はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

花嫁の秘密 288 [花嫁の秘密]

ブラックが戻ってもう一〇分が過ぎた。エリックは寄り道をしているようだが、急いで戻れという僕の言葉は無視したというわけか。

この三〇分の間にセシルと話せることは話した。クリスにはアンジェラを守ってもらい、僕たちは犯人を捜す。見つけた後どうするかはまだ決めていないが、僕は引き金を引くことに躊躇いはない。

「ねえ、ブラックはすぐに戻ってきたけど、リックは案外近くにいたのかな?」セシルは薄くスライスされたシュトーレンを紅茶に浸してから口に入れた。残り物でもなんでも美味しそうに食べるセシルは、この屋敷でもすでに人気者だ。

「ほんと、彼はいったい何者なんだろうね」サミーは腹立たしげに吐き出した。やってることは単純明快で、彼は自分の仕事のために調査員を何人も雇い情報を手に入れている。それを新聞や雑誌に売る、もしくは自分で記事にする、それとおそらく特別な機関への情報提供なんかも行っているのだろう。

エリックはどうやってその地位を手に入れた?後ろ盾は、ロジャー?いや、それよりもずっと地位が上の人間だろう。

「どこまで話が進んだ?」エリックが戻ってきた。前置きもなしに話し始める辺り、どこかで情報を掴んできたのだろう。無理矢理隣に座り、ひとのカップを取って勝手に飲み干す。だんだんとこういう不作法さにも慣れてきた。

サミーはポットに手を伸ばして、ティーカップを再び満たした。

「アンジェラ宛てに物騒なものが届き、クリスはそれを殺害予告だと思っている。それが置かれた状況から、内部犯を疑っているようだけど、思い当たる人物はいない。だから僕たちの知っている、いや違うな、君たちの知っている情報をよこせとクリスは言っている、こんなところかな」

「本当に内部犯じゃないのか?」エリックは念のためといった感じで確認し、髪を縛っている革紐を解きテーブルに投げ出した。軽く頭を振るといつもとは違う匂いがした。

いったいどこに行っていたのか、後で尋ねる時間はあるだろうか。

「僕の知る限り、違うね。それに、あの事件の後クリスは使用人の調査を行っている。昔からいる者がほとんどだけど、金に目がくらんでということもありえるからね。もちろん問題のある者などいなかったけど」二人の目で確認したことだ、まず間違いはないだろう。

「クリスの考えはわかった。お前たちはどう思う?」エリックは訊いた。

「そりゃ、断然怪しいのはあの人でしょ?」とセシル。

「僕もセシルと同じ意見だけど、目的がよくわからないな」

「目的が何であれ、このままにはしておけないな」そう言ったエリックの声音はひどく冷淡で、これがたとえただの脅しだったとしても、脅した者は無事では済まないだろうと想像できた。

「僕が向こうへ戻ろうか?状況を把握するにはそれがいいと思うけど」サミーはそう言って、エリックを見た。許可を求めたわけではないが、この問題にはそれぞれが役割を持って行動する必要がある。

「いや、お前はここでジュリエットを見張ってろ。向こうへはセシルが行け」

「え?僕で大丈夫かな?」セシルは戸惑い、サミーに目を向けた。

誰がどう動くかを決定するのは、いったい誰にあるのだろう。

「見張りね……彼女が滞在しているホテルにでも移ろうか?」いっそそうしてしまえば、彼女の動きを追いやすい。ついでにエリックからしばらく逃げることもできる。

「そうじゃない。見張りはすでに付けてる。お前はハニーが無事ラムズデンに到着するまで、ジュリエットを引きつけておけ」

エリックはアンジェラを守るため、僕を生贄として差し出すわけだ。至極まっとうな提案だとわかっていても、なぜか、すごく、胸が痛んだ。

つづく


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花嫁の秘密 287 [花嫁の秘密]

美術品の収集家であるチェスター卿の屋敷を訪問していたエリックは、突如現れたブラックに驚きを隠せなかった。静かに人の輪を抜け、ギャラリーから廊下へと出る。

「サミーになにかあったのか?」ブラックを玄関広間のすぐ隣の部屋に引き込みながら、性急に尋ねた。こいつの役目はサミーのそばを離れず守ること。離れてここへ来ているということは、つまり――

「疲れているようですが、なにも――」ブラックが淡々と言う。

「だったらなんだ?まとまりかけた商談を潰すためにここへ来たわけじゃないだろう?」勿体つけるブラックに、エリックは苛々と訊き返した。なにもなくて持ち場を離れるはずがない。

