はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

妄想と暴走 ブログトップ
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妄想と暴走 1 [妄想と暴走]

「行ってしまったね」

パーシヴァルはヒナとジャスティンの乗った馬車が通りの角を曲がると、振っていた手を静かにおろした。ヒナは祖父の招待を受け、両親の眠る土地へと旅立った。意気揚々としていたのはヒナだけで、ジャスティンはまるで自分が墓の中へ入るかのような陰気な顔をしていた。

「なんですか、あなたまで。二度とヒナが戻ってこないような口ぶりですね」ポーチに立つジェームズは、通りに佇むパーシヴァルにやれやれといった調子で声を掛けた。

「いやいや。もちろんそんなことは思っていないさ。確かにウェストクロウまで二日ほど掛かるけど、それでも一週間かそこいらで帰ってくるさ」
パーシヴァルは石段をのぼりジェームズと同じ場所に立つと、もう一度曲がり角に目をやり邸内へと戻った。

「普通ならそう思ってもいいでしょう。けど、ラドフォード伯爵の出した不可解な条件はどう説明する?許可がなければ帰宅も許されないなんて。帰りは送ってくれるのか?それとも門の外に放り出して終わりなのか?」

心配しているのか?ジェームズがヒナを?そんなことがありえるだろうか……。

ジェームズはただ、ヒナについてウェストクロウに旅立ってしまったジャスティンの帰りを待ちわびているだけなのでは?

だとしたら、これほど腹の立つ事はない。

これまで幾度となく思わせぶりな態度でキスやらなんやら――ほとんどキスだけだけど――しておいて、まだジャスティンを想うのか?

「いざとなったら僕が迎えに行くさ。ところでジェームズ。僕はパートナーにしてもらえるのか?」ぐっと身体を寄せて、至近距離から目を見て尋ねる。朝食後仕事の話があると言ったのはジェームズだ。わざわざそう言うからには、僕がもれなくパートナーになるのは間違いない。はずだ……。

「そうしろというジャスティンの命令だからね。君がどのくらい出資するかにもよるけど」ジェームズはふいと目を逸らした。

またジャスティン!

「改装費はすべて出すと約束した」憤慨して言う。

「今回の改装費がどのくらい掛かったのか、あなた、知っているのですか?絨毯や壁紙の張替え、調度品もいくつか新調しましたし、従業員に特別手当も支給しました」

「金なんか望むだけ差し出すさ!」ったく。なんて憎らしい男だ。「そっちだって、僕から金を引き出す努力くらいしたらどうだ?」

「というと?」

鋭い一瞥がパーシヴァルに突き刺さる。心なしかジェームズが本気で怒っているように見えた。

「ちょっと言ってみただけだ……」囁くように言い返し、ジェームズの腕を取った。「書斎はいやだ。図書室に行こう」

せっかくジェームズと二人きりなのに、いくら仕事の話とはいえ書斎などという堅苦しい場所はごめんだ。それに、あそこはジャスティンの匂いが染みついている。見張られているようで落ち着かないうえ、仕事以外の何かが出来そうな気がしない。

図書室には、ヒナお気に入りのふっかふかの大きなソファがある。ふっくらとしたピンクのクッションは背中に敷いて事をいたすのにちょうどいい。いや、胸に抱いて背後から……という手もある。

でも、汚したらヒナに怒られちゃうかな。ああ見えてヒナは怒ると恐いし、泣くと最強だし、かわいいもの大好きだし。

「調子に乗らないで下さい」

耳にジェームズの冷たい声が直接響き、考えに耽るパーシヴァルの手は素っ気なく払いのけられた。あまりの仕打ちに愕然とする。

キスはおろか密着する事すら叶わないとは、目的を達するには相当な努力と辛抱が必要なようだ。

つづく


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あとがき
こんばんは、やぴです。
パーシーとジャムのお話。
というか、恋するパーシーのお話?
邪魔なヒナとジャスティンがいないので、いまのうちに……と考えているパーシーです。

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妄想と暴走 2 [妄想と暴走]

普段ヒナが勉強に使っている大きなテーブルの前の硬い椅子に座らされたパーシヴァルは、ジェームズの小憎らしくも上品な手によって並べられていく帳簿や書類の数々に、目を回した。

「なにをするつもりだ?」恐る恐る尋ねる。

「クラブがいまどういう状況にあるのか、ひとまず数字で把握してもらいます」無表情で淡々と答えるジェームズ。

す、すうじ?

