はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

花村と海 ブログトップ
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花村と海 11 [花村と海]

「お前、そんなに食えるのか?」

海はおごりならと、ここぞとばかりに店で一番高いアイスを選んだ。アイスというか、パフェというか、ちょっとしたタワーだ。

「食えるに決まってんじゃん」海はパフェ専用の長いスプーンの先っちょで、和栗のアイスをつついた。秋限定だ。

「へぇ、ついこの間寿司食い過ぎて腹壊したくせにか?」喜助は意地悪く片方の口の端を上げ、ブラックコーヒーに手を伸ばした。もちろんアイスは注文していない。

「なッ!何で知ってるの?花村に聞いた?」まさか美高が誰かに言うはずないし、うちの兄たちも違う。

「あの馬鹿とお前の話なんかするか。気色悪い!」喜助はコーヒーを噴き出さんばかりに言い捨てた。

確かに、花村が俺の話を喜助とするなんてありえない。でも、だからって、気色悪いはないんじゃない?

「俺の話どころか、口もきいてないんだろ。紫乃さんのことで花村と喧嘩中だってこと、俺知ってるもん」

「紫乃がなんだって?」喜助が目を剥く。

当てずっぽうだったのに、どうやら痛いところを突いたようだ。ならば、と海は畳みかける。その前に、アイスを一口。う~ん、うまい!

「俺知ってるんだから。紫乃さんは美影さんのお母さんと友達で、須山のお母さんとも知り合いだって。だから情報を仕入れようと思えば、いくらでも仕入れられるんだからね。でも、俺は情報屋じゃないから、そんなことしない」

なかなか気の利いた脅し文句だと、海は我ながら感心した。

「ほぉ、ずいぶん生意気な口きくな。情報屋がしたけりゃ、拓海の代わりに家に来るか?陰気なクソガキより、生意気なクソガキの方がまだましだ」喜助は威圧するように身を乗り出し、順調に食べ進められているタワーを奪うようなそぶりを見せた。

「やめてよ」と言ったのは、喜助のアイスに対する蛮行にか、はたまたぞっとするような誘いにか。「喜助と一緒の空気が吸えるのは、こういう場所だけ。花村もよく我慢してるよ」

「俺があいつに我慢してるんだ。毎日めそめそと鬱陶しいったらない。ありゃ、お前のもんだろうが。何とかしろ」喜助は唸り声を漏らし、椅子にふんぞり返った。

花村がめそめそ? 「別に……俺のもんじゃないし……」怒って俺を無視してる花村が?「何とかって言われても……」俺の話なんか聞くはずない。

「まさか本気であのナヨナヨした男に鞍替えしたんじゃないだろうな?そりゃ、拓海も大差ないっちゃないが、あいつよりかは根性があるぞ。これは親の贔屓目じゃないからな」

つまり、喜助も父親だということ。結局息子が心配で、息子の恋人にアイスをおごっている。そして海はそれを薄々感じつつ、アイスをおごってもらっている。

ここらへんで、本当に花村と仲直りするべきなのかもしれない。陸とユーリに見せつけられ、家では毎日兄がイチャイチャ。しかもおっかないまさにいまでもが、堅物美影さんとそれなりにうまくやっている。

「まあ、喜助がそこまで言うんなら、なんとかしてやらないでもないけどな。あと一週間待ってよ」

つづく


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花村と海 12 [花村と海]

花村と海はお互いを無視し続け、あっという間に一週間は過ぎた。

今日は十月十日。言わずと知れた朋の誕生日だ。

土曜日なので、学校はお昼で終わり。帰り支度をしながら、花村と海はお互いをちらちらと探るように見る。行く場所は同じだが、一緒に行こうとは言えない。その様子をうんざりとした面持ちで廊下から伺うのは陸と美影。もちろん美影は感情を容易く顔に出したりはしない。いつものようにとにかく無表情だ。

「おい、お前ら。行くぞ!」陸が不機嫌に声を掛けると、海と花村が同時に同じような顔つきで振り返った。喧嘩しているとは思えないほど、息ぴったり。これで別れるだの何だのと言っているのだから、呆れるほかない。

「別に勝手に行くし」海はぶつくさ言いながら、鞄をひょいと肩にひっかけて、戸口に向かう。教室に居残っている須山が羨ましそうな顔で海の背中を見詰めている。二人が恋人に発展することはないと海から聞いてはいるが、諦めきれない須山の健気な視線はどこか痛々しかった。

