はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

花嫁の秘密 434 [花嫁の秘密]

エリックにこれまでにわかったことをいくつか聞かされたが、なぜそんなことまで調べられるのか疑問を抱くのは至極当然。

ハンカチの刺繍を見ただけで、どこの誰が針を刺したものかわかるご婦人がいると言うが、どうにも胡散臭い。エリックと一緒に調査しているときにはほとんど何も進展しないのに、急にすべてが判明するのもおかしなものだ。
細かな調査を行っているのはあのスミスとかいう男だろうか。地味で目立たない風貌は調査員向きではある。

「ところで、犯人が分かったなら、すぐにでもその事実を突きつけて、街から追い出すなり国から追い出すなりするべきじゃないかな」サミーは次に起こすべき行動を提案した。面倒はすべて省いて、流刑地へ向かう船に乗せるのはどうだろう。

「なんて言う気だ?バークリー家の娘にハンカチに刺繍してくれと頼んだろう、とでも尋ねるのか?」エリックが馬鹿にしたように言う。

「そうしない理由があるのか?置かれたものを見れば悪意があったのは明らかだし、脅しだけで終わるとも思えない。先手を打たないと」サミーは語気を強めた。

「でも置いたのは村の人だったんだよね?酒場で目撃情報のあった余所者がその人に依頼してさ。結局直接ジュリエットにはつながらないんじゃ……」セシルが心もとなげに言う。

「調べられるところまで調べて、ジュリエットの従者に行き着いているんだから、つながってはいるだろう」サミーはエリックに同意を求めた。

エリックは鷹揚に頷いた。「そいつが全部吐けばいいが、期待はできないだろうな。でもまあ、あらゆる面で証拠が挙がっている以上逃げ切れはしないさ」

つまり、自白がいる。最初からそのつもりで動いていたけど、今現在どこまで追い詰められているかは謎だ。次に手を出してきたところを捕まえる予定だったが、計画はちょっとおかしな方を向いている。エリックがラウールという詐欺師を送り込んできたせいもある。そういえばあの男、あれからどうなったのだろう。エリックに尋ねる気にもならないが。

「一番大きな証拠はあの屋敷だったけど、もうないんだよね……ハニーが監禁されていた」セシルは小声になり、顔をきょろきょろとさせた。聞き耳を立てるような使用人はいないとは言い切れないが、呼ばない限り誰もこの部屋には近付かないだろう。

「屋敷は取り壊されて更地になったようだけど、持ち主を隠すことなんてできるかな?そのうちクリスもあの場所に行き着く。誰の土地か辿れないようにしているのかもしれないけど、クリスも馬鹿じゃない。すぐにジュリエットが黒幕だと気付くはずだ」

アンジェラが襲われてから五ヶ月が過ぎた。当初はクリスはこの事実に耐えられないと考えていたが、そろそろ打ち明けるべきだと思うのは僕だけだろうか。

おそらくそうだろう。この心境の変化は、自分に降りかかった災難、いや悪夢とも言うべき出来事のせいだ。エリックもセシルもきっとこの意見には賛成しないだろう。けど、もしもエリックが同意するなら、数日以内にここを発ってラムズデンへ行く。

アンジェラに無茶をされる前に、兄弟で力を合わせこの問題を収束させる。

つづく


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花嫁の秘密 433 [花嫁の秘密]

何から話すべきか、正直悩むところだ。

これまでにはっきりしたことはふたつ。
マーカス・ウェストの居場所とクリスマスの朝この屋敷の敷地内へ侵入した者。ああ、それとそれを依頼した者も。

ひとまずマーカス・ウェストの次の逗留場所は確認できた。事務所で聞き出した通り、しばらくはブレイクリーハウスにいるようだが、あそこの女主人は少々厄介だ。ブラックには戻ってくるように言って、あとはユースタスに任せるか。もう少し早く追いついていれば、そのまま闇に葬ってやることもできたのに残念だ。

計画は次の段階へと進めるしかない。どうすれば効果的にあの男を苦しめられるかは、ユースタスが考えてくれるだろう。

問題はジュリエットのことだ。当初描いていた計画からは大きくずれてしまい、これに関しては一から策を練り直す必要がある。それも早急に。

エリックは飲みたくもない紅茶に口をつけ、要点だけ掻い摘んで話した。サミーもセシルも話に聞き入っているのか、ケーキを食べるのに夢中になっているのか、途中口をはさむことはなかった。