「儲かっているんだろう!」それで事足りるとばかりに言う。

「もちろんです。誰が経営していると思っているんですか?」ジェームズはくいと片眉をつり上げた。それから帳簿のひとつを指差し、あれこれと講義を始めた。

言っていることは何ひとつ理解できないが、こういう自信に満ち溢れた、ちょっと高飛車なジェームズが好きだ。キビキビとした声は耳に心地いい。時と場合によってはその声の冷たさに傷つくこともあるけど、大抵において、耳の後ろを掻いてもらっている子猫のような気分になる。
ついでに、全身あらゆる場所を長くて綺麗な指でかきむしってくれたらいいのに。優しくてもいいし、少しならひどくてもいい。

ああ!ジェームズに引っかかれたらどんなに興奮するだろうか?感じやすい場所――あそこの先っちょなんかをカリカリとやられたら、ここ久しく味わっていない、得も言われぬ快感が味わえること間違いなしだ。

「聞いているんですか?」

帳簿が机を打つ音でハッと我に返る。まるで自分の尻をぶたれたかのようにぞくぞくと背筋が震えた。

「聞いているとも。君の声を聞き逃すものか」パーシヴァルは堂々たる態度で答えた。

「では、この数字はなんですか?」

ジェームズはまるで教師のような口ぶりで、一枚の紙の中央辺りに人差し指をぐっと押し付けた。

見るところ、先日のイベントに掛かった経費のようだが、まさかこの馬鹿みたいな金額も僕に出せというのか?請求書が届くのはクリスマス前かそこらだろうけど、いったい僕には儲けの何割くらい手元に入るのだろうか?まさか金を出すだけなんてことないよな?クラブ経営なんかしたことないから、金がどんなふうに動いているのかさっぱりだ。

「請求書は僕にまわせばいい」と格好をつけて言ったものの、ジェームズは冷ややかな目で見返しただけで、書類や帳簿を全部重ねてしまった。

いったいどこが気に障ったのだろうか?このままではなんのご褒美も貰えずじまいだ。

「その……急にいろいろ言われても、僕は仕事なんてしたことないんだ。ちょっとくらいわからなくても大目に見てくれよ、な」

小さい頃を思い出す。恐ろしい家庭教師は大目に見るなんてこと一切なかった。おやつも食べさせてもらえず、課題を終えるまでは部屋を出ることも、席を立つことすら出来なかった。

ジェームズがじっと見る。「やる気を確かめたかっただけです」

それならそうと言ってくれ!

「やる気はあるさ!!ただ……細かいことはよく分からない。ジェームズがいちからみっちり教えてくれれば、ジャスティンよりもいいパートナーになる自信はある」

パーシヴァルはもじもじと膝の上で手を揉み合わせた。うっかり股間に手が触れ、そこが硬くなっていることに気付いた。ジェームズにいいパートナーだと認められれば、この子もきっと喜ぶだろう。パーシヴァルはジェームズに気付かれないように、愛らしい息子をよしよしと撫でた。もうずっと可愛がってあげていない。限界はそこまで来ている。

それもこれも、ジェームズが焦らしまくっているせいだ!

「ジャスティンよりもいい経営者になると?四六時中仕事ばかりしているような人ですよ。まあ、最近ではヒナに割く時間が増えて、他の者に仕事を割り振ることを覚えましたけど」ジェームズはそう言って、懐中時計を取り出した。「ひとまず、お茶にしますか?」

「いいね」

硬い椅子から柔らかいソファに移動するのに、これほど自然でいいタイミングはないだろう。

パーシージュニアも大喜びだ。

つづく


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妄想と暴走 3 [妄想と暴走]