そして花村は、叱られた子供のようにとぼとぼと海の後ろをついてくる。

なんだかやるせない気分になり、陸は盛大に溜息を吐いた。

「気持ちはわかります」こそりと陸の耳元で囁くように言ったのは、陸とほぼ同じようなことを考えていた美影。

「やんなっちゃうよな」と囁き返す陸。そもそも、海に翻弄される哀れな二人の男に同情するなと言う方が無理な話。

「何コソコソ言い合ってんの?」海は毒づきながら合流すると、一人でさっさと行ってしまう。

こういうところ、腹が立つけど、自分も似たようなところがあるからあまり文句は言えない。陸は海の横に並んで、経験者としての助言をする。

「喧嘩って時間の無駄だよ。別れるなら別だけどさ」

「よく言うよ。俺よりも喧嘩の回数が多いくせに」海がぴしゃり。

陸はぐうの音も出ない。「ぐっ。そこ言っちゃう?」

「ちょっとかまってもらえないからって、ぐじぐじし過ぎ。でも、今の花村もそうなんだろうな。俺ってひどい彼氏?」海は不安げな顔を陸に向けた。

「そう思うなら、仲直りしなよ。喜助もそうして欲しがってんだろ」陸にとって、喜助はただの知り合いのおじさんでしかないが、海にとっては父親も同じ。海は嫌がるだろうが、花村のことを抜きにしても二人の相性(親子的な)はなかなかのものだ。

「あいつの話はするな。どこで見てんだか、俺のことなんでも知ってんだぞ。陸も油断するな。ユーリはゴシップの塊みたいな男だからな」

「ゴシップって……なんか変なドラマでも観た?」

つづく


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花村と海 13 [花村と海]

朋ちゃんのカフェの入り口にある木札は”close”になっていた。

けれども今日はここで、盛大な誕生日会が開かれる。常連さんにはそのことを伝えていて、参加も自由だけれど、扉を開けたその向こうの光景には高校生一同絶句した。

店内はまさにすし詰め状態で、女性客はここぞとばかりに朋に群がっていた。入り口脇にはプレゼントが山のように積まれ、一部が雪崩を起こしていたため、一行は陸を先頭に将棋倒しになるところだった。

カウンターの中に避難しているコウタは、苦笑いで手招きをする。一行は女の子たちをぐいぐい押し退けかき分け、中へ進んだ。幸いにもカウンター席は最後の砦のように死守されていた。言うまでもなく、女の子たちはここが聖域だと理解している。

コウタは朋の代わりにコーヒーを淹れている最中だった。その隣には、ランチ担当の加瀬尚道。一口サイズのサンドイッチやケーキを大皿に盛りつけ、カウンターに次々と並べていた。

「加瀬さん、こんにちは」陸は愛想良く言い、いつもの席に素早く座った。目の前には美味しそうなプチケーキ。

「パスタとかないの?おなかぺこぺこ」挨拶もなしに着席したのは、あれやこれやで苛立っている海。それでも勝手にサンドイッチをつまんだりしないだけの礼儀はあった。

「向こうのテーブルにそれ運んでくれたら、裏でちゃちゃっとやってくるけど?」加瀬はたっぷりとフルーツの盛られた皿をカウンターの空いた隙間に押し込み、海に向かってにこりとする。

「だって、花村」海は隣に座ろうとしていた花村に素っ気なく言い、頬杖をついて足をぷらぷらとさせる。いまだ仲直りできていないのは、花村が海に近づこうとしなかったから。

花村は黙ってケーキ皿に手を伸ばす。海にやれと言われたら何でもやる男だ。

「コウタさん、加瀬さん、今日はお世話になります」美影はいつものように礼儀正しく挨拶をして、花村を手伝う。その隙にちょっとした助言も忘れない。「いい加減、許してあげなよ」

「海が僕を許してくれないんです」花村は悲しげに声を絞り出し、女の子たちの間を縫って各テーブルにひとつずつ皿を置いてまわった。

「朋さん、おめでとうございます」美影は朋の脇をすり抜けながら声を掛けると、奥に進んだ。

「ありがと、美影さん。花ちゃんも、ありがとう」朋は手を振って、背後から声を掛けてきた女子大生に向き合う。常連中の常連だ。兄弟たちのファンでもある。

「朋さん、すごいよね」戻り際、美影は花村に話し掛ける。

「僕の知っているなかでは一番素敵な人です」花村はうっとりした声を出す。

「海は?ちゃんと話し合うべきだよ」おせっかいは性分ではないが、友達のためだ。仕方がない。

「わかってます。海のお腹がいっぱいになったら、話してみます」

「懸命だね」

お腹が空いたままの双子は本当に質が悪いから。

つづく


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花村と海 14 [花村と海]

