はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

不器用な恋の進め方 3 [不器用な恋の進め方]

アーサーは蝋燭のわずかな明かりのみの薄暗い廊下を足早に歩きながら、彼女を追いかけてどうするのかを考えていた。

とにかく、誘うのだ。
乗馬でも、音楽会でも、劇場でも。

劇場?――彼女は女優だぞ。劇場だけはやめておこう。まずは朝のハイド・パークでの乗馬が妥当だろう。

ここで、アーサーはメリッサに追いついた。

「メリッサ嬢、どちらへおいでですか?」

背後から声をかけられ、驚いた様子で振り返ったメリッサを見て心臓がダンスを始めた。なんとも乱暴な踊り方だ。

「今夜は仮面舞踏会です。わたくしが誰でも、名前で呼びかけるのはおやめください。オークロイド子爵様」

極上の切り返しだ。

「では、ラベンダー色のドレスを着たお嬢様、どちらへ?」

「テラスへ。裏庭の方は人がいないからと」

「わたしもご一緒していいですか?」
断らないでくれと懇願する。

「ええ、どうぞ」
意外にもメリッサはあっさりと承諾した。
断られたくなかったはずなのに、実際はメリッサの返事に驚いていた。
未婚の貴族の令嬢ならば、男と二人でいる姿を見られただけで結婚を強いられるのだ。評判を守るために。

もちろんメリッサは貴族ではないが、男と二人きりになる事を気にしないとは思わなかった。

朝の新聞記事を思い出した。
彼女に複数のパトロンがいるという話を。
真実なのだろうか?

いや、そんなはずはない。

「どうかされたのですか?」

テラスへ出る寸前で、彼女が少し小首をかしげるようにして振り返っている。
女性の後をついて歩いていた情けない自分に驚きつつも、咄嗟に今考えていた事が口を突いて出てしまった。

「今朝の新聞記事は本当なのですか?」

メリッサは黙ったままじっとアーサーを見据えていた。
そしてゆっくりと口を開いた。

「どの新聞の、どの記事の事かしら?」
口元に笑みを浮かべ素知らぬふりをする。

アーサーはおかしくなって大きく笑い声をあげた。

「何がおかしいのですか?」

彼女の声が少し腹立たしそうになっている。
アーサーは上機嫌になった。彼女の女優としての仮面を少しでもはがす事が出来た事に。

「いえ、先ほどのあなたの忠告をほんの数歩歩いただけで忘れてしまった自分が、あまりにも愚かで」
そう言って更に笑った。
そしてメリッサも笑った。

その瞬間アーサーは心に温かいものが満たされていくのを感じた。それは紛れもなく愛で、彼女を絶対に妻にしようと再度心に決めた。

夜風は冷たく心地よかった。

舞踏場となっている大広間には多くの人がひしめき酸素も薄く暑苦しかった。それだけこの舞踏会には多くの人が参加している。
侯爵夫人は社交場に不慣れと聞いていたが――いや、だから仮面舞踏会なのだろう――見る限りではこの舞踏会は成功だ。
侯爵夫人は本日十七歳になったというが、そうは見えなかった。
小柄で痩せているせいだろうか、やはり結婚するには幼すぎるといまでも思っている。だがそんなことはクリスには言えない。一度言って、ものすごく気まずい雰囲気になったのだから。

アーサーは視線をメリッサに移した。
メリッサはテラスの手すりに手をかけ、屋敷の裏手に広がる庭を眺めている。

アーサーは仮面を脱いだ。
そしてメリッサに近づいた。

「あら、子爵様」
振り返ったメリッサが、たったいま出会ったような声を上げた。

「お芝居が上手ですね」
おどけて言ってみせた。

「ええ、女優ですから」そう言って彼女も仮面をとり、「もうやめましたけどね」と女優ではない彼女の素の笑顔を見せた。

「では、あの記事は本当だったのですね」
アーサーもメリッサの隣で手すりに手をかけ、彼女を見つめた。

「以前から考えていた事ですから。ちょうど舞台もひと段落したので、もうこの辺で引こうと決めたのです」
そう言ったメリッサが悲しそうに見え、アーサーは彼女の手の上に自分の手を重ねた。
手袋越しに触れた彼女の手がとても冷たく感じられた。

「中へ入った方がよくないですか?」

メリッサは小さく首を振り「わたくしはもう少しいます」と言った。

なぜだかわからないがその言い方に胸が締め付けられ、このまま彼女を置いてここを去ってはいけないと思った。
とにかく、今すぐにでも約束を取り付けよう。

つづく


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