はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

花嫁の秘密 264 [花嫁の秘密]

パーシヴァル・クロフトは現在、友人である(本人はそう思っている)ジャスティン・バーンズの家に居候中だ。だからこうして誰かに訪問されるのはまれで、ましてや相手があのエリック・コートニーとあっては警戒せずにはいられない。

僕はなにかしただろうか?全く身に覚えがないと言いきれたら、どんなにいいか。もしかして明日には醜聞まみれの記事が紙面に載るから警告に来たとか?パーシヴァルは目の前の男をじろじろ観察せずにはいられなかった。

緑みの強いヘーゼルの瞳はなんと魅力的なことか。でもまあ、僕のジェームズの、身も凍るような冷ややかな青い瞳にはかなわないけれど。そういえば、ジェームズはどこへ行ったんだろう。今日はクリスマスイヴだっていうのに、恋人を放って何をしているのやら。ジャスティンとこそこそしていたのを僕が知らないとでも?あとでたっぷりお仕置きしてやらなきゃ。

「あの屋敷を売って欲しい」

「え?なんだって?」ついうっかり客のことを忘れていた。話を聞いていなかったことを悟られないように、もう一度はっきり言いたまえといった視線をコートニーに向ける。

「売りに出している屋敷を買いたい」二度も言わせるなといった口調だ。

「え?メイフェアの?」売りに出している屋敷はひとつしかないのであそこで間違いない。

「ええ、使いの者より聞いていませんか?」

ああ、そういえば……。来シーズン貸し出すことにした途端、こういう話は舞い込んでくるものなのだ。けど、僕はまだ迷っている。あそこをジェームズとの愛の巣に出来たらどんなにいいか。だが、悲しいかな、ジェームズはあそこで僕と住むくらいならクラブに住み込んだ方がましだとさえ思っている。今だって改装中のクラブに入り浸ってばかりで、ろくろく相手をしてくれない。

ジャスティンとジェームズで作り上げたスティーニ―クラブは、経営者が変わるのを機に一新する予定で只今休業中だ。ジェームズがオーナーで僕はその相棒で恋人。けれども、いまだ除け者状態で不満はたまる一方だ。

だからその鬱憤をここでぶちまけたって仕方ないというもの。

「君が買えるほど安くはないけど」肘掛けに寄り掛かりむっつりと言う。こっちの方が年下だけど、かまうものか。

「売る気はあると?」

な、なんで睨むんだよ。「あるから売りに出している。次のシーズンは貸し出すことになったけど――」

「契約はまだしょう?その貸し出す相手にはこちらで別の屋敷を紹介します、クロフト卿の手を煩わせることはないと思います」コートニーはパーシヴァルの言葉を遮り、強い口調できっぱりと言った。

「そういう細かいことは事務弁護士に任せている」パーシヴァルは冷ややかにコートニーをねめつけた。勝手に話を進められるほど腹の立つことはない。

それに知らない間に弁護士のルーク・バターフィールドがどこからか借り手を見つけてきただけで、僕は自分の手を煩わせたことなど一度もない。いかにも働き者のように見られるなんて、ちょっとした屈辱だ。僕のような身分の者は怠惰な人間だと思われるくらいでなきゃ、魅力が半減してしまう。

ああ、でも、しっかり働かないとジェームズに捨てられてしまう。そうとなったらぐずぐずしていられない。屋敷を売れだと?冗談じゃない!

「では弁護士と話をさせてもらいます。よろしいですね」コートニーは吐き捨てるように言い、立ち上がった。「ああ、それからこれはヒナに。好物だそうで」

「ヒナに?」なぜヒナに?僕にではなく??

「それでは失礼します。見送りは結構」

いったいなんだってコートニーは怒っているんだ?怒りたいのは僕だっていうのに。

つづく


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花嫁の秘密 263 [花嫁の秘密]

「パーシーに会いに来たの?」

バーンズ邸には時間ぴったりに到着した。やたら背筋の伸びた執事がクロフト卿を呼びに行っている間、ここ応接室で待つように言われたが、五分ほど経った頃、ふらふらと子供がやってきた。

茶色の長い髪を馬のしっぽのように束ねている。青いリボンが形よく結ばれていて、革紐で適当に縛っただけの自分とは違ってちゃんとした従僕がそばについているのだろう。客が来ると知っていたからか、クラヴァットも完璧なまでに仰々しく結ばれている。