「メイフィールド侯爵から電報が届いたようです、あなた宛てに」

「俺に?クリスは何だって?」

「俺は中を見ていませんので、ただ、あの方よりいますぐに戻ってきて欲しいと伝言を受けました」

サミーがすぐに戻れと?あいつがそんなことを言うのは、まれだ。よほどのことがあったに違いない。

「それを先に言え!」いったいいまので何分ロスした?「話は帰り道で聞く」

エリックはチェスター卿に挨拶もせず、玄関広間にいた従僕にコートとステッキを出せと命じ、最後に帽子をひったくるようにして頭に乗せると屋敷を飛び出した。俺一人いなくなったからといって誰も困ったりしない。ただせっかくの機会をふいにするのは、とても惜しい。

「馬車を拾いますか?」ブラックが大通りに目を向け尋ねる。

「いや、道が混んでいるからこのまま歩いて戻る。それで、なんで俺宛ての電報をあいつが読むんだ?」

「コートニー邸に届いた電報はあなたとセシル様宛でした」

それだけで、この流れのすべてが理解できた。向こうの屋敷から回された電報をセシルが読み、おそらく一緒に茶でも飲んでいたサミーも内容を知ることになったのだろう。だがなぜクリスはサミーではなく俺たちに電報を寄越した?サミーには知られなくない内容だったとしか思えないが、なにが起こったにせよハニーに関することなのは間違いないだろう。

通りを行き交う人々の波を縫うようにして、車道を横切り、エリックはリード邸へと戻る道とは別の通りに入った。もし重大な事件が起こっていたのだとしたら、こっちにも知らせが届いているはずだ。タナーがうまく電話を受けてくれていたらいいが。あいつはいまだに電話を恐ろしい悪魔か何かと思っている。

「ブラック、お前は先に戻っていろ」いまはサミーから目を離したくない。

「かしこまりました。ですが早く戻ってください、あの方はかなり怒っていらっしゃいましたから」そう言い残し、ブラックは別の道を行った。

怒っている?それも最初に言えなかったのか?あいつが誰の目から見ても怒っているということは、つまり激怒しているということ。いったい何に?まさか俺にじゃないだろうな。

こっちは仕事をひとつ潰したっていうのに、いったい戻ったら何が待ち受けているんだ。

つづく


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花嫁の秘密 286 [花嫁の秘密]

「プラット!」サミーは呼び鈴を引く手間さえ惜しみ、執事の名を叫んだ。

クリスからコートニー邸に届いた電報は、サミーの疲れも眠気も吹き飛ばすには十分すぎるほどだった。いまあるのは怒りのみ。誰に対してか――もちろんアンジェラを脅した男、もしくは女、それとクリスに。

プラットはなめらかとは言い難い仕草で書斎に現れ、普段ほとんど見せないサミーの激怒した表情に怖気を震った。

「クリスからの電報は?」執事が口を開く前に尋ねた。もしも届いていてプラットが渡し忘れているのだとしたら、今すぐクビにしてやる。僕にその権利がないと思ったら大間違いだ。

「こっちには来ていないみたい」セシルがプラットの代わりに答えた。

「セシル様のおっしゃるとおりです」プラットもしどろもどろで答える。

「ブラックを呼んで、いますぐ」サミーは怒りで震える息を吐き、いますべきことだけを考えた。とにかくエリックを捕まえる必要がある。今日はどこへ行くと言っていた?朝、新聞社に寄って、それから?

サミーは書斎机の上の書類を引き出しに仕舞い、とにかく座った。足が震えて立っていられなかったからだ。

「お呼びですか?」呼びつけられたブラックが、飄々とした態度で部屋に入って来た。エリックと同じで捉えどころのないこの男は、サミーを見張るためにいる。と同時に、エリックの行動も把握している。

「エリックがどこにいるかわかるか?できれば、いますぐ戻るように伝えて欲しい。無理なら、僕がそこまで行く」

ブラックは驚いたのか大袈裟に黒い眉を上げた。

「君が何者かはわかっている。だからいますぐ答えるんだ」サミーは面倒なもろもろは省き命じた。

「三〇分ほどで連れて戻ってくることが出来ると思います」ブラックは理由も聞かず、余計なことも口にしなかった。

「ではすぐに行ってくれ」さっと手を振ろうとしたが、ずっと拳を握っていたせいか思うように動かなかった。

セシルと二人になると、サミーは机を離れソファに座りなおした。座るタイミングを失して立っていたセシルも向かいに腰をおろし、サミーの手の中で握りつぶされたクリスからの知らせを受け取った。ソファテーブルの上に置き丁寧にしわを伸ばす姿は、アンジェラを思わせた。