あれだけ意気込んでいたくせに、どこか上の空のパーシヴァルを見ながら、ジェームズは今後のクラブ経営について真面目に考えていた。

僕は帳簿を管理し金銭の出入りに気を付けていればいい。ジャスティンが抜けた穴はハリーが補ってくれる。
だから、パーシヴァルはハウスパーティーのホストのような存在でいればいい。

頭では分かっているのに、どうもしっくりこない。

パーシヴァルのような人間は仕事をするにふさわしくない。もちろん将来的には、あちこちに点在する領地の管理という仕事が待っている。けど、それも、土地管理人や財産管理人がいれば、死ぬまで仕事とは無縁の生活を送れる。時折、決済の為にサインすればいいだけのこと。

「ジェームズこっちへ来ないのか?」

見習い使用人のデイヴナムがティーセットを手にやってくると、パーシヴァルは上機嫌でジェームズに手招きをした。

まるで愛人をベッドに誘うような仕草だな、とジェームズは思った。

いっそ愛人のように振舞ってみようか?パーシヴァルがのぼせあがっているのは、どうせ一時のこと。長くは続きはしない。

ジェームズはデイヴナムを目で追い払うと、間になぜこの屋敷にあるのか分からないピンク色のクッションを挟んでパーシヴァルの横に座った。

パーシヴァルはマグを握り締める子供のように、華奢なティーカップを両手で包み込んでいたが、あたふたとティーカップを小さくて背の低いテーブルの上に戻すと、ぐいぐいと詰め寄って来た。

「ジェームズはコーヒーがよかったんじゃないのか?チャーリーのやつ、おやつを忘れたようだ。どうしても欲しいと言うなら、もう一度忌々しいチャーリーを呼びつけるけど?」本当はもう誰ひとりとしてこの場に立ち入らせたくないといった口ぶりだ。

「なにをヒナみたいなこと言っているのですか?今日から当分の間、まともなおやつが食べられるなんて思わないように。シモンはヒナがいなくてすっかりやる気をなくしていますから」

「そうなのか?ヒナが手に大事そうに持っていたバスケットからは、甘くていい匂いが漂っていたけど、まさか僕の分を置いて行ってくれないなんて、まったく!冷たい坊やだよ、ヒナは」

「ヒナは欲張りでケチですからね」おやつもジャスティンもひとり占めにしてしまった。

「うん、言えてる」パーシヴァルは頭を上下に振った。「ところで、僕だって欲張りなんだけどな」と言って、身体を傾げてきた。

ジェームズはパーシヴァルを押し返した。「でしょうね。ラドフォードの人間は強欲な者が多いようですから」

「むっ。伯父と一緒にしないでもらいたいね。僕は自分の欲を満たすために誰かを困らせるような事はしない」

「ほおぉ」

「なにが、ほおぉ、だよっ!僕が君を困らせているとでも言いたいのか?」

「違うとでも?」

パーシヴァルが傷ついた顔をした。冗談も通じないとは――いや、冗談だとも言い切れないのだが、いまはキスくらいならしてもいいと思っている。パーシヴァルの身体から匂い立つ誘惑の香りに抗えなければ、もう少し先まで行ってしまいそうだ。

つづく


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妄想と暴走 4 [妄想と暴走]

ジェームズがその気になっているように見えるのは、錯覚か都合のいい妄想か――まさかの現実か。

パーシヴァルは期待と興奮で震える手で、ジェームズのカップに紅茶を注いだ。どうにかしてジェームズが正気に戻る前に、正気を失くさせる必要がある。

「紅茶にブランデーでも垂らすか?」むしろブランデーに紅茶を垂らしたいくらいだ。シモンはいつもそうしていると、ヒナが言っていた。

ところで、ジェームズは酒に強いのか、弱いのか?それすら知らないことに気付いて、パーシヴァルは少なからずショックを受けた。ジェームズは僕がブランデーやウイスキーの類が苦手なのを知っている。それは単に客の好みを把握していたに過ぎないのだが。

「ここにはありませんよ。万一、ヒナが口にしてはいけないので」

チッ!「ああ、ここがヒナの屋敷だってことうっかり忘れてたよ」茶化すように言ったが、内心ヒナを恨まずにはいられなかった。応援しているというわりに、ちょいちょい邪魔をするのだから、まったく。

