はじめまして。
BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。
コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。
花嫁の秘密 308 [花嫁の秘密]
身体が温まると途端に眠気が襲ってくる。
サミーは目を閉じ、ソファのひじ掛けにもたれた。エリックはデレクとの事を話すまで、絶対に引き下がらないだろう。別に秘密というほどではない。ただ、思い出したくない出来事で、今夜デレクがあんなこと言いださなければ、ずっと封印していただろう。
「十四歳の時、僕は寄宿学校に入れられたんだ」サミーは静かに切り出した。「でも、僕の場合クリスとは違って、ただ父の目の届かない場所ならどこでもよかったんだ」
エリックからの返事はなかった。グラスを片手にじっと僕の言葉に耳を傾けている。
「初めて外にやられて、戸惑いもあったけど、僕はちょっと浮かれていたのかもしれない。家族と見慣れた使用人だけの世界とは違って、外の世界はとても新鮮だったからね。先生たちも優しかったし、もちろん僕が誰の息子かわかっているからだと思うけど、当時はそんなこと思いもしなかった。デレクとは部屋が一緒だった――」
「だが、お前が学校へ行っていたという記録はない」エリックが口を挟んだ。当然の疑問だ。
「君にも調べられないことがあるんだな。ひと月で退学したし、記録は消された。子供だった僕には裏で何が行われたかはわからないけど、リード家の醜聞に関わることだから、おそらく父か叔父がもみ消したんだと思う」
「デレクに何をされた?」エリックは話を遮らないように自分を抑えているようだけど、声には激しい怒りが感じられた。詳細を話せば、きっとデレクをひどい目に遭わすだろう。例えばステッキに仕込んだ剣でひと突き、とか。
「よくある新入りいじめってやつだよ。僕は裸にされて――その時、背中の傷を見られた。いまとは違って生々しい傷をね。デレクは僕を穢れたものを見るような目で見ていたよ。実際そうだったし」
「サミー」エリックは悲しげに首を振って、手に持っていたグラスをテーブルに置いた。
「本当だよ。まあとにかく、また別の生徒にその姿を見られたせいで、大騒ぎさ。父が呼び出されたけど、来たのは叔父だった」いつの間にか、関節が白くなるほど強く手を握り合わせていた。もう少しだけ話したら、この話はもう二度しない。
「その叔父はもう亡くなっている叔父か?」エリックが訊いた。
「父のすぐ下の弟で、僕は父よりも叔父の方が怖かったな」炎のような赤髪はまるで叔父の怒りを体現しているようだった。叔父は父にも僕にも厳しく、クリスだけは例外だった。
「近くに住んでいたのか?てっきり本邸の方にいると思っていたが」
「普段はね。でもよく顔を出していたよ。僕は一族では歓迎されない存在だけど、クリスは違うからね。もし叔父が生きていたら、クリスはアンジェラとは結婚しなかったと思う。そうなっていたら、僕たちがこうして話すこともなかっただろうね」淡々と事実を述べていれば、痛みは少なくて済む。
「クリスはこのことを?」エリックの表情は険しく、怒りの矛先を探しているように見えた。
「知らないよ。別の学校へ行っていたから。仮に知っていたとしてもクリスに何ができた?僕たち二人とも父にとってはどうでもいい存在だったんだ。父が愛していたのは母だけで、僕もクリスも母がどんな人だったか知りもしなかったというのに」
「いまは知っているんだろう?」そう尋ねるエリックの声はやけに穏やかだった。家族に愛情を示すとき、彼はいつもこうなのだろう。
「ロゼッタ伯母のおかげでね」サミーは微笑んだ。ずっと孤独だと思っていたけど、いまは家族がそばにいてくれる。
ふと、伯母の誕生日に開かれた晩餐会で、エリックにキスをされたことを思い出した。酒に酔って弱い姿を晒したことも。あれからずいぶん経った気がするのに、いまと状況はあまり変わっていない。かえって悪化したように思う。
「次のロゼッタ夫人の誕生日は一緒に出席しよう」
