はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

花嫁の秘密 404 [花嫁の秘密]

ようやく見つけた。

部屋にいなくて焦ったが、まさか主寝室にいるとは予想外だ。

マーカスは灯りをかざし、ベッドで子供のように丸まるサミーを見おろした。

いったいこいつはここで何をしている?様子からしてここで眠るつもりはなかったようだが、何をしていたにせよ、いまだに兄を羨んでいるのは確かだ。

兄の留守中に部屋に忍び込んで、俺とたいして違わないな。お気に入りの毛布を抱きしめて眠る赤子のように枕を抱いて、成長したのは見た目だけか?

マーカスはしげしげとサミーを見つめ、あることに思い至った。

目当ては兄の妻か。枕がその代わりとはね。
だとしたらあのゴシップ紙の馬鹿げた記事も納得だ。当てつけに兄の元恋人に手を出すとは、サミュエルも思い切ったことをする。

灯りをベッドサイドにゆっくりと置き、横にブランデーボトルを置いた。部屋の隅の飾りワゴンからグラスをひとつ取って、半分ほど満たした。ポケットから小瓶を取り出すと躊躇うことなく、中の液体を数滴垂らした。

ずっとどうするか決めかねていた。腹を立てるほどでもないと自分に言い聞かせたが、あの日追い返されたという事実は変わらない。よくも俺を門前払いできたものだ。

感情をコントロールするのは得意だが、かつての教え子に袖にされて黙っているとでも?あの頃、サミュエルは俺の言いなりだった。先生だから、という理由だけではない。

マーカスは当時の記憶が次々とよみがえってくることに戸惑いを覚えた。おそらくひとつも忘れてはいないが、覚えていても意味のないことばかりで、いまの自分にはまったく必要がない。

たとえば、こうしてそばに立っているのにサミュエルが気付きもしないなんてことありえない。警戒心が人一倍強いサミュエルなら部屋に侵入した時点で気付いただろう。

だがあれからずいぶん経った。記憶にあるサミュエルと変わっていても何ら不思議はない。

グラスを軽く回して、中身を口に含んだ。ベッドにゆっくりとあがりサミーの顎を掴んで素早く口づけた。あの頃とは違う大人の男の匂いと高級な石鹸の香り。漠然としていた怒りともつかない感情が欲望へと変化する。

サミーは驚いてもがき、マーカスのすべてから逃れようとした。だがすべてが遅すぎた。

マーカスはアルコールがこちらから向こうへと渡るのを感じながら、こんなふうに事がうまく運んだことに警戒心を抱いた。罠にかけていると思っていて、まんまとはまったのは自分の方だった、ということもあるかもしれない。

サミーはむせながら、自分を押さえつけている男を睨むようにして見上げる。わずかな灯りで見えた姿に目をしばたたき、そして言った。

「マーカス?」

つづく


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花嫁の秘密 403 [花嫁の秘密]

あの日、アンジェラに出会った日。

僕はなぜ、こんな穴倉にいるのかと考えた。自分の足で出ることが可能なのに、なぜいつまでもここに逃げているのかと。

アトリエと呼んでいた離れから屋敷へ戻り、あの子と生活を共にしているうちに、ようやく生きている意味があるのだと思えるようになった。死んだように生きていた父のようにはなりたくなかった。こっそり街へ出て遊ぶのもそれなりに楽しかったけど、長年一人で過ごしてきたせいで、騒々しいのは苦手だった。

それがいまではその騒々しさが恋しい。

サミーは主寝室に入りドアを閉めた。主のいないその部屋はひっそりと、それから当然寒々としていた。火を熾すという馬鹿な真似はしない。すぐに出ていく。

整えられたベッドに手を滑らせた。ここでアンジェラも眠る。二人が何をするのかは知っている。夫婦なら当然のことをする。

まさかあのクリスがね、と失笑する。

アンジェラは過去クリスが付き合ったどのタイプとも違う。すべて把握しているわけではないけど、もっと大人びた物わかりのいいタイプ。端的に言えば、後腐れのない付き合いができる女性を選んでいた。おそらく結婚をする気がなかったからだ。

だからアンジェラのような子供――こんなふうに言えばアンジェラはそんなことないと子供っぽく反論するだろう――と結婚したと知ったとき、純粋に驚いた。しかも女性ではなかった。