「三年前からずっとそうです」

ジェームズは笑みを見せている。どうやら機嫌は良いようだ。

好きな人とソファに仲良く並んでお茶を楽しむ、こんな日が来ようとは、ほんの数ヶ月前には想像もしなかったことだ。しかも相手は堅物ジェームズ。僕の魅力をもってしても、堅牢過ぎる守りを崩さない男だ。

つい数分前まではここに押し倒されることを望んでいたが、このままずっと寄り添っているのも悪くはない。

となると、このピンクのクッションが邪魔だ。すごく。

そう思っていると、ジェームズがクッションを掴んで持ち上げ、二人を隔てる障害物を取り除いてくれた。

「これはあなたが持ち込んだものですか?」

「いや、それはヒナのだ。おおかたジャスティンが『お!これはヒナが喜びそうだ』とかなんとか言って買って来たんだよ。衝動買いってやつさ。君みたいによくよく吟味して買って来たものとは違う」そう言って、パーシヴァルは感謝の眼差しをジェームズに向けた。「ステッキ、気に入っているんだ。最近は出掛けることも少ないけどさ」

「これからはもっとその機会が減るかもしれませんよ。仕事、するのでしょう?」

「そう言っているだろう」拗ねてうつむくとジェームズの手が伸びてきて、顎をとられてそのまま抱き寄せられた。

ああ、ここは図書室だぞ。と、束の間理性的な事を考えたりしたが、こんなチャンスを逃すのは愚か者か、恥ずかしがり屋だけだ。幸か不幸か、パーシヴァルはそのどちらでもない。

ジェームズはこめかみのあたりにキスをし、それから囁くように言った。「心配しなくても、好きな時に好きなだけ出掛けられる。ラッセルでヒナとお茶を楽しんでもいいし――」

なんだって?「役立たずだからか?だから、好きなようにすればいいと?」ジェームズの物言いに、つい口を挟まずにはいられなかった。肩でジェームズを小突き、唇を噛んで青い瞳を睨みつける。

「いいえ。あなたはこれまで通り、自由で魅力的でいればいいと言うことです。そうすれば、クラブの役に立つ」

最初に持ち上げておいて、最後に崖から突き落とす。ジェームズのいつもの戦法だ。

「むっ。その言い方だと、客寄せのサルみたいじゃないか」

ジェームズはちょっとだけ考えるふりをして、「そうとも言えますね」とにやりと笑った。

なんだ、からかっているのか。むきになって反論なんかして、もう少しでいい雰囲気を壊すところだった。

ジェームズがなぜ急に――ジャスティンがいなくなった途端――こうも、親密な態度に変わったのか不思議でならなかったが、やはり、ここはチャンスをふいにするわけにはいかない。くだらない事を考えるのはやめて、二人の『初めて』に向けてもっともっといい雰囲気にしなければ。

ああ、初めての場所が図書室なんて――わくわくする!

つづく


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妄想と暴走 5 [妄想と暴走]

ジェームズは嫉妬深い。そのうえ、臆病だ。

その臆病さゆえ、出会ってからずっと想いを寄せてきた相手に、ただのひとつも自分の気持ちを伝えることが出来なかった。そのうち、ひょっこり現れた子供に想い人をあっさり奪われてしまい、長きに渡って嫉妬に身を焦がすはめになった。

苦しみ抜いた末、ついに先日とどめを刺されたのだが、その傷を舐めて癒そうとする男がいま腕の中にいる。

厄介で手に余る男だが、ジェームズは自分で思うよりもこの男を好いている。時折見せる嫉妬深い態度や、臆病な言動がそれを如実に物語っている。

「ひとついいですか?」

蔦のように絡みつくパーシヴァルを揺さぶりながら、おもむろに尋ねた。

「んん……なんだい、じぇえむず」

パーシヴァルはジェームズのあちこちに口づけるので手一杯な様子で、首筋に噛みつきながらやっと一息ついた。

ジェームズはうっと呻き、束の間ためらった後、きっぱりと言った。

「ひとときの関係はごめんです」

そういうのは元々性分に合わない。こっちが気を許した途端、ゴミくずのように捨てられるのも我慢ならない。

パーシヴァルはジェームズの言葉を聞いた途端、驚いた様子でパッと身を離した。

「き、君はいままでの僕の告白を一切聞いていなかったようだな。僕はジェームズ以外の誰かと、こうやって抱き合ったりキスしたり、身体をベタベタさわったり、そういうことをしないと誓った。僕は全部君に捧げたんだ。心も、身体も、全部だぞ!それなのに、これをいっときの事だと言うのか?僕を傷つけたいのか?」