これが例の子供か。エリックは目の前の子供の情報を素早く引き出した。コヒナタカナデ、十五歳、三年前よりバーンズが面倒を見ているが、素性がいまいちはっきりしない。というのも、調べようとしてもどこかで必ず情報が遮断される。

「彼は忙しいのかな?」エリックは当たり障りなく尋ねた。

「暇だと思う。いつもぷらぷらしてるから。ねえ、それなあに?」

自己紹介もまだだったが、手土産に興味を持ったようだ。「実はクロフト卿にお願いがあって、それでこれは賄賂なんだ。彼の好物って聞いたからね」エリックは秘密を打ち明けでもするかのように、ひそひそ声で言った。

「ちがうよ」

違う、だと?クレインのやつ、情報は正確にとあれほど――

「それ、ヒナの好物だよ。パーシーはプロフィトロールが好きなんだから」

「これが何かわかっているのか?」エリックは傍らに置いた紙袋を指さした。クロフト卿の好物はそもそもクレインのリストにはなかった。

「公爵のチョコでしょ。ヒナ知ってる」えへへと笑って、なぜか得意げだ。

公爵のチョコ?御用達ってことか?確かバーンズの父親はランドル公爵だったか。だとしたら当然口にしたこともあるのだろうが、バーンズと父親は不仲だと聞いている。関係が改善したという噂は、今のところ耳にしていない。

「そうか、それで、えーとヒナ、でいいのかな?ここで何をしているんだい?」

「お茶の時間だよ」ヒナはそう言って、ポケットから懐中時計を取り出しエリックに見せつけた。特に時間は確認しないようだ。

「ここで?」エリックは慎重に問い掛けた。もしここで茶を飲む気なら、クロフト卿との面会はどうなる?最初から俺なんかに会う気はないってことか?

自分の世間での評判はよく知っている。職業柄――表向きはっきりと何をしているのか公表したことはないのだが――こちらが会いたいと言っても拒まれることが多い。相手にやましいことがあるからだ。
ペンを握り相手をビビらすことは簡単だが、それは同時に自分の立場も危うくしている。だからこそ常に情報は正確でなければならないし、もし仮に嘘を吐くなら徹底的にだ。

「おやおや、ヒナったらこんなところにいたのかい?ジャスティンが探していたよ、図書室辺りで」優雅な足取りでクロフト卿が応接室へやってきた。

「え、ジュスが?」ヒナは一瞬嬉しそうな顔をしたが、すぐに思案顔になった。

「おやつを一緒に食べたいんじゃないかな?」と、クロフト卿。

「そうかも。じゃあ、またね。パーシー、チョコ残しておいてね」そう言ってヒナは風のように去って行った。

「さて、コートニー君が僕に何の用だい?」

つづく


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花嫁の秘密 262 [花嫁の秘密]

三〇分ほどして着替えを済ませたエリックは、クレインのリストを手にとりわけ高級な店の立ち並ぶ通りへ向かった。時期が時期だけに、予約をしておいたから心配ないとはいえ、早く行かなければ売り切れもあると言う。
クリスマスで世間が浮かれる中、なぜチョコレートショップへ行かなきゃならん。あの男がこんなもの欲しがっているとは思えない。

エリックは人混みをすり抜けるようにして通りを進み、目当ての店を見つけた時にはホッとせずにいられなかった。早く用を済ませて屋敷へ戻りたい。もちろんサミーのいる屋敷にだ。

ショーケースに宝石のようにずらりと並ぶチョコレートは美しく、あの男がこれを好む理由がわかった。とにかく洒落た男で美しいものが大好きなのは誰もが知るところ、けれども、男の趣味がいいとは言えない。なんだってあの男はあんなくだらないやつと付き合っていたんだろう。

「ひと粒味見をしていいか?」こういう場所では不適切かもしれないが、美味かったら何箱か屋敷に届けてもらおう。セシルは大喜びするだろうが、サミーはどうだろう。

「ええ、どうぞ」清潔なエプロン姿の売り子が、何粒か乗った陶器の器をエリックの前に差し出した。店主に特に確認しなかったところを見るに、この店の娘だろうか?気前がいいがこれも代金に入っているのだろう。

