はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

花嫁の秘密 437 [花嫁の秘密]

兄二人が難しい話をしている間、居間に残されたセシルもまた難しい顔をしていた。

「はぁ……」ため息がこぼれたのは何度目か。

あの日、リックと慌ただしく列車に乗ってフェルリッジに舞い戻ってから、数日の間は気にしていなかったけど、もう一週間だ。いくらなんでも手紙のひとつも寄越さないなんてひどすぎる。今日の午後に出掛けたついでに郵便局で確認してみたけど、僕宛の手紙が届いている様子もどこかにまぎれている様子もなかった。

まさか、僕が送った手紙が届いていないなんてことないよね?

いや、きっと届いている。届かないはずなんてないから。返事をしない理由は、たいした内容ではないと判断したからか、彼は僕と会えないことなど気にしていないからか、いったいどちらだろうか。

「そりゃあ僕もさ、会えない原因を作ってるわけだけど……」でもそれは、家族の一大事なら当然のことで、彼がクリスマス休暇に実家に帰るのと同じ理由。たまには一緒に休暇を過ごしたいと思うけど、お互い家族と過ごすことを優先しているからで、その結果がひと月近くも会えずにいる理由だ。

サミーにはうまくいっていると答えたけど、最近はなんとなくすれ違っている気がする。付き合って三年、四年くらい経つかな?そのくらいになれば、いわゆる倦怠期というものが訪れてぎくしゃくしてもおかしくはない。僕たちに限ってそういうのとは無縁だと思っていたけど、倦怠期は例外なく誰の身にも降りかかる試練のようだ。

母様も経験したのだろうか。亡き父の姿はおぼろげだけど、二人が仲睦まじかったのは有名でいつも一緒にいたのは記憶にある。アップル・ゲートに引きこもるようになったのは父が亡くなってからだけど、同時にハニーが生まれたからでもある。母様は本当にハニーが男の子だと気づいていなかったのだろうか。気づいていて知らないふりを続けていたとも考えられるけど、ハニーの告白を受けて気絶したくらいだし、それはないか。

あー、これからどうなるのだろう。

ハニーのこと、サミーのこと、サミーとリックのこと、それから悪いやつらのこと。僕と彼のことはまたあとで考えるとして、まずはもう一度手紙を出すことにしよう。

セシルは膝に乗せていたクッションを脇に置き、重い腰を上げた。夕食まではまだもう少しある。手紙を書いて支度をする時間くらいは作れるだろう。

図書室はいつでもくつろげるようにか、居間と同じように温められていた。暖炉の火は時折パチパチと音を立てながら煌々と燃えている。

窓際に設えられた書き物机の引き出しを開けてレターセットを取り出した。机の上にはインク壺と羽ペンが並べて置いてあったが、セシルはベストの胸ポケットに挿している万年筆を手にして、中央の大きなテーブルに着いた。何度かインクを漏らしてシャツに染みを作ったこともあるけど、彼からの贈り物だから些細なことは気にしないことにしている。

けど、なんて書こう。ここにしばらく滞在することは伝えてあるし、手紙に会いたいとか恋しいというようなことは書けるはずもなく、結局返事をくれない恨みつらみを書くしかない。

図書室の隣ではリックとサミーが話し合いをしているはずなのに、さっき覗いたら次の段階へと移っていた。二人がうまくやっているならそれでいいけど、どこかお互い腹の探り合いをしている節がある。そもそもリックが秘密をたくさん抱えているからいけないんだけど、仕事だと言われれば何も言えない。

たぶんそのうちリックはまた姿を消すだろう。でも、サミーを傷つけたあいつをそのままにしておくはずがないから、きっと計画を変更せざるを得なくなっているはず。

好きで一緒にいたいと思っても、なかなかそうはいかないってことだよね。

はぁ……。今度こそ手紙の返事が来ればいいけど。

セシルは万年筆を置き、手紙に封をした。

つづく


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あとがき
こんばんは、やぴです。
ここで第10部終わりです。
次はまた少ししてから更新します。

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花嫁の秘密 436 [花嫁の秘密]

一人で何もかも決めてしまうくせに、話し合おうなどとよくも言えたものだ。

サミーはエリックの言う通りに向かいの椅子に座った。嘘や誤魔化しがないように、しっかり顔の見える場所がいい。

「話し合いは済んだと思っていたけど?」まだ隠していることは大いにありそうだが、サミーは素知らぬふりで尋ねた。話したいことがあるなら聞く耳はある。

「さっきのは報告だ」

「報告ねえ……ずいぶんとざっくりした報告だったけど、バークリー家の娘は本当に無関係なのか?」

「お前はあの娘がジュリエットに手を貸すように見えるか?」ふんと鼻を鳴らし馬鹿にしたような物言い。くだらない質問だとでも言いたいのだろうけど、詳しい説明もなしに納得はできない。とは言え、バークリー家の娘は規律正しく慎ましく、派手なジュリエットと何らかの接点があったとしても、悪事に加担するとは到底思えない。

「聞いてみただけだ。これからの事と言うからには、何か考えがあるんだろう?いったい次はどう攻めるつもりだ」話し合う気があるとは思えないけど、エリックがそう言うからには少なからずこちらの協力が必要なはずだ。

「あの女の事はこっちに任せろ。ひとまず資金源は絶ったし、お前も手を切った。これから先はできるだけ当初の計画に戻す」

当初の計画――つまり僕の役目を誰かが引き継ぐ。代わりは、あのラウールという男だろうか。

「ジュリエットに資金援助しているのがデレクだけとは限らない。ギャンブル仲間もいるし、そもそも僕を殺したがっているデレクが引き下がるかな?」

「あいつはゲームをしているだけだ。お前を殺したいわけじゃない」エリックはいとものんびりと言う。賭けられているのが自分の命でも同じように言えるのだろうか。

「どうかな?引き下がるということは、賭けに負けるということだ。他のメンバー、とりわけ姿を見せていないもう一人が黙っているとは思えない」サミーはエリックの言葉を否定した。