サミーはくすりと笑った。ある日突然こんなに面白いことが起こるなんて、だれが想像しただろう。父が生きていたらどうなっていたことか。

冷え切った空気が身体にまとわりつき、サミーは身を震わせた。自分の部屋に戻れば暖かく、ベッドに入るのに足先を縮こませる必要もない。

それでもサミーは目の前のベッドにあがった。枕に手を伸ばして抱き寄せ、身体を倒した。

すぐに出ていく。胸の内で繰り返した。

目を閉じ、ぼんやりと考えたのはクリスでもアンジェラでもなくエリックのことだった。もしも寄宿学校で出会ったのがデレクではなくエリックだったら、僕の人生はいまと違っていただろうか。対して変わりはないように思うが、少なくとも、学校をやめることはなく父の虐待からも逃れられていただろう。

けど、やはり人生は残酷で、その先に訪れる真実からは逃れようはない。秘密を明かさないままではいけなかったのか?もしも僕が兄だと知らないままなら、クリスと長い間仲違いせずに済んだ。そう考えるのはあまりに愚かだとわかっていても、別の未来を想像せずにはいられない。

夢とも現実ともつかない狭間で、これまでに出会った者の顔が次々と浮かんでは消えを繰り返していた。

おそらく僕は夢を見ている。今朝の続きだ。エリックが出掛けるのを先延ばしにしろと言って、少しもめて、それから別れのキスをした。数日留守にするだけだと言っているのに、一人では危険だのなんだのとまるで子ども扱いだ。長めのキスでようやく黙らせることができたが、なぜこうもエリックは僕にかまうのか。

聞いたところで納得するような答えは返さないだろう。結局は自分の思い通りに相手を動かしたいだけ。

エリックはそういう男だ。

つづく


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花嫁の秘密 402 [花嫁の秘密]

フェルリッジのメイフィールド邸。

ここへ来るのは十年ぶりか、それ以上か。昼と夜、今日二度目の訪問だ。

懐かしさはない。ただあの頃と変わらず、すべてが規則正しく整った姿は、まだ前侯爵が生きているのかと錯覚を覚えるほどだ。

マーカス・ウェストは屋敷の裏手に回り、サンルームのフレンチ窓から中へ侵入した。鍵は掛かっていない。昼間のうちに少し細工をしておいたからだ。

ここには三年いた。正確には三年と五ヶ月か。この十年でみても、これほど長く滞在した場所はない。ひとつの場所に留まるのが苦手というわけではないが、たいていは一年ほどで飽きてしまう。とはいえ、この屋敷に何か特別な思い入れがあるわけではない。

サミュエルの家庭教師として有意義な時間は過ごしたが、ただそれだけ。

それなのになぜ、ここへ舞い戻ったのか。

オールドブリッジでの仕事を終え、実家に戻ったまではよかったが、そこにもやはり自分の居場所はなく鬱屈した日々を送るだけになった。事務所に寝泊まりして仕事漬けになるのも悪くないが、少し休みたかった。だから兄が何を言おうがしばらくは我慢していた。

自分は爵位を継げるからこの先安泰だと思っているのだろう。次男以下は手に職をつけさっさと屋敷から出て行けというのが長兄の考え方だ。
少し前までは父もそうだったが、歳を取って丸くなったのか、ただ単に話し相手が欲しいのかマーカスの帰宅をおおむね歓迎していた。

ある日、ゴシップ紙でサミュエルの名前を見つけた。まさかあのサミュエルがくだらないゴシップの的になるとはね。にわかには信じがたく、少し情報を集めた。兄のクリストファーが結婚したのはもちろん知っている。いつも鬱々としていた侯爵が亡くなって爵位を継いだことも。

葬儀に行こうなどとは考えなかった。父は不満そうだったが、当時なぜ家庭教師を辞めさせられたか知れば誘うことはなかったはずだ。それどころか絶対に顔を出すなと言い放ったことだろう。

目的はサミュエル、どうするかはまだ決めていない。確かめたいことがあって来たが、一度門前払いされているから勝手に入らせてもらったまで。悪いのはサミュエルだ。

マーカスは自身を納得させ、途中静まり返った客間を横切りボトルをひとつ手にした。緊張で喉の奥が詰まったような感覚に襲われた。

心配はいらない。邸内は熟知している。

それにサミュエルは何の抵抗もしないはずだ。なぜなら、できるはずがないからだ。

つづく


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花嫁の秘密 401 [花嫁の秘密]

