、ブルーノ。カイルはいますか?」ダンは訪問者らしく答えた。

つづく


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ヒナおじいちゃんに会いに行く 4 [ヒナおじいちゃんに会いに行く]

ドアを開けたら、ダンがいた。ぴたりと寄り添うにして、ヒナもいる。

これは何かのご褒美か?それとも、ちょっとした嫌がらせか?

ブルーノはひとまずの疑問をぶつけた。

「お前たち、何してる?」

「こんにちは、ブルーノ。カイルはいますか?」ダンはのんびりと返し、ヒナもそれに続く。

「話があるの」

「話?急用か?」ダンがクビになったから、ここで雇ってくれとか?だとしたら大歓迎だ。

「ええ、急用といえば急用です。とにかく中へ入れてもらえませんか?ヒナをいつまでも通りに立たせてはおけませんから」

ブルーノは脇へ避けて、二人を中へ招き入れた。もうすぐ昼休みの時間だ。ぐずぐずしていると、スペンサーとクラウドが店から戻ってきてしまう。

「それで、話というのは?」ブルーノはドアを閉め、二人を小さな居間に案内しながら訊ねた。

「フィフドさんが来たから、カイルに教えてあげようと思って」

フィフド?

「ああ、あの弁護士か。何しに来たんだ?」

「伯爵にお会いになったそうですよ。そのことをヒナはカイルに喋りたくて、走ってここまで来たんですよ。お昼までに戻らないといけませんから」

「あまり時間がないな」せっかく二人きりになれるチャンスがあるのに、ヒナとカイルに邪魔をされたくはない。「ヒナ、階段をあがって右の奥がカイルの部屋だ。ひとりで行けるか?わざわざ呼び行くより早いだろう?」

「うん!行ける」ヒナは言うが早いか、くるりと向きを変えて階段をのぼっていった。ウサギみたいにぴょんぴょん跳ねながら。

「おれには、ダンが詳しく話して聞かせてくれるんだろう?」ブルーノは帽子を持つダンの手首を取って、階段の陰に引き込んだ。ここなら誰にも邪魔されない。「ついでにキスもしてくれると、嬉しいんだが」

「な、なに言っているんですか!こんなところで、誰が通るとも知れないのに」

「階段から奥は誰も来ない。いや、誰もってことはないが、少なくとも住人たちはちらりとも覗いたりしないさ。もっとも、ここの住人のほとんどは仕事で出ている」

つまり、邪魔は入らない。絶対ではないが……。

ブルーノはダンの頬を両手で挟み顔を近付けた。もしかすると逃げるかもしれなと思ったが、ダンは頬を朱色に染めそっと目を伏せ、閉じた。

唇が重なるとダンの呼吸が荒くなった。求めていてくれていたのだと思うと、いっそう愛おしくなる。いつでも会える距離にいながら、いつでも会えるというわけではない。ウォーターズがわざとそうしているのではないかと、ブルーノは疑っていた。

ダンは両腕をだらりと下げて、身体のすべてを預けてきた。

ブルーノはダンの腰を支えるように強く抱くと、閉じられたままの唇を舐めて解し、中に入って思う存分味わった。甘酸っぱいレモン風味。これはレモネードか?喉が渇いているときには最高だ。

「ブルーノ、時間が――」

「わかってる。もう少しだけ」

どうしても余分に求めてしまう。ダンは腕の中にいて、その心も自分のものだっていうのに、まだ不安なのだ。スペンサーは諦めていない。それどころか、なぜかダンを手に入れられると信じている。

ダンはおれのものだと宣言するか?これまで何度かほのめかしはしたが、決定的な言葉は口にしていない。何より、ダンがそうして欲しくないと思っているからだ。ダンはスペンサーが自分のことを狙っているなどとは考えていない。なんて愚かなんだ!警戒心がなさ過ぎる。

