はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
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花嫁の秘密 265 [花嫁の秘密]

売る気はないのだろうと想像はしていた。それでもなんとか説得できればと考えていたが、そもそも話ができる相手ではなかった。ひとまず弁護士と話をした方がいいだろう。

エリックは腹立ちを隠そうともせず、応接室を出た。取り澄ました態度がどこかサミーと重なった。今朝のあいつの態度ときたら、可愛げもなにもあったもんじゃない。こういう自分の余裕のなさにもひどく腹が立った。

広間を通り玄関に向かいながら、ふと立ち止まる。中庭の向こうには悪名高い紳士クラブがある。会員になるにはどうすればいいか聞いておけばよかった。それも会話が成り立てばの話だが。

「話は済んだのですか、コートニー様」

ふいに背後から話しかけられ、エリックは振り返った。出迎えた執事より声が若かったためすぐに誰か察しがついた。まさに今、会員になりたいと思っていたクラブの新しいオーナーだ。別のクラブでバーンズと一緒のところを見かけたことがあるが、髪の毛一本の乱れも許さないといった潔癖さと、相手を一瞥しただけで凍りつかせる様な眼差しは、どこにいたって変わらないらしい。

バーンズとは兄弟同然で育ったものの、身分の差ははっきりしていると思っていた。けれども、いまだ一緒に住み、クラブも譲り受け、どこからともなく現れた子供を一緒に育てている。そこになぜかクロフト卿も加わり、疑似家族のようなものを作り上げている。謎でしかない。

「ええ」エリックは相手の出方をうかがうように、短く答えた。

「ジェームズ・アッシャーです。誰もアッシャーとは呼びませんので、ジェームズで結構です」なんとも抑揚のない声。眉ひとつ動かさず、初対面にもかかわらずファーストネームで呼べと言う辺り、おそらく同じように探りを入れるつもりだろう。

いったい何が知りたいのやら。「エリック・コートニーです。こちらもエリックで結構です」これから何度かこの屋敷にも足を運ぶことになる。それなら、この男とも親しくしておいて損はない。

「確か、クロフト卿の屋敷を購入したいという話でしたね」ジェームズはさりげない口調で切り出した。ここで根掘り葉掘り聞くつもりだろうか。せめて座って茶ぐらい飲ませろ。

「そのつもりでしたが、弁護士を通した方が良さそうです」エリックはクロフト卿との成立しない会話を思いだして、渋い顔になった。何よりまず、あの男には人の話を聞くところから教え込まなければならない。「ああ、そういえば、クロフト卿の好物はプロフィトロールだとか?」

「え?ええ、そうですが」ジェームズが戸惑うのも無理はない。実際クロフト卿の好物がなんだろうがどうでもいいことで、屋敷の購入にはなんら関係ないのだから。

「じゃあ、ヒナの言っていたことは正しかったってことか」

「ヒナに会ったんですか?」ひどく驚いた様子。

「クロフト卿よりも先にね。俺が好物のチョコレートを持って来ていたから、きっと吸い寄せられたんでしょうね」ぷらりと来て、めざとく“公爵のチョコ”を見つけてにこにこしていた。余程好きなのだろう。

「きっとクリスマスプレゼントだと思ったのでしょう。御覧の通り、子供ですから」

今舌打ちが聞こえた気がしたが、聞こえなかったふりをするくらいの良識は持ち合わせている。どうやらヒナに手を焼いているらしい。そう思うとクロフト卿は案外うまく扱っていたのかもしれない。

言われれば確かに、クリスマスイヴに手ぶらで――実際は手ぶらではなかったが――来るとは思いもしなかったのだろう。いや、もしかしてクレインがチョコレートを指定したのはそういうことなのか?チョコレート以外にも選択肢はあったが、もう店に頼んだ後で――やはり選択肢はなかった。

いったい、どういうことだ?クレインはこの屋敷の誰と話をつけたのだろう。知りたいことが山ほどあるが、特に茶を勧められないと言うことは、もう退散した方が良さそうだ。

つづく


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