「結局、ハニーへのあの贈り物はジュリエットからだったってこと?」セシルが結論を口にする。一応、話は聞いていたようだ。

「ハンカチに刺繍をしたのが誰かを突き止めたわけだけど、その依頼をしたのはジュリエットではないんだよね?それでどうして彼女を犯人だと?」ケーキを食べ終えて満足げなサミーは、ソファの端に重なるクッションに寄りかかり、エリックに問いかけた。

「ああ、間に何人か入っているようだが、依頼したのがジュリエットの従者だということがわかった」

ハンカチに刺繍をしたのは、バークリー家の娘のうちの一人。もちろん彼女は自分が刺繍をしたハンカチがこんな使われ方をしているとは思いもしない。いくつか頼まれたうちの一枚にすぎず、花嫁修業の一環だと思っているはずだ。ジュリエットとの直接的なつながりはない。

「従者?そんなのいたかな――彼女はそばに男は置いていなかった。いたら僕が気付かないはずない」サミーは苛立たしげな視線をエリックに向けた。ジュリエットの懐まで入り込んだのは自分なのに、君の方が詳しいなんて不公平だと言わんばかり。張り合っているわけではないが、なぜか気分がいい。

「ナイト邸にいた頃の下僕をそのまま従者にしている。まあ表には顔を出さないから、クレインみたいな存在だと言えばわかりやすいか」クレインほど切れる男だとは思わないが、なかなかうまくやっている。ここまでは。

「クレイン?って誰だっけ」セシルが眉を顰め小首を傾げる。

「お前は知らなくていい」エリックはぴしゃりと言い、サミーの反応を待った。自分の知らないところでその男に見張られていたとなると、いい気はしないだろう。

「そうか、ということは、その従者はジュリエットのしたことすべてを知っていると思っていいんだね。もしかして信奉者の一人だったりするのかな」サミーは思案顔だが、何を考えているのかは読み取れない。

「まだジュリエットを崇めているような男がいるとも思えないが、そいつはそうだろうな。目に見える部分ではたいしたことはしていないが、おそらく汚れ仕事は全部そいつが請け負っている」厄介なのは、こいつがジュリエットを裏切りそうにもないことだ。

「それにしても、彼女はすごく演技が上手だよね。ハニーを襲ったなんてこと微塵も見せないうえ、次の計画も着々と進めているわけだから。サミーはそういうのを感じたことはないんだよね?」セシルがサミーに訊いた。

セシルがジュリエットに会ったのはブライアークリフ卿の慈善パーティーの時だったか、確かにあの時デレクと何か企んでいたにせよ、ただサミーの気を引きたいだけにしか見えなかった。

「そうだね、彼女の言葉が白々しいと感じることはあるけど、悪意のようなものを感じたことはないな。だからすごく戸惑うんだ。彼女がしたことを僕たちは知っていて、そのツケを払わせようとしているけど、正体は現さない。彼女の口からアンジェラにしたことを白状させるには、僕はあと何をすればいい?」

「いや、お前はしばらく何もするな」エリックはサミーの『それは受け入れられない』という視線を真っ向から受け止めた。ずっとは無理だろうが、しばらくは俺の言うことに従ってもらう。これ以上心配事を増やされたらたまったもんじゃない。

つづく


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花嫁の秘密 432 [花嫁の秘密]

外出から戻ると出迎えた従僕がやけにそわそわとしていた。いま残っている使用人たちは多少のことでは動じたりしないが、エリックが絡むと話は違ってくる。客のくせに屋敷の主然と振る舞うせいで、使わなくてもいい気を使わなくてはならない。

サミーはグラントを呼びつけた。聞けばエリックは僕がどこへ行ったのか気にしていたようで、戻り次第知らせるようにと命じていた。

「直接伝えるから、居間にティーセットを用意しておいて」買って帰ったケーキをセシルがとても楽しみにしている。手間を省くためにも先に話を済ませておいた方がいい。

珍しいことに、エリックはベッドで横になっていた。電報を受けていったいどこで何をしていたのやら。

「どこに行っていたんだ?」サミーはベッドの端に立ち、有無を言わせぬ口調で尋ねた。

エリックの背中がゆっくりと動き、まるで猫が伸びをするような仕草でこちらを見上げた。寝ぼけ眼でひとつあくびをしのそりと起き上がる。ベッドから足を下ろすと端に腰かけたまま手を伸ばしてサミーを引き寄せた。

