はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

不器用な恋の進め方 7 [不器用な恋の進め方]

何という失態だ。
アーサーは自分の頬を殴りつけた。

あのまま侯爵夫人が来なければ、いったいどうなっていたのだろうか。
考えるのもぞっとするような、とんでもない醜態を晒していただろう。いや、すでにそのほとんどを晒してしまったのだ。

アーサーはぶつぶつとひとりごちながら舞踏場へ戻っていた。
ふと気づけば、細い通路に差し掛かっていた。
使用人用の通路だ。
アーサーはそこから階段を下り廊下へ出た。

そこで汗を滲ませ焦った様子のクリスと出くわした。
だが、アーサーはそんなクリスの様子に気付くはずもなく……。

「クリス……どうしてここに」
屋敷の主に向かってなんてものの言い方だ。どちらかと言えば自分の方がそう聞かれてもおかしくないというのに。

自己嫌悪に醜くゆがんだ顔を親友といえども今は見られたくなかった。

「どうして……だと?ハニーに何をした!」

クリスが何の勘違いをしたのかは分からないが、ものすごい剣幕で掴みかかって来た。
喉もとを締め上げる手は一切容赦ない。

本気だ。
アーサーはこのままではまずいと思った。

「おっ、おい、クリス。彼女には何もしていない」
なんとか声を絞り出した。

「じゃあ、誰に何をした!」
誤解はあまり解けていないようだ。

「とにかく、落ち着け。よければ、この手を放してくれ」
アーサーは首元のクリスの手をちらりと見ながら、情けない顔で懇願した。

いったいクリスは何に興奮しているんだと思ったが、おそらく妻の行方が分からず探し回っているのだと容易に想像できた。
結婚してからのクリスは、いかにも妻なしでは生きていけないといった情けない男になり下がっていた。

だが、自分がいざ恋に落ちてみると、その気持ちがわずかながら分かる気がした。

クリスはいまだ落ち着く気配はなかったが、とにかく手を離してはくれた。

助かった。

「彼女なら、メリッサ嬢とテラスにいる」
喉元を擦りながら大きく息を吸い込んだ。

「テラスに……メリッサ嬢と……?」

「ああ、侯爵夫人に、お前が呼んでいると言われたんだが…?呼んでいるはずないよな」
ものすごい剣幕で、かわいらしい嘘を吐いた侯爵夫人を思い出し、思わずふっと笑みをこぼした。

クリスは不思議そうな顔をしたが、「その……アンジェラは仮面はつけていたか?」と、まったくもってどうでもいい事を訊いてきた。

アーサーはあの仮面を思い出し、吹き出しそうになったが、今度は全神経を集中させ何とか堪えた。

「いや、テラスに姿を見せた時には、あのバカでかい仮面はつけていなかった。ものすごい目つきで睨まれたからな。あの子――いや、彼女があんな顔するとは意外だった」
うっかり、侯爵夫人を子供扱いするところだった。
今度こそクリスに絞殺される。

「睨まれた?お前何をしたんだ」
クリスの声に怒気がこもる。

「落ち着け、お前の大切な奥方には何もしていない。俺はほんと情けないよ……」

「なんなんだ」

「メリッサ嬢に愛の言葉を囁くどころか、侮辱の言葉を浴びせてしまった。今朝の新聞記事といい、今夜のパートナーといい……彼女は俺の事などなんとも思っていないばかりか、きっともう顔も見たくないほど嫌われてしまっただろうな」
思いだしただけで自分のした行為に吐き気がする。

「いったいどうしたんだ?お前らしくないな。女に甘い言葉を囁くのは得意中の得意だろうが。新聞記事って、女優引退の事か?」

「ああ、その事で彼女をひどく傷つけてしまった。それもこれも、あの男の顔がちらちらと目の前に浮かぶからなんだ」

「あの男?エリックの事か?彼だったら、本当にメリッサ嬢とはなんでもないぞ――そうアンジェラが言っていた」

クリスにそう言われても、まったく納得が出来ない。

「ならどうしていつも一緒にいるんだ?彼は彼女のパトロンの一人なのか?」

「アーサー!いい加減にしろ!ここでも彼女を侮辱するのか。それにエリックの事も侮辱しているんだぞ」

怒って当然だ。だが、思考はぐるぐると嫌な方向へ突き進み、今や奈落の底に落ちて言っている最中だ。

「すまない……ただ――」
ため息を漏らし、ぐしゃりと握った前髪を引きちぎりたい衝動に駆られる。

「とにかく落ち着いて話そう。そんなにため息を吐くのは悪い兆候だ」
クリスのその言葉に、アーサーは今にも泣きだしそうな子供のような顔でクリスを見た。
数か月前までは、立場は逆だった。
妻と上手くいかないと、クリスは泣き言を言っていた。
今から考えると、どうして上手くいかないと言っていたのか不思議だ。

「書斎へ行こう。極上のウイスキーがある。そいつをあおって、今夜何があったのかすべて聞かせろ」
クリスは黙ったままのアーサーの肩に手を添え、書斎へ促した。

つづく


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