ブルーノはうなりながら、欲望のままにダンを貪った。本当はこのまま押し倒して、裸にして、すべてを手に入れたかった。

「ブルーノ……苦し、ぃ」

その声にハッとして、ブルーノはようやく我に返った。唇を離し、ダンを見下ろす。

「すまない」

ダンの瞳は涙がこぼれ落ちそうなほど潤み、唇は赤く腫れ髪はくしゃくしゃになっていた。今、ダンが鏡を見たら、二度とキスを許してくれないかもしれない。

とにかく、時間がない。急いでどうにかしよう。

つづく


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ヒナおじいちゃんに会いに行く 5 [ヒナおじいちゃんに会いに行く]

家族用の小さな居間に通されたダンは、暖炉の上の鏡に映る自分に思わず息を呑んだ。

な、なんてひどい!こんな姿でどうしろって言うの?

「すまない」ブルーノが背後でまた謝った。

さっきのは僕を窒息させようとしたことへの謝罪、で、今度は僕を見るも無残な姿にしたことへの謝罪。

でも、原因は僕にもある。求め合うのが罪だとは、誰も言えない。

「ヒナが話し終えるまでに何とかしないと」身支度は得意だけれど、それは平常心でいる時の事。今はとても興奮しているし、この姿に動揺もしている。

「すぐ直してやるから大丈夫だ」ブルーノは身体を密着させるようにして背中に張り付くと、鏡の中のダンを見ながら両手で髪を梳いた。「ほら、もう直った。だから機嫌を直してくれ」

「別に機嫌は悪くありませんよ。ちょっと驚いただけです……」子供っぽい反応しかできない自分が恥ずかしい。しかも、鏡の中のブルーノはドアを開けた時と何も変わっていないのだから、なおさら。

「そこに座ってろ。水を持ってきてやる。少し、冷やした方がいい」ブルーノはそう言って、足早に居間を出て行った。

ダンはぐるりと部屋を見回した。カスタードクリームみたいな色の壁紙がとても女性的で意外な気がした。ここには男の人しかいないはずなのに。

窓から離れた椅子のひとつに座ると、赤くなった唇を撫でた。まだキスの名残でじんじんしている。会えて嬉しいし、キスも嬉しい。でも、会うたびにこんなことをしていたら、いつか仕事に影響しそうで怖い。僕はヒナを守る立場にいる。それなのに、キスひとつでふらふらになっていたのでは、守るどころではない。

「おい、ブルーノ!ヒナは来ていないだろう?ウォーターズが店で騒いでいるんだ――が……ダン?ここで何してる」

ぴたりと閉じられていたドアが勢いよく開いて現れたのは、店にいるはずのスペンサー。そこにドアがあったなんて気付きもしなかった。

「あ、あの……」完全に油断していた。言葉が出ない。

「その顔どうした?」

スペンサーの問いかけに、ダンは咄嗟に両手で顔を覆い隠した。一番やってはいけない仕草だ。そして間の悪いことに、ブルーノが戻って来た。それもそうだ。ただ水を取りに行っていただけなのだから。

「何か用か?」ブルーノは威嚇するように言い、ダンに目を向けた。「どうした?何かされたのか?」

何かしたのはブルーノでしょう?とダンは心の中で呟いた。

「お前こそ、ダンに何をした。と言うより、なぜダンがここにいる?まさか!ヒナがいるんじゃないだろうな?」スペンサーはヒナが昼寝をしていそうなソファに視線を向けた。確かに、ヒナが寝るにはちょうどいい大きさだ。

「ヒナは上だ。カイルの部屋にいる」ブルーノがうんざりしたように言う。ダンがいるなら当然だろうと言わんばかりに。

「くそっ!馬鹿か。ウォーターズがすごい剣幕で店に怒鳴り込んできて、ヒナを返せと言っている。ヒナはいないと言ったが聞きゃあしない」

「あ……」しまった。帽子屋に行くと書き置いてきたんだった。「スペンサー、旦那様をこちらに連れてきてもらえますか?僕はヒナを連れてきますので」ダンは言いながら、さりげなく上着の皴を伸ばした。髪はまとまったし、あとは自分でも恥ずかしくなるようなにやけ顔をどうにかするだけ。

