はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

花嫁の秘密 303 [花嫁の秘密]

ソファにもたれかかりいったん目を閉じてしまうと、エリックの後を追うなど不可能だった。三階の個室に置き去りにされても、そのうち戻ってくるのだからと、結局面倒でそのまま横になった。

クィンと何を話すのだろう。簡単に話を出来る相手ではないことはエリックもわかっているだろうけど、果たしてそんなことエリックが気にするだろうか。もしもここを買収する話だとしたら、もっと適切な時期を選ぶべきだ。

さすがにそれはないかと、サミーは小さく頭を振った。ここを買い取ったらどうだと言い出したのは僕だけど、あれはほんの冗談だし、エリックもそれをわかっていて話を合わせただけだ。スパイを送り込む手間が省けるが、持ち主があのエリック・コートニーだとわかれば会員の中には脱会する者もいるかもしれない。

いや、オーナーがエリックだったとしたら、逆に会員の情報は常に保護され、むやみに新聞に書きたてられる心配も減るのではないだろうか。ここで起こったことが表へ出ることはない。だが、エリック相手にそれが通用するだろうか?守秘義務は当然存在するだろうが、犯罪がらみとなれば別だ。そもそも賭博自体が不法行為にあたるけど、クィンはどうやって法の目をかいくぐっているのだろう。

面倒だけど下へ降りるか。エリックはここで作戦を立てるつもりだろうけど、込み入った話なら屋敷へ戻ってからでもいい。

部屋に人の気配がして、サミーは目を開けた。エリックはドアも閉めずに行ったのだろうか。「適当に置いておいて」給仕係ならひと言声を掛けてから入って欲しいところだ。

「何を置けって?」

突然の不快な声にサミーは顔を顰めた。飛び起きないだけの冷静さが残っていたのは幸いだ。

「ここに何の用?」起き上がり、目の前の男を睨みつける。顔も見たくないのが本音だが、黙ってやり過ごせる限度を超えている。個室にずかずかと部外者が入って来られるようでは、ここの従業員が職務怠慢だと指摘されてもおかしくはない。

「来ていると聞いたから。それと、ドアは空いていた、ほんの少しだけど」デレクはいけしゃあしゃあと言い、それっぽく肩をすくめてみせた。まるで当然の権利だと言わんばかりだ。「この前のパーティーのお礼をしておこうと思ってね」

お礼?寄付の話だろうか、それともジュリエットを押し付けたことだろうか。結局ジュリエットは置き去りにしたけど、あのあとどうしたのだろうか。一応、怒ってはいなかったから、デレクがうまく対処したのだろう。

「礼なんて結構。さっさと出て行ってくれないか」怒鳴りつけたい衝動を抑え、冷淡に言い放つ。

「相変わらずだな。いつまで俺に怒っているつもりだ?もう時効だろう?」デレクは薄ら笑いを浮かべた。今夜も整髪料でべたべたの黒髪が不気味にぎらついている。

「怒る?そんな感情を君には抱いていない」言い返す声が少し震えた。デレクに図星を突かれたからだ。

「まるで傷ついた仔犬だな。牙を剥き出しにして、親が戻ってくるまで耐えられるのか?」

デレクは明らかに喧嘩を売っている。いったい何のために?理由は不明だが、過去僕たちに何があったのかほじくり返したくてたまらないのは見て取れた。それこそいったい何のために?一度ならず二度までも僕を辱めようっていうのか。

どこにも居場所はないと絶望したあの時の気持ちが甦ってきた。胸の奥の奥に仕舞っていたのに、まさかここで引きずり出されるとは予想外だった。

つづく


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