怒りで声は震え、顔は真っ赤だ。

こんなふうに反論されるとは思わなかった。ただ一言、僕もだと言ってくれればそれでよかった。

ジェームズの臆病さがパーシヴァルを傷つけた。パーシヴァルはこれまで何度も本気だという事をみせてきた。一途に。

そんなパーシヴァルを拒んではほんの少しだけ受け入れ、ことあるごとに期待させては失望させ、振り回してきたのはジェームズだ。

「すまなかった」

ジェームズはダークブロンドの髪に触れ、頬を撫で、唇に吸い寄せられるように、パーシヴァルに覆いかぶさった。

ここは図書室だぞ。という声がどこかで聞こえたが、ジェームズはかまわなかった。そろそろ本気でパーシヴァルに特別な感情を抱いていることを認めなければならない。

キス以上の何かを望んでいるなら、それを与える覚悟もある。

もはや躊躇いなどない。パーシヴァルが欲しいと言うなら、僕のすべてだって与えてやる。真剣には真剣を。

ジェームズは何事も徹底した男でもあった。

つづく


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妄想と暴走 6 [妄想と暴走]

ジェームズの圧倒的な力に、パーシヴァルは怯んだ。

この細い腕にこれほどの力が潜んでいようとは、ジェームズに抱きあげられたことがなければ到底信じられなかっただろう。

あまりに勢いよく押し倒されたため、あやうく後頭部をソファに強打しそうになったが、ソファはもとよりふかふかの上、ヒナのクッションがちょうどいい場所にあり、結果、ジェームズが覆いかぶさってキスするにちょうどいい角度に仕上がった。

パーシヴァルが目を閉じる間もなく、ジェームズの唇が降ってきた。
これまでとは違うキス。ジェームズがパーシヴァルを受け入れたと証明するようなキス。欲望よりも優しさや愛情が優先されているキス。

ジェームズの頭に手をまわして、強く引き寄せた。キスの合間に至福の吐息がこぼれた。それともそれは、ただの息継ぎだったのだろうか?

どちらでもいい。僕はいま、幸せだ。

「ジェームズ、僕を好きだと言ってくれ」切望するあまり、声は掠れ、目には涙が滲んだ。たった一言を聞くために、僕がどれほど待った事か。この期に及んで、好きだと言ってもらえなかったら、テーブルの上のポットに手を伸ばして、それでジェームズの頭を叩き割ってやる。

「好きですよ」ジェームズはパーシヴァルの透けてしまいそうなほど薄いブラウスのボタンを外しながら、あっさりと言ってのけた。

パーシヴァルは嬉しくて泣いた。ジェームズがブラウスの袖を引っ張った時、脱がせやすいように腕を引いた時も泣いていた。もう片方の腕を引いた時も、背中を浮かせた時もまだ泣いていたが、ズボンのボタンに手がかかった時にはさすがに涙を止めた。

これまで幾度となく、ジェームズに貫かれ歓喜に打ち震える様を想像してきたが、やはり初めての場所が図書室だなんて嫌だ!

ジェームズとは寝返りも打てないようなソファで適当に済ませるのではなく、スプリングの程よく効いたベッドの洗いたてのシーツの上で、あっちこっちに転がりながら、一日中時間の許す限り出来るだけ長く愛し合いたい。

けど、ここでいきなり中断するのはいかがなものだろうか?夢から覚めてしまわないだろうか?