チョコレートが詰められた箱に赤と緑のリボンが芸術的に結ばれていくのを眺めながら、ひと粒口に放り込んだ。まずまずといったところか。これならサミーも喜ぶだろう。

店を出た時には約束の時間までわずかしかなかった。途中帽子屋の前を通りかかったとき、新しい帽子を注文し忘れていたことを思い出したが、頼み事をするのに遅れていては意味がない。帰りに帽子屋に寄ることを頭の片隅にメモし、道を急いだ。

そう言えば、クレインは正面と裏口とどっちに行けばいいと言っていた?正面は文字通り屋敷の正面玄関だが、屋敷はバーンズのもので彼は今居候だ。裏口とは、屋敷とは反対に入り口がある経営するクラブのことで、今は休業中だが、彼は共同経営者でこっちに行くのが正しいのか?

エリックは悩んだ末、屋敷の正面玄関に通じる通りを選んだ。なぜクロフト卿は自分の屋敷を出て、決して仲がいいとは言えないバーンズのところに居候なんかしているのだろう。借金があるとは聞いていないし、将来のことを考えればクラブの経営に携わる必要などない。

エリックは似たようなことをサミーに勧めようとしていることに気付き、思わず苦笑いした。

サミーに適当な住まいを与え、クラブを買い取り経営の指南をしようとしている。これを本気でやろうとするなら、今回の会見は有意義なものとなるだろう。そうでなければ、午前の予定をキャンセルした意味がない。

つづく


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花嫁の秘密 261 [花嫁の秘密]

リード邸を出たエリックはステッキを手にのんびりと通りを歩いていた。

今日予定していた用事をすべてキャンセルして――サミーと参加するブライアークリフ卿のパーティーは別として――ひとつ別の用をねじ込んだ。

さて、彼は俺に会ってくれるだろうか?実のところ、よく知らない人物だ。世間一般の評判は知っているが、それ以上の事となると、どうでもいい情報しか得られていない。

車道を横切り、表通りから近道の為裏通りへと入る。足元がぬかるんでいたが気にせず突っ切った。広い通りへ出ると歩を緩め、脇道から出てきた男と肩を並べた。

「どうだった?」エリックは前を向いたまま問い掛けた。

「それが、とても忙しそうでした」

とても忙しそうだと?それで俺にどうしろと?

エリックは立ち止まり、先を行く男を睨みつけた。男は慌てた様子もなく立ち止まると、振り返って言った。

「ちゃんと話はつけてきましたよ。手土産に何か甘いものを持ってくるようにと言われました」

昨夜リード邸に来たときは顔を見ることはなかったが、相変わらず飄々とした様子で、黒い瞳はどこか面白がってさえいる。これではどちらが雇い主なのかわからない。

「クレイン、なぜ甘いものがいる?」エリックは再び歩き出し、苛々と尋ねた。クレインはたまに言葉遊びのようなことをする。暇な時なら付き合ってやるが、生憎今日は遊んでいる暇はない。

「まあ、食べたいからでしょうね」

「へぇー、それで?おすすめは何か聞いてきたのか?」

「もちろん。それが俺の仕事だ」

嫌味には嫌味で応酬か?

クレインがおすすめの菓子をあれこれ挙げている間に、テラスハウスの立ち並ぶ住宅街に入った。通りの中ほどまで来ると、数段の階段を軽やかに駆け上がり、ステッキの柄で玄関を叩いた。

すぐにドアが開き、大家が顔を見せた。大家と言っても家主は自分なので、彼は管理人なのだが、ホテルで働いていただけあって、歳はとっているが背筋はピンと伸び身なりは完璧だ。独身男性向けの住まいのコンシェルジュとしては最適な人物だ。

「これは、エリック様。おかえりなさいませ」

言葉ほどは驚いてはなさそうだ。きっと今日あたり顔を出すと踏んでいたのだろう。それとも待っていたのは毎年恒例のクリスマスプレゼントだろうか?もうそろそろ届いてもいい頃だ。

「やあ、タナー。元気だったかい?」

「おかげさまで、元気にしております。お茶をお持ちしますか?」後ろのクレインを見て言う。

「いや、すぐに出かけるからいい。ああ、そうだ。あとでブーツを磨いておいてくれるかな?」エリックは泥汚れのついたブーツをタナーに見せながら、申し訳なさそうに肩をすくめた。

