はじめまして。
BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。
コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。
不器用な恋の進め方 5 [不器用な恋の進め方]
「アンジェラ様。ありがとうございます」
何とかそう言ったものの、全身の力が抜けて倒れてしまいそうだった。
子爵にキスをされ、侮辱の言葉を浴びせられ、動揺も怒りも悲しみもすべての感情を抑えた。
こんな風に言われる事には慣れていたはずなのに、思いの外傷ついている自分がいた。
弱弱しい視線を侯爵夫人へ向けると、彼女の意味ありげな視線に気付いた。
そうだった。彼女の事はアンジェラと呼ばなければならないのだ。こういう場でも呼んでいいものか迷ったが、メリッサは「アンジェラ、ありがとう」と言い直した。
彼女は満足そうな笑みを浮かべ、「メリッサ、子爵様は、その、悪気はないと思います」と言った。
アンジェラのその言葉に、メリッサは驚かずにはいられなかった。
悪気がなくてあんなことを言えるものだろうか?
「どうしてそう思いになるのですか?」
「思うのではなくて、そうなのです」
アンジェラは言い切った。
彼女に驚かされたのはこれで二度目だ。
一度目は表現するのが難しいほど、とにかくとても驚いたのだ。
彼女はなんてすごい人なのだろうか?
メリッサは感心せずにはいられなかった。
この小さな身体で、しっかりと侯爵夫人としての役目を果たしているだけでなく、とても美しく威厳に満ちている。
メリッサは自然と微笑んでいた。
「アンジェラ、本当にあなたは素敵な女性ですね」
メリッサのその言葉にアンジェラは頬を赤くして、急に少女のように俯いてしまった。
これが彼女のいつもの姿。彼女は今夜十七歳になったばかりだ。
「あ、あの、メリッサ。とても恥ずかしいです」
「あら、どうして?」
「わたしのこと女性って……」
「ふふっ、本当に自然に出てきてしまった言葉だけど、二人とも男だと言うのにおかしな話よねぇ」
今度はメリッサは女優としての笑みを向けた。侯爵夫人と同じ、少女の様なおどけた微笑み。
アンジェラは幼い頃から女の子として育ってきて、身体は男の子なのだが心は少女なのだ。男だという事を内緒にして結婚したが、のちに夫であるメイフィールド侯爵には秘密を明かし、受け入れてもらっている。
メリッサは十二歳から女性を演じている。
過去はすべて捨てて、この地へ――ロンドンへやって来た。
それから十年という歳月が流れ、いつしか女優として成功をおさめたが、もう限界だと思っていた。
演じる事に苦痛はない。
だが何かが違うと、心の奥底にずしりと重たいものが圧し掛かっている。
それが何かは分からないが、アンジェラに出会いそれが何なのか見えそうな気がした。
迷っていた引退を決めたのも、それが理由だ。
引退は意外にもすんなりと受け入れられた。
それはアンジェラの兄でメリッサの一番の理解者のエリック・コートニーのおかげだった。
彼とは十一歳の時に出会った。
ロンドンへ連れて来てくれたのも彼だ。女優として成功したのも彼のおかげだ。
エリックがいなければ、自分は生きてさえいないだろうと、彼と同じ瞳をもつ心優しいアンジェラを見つめた。
つづく
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何とかそう言ったものの、全身の力が抜けて倒れてしまいそうだった。
子爵にキスをされ、侮辱の言葉を浴びせられ、動揺も怒りも悲しみもすべての感情を抑えた。
こんな風に言われる事には慣れていたはずなのに、思いの外傷ついている自分がいた。
弱弱しい視線を侯爵夫人へ向けると、彼女の意味ありげな視線に気付いた。
そうだった。彼女の事はアンジェラと呼ばなければならないのだ。こういう場でも呼んでいいものか迷ったが、メリッサは「アンジェラ、ありがとう」と言い直した。
彼女は満足そうな笑みを浮かべ、「メリッサ、子爵様は、その、悪気はないと思います」と言った。
アンジェラのその言葉に、メリッサは驚かずにはいられなかった。
悪気がなくてあんなことを言えるものだろうか?
「どうしてそう思いになるのですか?」
「思うのではなくて、そうなのです」
アンジェラは言い切った。
彼女に驚かされたのはこれで二度目だ。
一度目は表現するのが難しいほど、とにかくとても驚いたのだ。
彼女はなんてすごい人なのだろうか?
メリッサは感心せずにはいられなかった。
この小さな身体で、しっかりと侯爵夫人としての役目を果たしているだけでなく、とても美しく威厳に満ちている。
メリッサは自然と微笑んでいた。
「アンジェラ、本当にあなたは素敵な女性ですね」
メリッサのその言葉にアンジェラは頬を赤くして、急に少女のように俯いてしまった。
これが彼女のいつもの姿。彼女は今夜十七歳になったばかりだ。
「あ、あの、メリッサ。とても恥ずかしいです」
「あら、どうして?」
「わたしのこと女性って……」
「ふふっ、本当に自然に出てきてしまった言葉だけど、二人とも男だと言うのにおかしな話よねぇ」
今度はメリッサは女優としての笑みを向けた。侯爵夫人と同じ、少女の様なおどけた微笑み。
アンジェラは幼い頃から女の子として育ってきて、身体は男の子なのだが心は少女なのだ。男だという事を内緒にして結婚したが、のちに夫であるメイフィールド侯爵には秘密を明かし、受け入れてもらっている。
メリッサは十二歳から女性を演じている。
過去はすべて捨てて、この地へ――ロンドンへやって来た。
それから十年という歳月が流れ、いつしか女優として成功をおさめたが、もう限界だと思っていた。
演じる事に苦痛はない。
だが何かが違うと、心の奥底にずしりと重たいものが圧し掛かっている。
それが何かは分からないが、アンジェラに出会いそれが何なのか見えそうな気がした。
迷っていた引退を決めたのも、それが理由だ。
引退は意外にもすんなりと受け入れられた。
それはアンジェラの兄でメリッサの一番の理解者のエリック・コートニーのおかげだった。
彼とは十一歳の時に出会った。
ロンドンへ連れて来てくれたのも彼だ。女優として成功したのも彼のおかげだ。
エリックがいなければ、自分は生きてさえいないだろうと、彼と同じ瞳をもつ心優しいアンジェラを見つめた。
つづく
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2011-06-12 21:58
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