「ああ、わかった」スペンサーは不機嫌に言い、ブルーノを睨み付けてから部屋を出て行った。

「階段を上がって右側でしたよね」ダンは虚ろに言い、スペンサーが出て行った反対側のドアを目指す

「俺が行ってくる。ダンはここにいろ」

「いいえ。ヒナがいない状況で旦那様に会いたくないです。僕、クビになります」

絶対。

つづく


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ヒナおじいちゃんに会いに行く 6 [ヒナおじいちゃんに会いに行く]

ヒナを見た瞬間、安堵が全身を駆け抜けた。

それと同時に激しい怒りが胸の内に沸き上がった。もちろん屋敷を出る前から腹を立てていたし、ここへ来てからの対応にも我慢ならなかった。

ジャスティンはヒナに駆け寄った。他の者は目に入らなかった。当然兄弟はいただろうし、ヒナを止められなかったダンもいただろう。だが、瞬間的にその場の何もかもが消え失せた。

「ヒナ!心配したんだぞ!」怒鳴りながらも優しく頬を撫でたが、手は震えていた。屋敷から帽子屋まではほんのわずかな距離だが、危険は充分にあった。

けれどその思いは、ヒナには伝わっていなかった。「おじいちゃんのこと、カイルに教えたくて」

「言い訳はいい。俺は勝手に出掛けたことを怒っているんだ。なぜ、ひと言言わなかった?」

「ジュスは仕事があるって言ってたから」ヒナは唇を尖らせた。

「ヒナよりも優先する仕事などない。それはヒナもわかっているだろう?」

「わかんない。ジュスはいつも仕事ばっかりだから」ヒナはそう言って、ぷいっとそっぽを向いた。

ジャスティンは少なからずショックを受けた。ヒナは仕事を選ぶと思っているのだ。あれだけ毎日、ヒナがどれほど大切かをしつこいほど言って聞かせているにも関わらずだ。

「不満があるときは、ちゃんと言ってくれないとわからないだろう?」ジャスティンは身体の横で拳を握り締めた。そうしないとヒナをきつく抱き搾るか、壁を殴りつけてしまいそうだった。

ジャスティンの問い掛けにヒナは黙ったままだ。さすがにこの状況がかなりまずいと気付いたようだ。

「それで、カイルには話を出来たのか?」ジャスティンは優しく訊ねた。ヒナの後ろでカイルが心配そうな顔をしている。もう、帰った方がよさそうだ。

「まだちょっとしか話してないのに……」ヒナがぼそぼそと言う。

「でも、もう昼だぞ。またあとで来よう。な?」

「そうした方がいい」そう言ったのはスペンサーだ。どうやら、ずっとタイミングを伺っていたようだ。

「僕がヒナのおうちに行こうか?ウォーターさん、行ってもいいですか?」カイルでさえ気を使う始末。

こうなってしまってはジャスティンもヒナも引き下がる他ない。他人の家で揉め事など、紳士のすることではない。

「そうしてもらえるか?ヒナもその方がいいよな」ジャスティンはカイルとヒナに同意を求めたが、反対意見など聞く気はなかった。これ以上の醜態を晒すつもりはない。

ヒナが不承不承頷き、その場は何とか収まった。その時になってようやく、役立たずのダンがカイルの後ろから姿を現した。

つづく


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ヒナおじいちゃんに会いに行く 7 [ヒナおじいちゃんに会いに行く]