「お急ぎですか?」タナーは気遣わしげに眉根を寄せた。

「いや、別のを履いて行くから、こいつは時間のある時でいい」

「承知いたしました。ああ、それから、留守の間に届いたお手紙は机の上に置いております」

エリックは礼を言う代わりに手を上げ、階段をのぼって自分の部屋へ入った。部屋は整然としていて、タナーが留守の間しっかりと管理してくれていたことがうかがえる。書き物机の上の手紙を一瞥して、ひとまずコートを脱いだ。

「何か動きはあったか?」

「ジュリエット・オースティンのことでしたら特には。彼には伝えたんですか?」

なぜこいつがサミーのことを気にする?

「いや」エリックは不機嫌に答えた。言ったところで何か解決策があるわけでもないし、となると勝手にこっちで対策を立てるしかない。あの女をサミーに近寄らせたくないが、計画を進めるためにはある程度は仕方ない。ほんの数時間だ。我慢できないことはないだろう。

「追い払えと言うなら、すぐにでもそうしますが」

エリックは警告を込めてクレインを睨みつけた。余計なことはしないとわかってはいるが、クレインは独断で動くことも少なくない。

「危険がないように努めてくれればそれでいい」

何よりまずは買出しだ。

つづく


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花嫁の秘密 260 [花嫁の秘密]

セシルは朝食を済ませた後、サミーを図書室へ誘った。食後のデザートと昨日のクラブでの話の続きを聞くためだ。

「それで、ローストビーフ以外に美味しかったもの――じゃなくて、面白かったこと何かあった?」
リックの登場でサミーはすっかり貝のように口を閉ざしてしまった。元からこうだけど、昨夜またなにかあったのかもしれない。とにかくリックは出掛けたことだし、きっと面白い話を聞かせてくれるはずだ。

「僕がカードゲームで大勝ちしたこと以外の面白いことなら、そうだね……何人かに結婚を勧められたことかな」サミーはそう言って、スプーン片手に薔薇の砂糖漬けを紅茶の入ったカップに沈めた。

「サミーが結婚する方に賭けている人たちだね。でも、どうしてサミーが彼女と結婚なんてすると思うんだろう。だって、クリスの元恋人でしょ?」言葉にしてゾッとした。もしかすると赤毛のあの人がクリスと結婚していた可能性もある。ハニーと出会うずいぶん前のことにしても、なぜだかあまりいい気がしない。

「そう見えるように振舞ったのは僕だけど、こんなに効果があるなんて思わなかった。新聞社にも依頼したからかな?」まさかというような口調だけど、想定の範囲内といった面持ち。たぶんリックと一緒で、あれこれ策略を巡らせるのが好きなんだと思う。

セシルはマロングラッセをたっぷり使ったケーキにフォークを入れた。大きめにカットしてちょっと贅沢しちゃおう。わぁ、これすごくおいしい。ここで作っているのかな?サミーに食べてみてと目配せしたけど、ちょうど紅茶を飲んでいるところだった。

「どうしてリックのところにお願いしなかったの?」サミーがティーカップを置いたのを見て尋ねた。

「ゴシップ専門のちょっと低俗なところの方が面白いと思ってね。エリックのところは、ちょっとお高くとまっているだろう?」

確かにね。「でも、彼女はそっちの方が喜びそうに見えるけど」

「たぶんね。でも実際に結婚しなきゃいけなくなったら、困るのは僕だよ。自分で自分の首を絞めるような真似……もうしちゃってるんだよね」サミーは、はぁと大きなため息を吐いた。「計画としてはうまく進んでるとは思うんだけどね」

「もしかして、またリックが余計なことしてる?」セシルは思わず渋面を作った。これまで何度痛い目に遭ったことか。

「しなかったときなんてないよ」サミーは苦笑いで答え、ソファの肘掛けに脱力して寄り掛かった。

「まあ、それもそうだね。それで?リックの事どう思ってるの?」セシルは単刀直入に尋ねた。サミーと二人でこんなに会話をしたのは初めてだったけど、なんだか今なら教えてくれそうな気がする。

「エリックの事?どうって……どうとも思っていないよ。セシルの聞きたい意味ではね」サミーの口調からは先ほどの気さくな感じは消えていた。

「でも、リックはサミーに夢中っていうかさ……ほら」こんなこと言っていたって、あとでリックにばれたら、きっとまたひどい目に遭う。

「彼は僕で遊んでいるんだ」

確かにリックは誰のこともおもちゃにしてしまうけど、いつもあっさりしていてべたべた付きまとうような真似したことなかった。でも、サミーが何とも思っていないってことは、とりあえず迷惑はしていないってことで、つまりはリックにも勝算はあるってことかも。

「それで、夜まで何して過ごすの?」今夜はパーティーに参加予定だけど、なにか美味しいものは用意してあるのだろうか?

