はじめまして。
BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。
コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。
花嫁の秘密 286 [花嫁の秘密]
「プラット!」サミーは呼び鈴を引く手間さえ惜しみ、執事の名を叫んだ。
クリスからコートニー邸に届いた電報は、サミーの疲れも眠気も吹き飛ばすには十分すぎるほどだった。いまあるのは怒りのみ。誰に対してか――もちろんアンジェラを脅した男、もしくは女、それとクリスに。
プラットはなめらかとは言い難い仕草で書斎に現れ、普段ほとんど見せないサミーの激怒した表情に怖気を震った。
「クリスからの電報は?」執事が口を開く前に尋ねた。もしも届いていてプラットが渡し忘れているのだとしたら、今すぐクビにしてやる。僕にその権利がないと思ったら大間違いだ。
「こっちには来ていないみたい」セシルがプラットの代わりに答えた。
「セシル様のおっしゃるとおりです」プラットもしどろもどろで答える。
「ブラックを呼んで、いますぐ」サミーは怒りで震える息を吐き、いますべきことだけを考えた。とにかくエリックを捕まえる必要がある。今日はどこへ行くと言っていた?朝、新聞社に寄って、それから?
サミーは書斎机の上の書類を引き出しに仕舞い、とにかく座った。足が震えて立っていられなかったからだ。
「お呼びですか?」呼びつけられたブラックが、飄々とした態度で部屋に入って来た。エリックと同じで捉えどころのないこの男は、サミーを見張るためにいる。と同時に、エリックの行動も把握している。
「エリックがどこにいるかわかるか?できれば、いますぐ戻るように伝えて欲しい。無理なら、僕がそこまで行く」
ブラックは驚いたのか大袈裟に黒い眉を上げた。
「君が何者かはわかっている。だからいますぐ答えるんだ」サミーは面倒なもろもろは省き命じた。
「三〇分ほどで連れて戻ってくることが出来ると思います」ブラックは理由も聞かず、余計なことも口にしなかった。
「ではすぐに行ってくれ」さっと手を振ろうとしたが、ずっと拳を握っていたせいか思うように動かなかった。
セシルと二人になると、サミーは机を離れソファに座りなおした。座るタイミングを失して立っていたセシルも向かいに腰をおろし、サミーの手の中で握りつぶされたクリスからの知らせを受け取った。ソファテーブルの上に置き丁寧にしわを伸ばす姿は、アンジェラを思わせた。
「どうすべきだと思う?」サミーは右のこめかみを人差し指と中指で強く押した。頭がずきずきと痛み、まともな考えが浮かんでこない。
「これだけだと状況がよくわからないな。血染めのハンカチにナイフ……ハニーは脅迫されたってことかな?でもいったい誰に?」セシルはもう一度電報に目を落とした。
「僕は、アンジェラを殺したがっている人物はひとりしか思い浮かばないけどね」その理由もとてもくだらないもので、逆恨みもいいところだ。
「でも彼女は一昨日からロンドンにいる」セシルが言った。
「彼女は僕たちがフェルリッジを出たのをいち早く知って、追いかけてきている。向こうに彼女の手駒がいるのは間違いないだろう。それも、思ったよりも近くに」
「屋敷の中にってこと?」
「いや、さすがにそれはない。いれば僕が気づいたはずだ。けど、いったいなぜこんなことをする必要が?もしも本当に命を狙っているなら、黙って実行した方がいいに決まっている。わざわざ警戒させる必要なんてないだろう?」
「ただの脅しってだけで、実行する気なんてないんじゃないかな。だっていまはサミーとの結婚の方が重要でしょう?」
確かにセシルの言葉にも一理ある。彼女の目的はすでに別の所へ移っていて、その対象は僕だ。
「もしかすると別のやつの仕業かもしれないな」その可能性を排除できないうちは、決めつけだけで行動するべきではない。それにジュリエットが犯人なら、僕が抑え込める。クリスほどの魅力はないにしても、彼女が欲しいのは金だ。肩書はないが、何にも縛られない僕の方が自由に金を使える。
事実、領地の資金繰りなどに頭を悩ませなくていいし、愛する妻を置いて北へ旅をしなくてもいい。
クリスはどうするのだろうか?このままアンジェラを置いてラムズデンに行くことが出来なくなったいま、一緒に連れて行くのだろうか。いっそのこと連れて行って、領民に紹介して来ればいい。そうすれば向こうでの問題は一気に解決するし、危険から遠ざけることもできる。
けっして簡単なことではないけれど、あそこを離れる以外の選択肢はもはや残されていない。
つづく
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クリスからコートニー邸に届いた電報は、サミーの疲れも眠気も吹き飛ばすには十分すぎるほどだった。いまあるのは怒りのみ。誰に対してか――もちろんアンジェラを脅した男、もしくは女、それとクリスに。
プラットはなめらかとは言い難い仕草で書斎に現れ、普段ほとんど見せないサミーの激怒した表情に怖気を震った。
「クリスからの電報は?」執事が口を開く前に尋ねた。もしも届いていてプラットが渡し忘れているのだとしたら、今すぐクビにしてやる。僕にその権利がないと思ったら大間違いだ。
「こっちには来ていないみたい」セシルがプラットの代わりに答えた。
「セシル様のおっしゃるとおりです」プラットもしどろもどろで答える。
「ブラックを呼んで、いますぐ」サミーは怒りで震える息を吐き、いますべきことだけを考えた。とにかくエリックを捕まえる必要がある。今日はどこへ行くと言っていた?朝、新聞社に寄って、それから?