ヒナはジャスティンに守られるようにして、バーンズ邸へと帰って行った。

主人の怒りを買ったダンは、当然置いて行かれた。

「クラウドさん、お騒がせして申し訳ございませんでした」

ひとまず、帽子屋を騒がせた謝罪はダンの役目だ。後始末をきっちり出来てこそ、優秀な使用人というもの。とはいえ本心は、出来るだけ早くここから離れたかった。

完璧とは言い難い身なりで、帽子屋の店内に立つのは洒落者を気取るダンにとっては屈辱でしかない。しかも、ブルーノもスペンサーも奥の方で成り行きを見ているだけ。心細いったらない。

「ブルーノの伝達ミスだ。気にすることはない。だが、お坊ちゃまを連れて来るときは必ずここを通るように」スペンサーと同じ顔に極上の笑みをたたえたクラウドの言葉には、非難めいたところはひとつもなかった。

それでも、背筋がぞくりとした。クラウドは笑いながら怒れるタイプの人間だ。

「はい、次からは必ずそうします」そう答えたけど、もう次はない気がする。たとえ首が繋がったとしても、ヒナを勝手に連れ出した罪が消えるわけではない。

「ダン、あとで行くからね」

カイルの元気付けるような一言に、気持ちが少しだけ楽になった。薄情な二人と違って、そばにいてくれたのが何より嬉しい。

「ヒナに伝えておきます。それでは」ダンは深々と頭を垂れて、来た道を戻った。

足取りは重い。戻ったらきっとすぐにホームズに呼び出される。そして降格を言い渡されるか、最悪クビ。ヒナがかばってくれるのを期待するけど、今日の旦那様の怒りようだと、望みは薄い。

それでも、ヒナの言うことを聞かなければよかったとは思わない。

ヒナは少しの時間も待てないほど、不安で追い詰められていた。助けが必要だった。だから助けた。

旦那様以外でヒナの心をほぐせるのはカイルだけ。クロフト卿だっているし、僕だっているけど、やっぱり親友の存在は違う。

恐る恐る裏口のドアを開けると、のんきな顔をしたウェインが立っていた。ウェインはいつだってのんきな顔をしている。

なんとなく腹が立った。

「何?どうしたの?」ダンは噛みつくように訊ねた。

「カイルが怒られたんだって?」

「え?」まずはカイルの心配って、何なの?「怒られたのはヒナだよ。あんな旦那様、初めて見た……」恐かった。

「そうなの?なんだか大事そうに抱えて戻って来たけど、怒っているようには見えなかったよ」

「そりゃいつまでも怒ってないよ。旦那様はちゃんと、ヒナがカイルのところへ行った理由を分かっているんだから」

「なんで言って出掛けなかったの?」ウェインが至極まともなことを言う。

「ヒナが今にも飛び出しそうになっているのに、そんな余裕あったと思う?」ダンは卑屈に答えた。

「書き置きが出来たんなら、言えたでしょ?」またウェインがまともなことを言った。

腹立つ。

「まぁ、そうだけど。まさか気付かれると思わなかったって言うか……」

「ははん。あわよくばバレずに終わればいいとか思ってたんだ。ちょっとそこまでだし、とか?甘いなぁ」ウェインはチッチと舌を鳴らした。

「ウェインに言われたくないよ」

でも、確かに僕は甘かった。

もしも首が繋がっていたら、これまでのような甘さは捨てなければならない。

つづく


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ヒナおじいちゃんに会いに行く 8 [ヒナおじいちゃんに会いに行く]

ダンは降格。

しばらくヒナの身の回りの世話はエヴァンが任されることとなった。ダンはエヴァンの下に付くことになる。

そしてヒナは、当面外出禁止。おやつもちょっぴり減らされる。

昼食後言い渡された主人の命令に、邸内は騒然となった。ダンが降格されたことも驚きだが、ヒナに罰を与えたことへの衝撃はクラブが閉鎖されたこと以上のものだった。

「ちょっとやり過ぎなんじゃない?ヒナからおやつを取ったらどうなるかわかってるの?ガリガリになっちゃうよ」これ見よがしにカスタードパイを口に運びながら、パーシヴァルが言った。客からの差し入れで、もちろんヒナのぶんもある。

