はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

花嫁の秘密 432 [花嫁の秘密]

外出から戻ると出迎えた従僕がやけにそわそわとしていた。いま残っている使用人たちは多少のことでは動じたりしないが、エリックが絡むと話は違ってくる。客のくせに屋敷の主然と振る舞うせいで、使わなくてもいい気を使わなくてはならない。

サミーはグラントを呼びつけた。聞けばエリックは僕がどこへ行ったのか気にしていたようで、戻り次第知らせるようにと命じていた。

「直接伝えるから、居間にティーセットを用意しておいて」買って帰ったケーキをセシルがとても楽しみにしている。手間を省くためにも先に話を済ませておいた方がいい。

珍しいことに、エリックはベッドで横になっていた。電報を受けていったいどこで何をしていたのやら。

「どこに行っていたんだ?」サミーはベッドの端に立ち、有無を言わせぬ口調で尋ねた。

エリックの背中がゆっくりと動き、まるで猫が伸びをするような仕草でこちらを見上げた。寝ぼけ眼でひとつあくびをしのそりと起き上がる。ベッドから足を下ろすと端に腰かけたまま手を伸ばしてサミーを引き寄せた。

「そっちこそ、出掛けるとは聞いていなかった」エリックが訊き返す。

サミーはエリックの隣に座った。「気分転換と、買い出しにね」

「買い出し?そんなの買ってこさせればいいだろう?」

「それで、何かわかったことでも?」サミーはエリックの言葉を無視して尋ねた。馴染みの店に行くのは庭を散歩するのとたいして変わらない。

「教えてやってもいいが、キスのひとつくらいさせろ」背中に回されたエリックの手が腕を伝って頬に触れる。ためらいがちなのは、あれ以来していないからだ。

「もうしたくないのかと思っていたよ」思わず本音が口をついて出る。エリックには理解できないかもしれないが、けっしてして欲しいという訳ではない。

「だったら、たまにはお前の方からしてきたらいいだろう。待たされる方の身にもなれ」

「待っていたとは知らなかったよ。そのわりに、あちこち忙しそうに動き回っているみたいだけど」

「そういう嫌味はいい――」

そのあとに言葉は続いたのかはわからない。サミーが顔を近づけると、あっという間に唇は重なった。強引さも荒っぽさもない。いつもと同じ優しいキス。どんなに苛立たしくしていても、それは変わらない。案外相性はいいのかもしれない。

ゆったりとした長いキスが終わると、エリックは自分の胸に抱き寄せて安堵の息を漏らした。うなじの辺りを親指で撫でているのはちょっとした癖のようだ。僕がエリックの後ろ髪に指を絡めていたのと同じ感覚だろう。

「話す気はあるのか?」サミーは念のため尋ねた。しつこいくらい言っておかないと、有耶無耶にされる恐れがある。

「ああ、セシルにも話しておきたいから下におりよう。どうせ茶でも用意しているんだろう?」時間は確認するまでもないなと、エリックはサミーを抱いている腕を緩めた。

「僕は規則正しいんだ。もちろんセシルもね」お互いこのままここにいれば、キスだけで済まないことはわかっていた。けど僕はまだそこまであの悪夢のような日から立ち直れてはないし、エリックもそれを理解している。

サミーは先に部屋を出て居間で待つセシルに合流した。すでにティーカップは三人分用意されている。まるで優秀な執事のように時間を読んでいる。

「エリックはすぐに降りてくる」そう言いながら向かいに座ると、セシルは笑顔でティーポットを手にした。茶こしをカップにセットし慣れた手つきで紅茶を注ぐ。

「そろそろだと思った。サミーって、ほんとリックの扱いがうまいよね」揶揄うふうでもなく心底感心しているようだ。

セシルは僕とエリックの相性がいいと思っているけど、はっきり言ってまったくそうは思わない。出会った時からそれは変わらない。それなのに一緒にいることが自然なことのように思えるのはなぜだろう。

「早くしないと、君の分のアイシングたっぷりのレモンケーキをセシルが食べてしまうよと言ったんだ。週に一度しかお店に出ない人気のケーキを食べ逃すなんて、愚か者のすることだともね」

サミーは重なるケーキの取り皿を三枚並べ、セシルが切り分けるのを待った。これを買うためにわざわざ出掛けたのだと言っても、きっとエリックは信じないだろう。けど、それが真実だ。エリックも誤魔化さずに本当のことを話してくれればいいが。

つづく


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