「ねえ、朋ちゃんのモテ具合って異常じゃない?」海が言った。

カウンターに並ぶ残りの面々が、うんうんと頷く。途中で合流したユーリは、背後に迫る女性陣におののきつつ、傍観者ぶってふんと鼻を鳴らした。

「ランチはいつもこんな感じだけど、今日はちょっと人が多いかな」加瀬は冗談めかして言い、サーモンとキノコのクリームパスタをむさぼる海を微笑ましげに見やった。

今日がただの誕生日会ではないことは、加瀬も知っている。目的は、海とその隣に意気消沈して座る花村との喧嘩を終わらせること。朋の指令でもあり、ここに集まる全員がそれを望んでいる。もちろん、加瀬もその一人だ。

「誕生日って、こんなに騒々しいもんだったっけ?」女性客の手を逃れカウンターに戻ってきた朋は、端っこに座る美影の皿からプティフールをつまんで口に入れた。「加瀬くんのコレ、美味しい」

「ありがとうございます」加瀬は”当然でしょう”とにっこりと笑う。

「加瀬さん、めっちゃドヤ顔」陸はけらけらと笑いながら、加瀬に向かってフォークを突きつける。

「陸、行儀悪いよ」とコウタ。時々だが、兄貴面する。

「いいよ、いいよ」と加瀬。陸が箸やフォークを振り回す癖があることは承知している。ランチだけの存在だが、迫田兄弟のことは色々知っているのだ。

「ねぇ、みんなでハッピーバースデーとか歌うの?」海は半分のけぞり、ぐるりと店内を見回す。歌う人には事欠かない。

「え、いいよ、そんなの」朋がそう言うが早いか、店内のどこからかかけ声が上がった。

最初は小さな囁きのようだったが、やがて大合唱となり、さすがの朋も赤面し、兄弟たちはにやにやが止まらず、ユーリは今にも吐きそうで、花村と美影は心の底から祝福の歌を歌った。

終わりの合図のようにチリンとドアベルが鳴った。

「これって、アイドルかなんかの誕生日会?」おずおずと顔をのぞかせたのは、誰が招待したのか美影の兄で花村のライバルの美高。さすがに女の子がいっぱいでどぎまぎしている様子。

女性客からきゃっと悲鳴のようなものが上がった。おそらく、さらなるイケメン男子の登場にテンションがあがりまくっている模様。

今更だが、美高も一般的に見ればイケメンの部類に入る。シャープな目元が好みが別れるところではあるが、好きな女子は多いだろう。

花村が獰猛なうなり声をあげ、今にも飛びかからんばかりに立ち上がった

「兄さんッ!どうしたんです?」美影は慌てて美高に駆け寄る。邪魔者は一刻も早く追い払わなければ今日の計画が台無しだ、とばかりに。

「どうしたって……今日は店長の誕生日なんだろう?祝いに来ちゃいけなかったのか?」こんなに人が大勢いるのにと、美高は大袈裟に店内を見回した。

「美影さんのお兄さんも、こちらにどうぞ」朋は愛想良く手招きをする。花村と美高を直接対決させるには、もってこいの状況だ。

もちろん、美高がコウタを奪いに来たのなら、こうはいかなかっただろう。すぐさま追い払い、二度とうちの敷居をまたぐなと啖呵を切っていたに違いない。

いよいよ、面白くなってきた。

つづく


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花村と海 15 [花村と海]