「そっちこそ、出掛けるとは聞いていなかった」エリックが訊き返す。

サミーはエリックの隣に座った。「気分転換と、買い出しにね」

「買い出し?そんなの買ってこさせればいいだろう?」

「それで、何かわかったことでも?」サミーはエリックの言葉を無視して尋ねた。馴染みの店に行くのは庭を散歩するのとたいして変わらない。

「教えてやってもいいが、キスのひとつくらいさせろ」背中に回されたエリックの手が腕を伝って頬に触れる。ためらいがちなのは、あれ以来していないからだ。

「もうしたくないのかと思っていたよ」思わず本音が口をついて出る。エリックには理解できないかもしれないが、けっしてして欲しいという訳ではない。

「だったら、たまにはお前の方からしてきたらいいだろう。待たされる方の身にもなれ」

「待っていたとは知らなかったよ。そのわりに、あちこち忙しそうに動き回っているみたいだけど」

「そういう嫌味はいい――」

そのあとに言葉は続いたのかはわからない。サミーが顔を近づけると、あっという間に唇は重なった。強引さも荒っぽさもない。いつもと同じ優しいキス。どんなに苛立たしくしていても、それは変わらない。案外相性はいいのかもしれない。

ゆったりとした長いキスが終わると、エリックは自分の胸に抱き寄せて安堵の息を漏らした。うなじの辺りを親指で撫でているのはちょっとした癖のようだ。僕がエリックの後ろ髪に指を絡めていたのと同じ感覚だろう。

「話す気はあるのか?」サミーは念のため尋ねた。しつこいくらい言っておかないと、有耶無耶にされる恐れがある。

「ああ、セシルにも話しておきたいから下におりよう。どうせ茶でも用意しているんだろう?」時間は確認するまでもないなと、エリックはサミーを抱いている腕を緩めた。

「僕は規則正しいんだ。もちろんセシルもね」お互いこのままここにいれば、キスだけで済まないことはわかっていた。けど僕はまだそこまであの悪夢のような日から立ち直れてはないし、エリックもそれを理解している。

サミーは先に部屋を出て居間で待つセシルに合流した。すでにティーカップは三人分用意されている。まるで優秀な執事のように時間を読んでいる。

「エリックはすぐに降りてくる」そう言いながら向かいに座ると、セシルは笑顔でティーポットを手にした。茶こしをカップにセットし慣れた手つきで紅茶を注ぐ。

「そろそろだと思った。サミーって、ほんとリックの扱いがうまいよね」揶揄うふうでもなく心底感心しているようだ。

セシルは僕とエリックの相性がいいと思っているけど、はっきり言ってまったくそうは思わない。出会った時からそれは変わらない。それなのに一緒にいることが自然なことのように思えるのはなぜだろう。

「早くしないと、君の分のアイシングたっぷりのレモンケーキをセシルが食べてしまうよと言ったんだ。週に一度しかお店に出ない人気のケーキを食べ逃すなんて、愚か者のすることだともね」

サミーは重なるケーキの取り皿を三枚並べ、セシルが切り分けるのを待った。これを買うためにわざわざ出掛けたのだと言っても、きっとエリックは信じないだろう。けど、それが真実だ。エリックも誤魔化さずに本当のことを話してくれればいいが。

つづく


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花嫁の秘密 431 [花嫁の秘密]

エリックが屋敷に戻ったとき、そこにいるはずのサミーもセシルもいなかった。大抵は居間の暖炉の前のソファか、窓際の椅子でまどろんでいる。もしくは図書室か。

出掛けるとは聞いていない。出迎えた下僕も何も言っていなかった。わざわざ居場所を聞くのも大袈裟な気がして――というのも、サミーが何かにつけ大袈裟だと言うからだ――見回りがてら邸内を巡った。

大きな屋敷ではないし、二人のいそうな場所は限られている。そこにいないとなれば、散歩にでも出たか。庭にいるか、門の外に出て湖まで足を延ばしているかもしれない。そこまで考えて、あまりの馬鹿馬鹿しさにエリックは頭を振った。

あの二人がいくら天気がいいとはいえ、この寒さの中散歩に出るとは思えない。とはいえ、念のため確認は必要だ。

屋敷の裏手にまわり庭園を横目に小道を行くと、途中には温室とサミーがアトリエと呼ぶ離れがある。小さな温室のようにも見えるし、物置小屋のようにも見える。こんな場所で二年近く寝起きしていたというのだから、サミーの頑固さに呆れずにはいられない。

そんなに嫌ならここから出て自分の家を持てばよかったのに、それだけの金は持っていたはずなのに、なぜそうしなかったのか。負けず嫌いだという理由の他に何かあれば知りたいものだ。

