はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
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花嫁の秘密 307 [花嫁の秘密]

個室を出ると、壁際に置かれた半円形の小さなテーブルにココアが置いてあった。ピカピカに磨かれた銀製のポットにアンティークの高価なカップ。いつ置かれたのか気になったが、知らない方がいいような気がしてポットに触れるのはやめておいた。

エリックは先を行くサミーの背を見ながら、まだ熱の残る唇に触れた。

今夜はどうかしている。もちろんこれは自分の事ではなく、サミーの事だ。いや、俺が酒を飲ませたからこうなったのか?

サミーが過去の話をしようとしないのも、酔ってもいないのにキスを拒まなかったのも、すべてがどうでもよくなるほど頭に血が上ったのも、一切合切俺のせいだ。そうしておいた方が、あれこれ頭を悩ませるよりもずっと楽だ。

大抵において怒りの感情は、熱く燃えるようなものだと思っていた。確かにこれまではそうだった。それなのに、なぜか今夜は違った。呼吸も血流も止まり、身体の熱さえ奪った。冷え冷えとした中にある怒りは経験したことがなく、それは明らかにサミーへの感情が影響したもので、再び熱を取り戻した今になってようやくわかった。

サミーがあのごろつきを撃った時も同じだったのだろう。あの瞬間サミーは何の迷いもなく引き金を引いた。愛する者を守るためならなんだってする。

エリックは自嘲気味に笑いをこぼした。俺はこれからどうすべきだろう。サミーと同じで手に入らないものを求め続けるのか?

屋敷に戻っても、もやもやとした感情はエリックの胸の内に居座り続けた。

寝支度を済ませたサミーはココアを片手に居間でくつろいでいた。室内履きを足元に投げ出し、ソファに足をあげている。風呂に入ったばかりだからか、もしくは暖炉の炎に当てられたからか、頬はほんのりと赤みを帯びていて、あれほど毎日注意しているにもかかわらず髪の毛は湿ったままだ。

結局、サミーにはこういう場所が似合うと認めざるを得ない。身体を動かすより、安楽椅子に座って頭を使うような――だからこそ、あのクラブを手に入れようと考えた。経験不足は俺が補ってやれる。人材の確保もできる。

クィンはどうするだろう。おじから譲り受けたクラブの扱いを持て余しているようだが、あっさり手放すとは思えない。彼の妻は手を引いて欲しがっているから、そっちから攻めるか。

「いつまで、そうやって立っているつもりだい?」サミーは振り向きもせず言い、手を伸ばしてカップをテーブルに置いた。小皿の上のメレンゲ菓子を取って口に入れる。

「すっかりセシルに毒されたようだな」

「今夜はひどく疲れたからね。栄養補給さ」

「いかにもセシルが言いそうだ」エリックはサミーの顔が正面から見える椅子に座った。

「君も飲むかい?」サミーがココアのポットをちらりと見る。

「いや、俺は酒の方がいい」

「そう。そこのワゴンからお好きなものをどうぞ。クリスの酒だけどね」

エリックは脇に目をやった。ワゴンの上に並ぶボトルを見て笑みがこぼれる。勝手にどうぞと言うわりに、準備しておいたのだと思うと、目の前の男が愛おしくてたまらなくなった。

「クリスがこっちに出でてくるまで酒が残っていればいいがな」

つづく


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