すっかり遅くなってしまった。

サミーは揺れる馬車の中から灰色の空を眺め、雨が降り出すのと屋敷に着くのとどちらが先だろうかと考えた。木々はすでに黒い影となっている。

列車の旅は順調で何も問題はなかったのだが、なにせ駅から屋敷までが遠い。それでも馬車の旅に比べれば格段に早いし、個室は広く快適に過ごせる。今回は荷物も少ないし、この身ひとつでいいのでかなり手間は省けている。

エリックがフェルリッジに専用駅を造れば、列車での移動ももう少し好きになれるだろうが、駅を造るのはあまり現実的ではない。領主だからといって土地を好きにできるわけではないし、きっとクリスは反対するだろう。

もう少し早く出て、時間があればキャノンのところに顔を出したかったが、明日直接屋敷へ来てもらうことにしよう。いまの時期はどうせ暇だろうし、話を聞きながらお茶を飲む時間くらいは作ってくれるはずだ。

屋敷に着くと、ダグラスの代わりにグラントが出迎えた。まだ若く頼りないところもあるが、ダグラスが留守の間、屋敷を任せられるまでになったらしい。

「おかえりなさいませ、サミュエル様」

ただいまと言うのは何かおかしい気もしたが、やはりここは自分の家で、ようやく戻ってきたと実感している。「ただいま、グラント。変わりはないかな?」クリスマスの飾りつけもすっかり片付き、家族みんなで浮かれ騒いでいたのが嘘のようにひっそりとしている。

「はい。旦那様と奥様が出掛けられてからは特に何も」グラントは背筋を伸ばして、サミーの次の言葉を待った。

「大騒ぎで出て行っただろう。まあ、それも仕方ないけどね」ダグラスからどこまで聞いているのかわからず、それ以上口にするのはやめた。本当はクリスの反応やアンジェラの様子を聞きたかったが、どちらにせよグラントでは答えられることに限りがあるだろう。

夕食は簡単なものを用意するように言って、書斎へ向かう。クリスが残した仕事があるだろうから、それを片付けつつ少し調べ物をしよう。遅れてくるブラックが、追加で情報を仕入れてくれているといいんだけど。

エリックがしつこいからブラックを同行させることにしたけど、いまはそうしてよかったと思っている。慌ただしくクリスたちがここを発ってからも、クリスマスの贈り物を玄関に置いた人物を調査員が探していたが、酒場でよそ者を見かけたという証言以外の成果は得られていない。

もちろんこれはエリックの言い分だ。スミス、とか言ったか、何の変哲もない地味なあの男が、雇い主の期待する結果を持たずにのこのこ戻ってきたとは思えない。必ずなにか見つけているはずだ。

明日以降ブラックに調査させれば、エリックが持っている情報と同等のものは手に入れられると確信している。

つづく


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花嫁の秘密 400 [花嫁の秘密]

「ねえ。サミーは出掛けちゃってクリスもハニーもいないのに、僕たちだけここにいるのってなんか不思議じゃない?」

セシルは居間のいつものソファに座って、その広さを確かめるように両手を広げた。ゆうに三人は座れるソファが余計に大きく感じられる。

「別に。俺もいまから出掛けるし、ここにはお前だけになる」すぐそばの一人掛けのソファに座るエリックは、ちらりと時計に目をやり言った。お昼くらいまでダラダラしていると思ったけど、気づけば着替えを済ませている。

「え?どこに行くの?帰ってくる?」こんな広い場所に一人きりなんて嫌だ。そりゃあ居心地はいいし、お菓子も美味しいけどさ。

「ガキみたいなことを言うな。仕事だ。夜には戻る」エリックは情けないとばかりに頭を振った。

「仕事?新聞の方?それとも怪しい調査の方?」セシルは念のため尋ねた。聞いたからといって、なにもわかりはしないのだけど。

「なんでそんなにいちいち聞くんだ。俺の仕事になんか興味ないだろ」エリックは駄々をこねる三歳児を見るような目でセシルを見た。

「ないけど」セシルは白状した。兄が何をしているのか不思議に思うことはあっても、ただそれだけ。その先を知りたいとは思わない。「リックってさ、たまにすごい記事載せるから、そろそろかなぁって」

