はじめまして。
BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。
コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。
花嫁の秘密 341 [花嫁の秘密]
大晦日の屋敷は賑やかな方が好きだ。
年越しの支度に追われる使用人たちはどこか楽しげで、見ていて気持ちがいい。この朝の慌ただしさが過ぎてしまえば、夜にはお楽しみが待っている。おそらくサミーは気前よく小遣いを渡しているはずだ。
「エリック様どうされましたか?」地階まで降りてきたエリックを見て、プラットが慌てた様子で声をかけてきた。
「いや、ただ早く目が覚めただけだ。落ち着いたらコーヒーを居間へ持って来て欲しい」目は覚めたが、頭はまだぼんやりしている。ベッドでサミーの寝顔を見ていてもよかったが、今日は夜までに片付ける用がいくつかある。
「部屋はすでに暖まっております。すぐにお持ちいたしますので、上でお待ちください」
プラットの言葉に従い、エリックは上に戻った。サミーはあと一時間は起きてこないだろう。クラブでの話を聞きそびれたが、今朝までに何の報告もないということは、特に変わったことはなかったのだろう。
ブラックにはサミーの従者になるにしても、こっちの契約が切れてからだと言っておいたが、サミーに頼まれれば許してしまいそうな気もする。我ながら情けないことだが、いまの関係からすれば仕方のないことだ。諦めるしかない。
エリックはひとまず、いつもの場所に座った。ゆったりと背を預け、目を閉じる。昨夜のサミーがやけに素直だったのは、ブラックを譲ってやったからだ。これほどまでに分かりやすいとはね。
サミーは賢いし度胸もあるが、危険なことには慣れていない。だからこそのブラックだが、もう一人別につける必要がありそうだ。
自分の手駒の中で相応しい人物がいただろうかと、リストの上から順に精査してみたが、納得のいく人物は思い浮かばなかった。リストから漏れている誰かがいそうだが、頭がすっきりしていないいまは、考えても無駄だろう。
しばらく半分眠った状態で考えに耽っていたが、コーヒーのいい香りで瞼が勝手に持ち上がった。カインがちょうど目の前のソファテーブルにトレイを置いているところだった。眠っているからと物音を立てずにいたのだろうが、コーヒーの香りがなければまったく気配に気づかなかったところだ。
「おはよう、カイン。忙しい時間に悪いね」ふと、カインの役目は何だっただろうかと思い出そうとしたが、そもそもちょっとした経歴以外何も知らないことに気づいた。
屋敷を半分しか開けていないいまは、プラットの下についてドアマンから給仕まで何でもこなしているが、この屋敷での地位はどれほどのものなのだろう。
「おはようございます、エリック様」カインは眩しいほどの笑顔で答え、エリックの前に差し出したカップにコーヒーを注ぎ入れた。
こういう場合、むやみに笑ったりしないのが使用人だが、先日のウェストへの対応は悪くなかった。もちろん直接対応したのがプラットなのはわかっている。
「カイン、クリスと直接話したことはあるか?」
「いいえ!まさか」カインは驚いた様子で後ろへ飛び退き、ピンと背筋を伸ばし直立の姿勢を取った。
サミーや俺と違って、雲の上の人というわけか。クリスにとっては多数いる使用人の一人にすぎないだろう。その方がこっちにとっては都合がいい。
「面接はダグラスが?」エリックは訊いた。
「はい。ですが、ダグラスさんともあまり話したことがありません」カインは質問の意味を考える暇もなく返事をした。
屋敷を開けている期間より、閉めている期間の方が長いからそれも仕方がない。次のシーズンはまだいいとして、その次はどうなるのだろうか。本当にクリスは田舎へ引っ込む気だろうか。今後の成り行き次第だろうが、それならそれでこの屋敷はサミーが管理したらどうだろうか。そうすれば感じの悪いあの男から屋敷を買わずに済むし、その分をクラブの購入費用に充てられる。
「カイン、俺のところで働く気はないか?」
ブラックはサミーにやった。こっちはカインをもらったって別にいいだろう?