エリックも同じことを思い出していたようだ。
つづく
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サミーは目を閉じ、ソファのひじ掛けにもたれた。エリックはデレクとの事を話すまで、絶対に引き下がらないだろう。別に秘密というほどではない。ただ、思い出したくない出来事で、今夜デレクがあんなこと言いださなければ、ずっと封印していただろう。
「十四歳の時、僕は寄宿学校に入れられたんだ」サミーは静かに切り出した。「でも、僕の場合クリスとは違って、ただ父の目の届かない場所ならどこでもよかったんだ」
エリックからの返事はなかった。グラスを片手にじっと僕の言葉に耳を傾けている。
「初めて外にやられて、戸惑いもあったけど、僕はちょっと浮かれていたのかもしれない。家族と見慣れた使用人だけの世界とは違って、外の世界はとても新鮮だったからね。先生たちも優しかったし、もちろん僕が誰の息子かわかっているからだと思うけど、当時はそんなこと思いもしなかった。デレクとは部屋が一緒だった――」
「だが、お前が学校へ行っていたという記録はない」エリックが口を挟んだ。当然の疑問だ。
「君にも調べられないことがあるんだな。ひと月で退学したし、記録は消された。子供だった僕には裏で何が行われたかはわからないけど、リード家の醜聞に関わることだから、おそらく父か叔父がもみ消したんだと思う」
「デレクに何をされた?」エリックは話を遮らないように自分を抑えているようだけど、声には激しい怒りが感じられた。詳細を話せば、きっとデレクをひどい目に遭わすだろう。例えばステッキに仕込んだ剣でひと突き、とか。
「よくある新入りいじめってやつだよ。僕は裸にされて――その時、背中の傷を見られた。いまとは違って生々しい傷をね。デレクは僕を穢れたものを見るような目で見ていたよ。実際そうだったし」
「サミー」エリックは悲しげに首を振って、手に持っていたグラスをテーブルに置いた。
「本当だよ。まあとにかく、また別の生徒にその姿を見られたせいで、大騒ぎさ。父が呼び出されたけど、来たのは叔父だった」いつの間にか、関節が白くなるほど強く手を握り合わせていた。もう少しだけ話したら、この話はもう二度しない。
「その叔父はもう亡くなっている叔父か?」エリックが訊いた。
「父のすぐ下の弟で、僕は父よりも叔父の方が怖かったな」炎のような赤髪はまるで叔父の怒りを体現しているようだった。叔父は父にも僕にも厳しく、クリスだけは例外だった。
「近くに住んでいたのか?てっきり本邸の方にいると思っていたが」
「普段はね。でもよく顔を出していたよ。僕は一族では歓迎されない存在だけど、クリスは違うからね。もし叔父が生きていたら、クリスはアンジェラとは結婚しなかったと思う。そうなっていたら、僕たちがこうして話すこともなかっただろうね」淡々と事実を述べていれば、痛みは少なくて済む。
「クリスはこのことを?」エリックの表情は険しく、怒りの矛先を探しているように見えた。
「知らないよ。別の学校へ行っていたから。仮に知っていたとしてもクリスに何ができた?僕たち二人とも父にとってはどうでもいい存在だったんだ。父が愛していたのは母だけで、僕もクリスも母がどんな人だったか知りもしなかったというのに」
「いまは知っているんだろう?」そう尋ねるエリックの声はやけに穏やかだった。家族に愛情を示すとき、彼はいつもこうなのだろう。
「ロゼッタ伯母のおかげでね」サミーは微笑んだ。ずっと孤独だと思っていたけど、いまは家族がそばにいてくれる。
ふと、伯母の誕生日に開かれた晩餐会で、エリックにキスをされたことを思い出した。酒に酔って弱い姿を晒したことも。あれからずいぶん経った気がするのに、いまと状況はあまり変わっていない。かえって悪化したように思う。
「次のロゼッタ夫人の誕生日は一緒に出席しよう」
エリックも同じことを思い出していたようだ。
つづく
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