「どうすべきだと思う?」サミーは右のこめかみを人差し指と中指で強く押した。頭がずきずきと痛み、まともな考えが浮かんでこない。

「これだけだと状況がよくわからないな。血染めのハンカチにナイフ……ハニーは脅迫されたってことかな?でもいったい誰に?」セシルはもう一度電報に目を落とした。

「僕は、アンジェラを殺したがっている人物はひとりしか思い浮かばないけどね」その理由もとてもくだらないもので、逆恨みもいいところだ。

「でも彼女は一昨日からロンドンにいる」セシルが言った。

「彼女は僕たちがフェルリッジを出たのをいち早く知って、追いかけてきている。向こうに彼女の手駒がいるのは間違いないだろう。それも、思ったよりも近くに」

「屋敷の中にってこと?」

「いや、さすがにそれはない。いれば僕が気づいたはずだ。けど、いったいなぜこんなことをする必要が?もしも本当に命を狙っているなら、黙って実行した方がいいに決まっている。わざわざ警戒させる必要なんてないだろう?」

「ただの脅しってだけで、実行する気なんてないんじゃないかな。だっていまはサミーとの結婚の方が重要でしょう?」

確かにセシルの言葉にも一理ある。彼女の目的はすでに別の所へ移っていて、その対象は僕だ。

「もしかすると別のやつの仕業かもしれないな」その可能性を排除できないうちは、決めつけだけで行動するべきではない。それにジュリエットが犯人なら、僕が抑え込める。クリスほどの魅力はないにしても、彼女が欲しいのは金だ。肩書はないが、何にも縛られない僕の方が自由に金を使える。

事実、領地の資金繰りなどに頭を悩ませなくていいし、愛する妻を置いて北へ旅をしなくてもいい。

クリスはどうするのだろうか?このままアンジェラを置いてラムズデンに行くことが出来なくなったいま、一緒に連れて行くのだろうか。いっそのこと連れて行って、領民に紹介して来ればいい。そうすれば向こうでの問題は一気に解決するし、危険から遠ざけることもできる。

けっして簡単なことではないけれど、あそこを離れる以外の選択肢はもはや残されていない。

つづく


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花嫁の秘密 285 [花嫁の秘密]

「セシル様、コートニー邸から使いの者が来ております」

セシルは本棚の端で見つけた護身術の本を手に、図書室のいつもの場所でアイシングたっぷりのケーキを口に運んでいた。思いがけず執事に声を掛けられ、戸惑いながらもごもごと返事をする。

「僕に?」

「セシル様と、エリック様、お二人に」プラットは言葉をつけ足した。

「ここへ通しても差し支えないかな?」セシルはプラットに尋ねた。ここは自分の屋敷ではないし、今この場にサミーはいない。となれば、執事に確認を取るのが妥当だろう。

「もちろんでございます。すぐにお通しできますが――」

プラットが言い終わるが早いか、セシルのくつろぎの場所にせかせかとコートニー邸の従僕が入って来た。見覚えのない従僕だったが、慌てた様子なのは一目瞭然。いったい何事かとセシルは思わず立ち上がった。

「メイフィールド侯爵より、電報です」

セシルは差し出された電報を受け取りながら、首を傾げずにはいられなかった。「えっと、クリスから?」僕に?サミーにではなくて?「一通のみ?」

「エリック様とセシル様お二人に宛てたものと、ハサウェイさんに宛てたものの二通です」

ハサウェイはコートニー邸の執事だけど、わざわざ彼に宛てたということは何か指示を出したのだろうか?「お前はハサウェイから指示をもらったのか?」尋ねながら開封し、クリスからの知らせに目を通す。

最後まで目を通すまでもなく、これは自分の手に負えるものではないと気づいた。

「セシル様とエリック様から指示があればもらってこいと」従僕が答える。

「いや、今のところ指示はないから戻っていい。何かあれば使いをやるからとハサウェイに伝えて」セシルは従僕に帰るように言い、出て行くのを待って、プラットに声をかけた。

「サミーはまだ部屋?」

朝食後いつもなら図書室で一緒にお茶をするのだけど、今朝も疲れているからとサミーは部屋へ戻って行った。昨日あんなことがあったのだから仕方がない。リックが黙っていたせいで、サミーはジュリエットを避けようがなかった。

「書斎にいらっしゃいます。お呼びしますか?」

「ううん、僕が行くから大丈夫」書斎にいるならすぐに呼べばよかった。リックがどこへ出掛けたのかも知っていたらいいんだけど。

二人の関係は大きく変化している。少し前までは、もしかしてリックってサミーのこと好きなのかな?って程度だったのに、今は一緒にいたくて仕方がないって顔に書いてある。サミーはリックのことなんとも思っていないと言っていたし、きっとその方がいいに決まってるんだけど、本当は違うって結果を望んでる。

二人が並んで立つ姿を昨日のパーティーで見ていたら、それもありかなと。

書斎机に向かうサミーは頬杖をついて目を閉じていた。起こすのは忍びなかったけど、ハニーの一大事とあってはそうも言っていられない。

「サミー、ちょっといい?緊急事態なんだ」

つづく


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花嫁の秘密 284 [花嫁の秘密]