カフェのカウンターはいつもに増してぎゅうぎゅう。

花村が美高を座らせまいと、幅寄せをしているせいもある。

おかげで図らずも兄と密着する羽目になった美影は、猛烈なストレスにさらされていた。

「兄さん、仕事はどうしたんです?」半ば怒りながら訊ねる。

弟のくだらない質問に、美高は高飛車に鼻を鳴らした。「俺にだって休みはある。お前に説明する義理などないが、土日はたいてい休みだ」

「ホテルは年中無休でしょ?まさにいは土日も仕事してるよ」海は花村を押しやり、顔だけ美高に向ける。

「営業だからじゃない?」と、朋。”しかも社長付きの”と心の中で付け加えるのも忘れなかった。

「朋さんの言うとおりだ」美高が偉そうに言う。

花村は友人の手前なんとか怒りを抑え込んではいたが、それも時間の問題と思われた。美高はいちいち人の神経を逆なでする。

「だからって、別に来なくてもいいでしょうに」美影は恥辱に耐えるような口調で囁いた。

「呼ばれたから来たんだ。お前に指図される筋合いはない」美高は不機嫌に答え、ちらりと海を見た。花村の陰に隠れて、カウンターに置かれた手しか見えない。「もちろん、朋さんを祝う気持ちもちゃんとある」嫌々来たと思われるのは心外だとばかりに言い添えた。

祝われる当人は、また女性客に呼ばれてカウンターを出ている。これほど忙しい誕生日もそうはないだろう。

「海が呼んだの?」陸が端の方から声を掛ける。一番端はユーリだが、ぬいぐるみのように抱きかかえられて、膝に乗っている。怯えるユーリの頼みの綱は陸だけというわけだ。

「呼んだって言うか……話しただけ」海はきまりが悪そうにぼそぼそと言って、カウンター内の二人に助けを求めるような視線を送った。隣の花村の鼻息が尋常ではなかったからだ。

「へぇ、結構連絡取り合ってるんだ」陸は口笛でも吹かんばかりに当てこすった。

海はくしゃりと顔を歪めた。

「電話で?それとも会ったの?」耐えかねた花村は前を見据えたまま、怒りに声を震わせ、陸と美高の両方に訊ねた。

「おい、海。でかいのと、そのへなへなした奴を連れて上に行け。ったく。くそ、鬱陶しい」

イライラし通しのユーリの限界値は花村より低めだ。目障りな人間を追い払うのにいちいち言葉を選んだりはしない。

美高は自分の事をへなへなと言い切ったユーリに腹を立てることも忘れ、花村が勢い良く立ち上がるのと同時に立ち上がっていた。美高は意外にも高圧的な人間に容易く屈する。だからこそ、海にも惹かれるのだ。

三人は興味津々の無数の視線に見守られながら、長らく閉鎖されている二階にあがった。

つづく


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花村と海 16 [花村と海]

日頃手入れを怠らないおかげで、二階のバルコニー席はいつでも客を迎えられる。

「上はこうなっていたのか」美高は奥行きのある空間を無遠慮に眺めまわした。小さな丸テーブルは二人掛け。隣の席から椅子を引けば三人で座れるが、ここは下から丸見えで落ち着かない。

そもそも、なぜ三人で上に追い立てられたのか理解できない。

その次の四角いテーブルも二人掛け。奥に行くにつれ広くなっていて、一番奥にゆうに三人は座れるソファが向かい合わせで置かれている。

あの席がいい。

「ハルのお兄さんが店長してた時はここも使ってたんだ。あ、そのソファはやめといた方がいいよ」奥に突き進む美高を海が制する。

「なぜだ?」美高は振り返って、小さな海を見下ろした。というか、ハルって誰だったっけ?

「ユーリのえっちソファだから」海はさも当然のように言い、ひょいと肩をすくめた。後ろで花村がもじもじとする。

え?えっちソファ?ユーリのってことは、相手はまさか!

「へぇ……あ、そうなの……」

「言っとくけど、陸じゃないからね。二人が付き合う前の事だもん」

ああ、よかった。変な想像しなくて済む。

二人のやり取りを無視して、花村はソファ席のひとつ手前の席に着いた。

海は椅子を動かし、通路を背にして座った。「俺ここ。美高は花村の向かいね」

美高は指図されてむっとしたものの、座るならそこしかなかったので素直に従った。これではまるで原告と被告、裁判官の図だ。

自分はどちらなのだろうかと、美高はふと思う。目の前の大男は海の恋人だと言う。花村拓海。兄弟たちからは花ちゃんと親しげに呼ばれる存在。海の好みがこういう男なのは信じられないが、海ほど変わったタイプだとあえてこういうのを選ぶのかもしれない。

「それで?いったい何だって言うんだ?」美高は切り出した。先日、海を連れ出したことで花村が怒っているのは知っている。美影を介して会わせろだのなんだのと言ってきた不届きなガキだ。たかが寿司くらいで文句を言われる筋合いはない。「喧嘩をしているのは君たちだろう?俺は関係ない」

「関係なくありません。海は、海は、僕のなのに……勝手なことされては困ります」

「なーにが、困りますだぁ?」海が猛烈な勢いで花村に噛みつく。「そう言うくらいならなんで無視するんだよッ!俺は美高とお寿司を食べに行っただけじゃん。友達と遊んでなんで怒られなきゃいけないのさ」

「だから、いけないなんて言ってないじゃん!美影さんのお兄さんは下心があるから気を付けてってことだったのに――」

下心?