つづく
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年越しの支度に追われる使用人たちはどこか楽しげで、見ていて気持ちがいい。この朝の慌ただしさが過ぎてしまえば、夜にはお楽しみが待っている。おそらくサミーは気前よく小遣いを渡しているはずだ。
「エリック様どうされましたか?」地階まで降りてきたエリックを見て、プラットが慌てた様子で声をかけてきた。
「いや、ただ早く目が覚めただけだ。落ち着いたらコーヒーを居間へ持って来て欲しい」目は覚めたが、頭はまだぼんやりしている。ベッドでサミーの寝顔を見ていてもよかったが、今日は夜までに片付ける用がいくつかある。
「部屋はすでに暖まっております。すぐにお持ちいたしますので、上でお待ちください」
プラットの言葉に従い、エリックは上に戻った。サミーはあと一時間は起きてこないだろう。クラブでの話を聞きそびれたが、今朝までに何の報告もないということは、特に変わったことはなかったのだろう。
ブラックにはサミーの従者になるにしても、こっちの契約が切れてからだと言っておいたが、サミーに頼まれれば許してしまいそうな気もする。我ながら情けないことだが、いまの関係からすれば仕方のないことだ。諦めるしかない。
エリックはひとまず、いつもの場所に座った。ゆったりと背を預け、目を閉じる。昨夜のサミーがやけに素直だったのは、ブラックを譲ってやったからだ。これほどまでに分かりやすいとはね。
サミーは賢いし度胸もあるが、危険なことには慣れていない。だからこそのブラックだが、もう一人別につける必要がありそうだ。
自分の手駒の中で相応しい人物がいただろうかと、リストの上から順に精査してみたが、納得のいく人物は思い浮かばなかった。リストから漏れている誰かがいそうだが、頭がすっきりしていないいまは、考えても無駄だろう。
しばらく半分眠った状態で考えに耽っていたが、コーヒーのいい香りで瞼が勝手に持ち上がった。カインがちょうど目の前のソファテーブルにトレイを置いているところだった。眠っているからと物音を立てずにいたのだろうが、コーヒーの香りがなければまったく気配に気づかなかったところだ。
「おはよう、カイン。忙しい時間に悪いね」ふと、カインの役目は何だっただろうかと思い出そうとしたが、そもそもちょっとした経歴以外何も知らないことに気づいた。
屋敷を半分しか開けていないいまは、プラットの下についてドアマンから給仕まで何でもこなしているが、この屋敷での地位はどれほどのものなのだろう。
「おはようございます、エリック様」カインは眩しいほどの笑顔で答え、エリックの前に差し出したカップにコーヒーを注ぎ入れた。
こういう場合、むやみに笑ったりしないのが使用人だが、先日のウェストへの対応は悪くなかった。もちろん直接対応したのがプラットなのはわかっている。
「カイン、クリスと直接話したことはあるか?」
「いいえ!まさか」カインは驚いた様子で後ろへ飛び退き、ピンと背筋を伸ばし直立の姿勢を取った。
サミーや俺と違って、雲の上の人というわけか。クリスにとっては多数いる使用人の一人にすぎないだろう。その方がこっちにとっては都合がいい。
「面接はダグラスが?」エリックは訊いた。
「はい。ですが、ダグラスさんともあまり話したことがありません」カインは質問の意味を考える暇もなく返事をした。
屋敷を開けている期間より、閉めている期間の方が長いからそれも仕方がない。次のシーズンはまだいいとして、その次はどうなるのだろうか。本当にクリスは田舎へ引っ込む気だろうか。今後の成り行き次第だろうが、それならそれでこの屋敷はサミーが管理したらどうだろうか。そうすれば感じの悪いあの男から屋敷を買わずに済むし、その分をクラブの購入費用に充てられる。
「カイン、俺のところで働く気はないか?」
ブラックはサミーにやった。こっちはカインをもらったって別にいいだろう?
つづく
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