「メグを呼んでくれるか?私は書斎にいる。それと、アンジェラに気づかれないように頼む」

クリスは箱を手に書斎へ向かった。ダグラスが着替えはというような視線を送った気がしたが、今はそれどころではない。だいたい自分の屋敷でどんな格好をしていようが、文句を言われる筋合いはない。

そもそもダグラスが最初にアンジェラに話をしたのが間違いだ。主人が寝ていようがかまわず寝室へ押し入る権利はあるだろうに、なぜそうしなかった。憤っても仕方ないが、箱を開ける前と後ではいくらいつも冷静沈着なダグラスといえども動揺して当然だ。おそらく箱の中身をメグも見てしまったことも要因だろう。

ここまであからさまな脅しをしてきたのは何者だろうか。おそらく以前アンジェラを殺そうとした人物に間違いはないのだが、誰であれ、敷地内に入り込めたとは思えない。屋敷内に犯人がいるのだとしたら、ここを一刻も早く離れる必要がある。

メグは五分と経たず、書斎へやってきた。朝早くても髪の毛ひとつ乱れていない。背筋をピンと伸ばし仕事を妨げられた不満など微塵も見せない。アンジェラの着替えはもう済ませたのだろうか?それともまだあの寝間着でベッドにいるのだろうか。

机の前に立つクリスは箱の上に手を置いた。「メグ、この箱の中を見たね。ハンカチがアンジェラのものかどうかわかるか?」ハンカチについていた血がアンジェラのものではないのは、昨夜愛し合ったときに確認済みだ。身体のどこにも傷はなく、なめらかで美しかった。

「奥様のものではありません」メグははっきりと否定した。

「だが、アンジェラの名前が刺繍してあった」

「奥様のものではありません」メグは繰り返した。「それにそんなにへたくそではありません。おそらくこの箱を用意した者が誰かにさせたか、自分でしたかでしょう」

「内部の人間だと思うか?」すでにメグの返事で違うと判断していたが、他の者の意見を確認せずにはいられなかった。

「わたしにはわかりません。ですが、以前奥様の命を狙った者の仕業だと思います」メグの答えは的確だった。

「メグはそれが誰か知っているのか?」クリスは思い切って尋ねた。おそらくコートニーの兄たちは知っているのに、誰も俺たちに教えない。理由が何であれ、危険が迫っているのにこのまま黙っているのだとしたら、兄弟の縁を切ることだってあり得る。

「わたしは知りません」

メグが信頼できるのは、なによりまず嘘をつかないからだ。もしもどうしても嘘をつかなければならなくなった時、いったいどうするのだろう。

「アンジェラはどうしている?」クリスはひとまず肩の力を抜いた。

「寝室で旦那様をお待ちです。朝食はダグラスが部屋へ運ぶことにしたようです」部屋に押しとどめることに苦労したのか、わずかに眉間にしわが寄った。

クリスは思わず口元を綻ばせた。「わかった。仕事へ戻ってくれ。このことは私からアンジェラに話す」

「かしこまりました」

メグが出ていくと、クリスはダグラスを呼んだ。クリスマスの朝に届けられた贈り物について箝口令を敷き、これからどう対処すべきかを話し合った。

まずは電報をコートニー兄弟に送る。サミーに知らせるべきか迷ったが、前回無茶をして死にかけた――本人はまったくそう思っていないが――ことを思えば、しばらくは黙っているのがいいだろう。
コートニー兄弟には口止めをしておくべきか?だが一緒にロンドンへ出たエリックとは様々な催しに出席すると言っていた。あの二人、けっして仲がいいとは言えないが、どこまで情報を遮断できるかは不明瞭だ。

慎重に言葉を選ぶべきなのはわかっているが、何よりもまず知らせるのが先だ。そうすればコートニー兄弟も俺に犯人を言う気になるだろう。

よりによってこんな時に仕掛けてくるとは。犯人がサミーの手によって死んだ男ではなかったと、自ら告げてきたのはなぜだろう。

クリスマスの朝をゆっくりと過ごさせないためだとしたら、成功したと言わざるを得ないだろう。
さて、ハニーになんと告げようか。

つづく


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花嫁の秘密 283 [花嫁の秘密]