つづく


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妄想と暴走 7 [妄想と暴走]

不思議なもので、パーシヴァルを好きだと認めそう口にした途端、これまでずっとそうだったかのような親密さが芽生えた。

自由奔放で羞恥心の欠片もない男だが、案外一途で自分と相通じるものがある。そこがパーシヴァルを気に入る要因のひとつとなった事は確かだが、ほかにどこがどう好きなのかと問われたら、もう少し関係を進めてみないと答えることは出来ないだろう。

これまで従順だったパーシヴァルが、身体の下で抵抗と取れるような反発をみせた。拒絶か?誘ったのはお前だろう、と大声を出したくなった。

「逃げる気ですか?」ジェームズはパーシヴァルの片方の手首をとり、口許に持っていった。手の平を舌先で刺激し、指のひとつひとつを口に含む。ゆっくりと、奥まで入れては、抜き、強く吸う。視線はパーシヴァルの瞳に据えたまま、爪の先を少しだけ強く噛んだ。

「ちがう……」パーシヴァルは喘ぐように言い、溢れる唾液を飲み込んだ。「ただ、僕は――」

「指を舐められて感じている」

パーシヴァルの好みは知っている。この二年、様々な男たちとの戯れを目にしてきたのだから。嫉妬しないかと言えば嘘になる。たとえその時、パーシヴァルに対して何の感情も持ち合わせていなかったとしても。

「ふ……う、そうだけど、僕は、その……ああ!そこは、待って。さわっちゃ――」
パーシヴァルはいやいやと頭を振り、形だけで抵抗しつつも、腰を浮かせ、ジェームズの手に高まりを押し付けた。ズボンを引き下げ、強く揉む。下穿きの中央辺りは濡れて、手に当たるとひんやりとした。けれどそこもすぐに熱を帯び、手の下でさらなる解放を求めて激しく脈打った。

ジェームズは一旦手を離し、上半身を起こした。

今度はパーシヴァルが逃げる獲物を追いかけるような目つきで、ジェームズの上着を引っ掴んだ。

「脱ぐだけです」と言い、ジェームズは素早く上半身裸になると、再びパーシヴァルに覆いかぶさった。勢い任せなどジェームズらしくないが、経験不足と自信のなさは勢いでカバーするしかないのだ。

パーシヴァルがジェームズを抱き寄せる。素肌が触れ合い、お互いの興奮が否応にも増した。

カサッ。

乾いた音がすぐ横で聞こえ、キスに没頭していた二人は同時に顔を音のした方に向けた。

「ショートブレッドをお持ちしました」と、あさっての方向を向いたままチャーリーが告げた。

ショートブレッド?今頃か?すでに紅茶は冷めているし、ティータイムはとっくに終わっている。

「いま、すぐに――出て行け!」

ジェームズは、ジェームズらしからぬ大声を出し、チャールズ・デイヴナム見習い使用人を追い払った。

こんな現場を見られたことよりなにより、邪魔をされた事の方が腹が立った。パーシヴァルを満足させることの必須条件の勢いをくじかれたからだ。

けれども、パーシヴァルの身体はより一層熱を帯びていた。見られると興奮するタイプだった。

つづく


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妄想と暴走 8 [妄想と暴走]

とんだ食わせ者だ。

パーシヴァルはチャーリーをそう評価した。

さすが、ジェームズが雇っただけのことはあるが、顔を逸らしながらもずけずけと恋人が睦み合っている場所へ踏み込んでくるなど常人の成せる業ではない。たとえここが図書室だとしてもだ。だいたい、雇われたばかりの見習いが勝手に入ってくる場所ではない。

でもおかげでジェームズが場所を移しての続きに快く同意してくれた。シャツを軽く羽織っただけの破廉恥な姿はそうそう見られるものではない。階段を駆け上がる姿のなんと雄々しい事か!