サミーは書斎机の上の書類を引き出しに仕舞い、とにかく座った。足が震えて立っていられなかったからだ。
「お呼びですか?」呼びつけられたブラックが、飄々とした態度で部屋に入って来た。エリックと同じで捉えどころのないこの男は、サミーを見張るためにいる。と同時に、エリックの行動も把握している。
「エリックがどこにいるかわかるか?できれば、いますぐ戻るように伝えて欲しい。無理なら、僕がそこまで行く」
ブラックは驚いたのか大袈裟に黒い眉を上げた。
「君が何者かはわかっている。だからいますぐ答えるんだ」サミーは面倒なもろもろは省き命じた。
「三〇分ほどで連れて戻ってくることが出来ると思います」ブラックは理由も聞かず、余計なことも口にしなかった。
「ではすぐに行ってくれ」さっと手を振ろうとしたが、ずっと拳を握っていたせいか思うように動かなかった。
セシルと二人になると、サミーは机を離れソファに座りなおした。座るタイミングを失して立っていたセシルも向かいに腰をおろし、サミーの手の中で握りつぶされたクリスからの知らせを受け取った。ソファテーブルの上に置き丁寧にしわを伸ばす姿は、アンジェラを思わせた。
「どうすべきだと思う?」サミーは右のこめかみを人差し指と中指で強く押した。頭がずきずきと痛み、まともな考えが浮かんでこない。
「これだけだと状況がよくわからないな。血染めのハンカチにナイフ……ハニーは脅迫されたってことかな?でもいったい誰に?」セシルはもう一度電報に目を落とした。
「僕は、アンジェラを殺したがっている人物はひとりしか思い浮かばないけどね」その理由もとてもくだらないもので、逆恨みもいいところだ。
「でも彼女は一昨日からロンドンにいる」セシルが言った。
「彼女は僕たちがフェルリッジを出たのをいち早く知って、追いかけてきている。向こうに彼女の手駒がいるのは間違いないだろう。それも、思ったよりも近くに」
「屋敷の中にってこと?」
「いや、さすがにそれはない。いれば僕が気づいたはずだ。けど、いったいなぜこんなことをする必要が?もしも本当に命を狙っているなら、黙って実行した方がいいに決まっている。わざわざ警戒させる必要なんてないだろう?」
「ただの脅しってだけで、実行する気なんてないんじゃないかな。だっていまはサミーとの結婚の方が重要でしょう?」
確かにセシルの言葉にも一理ある。彼女の目的はすでに別の所へ移っていて、その対象は僕だ。
「もしかすると別のやつの仕業かもしれないな」その可能性を排除できないうちは、決めつけだけで行動するべきではない。それにジュリエットが犯人なら、僕が抑え込める。クリスほどの魅力はないにしても、彼女が欲しいのは金だ。肩書はないが、何にも縛られない僕の方が自由に金を使える。
事実、領地の資金繰りなどに頭を悩ませなくていいし、愛する妻を置いて北へ旅をしなくてもいい。
クリスはどうするのだろうか?このままアンジェラを置いてラムズデンに行くことが出来なくなったいま、一緒に連れて行くのだろうか。いっそのこと連れて行って、領民に紹介して来ればいい。そうすれば向こうでの問題は一気に解決するし、危険から遠ざけることもできる。
けっして簡単なことではないけれど、あそこを離れる以外の選択肢はもはや残されていない。
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