「クリス!起きてっ」

「んん……もしかして今朝も雪が積もっているのかい」

クリスマスの朝も変わらずハニーは刺激的な起こし方をしてくれる。だが、正直まだ眠っていたい。

「違うわ、プレゼントが――」

クリスは腕を伸ばし、アンジェラを上掛けの中に引き入れた。昨夜脱がせた寝間着を着ている。

「もうっ、クリス。聞いて」アンジェラはくすくす笑いながら、クリスの逞しい胸に頬をすり寄せた。

「ハニー、この寝間着は素敵だけど、上に何か羽織らないと風邪をひいてしまうよ」

昨夜贈ったばかりのミセス・ローリングの薄紅色の寝間着は、着たと同時に脱がされ、アンジェラは一晩裸で過ごしたも同然なのだが、贈り主は都合よくそこは忘れたようだ。

「部屋が暖かいから平気よ。それにクリスもとても暖かいわ」アンジェラは大胆にもクリスの身体に脚を巻きつけぎゅっとする。クリスは思考が停止する前に何とか訊き返した。

「それで、プレゼントがどうしたって?ハニーから贈り物はキースがきちんと仕舞ったはずだ」ハニーからの贈り物は革の手袋で、年明けラムズデンに行くときに身に着けようと思っている。離れている間もハニーを感じられるように。

「わたしのじゃないわ。ダグラスが玄関にプレゼントが置いてあったって」

「誰から?」クリスはアンジェラを抱いたまま身体を起こした。「ダグラスはそれをどうしたか言っていたかい?」アンジェラの頬にかかるはちみつ色の髪の一筋を指先で払い、軽く口づける。いったいなんだってダグラスが寝間着姿の妻と話を?

「たぶん、まだ玄関よ。どうしたらいいのかクリスに聞きたがっていたの」

「ハニーはここにいなさい。ちょっと様子を見てくる」嫌な予感がする。これまでクリスマスの朝に、ダグラスが困るような贈り物が玄関に置いてあったことなど一度もない。

クリスはガウンを羽織り、もう一度アンジェラに口づけ、急いで部屋を出た。

「ああ、旦那様」ダグラスがちょうど廊下の向こうからやってきていた。余程困っているのか、主人を見るなり哀れな声を出した。

「ここではまずい。このまま下へ」おそらくハニーの耳に入れていい内容ではない。

二人は黙したまま玄関広間へ向かった。大理石の冷え冷えした玄関広間には新しく絨毯を敷いたばかりだ。この屋敷はまだハニーの思うような住まいになっていない。温かみがあり心地よく、誰もが離れがたくなるような屋敷をハニーと共に作っている最中だ。

その贈り物だという四角い箱は帽子がひとつ入るほどの大きさで、荷物を置く丸テーブルの上にメッセージカードともに置かれていた。その周りを使用人たちが取り囲んでいる。

「ほら、みな仕事へ戻りなさい」ダグラスが手を叩いて人払いをすると、使用人たちは主人に頭を下げつつ慌てて退散した。

「中を開けてみたのか?」クリスは閉じられた箱を見て尋ねた。メッセージカードには“Merry Christmas”とあるだけだ。宛名も差出人の名もない。

「はい。どうすべきか悩みましたが、やはり確認すべきだと思いまして――」

「どういう状況だったのか説明してくれるか?」怖気づいているわけではないが、中を確認する前に話を聞いておきたい。

「玄関の外に置いてあるのを、庭師のモリスが見つけてわたくしの所へ報告へ来ました。昨夜戸締りをした時にはありませんでしたので、夜中、置かれたと思われます。そのようなものが旦那様や奥様の目に入れていいものだとは思えませんでしたので、箱を開けることにしました」ダグラスはその時の驚きと動揺を思い出してか、わずかに身震いをした。

「他に見たものは?」

「わたくしとモリスと、あと、メグが……」

「メグが?メグが見て平気なものだったのか?」いくら感情が欠如している(ように見える)といっても、まだ子供だ。あまりにしっかりしているから忘れがちだが、エリックの身元保証がなければ雇ったりしなかっただろう。

クリスはゆっくりと蓋を持ち上げ、中を覗き見た。

レースの縁取りのされたハンカチの上にそっと置かれたナイフ。ハンカチにはアンジェラの名前が刺繍してあり、血痕がついていた。

つづく


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花嫁の秘密 282 [花嫁の秘密]

サミーは怒って当然だ。だが、もう少し突っかかってくると思った。
やけにおとなしいのは、予想以上に怒っているからか、それとも呆れかえっているからか。

気付けば自然とサミーの肩に手を回していた。時折、頭を撫で、まだ湿ったままの毛先を弄ぶ。きちんと乾かせとあれほど言ったのに、こんなことだから、こいつは風邪をひくんだ。

「話は終わり?」サミーが顔をあげてこちらを見た。いつもより瞳が青みがかっている。今どんな心境なのだろう。

「セシルにした話を、俺にする気はあるのか?」全部聞いていたが、サミーの口からもう一度聞きたかった。父親の話をするのはまれで、その時少なくとも好感を持った男についても、もう少し知る必要がある。