パーシヴァルは足をもつらせながら、ジェームズのあとを追った。足がもつれるのはズボンがしっかりと上まであがっていないせいだ。

「パーシヴァルどこへ行く!」

パーシヴァルはのぼりきった階段を右手に、ジェームズは左の方へ向かっていた。

「え、あ、そっちか。てっきり、僕の部屋へ行くのかと」

「あんな広い部屋は落ち着かない」

ジェームズが拗ねたように言うものだから、パーシヴァルはついあやすような口調になる。

「でも、広いベッドの方がいいだろう?」

「広すぎる」

「二人なら、そうでもない」

ジェームズは納得しかねるといった様子だったが、時間を惜しむようにこちらへ大股でやって来た。肩に手を触れ、先を促す。二人はほとんど同時に部屋へ踏み込んだ。

ジェームズはシャツを脱ぎ捨て、不満げな顔つきでパーシヴァルの手から平らで四角い籠を奪い取った。チャーリーが持って来たショートブレッドだ。

「なぜこんなものを?」ジェームズはちょっと怒っているようだ。

「きっとあとでお腹が空くと思って」意味ありげな視線を向け、にこりと笑う。

僕たちがこれからどれだけ体力を消耗すると思っているんだ?ベッドから這い出ることさえままならない状態になるってのに、非常食も準備しておかないなんて、それはあまりに軽率だ。考えなしもいいところ。ベルを鳴らせばすぐに誰かがすっとんでくるけれど、誰も呼びたくなかった。もしかしたら、呼ばれたって誰も来ないかもしれない。

ジェームズは籠をベッドサイドの小さな台の上に置き、パーシヴァルを追い込むようにしてベッドに押し倒した。

パーシヴァルは歓喜した。こんなふうにもつれ合いながらベッドに倒れ込むのが夢だった。無理矢理押し倒されたり、ベッドに投げ出されたりするのは、粗末に扱われているようであまり好きではない。でもまあ、恋人に――ジェームズにされるなら、話はまた別だ。

ジェームズの豹変ぶりは恐ろしくもあった。まんいち恋人になったとしても、愛し合うのはもっとずっと先の事だと思っていたから。ジェームズが僕に対して欲情するだなんて想像もしなかった。
でも実際欲情している。それは股間の膨らみを見れば一目瞭然で、そこは想像以上の大きさで、パーシヴァルは思わず目が眩んだ。

どうりでブルーアー夫人が手放したがらなかったわけだ。

つづく


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妄想と暴走 9 [妄想と暴走]

パーシヴァルは味わうのが好きだ。身体のどの部分でも軽く歯を立て、舌を這わせ、吸い付く。時には強く。

ジェームズは痛い思いをするのはごめんだった。それ以外にもされたくない事やしたくない事が山のようにある。

けれども、一旦事を始めてしまえば、ちょっと噛まれたり執拗に舐められたりするのも、まあ悪くはない。ほとんど主導権を取られたままだが、かの夫人の言いなりになっていた頃のような屈辱もない。

今パーシヴァルは、ベッドに仰向けに横たわるジェームズの股の間に、恭しい態度で膝をついた。

「ああっ!ジェームズ。君のここは素晴らしい!!」パーシヴァルが突如驚嘆の声をあげた。「ずっしりと重たくて、手に収まりきらないじゃないか!」手の平に双球を乗せ、重さを確かめるようにたぷたぷと揺する。

大袈裟にも程がある。それに下品だ。

「ひとのそこを弄びながら、馬鹿みたいな声を出すのはやめてください」ジェームズは努めて冷ややかに言った。

「ずっとこうしたかったんだ。ちょっとくらいいいじゃないか」子供じみた口調で、当然の要求だとばかりに主張する。

ジェームズは呆れた。「なにがちょっとくらいだ」ムッとして言う。

パーシヴァルはこんな場所でも気取った仕草で肩をすくめ、ジェームズの高まりの先端にちゅっと音を立てて口づけた。「そう言うなよ。気に入ってくれるといいんだけど」と言って、何度か先端を舐め回した後すっぽりと口に含んだ。

「パーシヴァ……ル――っく!――」
もっと奥まで!強く吸ってくれ!ジェームズは声を出さずに懇願した。金箔の施された天井を仰ぎ、忌々しい天使の数を数えた。これだから、パーシヴァルの部屋は嫌だと言ったんだ。

正直、パーシヴァルはこういうことはしないと思っていた。されるのもあまり好きではないと思っている。けど実際には、素晴らしく巧みに、僕を追い詰めている。このままではパーシヴァルの口で果ててしまう。