「お前のタイミングで仕事をしているわけじゃない」エリックはぴしゃりと言い捨てた。

「もしかして機嫌悪い?サミーがいないから」サミーは昼食後、出発が少し遅くなったと言いながら出掛けて行った。従者を一人連れていたけど、エリックから何か言われていたから、きっと見張り役だろう。

「そろそろ黙らないとどうなっても知らないぞ」エリックは獰猛にうなった。

セシルは口をすぼめて、ソファの上で居住まいをただした。そろそろお茶の時間だけど、どうしよう。僕も出掛けようか。

ふとしばらく会っていない恋人の事を思った。クリスマスに家族と過ごす習慣はお互い同じだったけど、ハニーが母様に秘密を打ち明けたのをきっかけにいつもとは違うクリスマスになった。休暇は終わったしそろそろ会いたいけど、来週までは会えない。

もし僕が大学をやめちゃったら、もっと会えなくなるかな。

「ねえ、S&Jの人と共同経営って具体的にどういう感じになるの?」

「まだ詳細は決まっていない。まあ、ステフはあまり乗り気じゃないが金は出すと言っているから、ジョンとサミーでクィンの役目を引き継ぐ感じになるだろうな」

そして僕はそのお手伝いってわけね。

「リックの役目は?」プルートスを買収する狙いがいまいちわからない。サミーをなぜクラブのオーナーにしたがるのか、なぜS&Jも巻き込むのか。けど、いまリックがその理由を口にしたとして、全部しゃべるはずがない。裏に何かあったとしても、絶対に僕やサミーが知ることもない。

「俺はただの仲介役だ。まあ好きに遊べる場所のひとつやふたつ確保しておくのも悪くないだろ」エリックはそう言って、伸びをするように立ち上がった。じゃあなと手をひらりとして、前のドアから出て行った。

いまだって好きに遊んでるくせに。でも出資者となったら、会費ももう払わなくてよくなるってことかな?僕も関係者になるわけだし、そうなったら好きな時に遊びに行けるけど、美味しい食事を提供するためにはいまみたいにのんびりしていられなくなる。ローストビーフ以外にも名物を作らなきゃ。

半分以上はサミーと一緒に仕事をする気になっているけど、でもやっぱり彼とあまり会えなくなると思うと、断りたい気持ちの方が勝っている。すぐに結論を出す必要はないとサミーは言ったけど、リックはもう決定事項として話を進めているだろうし、何より気が重いのはこの話を彼にすること。

いったいどういう反応をするのだろうか。まさか別れることにはならないよね。

つづく


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花嫁の秘密 399 [花嫁の秘密]

「俺を避けて明日まで書斎にこもるつもりか?」

サミーはペンをゆっくりと置いて顔を上げた。エリックが大股で部屋を横切ってくる。そのうち来るだろうとは思ったけど、予想より早かった。

「君を避ける理由なんてない」自分のすべきことをしているだけで、文句を言われるとはね。

エリックが机の前に立った。視線を落とし、たったいま書き上げたばかりの手紙に目を留める。

「ジュリエットと会うのか?」

やはり、ブラックが報告していたか。「いいや、しばらく留守にするから会えない」

「留守にしなきゃ会う気だったのか?」エリックは手紙をいまにも破り捨てそうな形相だ。ジュリエットとの今後の関係については説明したはず。

「会わないと決めたと言っただろう?君は人の話を聞いていなかったのか」とは言え、さすがに手紙の返事も書かないほど無礼な人間にはなれない。なるべきなのはわかっているけど、地獄へ突き落すその日まではなんでもないふうを装いたい。

「いちいち腹の立つ言い方をするな」エリックがぴしゃりと言う。もしかして機嫌が悪いのか?