「どうせ聞いていたんだろう?昔会ったことのある男を見かけた、それだけだよ」サミーはエリックの胸に寄り掛かって目を閉じた。同じ話を繰り返す気はないようだ。

「そいつはもしかして短髪の男か?」サミーが従者のようだと言っていたが、あの男を見た時の違和感はこれか。

「金髪で青い目のね」

「同じやつを怪しいと思ったわけだ」さすがはサミー。人を見る目がないだと?とんでもない。こいつほど人を見抜く能力に長けたやつが他にいるもんか。

「僕の場合、怪しいとはちょっと違うかな。ただ不思議に思っただけなんだけど、つまり怪しいと思ったってことかな?」サミーはほとんど独り言のように言い、じっと考え込んでしまった。また過去の記憶を掘り起こしているのだろうか?

「以前どこかで見た記憶はあるんだが、いつどこで、いったい誰なのかが思い出せない」この一,二年のことなのかそれよりもずっと前なのか、まずはそこから絞り込む必要がある。

「四人目の可能性があるのか?」

「いや、違う……」エリックは慎重に答えた。確信は持てないが、四人目ではない。でも、あいつに感じた違和感は他にもあった。「クレインに調べさせたからそのうち正体がわかるだろう」

「クレイン?」サミーが顔をあげた。

「ただの調査員だ。お前が気にすることはない」

「僕の事は知りたがるくせに、僕が知ろうとするのは拒むってわけだ」サミーがあからさまにむっとした顔をする。この反応が単純に俺の事を知りたがっているものだと、喜べればいいのだが。

「拒んだりしない。ただ説明するほどの事じゃないだけだ」こういう返しをして、サミーが納得するはずがない。知られて困るわけでもないし、言っておくか。「個人的に雇っている男で、今回の件には最初から絡んでいる。お前を守るために動いている、それと、あのチョコレートを勧めたのはクレインだ」まあ、正確には違うが。バーンズの所へ行ったのはまた別の機会に話すことにしよう。

「チョコレートで僕の機嫌を取って、ジュリエットの相手をさせようって魂胆だったわけね」

「お前はいちいちうがった見方をしなきゃ気が済まないのか?」あながち間違っていないのが恐ろしい。

「まあ、いいけどね。それで?他に気になった人はいた?」

サミーはこの調査を楽しんでいるようだ。ずっと俺の腕の中にいるのに文句ひとつ言わないのは珍しい。

「ああ、何人かいた。それも別口で調べさせている。もちろん詳細が分かり次第、お前には知らせる」

「エリックは自分で会社を興そうとか思わないの?フリーとはいえ、一応新聞社に所属はしているんだろう?」

「そういう話をしだしたらきりがない。せっかくのクリスマスが台無しになるだろう。ほら、キスくらいさせろ」エリックはサミーの顎を指先で軽く上げた。

「もう十二時を過ぎてたんだ。ここにヤドリギはないからキスはしないよ」炉棚の上の置時計を見て言う。

「小枝をポケットに忍ばせている」確かめたかったらどうぞと、腰をひねる。

「嘘つき」サミーは笑った。

「いいから、黙ってこっちを向け」エリックはそう言って唇を重ねると同時に、サミーを寝椅子にゆっくりと押し倒した。

つづく


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花嫁の秘密 281 [花嫁の秘密]

もうあと三〇分でイヴが終わる。結局ジュリエットに伝言は頼まず、そのまま帰宅したが、何かあれば彼女は手紙を寄越すだろう。

今夜は何をしたわけでもないが、ひどく疲れていた。怒りや恨みなどないかのようにジュリエットと時間を共有するのは拷問に近い。自分の計画のために結婚という手もあるかと考えたりもしたが、おそらく一秒だってもたないだろう。人殺しでもかまわないけど――僕だってあのごろつきを殺した――アンジェラに危害を加えたことだけは許せない。

身体の汚れを洗い流し自室へ戻ったが、疲れた身体とは裏腹に頭も目もまだ冴えたままだ。暖炉の前の寝椅子にしばらく横になってこの二、三日の事を整理してみたものの、情報量が多すぎて頭が追いつかなかった。

ほとんど考えるのをやめてぼんやりとしていたら、予想通りエリックがやってきた。

エリックは僕を自分の物だと勘違いしているようで、弟の前でもそれを隠そうとしなくなっている。正直、そういうのは迷惑だ。だがエリックに言ったところで、こちらの話をまともに聞き入れるはずもない。

「情報交換をするために来たんだろう?」ひと言、牽制する。

「情報交換?お前の方は何か有益な情報を手に入れたのか?」

偉そうに見おろしているけど、その前に僕に言うことがあるだろう。「セシルにも話したけど、ちょっと気になる人物はいた。あと、ジュリエットがなぜ今日のパーティーにいたのか僕なりに考えてみたけど、聞くかい?」