パーシヴァルがちらりとこちらを伺う。「気に入ってくれた?」

もちろんだ!と叫びたかったが、ジェームズは控えめに「ああ」と唸っただけだった。

「このまま僕の口でいってくれ」パーシヴァルが懇願する。

「ダメだ」ジェームズは上体を起こすようにして腰を引いた。

パーシヴァルが切ない声をあげた。おもちゃを取り上げられた子供のような、もしくはおやつを取り上げられたヒナのような、悲痛さだ。

「もうその辺でいいでしょう?」ジェームズはパーシヴァルの腕を掴み、自分の身体の上に引き上げた。

軽くキスをして、なめらかな背に指を這わせた。パーシヴァルは敏感に反応して仰け反り、ジェームズの指が背骨を伝ってゆっくりと下降していくあいだ、期待に満ち、恍惚していた。

端まで行き着いた指は、谷へと滑り込み、窪みへと到達した。

「ハァ……んっ……」パーシヴァルは感じ入った声を漏らし、指に向かって尻を突き出した。「ジェームズが欲しい」

「まだだ」今度はこっちがもてあそぶ番だ。

つづく


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妄想と暴走 10 [妄想と暴走]

早く欲しい。

パーシヴァルは拗ねたようなキスをして、焦らすジェームズの鼻をかじった。

「痛っ!なにするんですか?」

ふんっ!こっちは身体のあちこちがじれったさに悲鳴を上げてるっていうのに、ちょっとかじったくらいなんだっていうんだ。

「いまになって、やっぱりやめたって言うんじゃないだろうな」そんなこと言おうものなら、いますぐにジェームズの首を締めてやる。見る限り身体が反応しているのは間違いない。だったらどうして、ベッドに押し倒したときのような激しさと勢いで僕を満足させてくれないのだろうか?僕がジェームズを満足させることも拒むのはなぜだ?

もしかすると僕の身体は自分で思うほど魅力的ではないのか?余計な肉は付いていないし、肌もすべすべだ。不満があるとは思えない。まさか!いろんな男の手垢が付いた身体は欲しくないとか?

「こっちは初めてなんだ。もっとゆっくり進めてもいいだろう?」ジェームズは照れ隠しか、素っ気なく言ってパーシヴァルの小さな顔を両手で包んだ。出来の悪い子供に言い聞かせるときのような、優しい目で同意を引き出す。

パーシヴァルは操り人形のように頭を垂れた。

「光栄だ」

ジェームズが微笑む。いい子にはご褒美とばかりに、キスと愛撫をくれた。大切な宝物を扱うような優しい手つきで。

いつ以来だろうか?こんなふうに誰かが僕に愛情をみせてくれたのは。

すごく不安になるけど、ジェームズは紛れもなく僕に愛情を示してくれている。もちろんこっちの想いに比べたらほんのささやか程度かもしれないけど。それでも僕たちはいいスタートを切った。そうでなければ、ジェームズの指が中へ入って来るはずがない!

「ああ……ジェームズ――」準備は整っている。いつでもその大きくて硬い淫らな棒で、僕をめちゃくちゃにしてくれて結構だ。パーシヴァルは腰を軽く前後に揺らし、細い指の感触を余すことなく味わった。繊細で骨ばった指がもう一本追加された。中を探られ、ぶるぶると震えた。恥ずかしい事に、もういってしまいそうだ。

せめてジェームズを迎えるまでは我慢したい。

「本当に初めてなのか?あっ……ん、そこはすごくイイ!」

「もちろん。気に入ってくれたのか?」ジェームズはパーシヴァルと同じように尋ねた。憎らしいほど高慢な微笑みをみせて、僕のお腹に濡れたペニスの先を押し付けてきた。

ひどい!僕がどれだけこれを欲しがっているのか知っているくせに。

パーシヴァルは自棄になって、ジェームズの唇を貪った。舌を乱暴に突っ込み、歯のひとつひとつを余すことなく舐めつくした。ジェームズは呻き声をあげ、激しいキスで応酬した。

やっとジェームズの尻に火をつけられたようだ。これで、もう間もなく、ジェームズは僕とひとつになる。

もう、逃がすものか。

つづく


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