裏門はぴたりと閉じられている。侵入者を拒むようなものではなく、ただの境界線でしかない。かろうじて舗装された道の向こうにはすぐに森が広がり、奥に行けば湖がある。土地の者以外入ってこない場所で、まさかこのルートでマーカス・ウェストが馬車で乗りつけるとは誰も想像もしなかった。

おそらくもう二度と来ないだろう。鍵の付け替えは用心のためにするとして、事後報告になってしまうクリスがどういう反応をするか。サミーに起きた出来事を話せない以上、何らかの反発があるかもしれないが、ここが物騒なことを理解していないわけじゃない。

今頃向こうでハニーと一連の事件の犯人を見つけるべく計画を立てているはずだ。こっちがひと足先に調べ終えたからいいものを、もう少しでクリスが派遣している調査員に先を行かれるところだった。

まだもう少し、クリスにはジュリエットが犯人だということは伏せておきたい。時期が来れば、いずれ明かすつもりだ。

「グラント、サミーは出掛けたのか?」裏口から中へ戻ったエリックはグラントの執務室を覗いた。

「エリック様」グラントはとっさに立ち上がった。「はい、お昼前にセシル様と町へお出掛けに。もう一時間ほどで戻られると思いますが」机の上の小さな置時計を見て言う。

お茶の時間だからか、暗くなる前に戻るということなのか、まあ、どちらでもいいが。「誰が付き添いを?」問題はそこだ。

「グローヴァーが一緒です」

グローヴァーならグラントが同行するよりは安心だ。ブラックと似たような経歴の持ち主のグローヴァーは、クリスが雇うにしては珍しいタイプだ。おおかたハニーのボディーガードにでもと考えたのだろう。頭が切れるとは言い難いが大柄で見た目通りの腕力の持ち主とあれば、ラムズデンに同行させていてもおかしくはなかった。

実際、秘密裏に現地入りしていなければ連れて行っていただろう。このままこっちでこいつをもらってしまうか。

「少し部屋で休む。二人が戻ったら教えてくれ」そう言い残し、エリックは大きなあくびをしながら部屋に戻った。

つづく


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花嫁の秘密 430 [花嫁の秘密]

「セシル、エリックを見なかった?」サミーは居間でセシルを見つけ、向かいのソファに座った。ここ数日すっきりしない空模様だったが、今日はよく晴れていて暖かいからか、暖炉の火も小さいままだ。

「リックならちょっと出かけてくるって」セシルが読んでいる本から顔を上げた。昨日から読み始めた本は、もう半分まで進んでいる。

「こんな田舎のどこへ出かけるって?」サミーはうんざりとした口調にならないよう気をつけながら尋ねた。エリックはどこにいても忙しなく、じっとしていることがない。

「知らない。ああ、そうだ。電報が届いてたから、それかなぁ……」セシルは本を置いて、考え込むように頬杖をついた。「特に慌てた様子はなかったけどね」

「エリックがいったい何をしているのかは知らないけど、ブラックは一向に戻ってこないし、うちの使用人にも勝手に指示は出すし、もう向こうへ戻ってくれないかな」駆けつけてくれたことには感謝しているけど、大袈裟に騒ぎすぎだし、いまもまだ目立つような行動を取っている。

「そろそろ戻るでしょ。向こうで用があるって言ってたしさ」サミーの言いたいことはよくわかるよと、セシルは同情めいた視線を向ける。兄に振り回されることに慣れていても、少々行き過ぎていると考えているようだ。

「セシルは何を命じられたんだい?」答えを聞かなくても、僕を見張れと言われていることはわかっている。セシルはわざわざ後ろをついて歩くような真似はしないけど、離れる気もないのは明らか。こっちは問題ないが、セシルが恋人に会えずにいるのを黙って見ているわけにはいかない。

「命じたりはしていないよ。僕は自分の意思で行動しているんだからね」セシルが気遣いは無用とばかりに言う。また本を開いて、続きを読み始めた。

「まあ、そうだね。変なこと言ってごめん」サミーはぼんやりとセシルが本のページを繰る様を眺めた。アンジェラも本を読むのが好きだが、こんなにじっとはしていない。

エリックはクラブを手に入れたらセシルに手伝わせようとしているけど、セシルにはもっと違う場所が相応しい。植物学者になりたいというのなら――なりたいとは言っていなかった気がするが――どうにか後押しをしてやりたい。

もちろんセシルがそばで手助けしてくれたらとても助かるけど、あの話自体白紙に戻したいと思っている。エリックは反対するだろう。説き伏せる自信もない。だが、無駄だとしても話し合いは必要だ。