「昨日の夜、情報が入った」エリックが白状した。

「いつの時点かは知らないけど、僕たちはひと晩一緒に過ごした。でも、君は黙っていた」サミーは淡々と事実を述べた。言い訳が思いつかないのか、エリックは黙ったままだ。「僕が平気だとでも?」

アンジェラを殺そうとした女の手が僕に触れても君は平気なのか?そう問いたかったけど、うまく言葉が出てこなかった。心のどこかで、言ってはいけない言葉だと危険信号が発せられていた。

「悪かった」

そんなふうに簡単に謝られると、これ以上責められなくなる。僕は子供じゃないし、エリックが何も考えず行動しているとは思っていない。エリックは僕にどうして欲しいのだろうか。彼女と本気で交際することも作戦に入れているのだろうか。確かに、その方が効果的ではあるけど。

サミーはゆっくりと身体を起こし、背もたれにぐったりと寄り掛かった。疲労が次々と押し寄せ、思考が停止する。

エリックは場所が空いたとばかりに隣に座り、サミーの頭を自分の肩にもたれかけさせた。サミーは抵抗しなかった。まだ話し合うことはたくさんある。もちろん、それは明日の朝目覚めてからでもいいのだけど。

「明日の社交欄にお前とジュリエットの事が載る」エリックが言った。「今夜は話題が多いからたいして注目はされないだろうが、しばらくまた――」

「僕に彼女と付き合えってことだね。それが君の考え?」もちろんそうするつもりだったが、エリックがすべて仕組んだのだとしたら、僕は彼を許せるだろうか。

「言い訳しておくが、俺が記事を載せるわけじゃないからな。人前であんなにべたべたするからこうなったんだ。あの女に腕を差し出す必要はあったのか?サミュエルと呼ばせているとは思わなかった」

エリックは怒っているのか?もちろんジュリエットは僕の事はサミュエルと呼ぶ。サミーと愛称で呼ばせるなんてこと僕がするとでも?でもまあ、ジュリエットのことだ、そのうち勝手に呼びそうではある。

つづく


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花嫁の秘密 280 [花嫁の秘密]

サミーの言葉を疑う余地はない。こいつはハニーを犯そうとした男同様、自分の手でジュリエットを始末したいに違いない。だがそれをさせるわけにはいかない。もしも、その時がきたら、先に俺がやる。

「ところで、君の方は収穫はあったのかな」サミーが揶揄するように言う。わざわざ連れ出しておいて収穫なし、なんてないよねといった挑発的な目つきに、エリックは予期せず身体の芯を疼かせた。

この数日、なぜかサミーに欲情しっぱなしだ。二人きりで過ごす時間が増えたからか、欲情しているから二人の時間を増やしたのか、もうどっちがどっちだかわからない。「まあ、そこそこな。馬車を回すように言っておいた。詳しくは帰ってから話そう」

「あれ?もう帰るの?」セシルが甲高い声をあげた。

「もうじゅうぶん食べただろう」エリックは目をすがめた。今夜は役目をきちんとこなしているようだからいいが、こいつはとにかく食べ過ぎだ。

「ちがっ、そうじゃなくて……まあ、食べたけどさ」セシルは潔く認め、きゅっと口をすぼめた。

「僕はてっきり、ひと晩中デレクを見張るのかと思っていたよ。そこの椅子に座ったらどうだ?」いつまでも暖炉脇に立つエリックを邪魔だとでも言いたげに、本がいくつか重ねられている小さな丸テーブルのそばの椅子を指して言う。

エリックは踏み台らしき椅子を一瞥した。「あいつに張り付いても得るものはない。招待客リストは入手したし、用済みだ。ああ、そういえば、キャンベル夫人がついさっき到着したようだ。このあとの晩餐会に出席するらしいが、誰の招待だろうな?」

「もう夜一〇時だけど?」とセシル。さっきもう帰るのと言ったのを忘れたか?

「だからなんだ?クリスマスイヴだぞ、盛り上がるのはこれからだ」

「もしかして、ジュリエットも晩餐会に出席するのか?」サミーが訊いた。おそらく答えによって、ジュリエットがいつの時点で今日ここへ来ることになったのか、勝手に判断するつもりだ。そして俺を責める。つまりセシルは告げ口していないってことか。

「いや、生憎俺たち同様ブライアークリフ卿の御眼鏡には適わなかったようだ」今回は古くから付き合いのあるメンバーだけを集めたようだが、これがどうにも胡散臭い。これはまた別途調べることにしよう。

