はじめまして。
BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。
コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。
花嫁の秘密 403 [花嫁の秘密]
あの日、アンジェラに出会った日。
僕はなぜ、こんな穴倉にいるのかと考えた。自分の足で出ることが可能なのに、なぜいつまでもここに逃げているのかと。
アトリエと呼んでいた離れから屋敷へ戻り、あの子と生活を共にしているうちに、ようやく生きている意味があるのだと思えるようになった。死んだように生きていた父のようにはなりたくなかった。こっそり街へ出て遊ぶのもそれなりに楽しかったけど、長年一人で過ごしてきたせいで、騒々しいのは苦手だった。
それがいまではその騒々しさが恋しい。
サミーは主寝室に入りドアを閉めた。主のいないその部屋はひっそりと、それから当然寒々としていた。火を熾すという馬鹿な真似はしない。すぐに出ていく。
整えられたベッドに手を滑らせた。ここでアンジェラも眠る。二人が何をするのかは知っている。夫婦なら当然のことをする。
まさかあのクリスがね、と失笑する。
アンジェラは過去クリスが付き合ったどのタイプとも違う。すべて把握しているわけではないけど、もっと大人びた物わかりのいいタイプ。端的に言えば、後腐れのない付き合いができる女性を選んでいた。おそらく結婚をする気がなかったからだ。
だからアンジェラのような子供――こんなふうに言えばアンジェラはそんなことないと子供っぽく反論するだろう――と結婚したと知ったとき、純粋に驚いた。しかも女性ではなかった。
サミーはくすりと笑った。ある日突然こんなに面白いことが起こるなんて、だれが想像しただろう。父が生きていたらどうなっていたことか。
冷え切った空気が身体にまとわりつき、サミーは身を震わせた。自分の部屋に戻れば暖かく、ベッドに入るのに足先を縮こませる必要もない。
それでもサミーは目の前のベッドにあがった。枕に手を伸ばして抱き寄せ、身体を倒した。
すぐに出ていく。胸の内で繰り返した。
目を閉じ、ぼんやりと考えたのはクリスでもアンジェラでもなくエリックのことだった。もしも寄宿学校で出会ったのがデレクではなくエリックだったら、僕の人生はいまと違っていただろうか。対して変わりはないように思うが、少なくとも、学校をやめることはなく父の虐待からも逃れられていただろう。
けど、やはり人生は残酷で、その先に訪れる真実からは逃れようはない。秘密を明かさないままではいけなかったのか?もしも僕が兄だと知らないままなら、クリスと長い間仲違いせずに済んだ。そう考えるのはあまりに愚かだとわかっていても、別の未来を想像せずにはいられない。
夢とも現実ともつかない狭間で、これまでに出会った者の顔が次々と浮かんでは消えを繰り返していた。
おそらく僕は夢を見ている。今朝の続きだ。エリックが出掛けるのを先延ばしにしろと言って、少しもめて、それから別れのキスをした。数日留守にするだけだと言っているのに、一人では危険だのなんだのとまるで子ども扱いだ。長めのキスでようやく黙らせることができたが、なぜこうもエリックは僕にかまうのか。
聞いたところで納得するような答えは返さないだろう。結局は自分の思い通りに相手を動かしたいだけ。
エリックはそういう男だ。
つづく
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僕はなぜ、こんな穴倉にいるのかと考えた。自分の足で出ることが可能なのに、なぜいつまでもここに逃げているのかと。
アトリエと呼んでいた離れから屋敷へ戻り、あの子と生活を共にしているうちに、ようやく生きている意味があるのだと思えるようになった。死んだように生きていた父のようにはなりたくなかった。こっそり街へ出て遊ぶのもそれなりに楽しかったけど、長年一人で過ごしてきたせいで、騒々しいのは苦手だった。
それがいまではその騒々しさが恋しい。
サミーは主寝室に入りドアを閉めた。主のいないその部屋はひっそりと、それから当然寒々としていた。火を熾すという馬鹿な真似はしない。すぐに出ていく。
整えられたベッドに手を滑らせた。ここでアンジェラも眠る。二人が何をするのかは知っている。夫婦なら当然のことをする。
まさかあのクリスがね、と失笑する。
アンジェラは過去クリスが付き合ったどのタイプとも違う。すべて把握しているわけではないけど、もっと大人びた物わかりのいいタイプ。端的に言えば、後腐れのない付き合いができる女性を選んでいた。おそらく結婚をする気がなかったからだ。
だからアンジェラのような子供――こんなふうに言えばアンジェラはそんなことないと子供っぽく反論するだろう――と結婚したと知ったとき、純粋に驚いた。しかも女性ではなかった。
サミーはくすりと笑った。ある日突然こんなに面白いことが起こるなんて、だれが想像しただろう。父が生きていたらどうなっていたことか。
冷え切った空気が身体にまとわりつき、サミーは身を震わせた。自分の部屋に戻れば暖かく、ベッドに入るのに足先を縮こませる必要もない。
それでもサミーは目の前のベッドにあがった。枕に手を伸ばして抱き寄せ、身体を倒した。
すぐに出ていく。胸の内で繰り返した。
目を閉じ、ぼんやりと考えたのはクリスでもアンジェラでもなくエリックのことだった。もしも寄宿学校で出会ったのがデレクではなくエリックだったら、僕の人生はいまと違っていただろうか。対して変わりはないように思うが、少なくとも、学校をやめることはなく父の虐待からも逃れられていただろう。
けど、やはり人生は残酷で、その先に訪れる真実からは逃れようはない。秘密を明かさないままではいけなかったのか?もしも僕が兄だと知らないままなら、クリスと長い間仲違いせずに済んだ。そう考えるのはあまりに愚かだとわかっていても、別の未来を想像せずにはいられない。
夢とも現実ともつかない狭間で、これまでに出会った者の顔が次々と浮かんでは消えを繰り返していた。
おそらく僕は夢を見ている。今朝の続きだ。エリックが出掛けるのを先延ばしにしろと言って、少しもめて、それから別れのキスをした。数日留守にするだけだと言っているのに、一人では危険だのなんだのとまるで子ども扱いだ。長めのキスでようやく黙らせることができたが、なぜこうもエリックは僕にかまうのか。
聞いたところで納得するような答えは返さないだろう。結局は自分の思い通りに相手を動かしたいだけ。
エリックはそういう男だ。
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