はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

花嫁の秘密 278 [花嫁の秘密]

エリックは広間である男を観察していた。

男に見覚えがあるような気がしたが、記憶を辿ってもどこで見かけたのかまったく思い出せない。仕立てのいい夜会服を見事に着こなしているだけでなく、なかなかの美形だ。髪を短く刈り込んでいるせいでやけに顔が小さく見えた。それとも輪の中心にいる白髭伯爵ことブライアークリフ卿の存在感がありすぎるからか。

人のよさそうな顔をしているが、どうにも胡散臭い。なにより、くだらない絵画と引き換えに相当な額を寄付するような人物が胡散臭くないはずない。同じ金額寄付したとしても、あの絵を自分の屋敷に飾るのだけは避けたいと思うのがまともな考えだ。

とはいえ、これといっておかしな動きをしているわけではない。今のところデレクともシリルとも接触していないところを見るに、四人目の男ではないようだ。こいつのことはクレインに探らせることにして、サミーのところへ戻るか。

もうひとり、気になるやつがいるにはいるが――まあ、こいつは後でもいい。広間を出る前にエリックはもう一度例の男に目を向けたが、そこにもう姿はなかった。クレインは後を追っただろうか?

サミーのおかげで仕事に集中できない。セシルがもう少しあてになれば、こういう心配はしなくて済むんだが。

ひとまず応接室をのぞいたが、サミーとジュリエットはいなかった。ここは人もそこそこいるし安全だと思ったが、どこか別の暗くて静かな場所へ移ったのだとしたら少し面倒だ。具体的な契約を結んでいなきゃいいが。

セシルはどこへ行った?あいつに期待するのは愚かだとわかっているが、期待せずにはいられない。ハニーと同じであれでなかなかしつこいタイプだ。間に割って入って邪魔をするくらい難なくこなすだろう。

夜の図書室や上階の空き部屋、人気のない温室――ここは誰もが逢引きをせずにいられない場所だ――行くとしたらどこだろう。この寒さだ。外へ出ることはないだろう。舞踏室へ戻った可能性もあるが、まずは手近なところで図書室へ行くか。

玄関広間ではデレクが帰る客と来たばかりの客の対応をしていた。すぐ近くに大柄なシリルが用心棒のように立っている。シリルは領地の運営もうまくやっているし、見た目も人柄も悪くないのになぜデレクなんかとつるんでいるのだろうか。付き合う友人は選ばないと、後で痛い目を見ることになるだろう。

解放されていない図書室への廊下は薄暗く、今夜パーティーなど開かれていないかのようにしんと静まり返っていた。この屋敷の防音は完璧のようだ。
ふいに気配を感じ振り向くと、クレインが脇の通路から出てきたところだった。こいつはいつも脇から現れる。

「どうした?あいつを追わなかったのか?」エリックは声を潜めた。

「まかれました」

「まかれた?」にわかには信じ難く、エリックは足を止め詳しい説明を求めるためクレインを見た。

「邪魔が入ったんです」クレインは仕方がないとばかりに肩をすくめた。「最初はただ通行人がぶつかってきたと思ったんだ」

「護衛か何かか?」そんな大物にも見えなかったが、見かけで判断すべきではないのは身をもって経験済みだ。

「いえ、おそらくこちらと同じで何か探っているのでしょう」

ということは、やはりあの男は小物ではないということだ。どこで見たのか思い出せれば、つけまわす必要もないのだが。面倒だが、まずは招待客を調べるところから始めるしかないか。

「そいつの事は調べられるのか?」クレインの行く手を阻めるやつがこの界隈にいるとは思いもしなかった。ぜひとも一度お目にかかりたいものだ。

「ええ、まあ。顔を見ましたから、そのうちわかるでしょう。あの短髪の男の正体も」クレインはにやりとし、自信をもって言い切った。

つづく


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