「あんなに寄付したのに?僕じゃなくてサミーの事だけど」

「サミーは俺の連れだし、俺が晩餐会なんてものに出ないことは彼も知っている」

「だから呼ばれなかったその他大勢は、応接室のビュッフェってわけね。僕は堅苦しい晩餐会よりもビュッフェの方でよかったけど」セシルが言うとなぜか負け惜しみに聞こえるが、実際食べたいものを好きなように選べる方がセシルにとっては満足度が高いだろう。

「そう、それじゃあ帰ろうか。僕はジュリエットに帰るとひと言声をかけた方がいいのかな?」サミーはゆるりと立ち上がり、上半身を軽くひねった。

「好きにすればいいが、玄関広間にデレクがいたから伝言でも頼んだらどうだ?」まだいるかはわからないが。

「あいつに頼むくらいなら、今夜ジュリエットと過ごした方がましだ」サミーはぴしゃりと言い、エリックに背を向けた。憤然とした足取りで部屋を横切っていく。

エリックとセシルは顔を見合わせ、慌てて後を追う。

今晩ジュリエットと過ごさせるくらいなら、この屋敷の寝室に引きずり込んでもうやめろと懇願するまで犯してやる。どちらにしろ、今夜は眠らせないと決めていた。場所が変わったところでどうということもない。

つづく


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花嫁の秘密 279 [花嫁の秘密]

「父が亡くなった時だから、四年前かな」

サミーは葬り去った記憶を掘り起し、先代のメイフィールド侯爵が亡くなった時のことを思い出していた。忘れたと思っていたけど、案外当時の光景がすんなりと目の前に浮かんでくる。

「その時見たの?その人」セシルがおずおずと訊いた。

「うん……でもまだ子供だった」そう見えただけで、本当は成人していたのかもしれない。「笑っていたんだ。父の葬儀の時に――それでよく覚えている」天使が僕の代わりに笑ってくれたのかと思った。クリスは自分に圧し掛かってくる責任に顔をこわばらせていたけど、僕は解放されて安堵していた。さすがに笑わないだけの分別はあったけど。

「親戚、ではないんだよね?」

「たぶん父と懇意にしていた誰かの息子だと思う。その時、彼が連れていた従者に今日見かけた男は似ていた」その従者に目を留めたのも、彼が目立ち過ぎていたからだ。歳はおそらく、その誰かの息子と同じくらいか少し上。見た目もどことなく似ていたから、それこそ親戚か何かだろう。

「名前はわかるの?」セシルは期待を込めて尋ねた。

サミーは小さく首を振った。「いや、まったくわからない。フェルリッジに戻って調べれば、当時葬儀に出席していた人物から割り出せるかもしれないけどね」

「でも、従者が四人目とは考えにくいね」セシルは指先で唇をはじき、あれこれ考えを巡らせている。

「そうだね。こんなところで会うとは思わなかっただけで、別におかしいところはなかったし。エリックの話から推測するに、四人目はやはりある程度の地位と、遊びに使える潤沢な資金を持っている人物だろうから、彼はちょっと違うかな」

だいたい、存在するのかもわからない人物をどうやって見分ければいいって言うんだ?エリックのように人と会うことを仕事としているわけでもないし、人を見抜く才に恵まれているわけでもない。

「そういえば、ジュリエットとはこれからどうするつもりなの?」セシルも考えるのを諦めたようだ。きっぱりと話題を変えてきた。

「それは俺も聞きたいね」

背後から声をかけられ、サミーの背は粟立った。セシルとなら気楽に話せることも、相手がこの男となれば話は違う。

「リック、よくここだってわかったね」セシルは椅子から身を乗り出した。兄に会えて案外嬉しそうだ。

「お前たちのいそうな場所くらいわかる。ジュリエットはどうした?」エリックは鼻で笑い、ゆったりとした足取りで近づいた。

「別のお友達と仲良くしているさ」サミーは素っ気なく答えた。

「ひとまず、今夜は逃げたわけだ」エリックはサミーの背後に立ち椅子の背に両手を置いた。「何か具体的な話をしたのか?」

「具体的って?僕と結婚しようかって言ったかどうかってこと?」

「笑えないからやめろ。結婚しようがどうしようが、お前は命を狙われているってことを忘れるなよ」エリックは二人の前に回り、強い口調で念を押した。

「ジュリエットに僕を殺せるとは思えないけどね」サミーは軽く受け流した。

「僕もそう思う。彼女はお金に執着するタイプかもしれないけど、サミーに何かするとは思えない」セシルはサミーに同調した。

「あの女がハニーにしたことを忘れたわけじゃないだろうな?ったく、お前らみたいな世間知らずがいいカモになるんだろうな」

「忘れるものか!彼女には僕は殺せないと言っただけで、そうしないとは言っていない。もし次に同じことをしてきたら、僕が彼女の息の根を止める」

つづく


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