「セシル、あとで気分転換に出かけないか?何日も引きこもっていたせいで、肩が凝ってさ」マーカスのせいであちこち痛んでいた身体はすっかり癒えたが、気持ちは鬱々としたままだ。外の空気を吸えば多少はよくなるだろうし、ずっと先延ばしにしていたアトリエの片付けにも着手できるだろう。

そろそろ動き出さなければ。いつまでも引きずっていたせいで、今回襲われる羽目になった。あの時、二人の寝室なんかにいなければあんなことにはならなかった。もちろんマーカスは何が何でも襲う気だっただろうけど、少なくとも僕が味わった屈辱は半分ほどで済んだはずだ。

エリックはマーカスを見つけたら、僕に断りもなく報復するはずだ。僕がマーカスをどうしたいかなんて気にもしないだろう。襲われたのは僕だっていうのに!

「いいよ。ちょうど行きたいお店があったんだ」セシルはにっこりと笑って、軽く請け合った。

つづく


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花嫁の秘密 429 [花嫁の秘密]

「ねえ、メグ。これクリスには不評みたいよ」アンジェラは足元に落としたズボンを鏡越しに見ながら言う。足元が温かいし、動きやすいし、文句なしなのに。

「たいていの夫はそういう反応をすると思います」メグはきびきびと言い、ズボンを回収する。

「でもこれはセシルのおさがりでも紳士用でもなく、ちゃんと婦人用のズボンなのよ。狩りや乗馬する時にスカートより便利だし、みんなもそうするべきよ」そうは言いつつも、ドレスに袖を通すとホッとする。身体にぴったり馴染むこの感覚は、他の人には理解できないものかもしれない。

「でも奥様は狩りも乗馬もされないでしょう?」メグは背中のリボンを結びながら言う。

「まあ、そうね」ついでに言えば、女性でもないわ。

アンジェラは口元だけで呟き、鏡の中の貧相な身体を見つめた。背はまだ伸びる可能性はある。けど身体つきに関して言えば、兄たちを見てもこれからアンジェラの肉付きがよくなる可能性は低い。鍛えれば少しくらい逞しくなるかもしれないけど、セシルもアンジェラも上の兄とは明らかに違う。

きっと母に似たんだわ。

「今日はミセス・ワイアットとスコーンに挑戦するの。来週農場の視察に行くときの差し入れにしようと思って」この屋敷の人たちはいろいろなことに挑戦させてくれる。スコーン作りも、庭の土いじりも、興味深そうに見ていたらやってみますかとすすめてくれた。クリスは反対のようだけれど、明日は今日土を掘り返したところに種をまく予定。寒い時期なりの適した野菜があるのだと、菜園を管理しているハウが教えてくれた。

「うかがっております。奥様さえよろしければ、わたしも参加したいのですが」

「もちろんよ」メグがレシピを覚えてくれたら、向こうへ戻ってもいつでも美味しいスコーンが食べられるもの。

ああ、そうだ。ここでの問題がひと段落したら、犯人探しをしないといけない。でも、そんなの無駄だって最初から分かっている。兄たちは犯人が誰だかわかっていても言わないし、きっといまも裏で工作している。わたしやクリスに知られたくない相手はいったい誰だろう。

二人に共通する人物か、それともどちらかに恨みのある人物か。クリスマスの朝まではそう考えていた。けど、血染めのハンカチとナイフの贈り物で、ターゲットは確実にわたしなのだと実感した。

劇場で出会ったようなわかりやすく敵意を向けてきた人ではなく、どこかの催しで挨拶も交わさなかったような人の可能性もある。これまで出会った人物を一人一人思い出しているけど、まだ結婚式辺りまでしか整理できていない。戻ったらまずそれぞれの催しの出席者名簿を確認して、怪しそうな人物をリストアップして、それからどこかに調査を依頼する。兄たちの息のかかっていないところがあればいいけど。

メリッサにお願いしているけど、リックとの仲もあるし、友情を天秤にかけるような真似はさせたくないし、とても困った状況に追い込まれている気がしてならない。

「奥様、髪はどうしますか?」メグに促され、アンジェラは鏡の前に座った。年代物の装飾が施された鏡は少しくすんでいる。

「そうね、このあとキッチンへ行くからまとめておいた方がいいわね」髪が短くなってまとめやすくなったし、これからは少し大人びた格好をするのもいいのかもしれない。

メリッサのアドバイスが欲しいけど、こういう時のためにメグがいる。とても優秀な侍女だから、任せておけば安心だ。

つづく


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