はじめまして。
BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。
コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。
花嫁の秘密 431 [花嫁の秘密]
エリックが屋敷に戻ったとき、そこにいるはずのサミーもセシルもいなかった。大抵は居間の暖炉の前のソファか、窓際の椅子でまどろんでいる。もしくは図書室か。
出掛けるとは聞いていない。出迎えた下僕も何も言っていなかった。わざわざ居場所を聞くのも大袈裟な気がして――というのも、サミーが何かにつけ大袈裟だと言うからだ――見回りがてら邸内を巡った。
大きな屋敷ではないし、二人のいそうな場所は限られている。そこにいないとなれば、散歩にでも出たか。庭にいるか、門の外に出て湖まで足を延ばしているかもしれない。そこまで考えて、あまりの馬鹿馬鹿しさにエリックは頭を振った。
あの二人がいくら天気がいいとはいえ、この寒さの中散歩に出るとは思えない。とはいえ、念のため確認は必要だ。
屋敷の裏手にまわり庭園を横目に小道を行くと、途中には温室とサミーがアトリエと呼ぶ離れがある。小さな温室のようにも見えるし、物置小屋のようにも見える。こんな場所で二年近く寝起きしていたというのだから、サミーの頑固さに呆れずにはいられない。
そんなに嫌ならここから出て自分の家を持てばよかったのに、それだけの金は持っていたはずなのに、なぜそうしなかったのか。負けず嫌いだという理由の他に何かあれば知りたいものだ。
裏門はぴたりと閉じられている。侵入者を拒むようなものではなく、ただの境界線でしかない。かろうじて舗装された道の向こうにはすぐに森が広がり、奥に行けば湖がある。土地の者以外入ってこない場所で、まさかこのルートでマーカス・ウェストが馬車で乗りつけるとは誰も想像もしなかった。
おそらくもう二度と来ないだろう。鍵の付け替えは用心のためにするとして、事後報告になってしまうクリスがどういう反応をするか。サミーに起きた出来事を話せない以上、何らかの反発があるかもしれないが、ここが物騒なことを理解していないわけじゃない。
今頃向こうでハニーと一連の事件の犯人を見つけるべく計画を立てているはずだ。こっちがひと足先に調べ終えたからいいものを、もう少しでクリスが派遣している調査員に先を行かれるところだった。
まだもう少し、クリスにはジュリエットが犯人だということは伏せておきたい。時期が来れば、いずれ明かすつもりだ。
「グラント、サミーは出掛けたのか?」裏口から中へ戻ったエリックはグラントの執務室を覗いた。
「エリック様」グラントはとっさに立ち上がった。「はい、お昼前にセシル様と町へお出掛けに。もう一時間ほどで戻られると思いますが」机の上の小さな置時計を見て言う。
お茶の時間だからか、暗くなる前に戻るということなのか、まあ、どちらでもいいが。「誰が付き添いを?」問題はそこだ。
「グローヴァーが一緒です」
グローヴァーならグラントが同行するよりは安心だ。ブラックと似たような経歴の持ち主のグローヴァーは、クリスが雇うにしては珍しいタイプだ。おおかたハニーのボディーガードにでもと考えたのだろう。頭が切れるとは言い難いが大柄で見た目通りの腕力の持ち主とあれば、ラムズデンに同行させていてもおかしくはなかった。
実際、秘密裏に現地入りしていなければ連れて行っていただろう。このままこっちでこいつをもらってしまうか。
「少し部屋で休む。二人が戻ったら教えてくれ」そう言い残し、エリックは大きなあくびをしながら部屋に戻った。
つづく
前へ<< >>次へ
にほんブログ村
出掛けるとは聞いていない。出迎えた下僕も何も言っていなかった。わざわざ居場所を聞くのも大袈裟な気がして――というのも、サミーが何かにつけ大袈裟だと言うからだ――見回りがてら邸内を巡った。
大きな屋敷ではないし、二人のいそうな場所は限られている。そこにいないとなれば、散歩にでも出たか。庭にいるか、門の外に出て湖まで足を延ばしているかもしれない。そこまで考えて、あまりの馬鹿馬鹿しさにエリックは頭を振った。
あの二人がいくら天気がいいとはいえ、この寒さの中散歩に出るとは思えない。とはいえ、念のため確認は必要だ。
屋敷の裏手にまわり庭園を横目に小道を行くと、途中には温室とサミーがアトリエと呼ぶ離れがある。小さな温室のようにも見えるし、物置小屋のようにも見える。こんな場所で二年近く寝起きしていたというのだから、サミーの頑固さに呆れずにはいられない。
そんなに嫌ならここから出て自分の家を持てばよかったのに、それだけの金は持っていたはずなのに、なぜそうしなかったのか。負けず嫌いだという理由の他に何かあれば知りたいものだ。
裏門はぴたりと閉じられている。侵入者を拒むようなものではなく、ただの境界線でしかない。かろうじて舗装された道の向こうにはすぐに森が広がり、奥に行けば湖がある。土地の者以外入ってこない場所で、まさかこのルートでマーカス・ウェストが馬車で乗りつけるとは誰も想像もしなかった。
おそらくもう二度と来ないだろう。鍵の付け替えは用心のためにするとして、事後報告になってしまうクリスがどういう反応をするか。サミーに起きた出来事を話せない以上、何らかの反発があるかもしれないが、ここが物騒なことを理解していないわけじゃない。
今頃向こうでハニーと一連の事件の犯人を見つけるべく計画を立てているはずだ。こっちがひと足先に調べ終えたからいいものを、もう少しでクリスが派遣している調査員に先を行かれるところだった。
まだもう少し、クリスにはジュリエットが犯人だということは伏せておきたい。時期が来れば、いずれ明かすつもりだ。
「グラント、サミーは出掛けたのか?」裏口から中へ戻ったエリックはグラントの執務室を覗いた。
「エリック様」グラントはとっさに立ち上がった。「はい、お昼前にセシル様と町へお出掛けに。もう一時間ほどで戻られると思いますが」机の上の小さな置時計を見て言う。
お茶の時間だからか、暗くなる前に戻るということなのか、まあ、どちらでもいいが。「誰が付き添いを?」問題はそこだ。
「グローヴァーが一緒です」
グローヴァーならグラントが同行するよりは安心だ。ブラックと似たような経歴の持ち主のグローヴァーは、クリスが雇うにしては珍しいタイプだ。おおかたハニーのボディーガードにでもと考えたのだろう。頭が切れるとは言い難いが大柄で見た目通りの腕力の持ち主とあれば、ラムズデンに同行させていてもおかしくはなかった。
実際、秘密裏に現地入りしていなければ連れて行っていただろう。このままこっちでこいつをもらってしまうか。
「少し部屋で休む。二人が戻ったら教えてくれ」そう言い残し、エリックは大きなあくびをしながら部屋に戻った。
つづく
前へ<< >>次へ
にほんブログ村
2023-10-10 23:30
nice!(0)
コメント(0)
コメント 0