サミーは思わずこぼれそうになる溜息を飲み込んだ。いつも飄々としていて、何を考えているのかわからないのが彼の売りだと思っていたが、最近のエリックは感情を表に出し過ぎだ。だからどうだというわけではないが、あまりに彼らしくない。

「計画通りに進めると話をしたばかりだろう。君こそ、昨日はどこへ?ずいぶん帰りが遅かったみたいだけど」手紙を折りたたみ、封筒に入れる。軽く封をして、手紙用の銀のトレイに置いた。あとでプラットに出すように言っておこう。

「お前と違って付き合いってもんがあるんだ」エリックはふんっと鼻を鳴らし、言い捨てた。

エリックの方こそ、いちいち腹の立つ言い方をする。けど、それを気にしても仕方ない。明日にはここを発つし、話しておくならいましかない。「あっさりブラックを手放したんだな。もう少し引き延ばすと思っていたのに」

「もともとお前のために雇った男だ。早いも遅いもない。好きにしろ」エリックはそう言って、書斎机の前のソファに腰をおろした。じっくり腰を据えて話をする気のようだ。

「ブラックが期待通りに動いてくれればいいけど」契約書にお互いサインはしたが、ブラックはどうあってもエリックの手の者だ。ひとまず頼んだ用を粛々と片付けてくれれば文句はないが、長い目で見たとき僕が彼をどれだけ信頼するかで関係性は変わってくるだろう。

だから努力するのはブラックではなく僕の方だ。

「ブラックは連れて行け」エリックがふいに口調を変えた。落ち着いた声音からは、命令ではなく懇願するような響きが感じられた。いつになく真剣な顔つきだ。

サミーはエリックを見据えた。「遠くへ行くわけじゃない。それに、用が済めばすぐに戻ってくる」

「それでも連れて行け」エリックのヘーゼルの瞳は一歩も引かない構えだ。

「君は僕が首を縦に振らない限り、ずっと言い続ける気なんだろう?」

「わかっているなら、何度も言わせるな」

ひと言、わかったと言えば済む話なのは理解している。けど、エリックに指図を受けたくないし、なによりブラックには別で動いてもらう必要がある。

サミーは返事をしないまま、エリックから目を逸らした。これでは負けを認めたも同然。結局言うことを聞く羽目になるのは、目に見えていた。

つづく


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花嫁の秘密 398 [花嫁の秘密]

朝食を抜いただけで、もうサミーは勝手な行動を取ろうとしている。

エリックは居間で目覚めのコーヒーを飲みながら、自分もサミーについてフェルリッジに行くべきか熟考した。もっと苦い一杯を頼めばよかった。

何の用事で行くのか、おおよその見当はついている。調べ物は好きなだけしてくればいい。問題があるとすれば、サミーがブラックを置いて一人で行くこと。

何のために譲ったと思っているんだ?そう訊いたところでまともに返事をしそうにもない。サミーは自分の行動にけちをつけられたと、不機嫌になるだけだ。

ブラックはいくつか用を言い付けられたと言っていたが、それを明かす気はないようだ。

「リックおはよう、もしかして朝食食べ損ねたの?」朝から元気いっぱいのセシルが、本を片手にやってきた。のんきに読書とはいい気なものだ。

「お前はサミーが留守の間どうするつもりだ?向こうへ戻るのか?」エリックはセシルのくだらない質問を無視して尋ねた。

「すぐに戻ってくるしここにいるよ。荷物動かすのも面倒だしね。リックはどうするの?向こうへ行くの?」セシルはソファに座って、本をすぐわきに置いた。

「あそこは俺の家じゃない」それどころか自分の持ち家でさえ、腰を落ち着けられる場所かといえば、一度もそんなこと思ったことはない。

「そう言うと思った。ところでさ、ハニーを脅したやつはわかったの?僕もサミーも彼女以外にはいないと思ってるけど」セシルはエリックのために用意された、サンドイッチのプレートに目を留めた。ハムとチーズのひと口パイは、つまむのにちょうどいい。

「朝からなんだ?」エリックは不機嫌さが顔に出るのを感じた。サミーのせいでイライラが止まらない。

「わかっていることを知りたいから。もしかすると、僕にもできることがあるかもしれないし。学校をやめる以外にね」セシルの声にとげとげしさが滲む。

何かと思えば。何もせずぷらぷらするくらいなら仕事を与えてやろうとしたのに、兄の好意は要らぬおせっかいと決めつけて、腹を立てているわけか。

「ほとんど片付いているから、お前の出番はない。それより、サミーがお前を頼りにしているから力になってやれ」驚くべきことだが、サミーは俺なんかよりセシルを必要としている。俺には何かと噛みつく癖に、菓子ばかり食っているセシルの方を頼りにするのはなぜなのか、理解に苦しむ。