「正体がまだわからない以上、その先を考えても仕方がない。賭けはお前の勝ちで終わりだ」

サミーは懐疑的な目でエリックを見た。明らかに何か隠している。けどそれを表情には一切出さないし、言うつもりもないらしい。とにかく僕をこの件に関わらせたくないというのは伝わった。

「僕のひと言で賭けを無効にはできる。そうしたらもうあそこへは行けなくなるけど、クラブはあそこだけという訳ではないしね。それにしばらくはここにいる」

エリックは反対するだろうか。少しの間離れる予定ではあるけど、僕の戻る場所は結局ここしかない。

「ブラックを呼び戻した」エリックはそう言って深い溜息を吐いた。予想の範囲内だが気に入らないといった様子。「それと、カインにこっちに来てもらうよう手配した」

「カイン?ロンドンの屋敷にいるカインの事か?」クリスの承諾なしに配置換えはしないと伝えたのに、僕の言うことに耳を貸す気はないってことか。やはりこれは話し合いなどではなく、一方的な報告でしかない。「たまには勝手に決めず相談したらどうだ?」

「しばらくこっちにいるならちょうどいいだろ」エリックは悪びれもせず言う。

「君にカインをやるとは言ってないぞ」言ったところで意味はないが、念のため釘は刺しておく。

「いまはまだ必要ない。カインはお前のために呼んだんだ」

「ブラックが戻ってくるんだろう?従者は一人で充分だ。それとプルートスの買収の件だけど、もう少し考えてもいいかな。どちらにしても、クィンはすぐに手放したりはしないだろう。手放す気だったとしても、君が突いたことで頑なになっているだろうし」

エリックがたちまち渋面になる。珍しくてこずっているらしい。とても愉快だ。

「その件は後回しだ。お前の言う通りクィンは手強い。まずは面倒を片付けてから、ゆっくり落とすさ」

「面倒ね……」その面倒ごとがたくさんあり過ぎて、何から手をつけるべきか。エリックはすでに駒を動かし、次の手に打って出ているのだろう。それなら、こっちも予定通りに調べを進めることにしよう。

それとは別に、ラムズデンへ行く手配を。ブラックが戻り次第早急に。

つづく


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花嫁の秘密 435 [花嫁の秘密]

話すべきことは話した。すべてではないが。

エリックは尻に根の生えた二人を残して地階へ行き、グラントにひとつ用事を頼んだ。まずはサミーのためにブラックを呼び戻すことが先決だ。それと、自分のため――突き詰めればサミーのためだが――にカインを呼ぶ。プラットはいい顔をしないだろうが、どうせしばらく屋敷は空いた状態でやることもないなら、こっちで仕事をさせるまでだ。サミーの許可はあるとか何とか言っておけば問題はないだろう。

二人とも早ければ明日、遅くとも明後日にはフェルリッジに到着する。

気になったのはサミーがどこか上の空だったこと。この事件をさっさと片付けてしまいたいという気持ちは理解できるし、できるならそうしたいところだが、事件自体を表沙汰にできない以上慎重にならざるを得ない。あれはあくまで事故だった、その後起こった出来事を隠すためにはそうしておくしかない。

次の動きをサミーと詰めておく必要がある。勝手なことをされて、また計画をぶち壊されるのは避けたい。

エリックは上に戻り書斎を覗いた。居間にはセシルしかいなかったからだが、サミーはここ数日クリスが置いて行った雑務を片付けているようで、これに関してはさすがに口を出すわけにはいかない。
それにいまは、気を紛らわせる何かが必要だ。

「用事は済んだの?」書斎机に着くサミーが顔を上げた。気配を消していたが気づかれてしまった。

「まあな。そっちは?」特に隠す様子もないので覗き込んだ。手元の紙の束はかなり分厚い。数字からして会計報告のようにも見えるが、文字に癖があって読み取れない。

「ん?ああ、これね。叔父から届いた報告書。本邸は任せているから」サミーは片肘をついてひと息吐くと、書類を指先でトントンと叩いた。「叔父の字はすごく読みにくくてね」

エリックは同意の印に肩をすくめた。机を離れて前のソファに座ると、思い切って尋ねた。「向こうに移ろうとは思わないのか?」この場所はサミーにとっていい場所とは言い難い。生まれたその日からどこにいたとしても変えようのない運命だったのかもしれないが、父親と離れるだけでもいまとは違った人生があったはずだ。

「思わないね。僕もクリスもあそこは嫌いなんだ。ただ、ここが好きかというとそれも違うけど……昔よりはマシかな」

マシになったのは父親が死んだからか、それとも新しい家族が増えたからか。

あの城館はそのうち従兄弟かその息子が継ぐことになるだろう。サミーが誰かと結婚して跡継ぎをもうけるならそうはならないだろうが、きっとそんなことにはならない。

「お前は時々行っているだろう?」

「時々って言っても、年に一度くらいなものだよ。本当は様子を見に行く必要もないけど、クリスが行かないから仕方なくね。それに叔父にはよくしてもらっているから。で、何の用?」サミーは机を両手でポンと叩いて立ち上がると、前に回って机を背に寄りかかった。

「こっちに来て座れ」エリックは向かいの椅子に座るように軽く首を振った。「これからの事を話し合おう」

つづく


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あとがき
こんばんは、やぴです。
PCが壊れてしまい、しばらく更新滞ります。
それもあってという訳ではないですが、あと数話でこの部が終わり、次へ移ります。


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