「黙れ、パーシヴァル」ジャスティンはギロリと睨んだ。

「おお、こわい」パーシヴァルはたいして感情も込めず、わざとらしく身を震わせた。

「僕もやり過ぎかなと思うけど?」コーヒーを片手にジェームズが口を挟む。

「そうだよ。このあとカイルが来るのに、おやつもまともに出せないなんて、恥ずかしくて仕方ないよ」味方を得たパーシヴァルの口は滑らかだ。

「出さないとは言ってないだろうが」ジャスティンは吐き捨てた。

「どうせ、そのくらいしかヒナへのお仕置きの方法がわからないんだろう?ヒナの巻き添えを食ったダンが可哀相だよ」パーシヴァルが目下の者に同情するのは珍しい。

「あなたはエヴァンがヒナの方へ行ってしまったので、喜んでいるのでしょう?」ジェームズがちくりと言う。

「ふん。あのロシターとかいうのも似たり寄ったりじゃないか。なーんかごちゃごちゃしてて嫌だな」パーシヴァルは口元を拭い、カップを手にした。

「配置換えも終わりましたし、すっきりするはずです」とジェームズ。

「最近どうも規律が乱れている気がしてならない。おまえが来てからだ、パーシヴァル」

ヒナが好き勝手するぶん、他は特に引き締めなければならない。すべてホームズに任せていたが、たまには主人の一喝が必要だ。

「やめてよ。僕を追い出そうたってそうはいかないからね。出て行くときはヒナも連れて行くから」

「確かに、そうですね」ジェームズは当然のようにジャスティンに同調した。常に恋人の味方をするとは限らない。

「ちょっ!ジェームズまで。そんなこと言うなら、ご褒美あげないからな」パーシヴァルはぷうっと頬を膨らませ、子供みたいな抗議をする。

「やめろ。気色悪い」ジャスティンは、うげぇと顔を歪めた。

「口を閉じないと、本当に追い出しますよ」ジェームズは冷ややかに切り捨てた。

「はいはいはい。わかってますって!」

結局、パーシヴァルはジェームズに頭が上がらない。

そして、ジャスティンはヒナに頭が上がらない。

つづく


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ヒナおじいちゃんに会いに行く 9 [ヒナおじいちゃんに会いに行く]

ヒナの落ち込みようが目に浮かぶ。

パーシヴァルはおじとして少しでも力になってあげたいと思っていたが、いかんせん、伯爵に毛嫌いされている。ヒナを助けるどころではない。が、無力というわけではない。

「でもさ、ヒナの気持ちもわかってあげなよ。おじいちゃんが自分の事を気に掛けていると知って、単純に嬉しかったんだよ。あのくそじじいがヒナの事をどう思っているかは知らないけど、少なくともヒナは好意的に受け止めたってこと」

だからこそ、居ても立ってもいられずカイルに報告しに行ったのだ。

「そんなのはわかってる。あの落ちこぼれ弁護士のせいで、ヒナがすっかりその気になっているのもな。すぐにでも伯爵に会えるんじゃないかって期待して、あとで泣きを見るのはヒナだぞ」ジャスティンは歯がゆさに憤った。

「会わせてあげたらどうです?」ジェームズが静かに口を挟んだ。

「向こうにその気がないのに、どうやってそんなこと……」パーシヴァルは呟きがてら、お茶のおかわりを注いだ。僕だって、そうそうあのじじいに会えるわけじゃないのに、ジェームズはいったい何を考えて……。

「つまり、勝手に押し掛けるっていうことか?」ジャスティンが言う。

ふん。いかにも、言いそうなことだ。

「別に、屋敷の周りをうろつくなとは言われていないんだろう?たまたま、あの辺りを散歩中に伯爵を目にすることはできるのでは?」ジェームズがしたり顔で言う。こういう顔、とても好き。