「おい、待て」人を無視してよくもそんなことを。

「なんですかっ!僕知ってるんですよ。お兄さんが、海とキスしたこと。でも、キスくらいならって我慢してたけど、そのうちキスだけじゃなくって色々する気なんでしょ」花村は唾をぴしゃぴしゃ飛ばしながら一気に捲し立てた。

おいおい、何を言う。大人の立場ってものを考えろよ。

「おい、クソガキ。よく聞け」美高は身を乗り出し凄んだ。「そんな大声出したら、下の女の子たちに聞かれるだろうが。少しは周りの状況を見るってことを学んだらどうだ?」

美影以外の人間にこういう口の利き方をしたのは初めてだった。いや、いくら腹の立つ弟とはいえ、もう少し上品な言い方をしていた(記憶では)。それほど美高は花村に腹が立っていた。

「美高の言う通り。花村、お前、ウザい。もう、別れよ」ふんぞり返る海がぴしゃりと言って、この会見は終了した。

つづく


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花村と海 17 [花村と海]

「い、い、いやだーーーーッ!!」

花村は吼えた。

ほんの少し前に美高に場所をわきまえろと注意されたが、そんなこと知るもんか。海を失うなんて耐えられない。恋人なら喧嘩もする。ささいな喧嘩とは言い難いけど、面倒だから別れるなんて、そんなことさせない。

海は誰がなんと言おうと、僕のものだ。

花村は目を血走らせ、階段途中で足を止めこちらを見ている海に近付いた。美高なんか目に入っていなかった。もちろんぎょっとした顔で見上げる友達もお客さんも。

「ば、ばか!大きな声出すなよ」海がぱたぱたと駆け戻ってきた。「恥ずかしいじゃん」と顔を赤くして言う。

花村は海の照れたような表情が好きだ。もちろん今は恥ずかしさよりも怒りが大きいのかもしれないけど、白い肌がぽっと赤くなる様は、普段さほど欲情しない花村でさえムラムラしてしまう。

でも今は、そんな場合ではない。

「海は僕から離れちゃだめなんだ!」花村は海の警告を無視して、店内に響きわたるほどの大声を出した。

「ちょっ、だから声落とせって!」海はぽかすかと花村の胸を叩く。

花村は長い腕を伸ばし海を抱き締めた。力はそこそこある。暴れたって離すものか。

それでも海は暴れ、下のフロアからは好奇心と驚きとがないまぜになった悲鳴があがった。カウンターの面々は”花村やっちまったか”と心配そうに見守っている。

「美影さんのお兄さんが好き?」花村は海に訊ねた。今度は二人だけにしか聞こえないほどの音量で。

「だから、ただの友達って言ってんじゃん」

「向こうはそう思ってないのに?」

海は花村の腕の中で怒りに震えた。鼻から大きく息を吸い、そして吐き出す。花村は上下する胸の動きを感じながら、海の次の言葉を待った。

「いいか、よく聞け。誰がどう思うかなんて知らない。俺がどう思うか、誰を好きで、誰をそばに置きたいかだ。人の気持ちなんて知るもんか。もう周りに振り回されるのはいやなんだ」

海が誰のことを言っているのか、花村にはすぐにわかった。昔の恋人で、いまでも無神経にちょくちょく連絡をしてくる一之瀬礼。
綺麗さっぱり関係は終わっているのに、未練がましく海を手放さない一之瀬のせいで、海の傷はいつまで経っても癒えない。

「僕は振り回してなんかいない。誰も海を振り回したりなんかしない。ねぇ、聞いて。僕はいくら海に振り回されたっていい。どんな扱いをされたっていい。僕は海が好きで、海は僕のもので、海も僕がいないとだめでしょう?」