「へぇ、犯人わかっちゃってるんだ。それってサミーも知ってる?」

「サミーが書斎から出てきたら話すつもりだ」そうしないと、セシル以上にとげとげしい物言いで文句を言った挙句、しばらく離れるのを機に関係を見直される可能性もある。

いまでさえ不安定なのに、これ以上の危険は冒せない。

つづく


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花嫁の秘密 397 [花嫁の秘密]

朝、部屋から出ると、ブラックが立っていた。

サミーは微かに眉間に皺を寄せた。

この男が呼んでもいないのに見える場所にいるのは珍しい。変わったことでもあったのか、もしくは昨日ジュリエットから届いた手紙についてエリックに告げ口したと報告に来たのか。

そういえばエリックは昨日の夜は部屋に来なかった。何時ごろ戻ったのだろうか。そもそも帰宅しているのか?

「今朝はどうした?朝食の支度がまだだと言いに来たのか」それでも別にいいけど。僕は一杯のココアがあればじゅうぶんだ。

「いえ、今日からあなたの従者だと言いに来たんです」ブラックが愛想の欠片もない口調で返す。

とうとうエリックの許可が下りたか。「従者ね。一応これまでもそうだったはずだけど、これからは僕の指示で動いてくれるわけだ」それでもエリックに報告はいくのだろう。「早速頼みたいことがある。朝食後、書斎に来てくれ」

「かしこまりました。では。後ほど」

ブラックが立ち去ると、サミーはさっそく今後の予定について考え始めた。そろそろ動き出すべきではあったが、一人だとどうしても限界がある。それを見越してか、エリックがブラックをタイミングよく差し出した。

行動を読まれているようで気に入らないけど、いまは情報のほとんどを共有しているし――そう思っているのはこちらだけかもしれないけど――問題ひとつひとつを確実に片付けていくためには仕方ない。

朝食の席にはすでにセシルがいて、いつものようにトーストにかぶりついていた。見慣れた光景にホッとする。昨夜は結構飲んだはずなのに、案外平気な顔をしていることも驚きだ。

「おはよう、セシル。早いんだね」自分の席に座って、プラットにココアを頼む。当然、エリックはいない。

「サミー、おはよう」セシルは口の中のパンを飲み下してから言った。今朝はミルクティーを飲んでいるようだ。

「エリックを見たかい?」サミーは尋ねた。

「ううん。昨日は遅かったみたいだからまだ寝てると思う」セシルは答えて、薄切りのハムを数枚トーストの上に乗せた。他にも何か乗せようときょろきょろする。

「そう。それなら先にセシルに言っておくけど、明日から二、三日留守にするよ」プラットが手元にココアのカップを置いた。ふんわりと泡立てられた生クリームが上面を覆っている。

「留守?どこへ行くの?」セシルはハムの上にスクランブルエッグを乗せて、マヨネーズをひとさじ回しかけた。

「ちょっとフェルリッジに戻って調べものをしてくる。その間ここにいてもいいし、コートニー邸の方に行っていてもいいし、セシルの好きにしていていいよ」できれば帰宅したときにいてくれたら安心できるけど、少し子供っぽい考えだろうか。最近は一人でいるよりも、誰かと一緒の方が落ち着ける。

「もしかして例の箱の事で?僕も行こうか?」セシルはサンドイッチにするつもりのトーストを、一旦皿に置いた。

「いや、それとは別件なんだ。けど、いまダグラスがいないのがちょっとね……」直接話を聞きたかったけど、しばらくは無理だ。いまクリスたちにはダグラスが必要だし、こちらの用件はそう急ぐほどでもない。どうせエリックも調べているだろうし。

「そっか、クリスと一緒にラムズデンへ行ったんだっけ。ハニー向こうでうまくやってるかな?」やはり気になるのはアンジェラの事。結婚してからいろいろなことに挑戦しているけど、まったく知らない場所へ行くのに、最低限の従者だけというのは心細いだろう。

「この時期旅行するにはふさわしい土地とは言えないが、いいところだよ。村人はちょっと閉鎖的なところもあるけど、僕にでさえ好意的だったから、アンジェラならきっと温かく迎い入れられているよ」

用が片付いたらみんなで押しかけるのも悪くない。そのためにはまず何から取り掛かるべきか、エリックと少し計画を詰めておく必要がありそうだ。

つづく


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