「そんなことしたら余計にヒナは伯爵を恋しがるようになる」ジャスティンはむすっとして言い返した。

「会えるとも限らないしね」ジェームズには悪いけど、ジャスティンの意見に賛成だ。

「あなたのように何の策もなく出掛けるとそうなりますね」ジェームズは小馬鹿にしたように鼻を鳴らした。

ムッ。

「ジェームズが完璧なのは知ってるけどさ、いちいち僕を馬鹿にするのはやめてよ」

「偵察を送り込むのか?」ジャスティンはパーシヴァルを無視して話を続ける。「使える奴が何人かいただろう?どうせ今は暇だ。役立ちそうな奴は全員送り込め」

ジェームズはジャスティンの言葉に忍び笑いを漏らした。「すでに送り込んであると言ったら?」

うわぁー!さすが僕のジェームズ。空恐ろしい。

「そう言うと思った」とジャスティン。

嘘ばっかり。

でもこれでヒナの願いを叶えてあげられる。

そして僕にできることといえば――

「ジェームズ、コーヒーのおかわりはどうだい?」

つづく


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ヒナおじいちゃんに会いに行く 10 [ヒナおじいちゃんに会いに行く]

成り行きとはいえ、ダンの仕事を奪ってしまった。

エヴァンはヒナの部屋のドアを開け、複雑な気持ちでカイルの到着を告げた。

「お坊ちゃま、カイルさんがいらっしゃったようですよ」

「ヒナだし、カイルだし」ヒナはベッドに横たわったまま、つっけんどんに言い返した。

さっそく、牙を剥かれた。こういうヒナは珍しくてエヴァンは愉快な気持ちになった。

「ヒナ、カイルが来ましたよ。これでいいですか?」一言余計だとはわかっていても、口にせずにはいられなかった。ダンの代わりになれるとは思わないが、せめて受け入れて欲しい。

ヒナはハッとした顔をして、しゅんとうなだれた。「エヴィ、ごめんね」

「いいえ」エヴァンは出来得る限り表情を和らげた。頬の傷がつれて思うような顔は作れなかったが、ヒナはわかってくれただろう。

「エヴィもヒナが悪いと思う?」ヒナはお尻を持ち上げてのそのそと移動すると、危なっかしくベッドから降りた。

「まさか。何があってもわたくしはお坊ちゃまの味方です」

今回の件、ヒナが悪いとはエヴァンはひとつも思っていなかった。もちろん、ダンが悪いとも思っていない。問題は別のところにあって、その問題が解決しない限り、ヒナはまた同じことをするだろう。何度でも。

しかし、旦那様の下した決定は間違っていない。だから厄介だ。

「エヴィはヒナの味方ね」ヒナは唇を尖らせた。

お坊ちゃまと呼ぶことが気に障るらしい。

「最初からずっとそうですよ」ヒナがわたしの傷を優しく撫でてくれたときから。

「でも、ジュスが命令したら言うこと聞くでしょ?」

エヴァンはおかしくなって小さく笑った。「旦那様ですから。そして、ヒナは旦那様の大切な人です。だからわたくしはヒナの言うことも聞きます」

「じゃあ……リボン結んで。ヒナは靴下」そう言って、ヒナはソファの上の靴下を手にする。

「喜んで」

ヒナはにこっと笑って、鏡の前に座った。もぞもぞと靴下を履く。エヴァンはヘアブラシを手にして、ヒナの後ろに立ち優しく髪を梳いた。

「赤いリボンにする」ヒナはリボンの入った箱から赤いのをひとつ、しゅるしゅると引き出した。

これは珍しい。ヒナはたいてい青か緑のリボンを選ぶ。赤を選んだということは、やはり怒っているのだろうか?

でも、誰に対して?やはりわたしか?それとも旦那様?

エヴァンは頭の上の方で髪を束ねると、リボンが目立つように大きな蝶々結びを作った。

不謹慎だが、この後の展開が楽しみでならない。

つづく


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