「なんで花村のくせに、そんな偉そうなこと言うんだ?俺はお前がいなくったって……」

「平気?海をこうやって包めるのは僕だけだよ」花村はとびきり優しい口調で海の耳元で囁いた。

海は眉間に皺を寄せ思案顔になった。「うん、まあそうだな。花村みたいにでかいの、他にいないもん」はっきりきっぱり、きびきびと言う。

「でしょ?海、僕の、好きでしょ」。海が僕を認めてくれた。なんだか嬉しくってニタニタしてしまう。

「ば、ばか。なにえっちぃこと言ってんの」海は頭頂部で花村のわき腹を突っついた。

「ち、違うッ!そういうアレの話じゃなくて、包容力とかそういう……」確かに僕のアレは大きいけど、そんなあからさまに、主張したりはしない。

「はいはい。そういうことにしとく。でさ、みんな注目してるけど、どうする?俺、ちょー恥ずかしいんだけど。おねえさんたちに、お前みたいなのが恋人だってバレちゃったじゃん」海はご機嫌の猫のように身体をすりすりと擦り付ける。

「ご、ごめん。でも、え!僕、恋人でいいの?」

「だって、何したって怒らないんだろ?まあ、喜助にも頼まれたし、仲直りしてもいーかな」

怒らないとは言っていないが、花村はすべて受け入れることにした。そうするしか、海を留めておくことができないから。これからも海をそばに置けるなら、海のそばにいられるなら、どんな扱いをされたってかまわない。

その代わり、恋人の座は何があっても降りるつもりはない。

つづく


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花村と海 18 最終話 [花村と海]

大騒ぎしたあげく元の鞘に収まった花村と海。

これから先、幾度となくこういう場面に出くわすだろう。

けど、どうやっても花村は海を手放さない。口をきけなかった二週間で自分がどれほど無価値な人間かを思い知った。海がいるから花村は情報屋として存在し、疎外感たっぷりの学校生活を無事送れている。それに、母親のことで少し揉めてはいるが、父親との関係も以前に比べれば良くなった。海がいるからだ。

大団円を演じた二人に、客席から拍手喝采が浴びせられた。最初は戸惑っていた女性たちも、終わってみればみな笑顔だ。

どうやら彼女たちは花村と海の修羅場を、誕生日の出し物だと思ったようだ。

これにすぐさま乗っかったのは朋。今日の出来事でお客さんの何人かを失うのはかまわない。でも、このことで弟と家族のように親しくしている友達が、白い目で見られたりするようなことがあってはならない。

今は自由恋愛の世の中だが、誰もが理解あるわけではない。だからこそカミングアウトは身内にとどめておくべきだ。

一生理解されない恋愛中の朋は、意外にもこういうことに慎重だ。「加瀬くん。デザートの追加よろしく」そう言って、自分は観客の渦に飛び込んでいった。

無駄に恥をかいたのは美高。完全な当て馬だったのは言うまでもない。それでも”自分は今日は店長の誕生日祝いに駆けつけただけ”というような顔つきで、冷め切ったコーヒーを啜った。悲しいかな。知らず知らずのうちに、かなり海にのめり込んでいたようだ。完全に振られて胸がズキズキ痛む。

花村と海は店内を一周して席に戻った。美影は安堵の表情で二人を迎えた。

「花ちゃん、よかったね。これからも海をよろしくね」コウタは二人を祝福する。

花村は泣き過ぎてぐしゃぐしゃになった顔を綻ばせて、しっかりと頷いた。その横で美高が人知れずうなだれる。

「あんなことしちゃってさ。朋ちゃんの店がつぶれたらどーすんだよ」陸はやりすぎの二人を責める。

「そうなったら、俺がハルの兄貴に言ってやる」驚いたことに、ユーリは花村を見直したようだ。ユーリも陸を失っては生きていけないから、気持ちは良く分かるというわけだ。

「あー、おなかすいた。加瀬さ~ん。何か作って。オムライスとか」海はカウンターにぐったりと突っ伏した。

「あ、じゃあ俺も。ねぇ、コウタ。ハンバーグとかないの?カツレツとかさ」満腹中枢が機能していない陸もちゃっかり追加注文する。

二人とも、ここをファミレスかなにかと勘違いしている。

「よし、任せておけ。明日は休みだ。食材を全部放出しよう」加瀬は気前よく請け合った。それから美高を見て意味ありげに微笑む。

美高は何事かと加瀬を見返した。

「お兄さん、僕でよければいつでもお付き合いしますよ」

加瀬がどういう意味でその言葉を口にしたのか、それがわかるのはまだ少し先の事。

朋の誕生日会はまだまだ続く。

おわり



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