「寝不足だから部屋に戻って休むよ」サミーは皿の上のケーキにはろくろく手も付けず、伸びをするように立ち上がった。「あとでまたね」そう言って、大きなあくびをしながら部屋を出て行った。

つづく


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花嫁の秘密 259 [花嫁の秘密]

翌朝、エリックはサミーのベッドで目覚めた。前日はサミーが目覚める前に部屋を出たが、今朝はそうしなかった。サミーを腕に抱いて目覚めるのも悪くない考えだと思ったが、残念ながらサミーはもうベッドにいなかった。

昨夜のサミーはやけにおしゃべりで、たまに気もそぞろになっていたが、それでもいつもよりかは素直に抱かれた。告白が効いたのだろうか。それなら何よりだが、そう簡単な男ではないことはエリックがよく知っている。

部屋を出ると、ブラックが外で待っていた。

「何かあったのか?」問いながら自分の部屋へ戻る。

「例の屋敷ですが、貸し出されるそうです」

例の屋敷――サミーの住まいにどうかと思っていた屋敷だ。売りに出されていたがなかなか買い手がつかずにいた。それもそのはず。馬鹿高くて誰が買えるっていうんだ。売る気がないのではと思うほどだ。

「ワンシーズンの賃貸契約ってとこか?」

「そのようです。詳しい報告はまたあると思いますが、押さえておきますか?」ブラックは戸口に立ったまま、いつでも動ける態勢をとっている。こっちに来て着替えを手伝う気はないようだ。

「午前のうちに報告しろと伝えておけ。直接貸主に会いに行く」

クリスマスイヴか……。会えるだろうか?

朝食にありつくため食堂へ行くと、サミーは昨夜の乱れっぷりなど何もなかったかのようにつんと澄ましてココアを飲んでいた。部屋の入り口からはマグの中身は見えなかったが、それがココアだということは疑いようがなかった。セシルは目玉焼きに厚切りベーコンにバターたっぷりのトースト、野菜たっぷりのスープを目の前に並べてご満悦だ。

「リック、まだ寝てたの?」

「起きているからここにいる」そう言って、セシルの隣に座ると、従僕に同じものを頼んだ。とにかく腹が減っている。目の前の誰かさんのせいで。「サミー、朝食は済ませたのか?」まさかココアだけじゃないだろうな。

「いま、その最中なのが見えないのかな?」なんとも厭味ったらしい物言い。もう一度ベッドへ引きずり込んでやろうか?

「せめてトーストかパンケーキくらいは食べろ」

「そんなこと言ったって、サミーは朝が苦手なんだから仕方ないよ」セシルは大口を開けてトーストにかぶりついた。

「朝が苦手?いつからだ?」ハニーと早起きを競うようなやつが朝が弱いだと?

「食事の話で目覚めの話ではないと思うよ。昨日クラブで食べすぎたから、今朝はこれで十分」サミーは淡々と言い、朝から食欲旺盛なセシルににっこりと笑いかけた。

エリックはその瞬間弟の目を潰したくなった。代わりに目玉焼きにフォークを突き刺すだけにしておいたが、ただの当てつけだと頭では理解していても、サミーの貴重な笑顔が自分以外に向けられるのは許せない。狭量だと言われようが関係ない。

「ああ、僕も行けばよかった。ローストビーフがすごく美味しいんだって?」セシルは兄の気持ちなど微塵も気づかず無邪気なもので、何かを期待するような目をエリックに向けた。

「ローストビーフくらい、言えばここの料理人は作ってくれるだろう?なあ、プラット」エリックはなんとかイライラを抑え、部屋の隅に佇む執事に話を振った。

「ええ、もちろんでございます」プラットはそつなく答えた。

「でも、絶品だったって……」セシルが拗ねたように言う。

「今度連れて行ってやるから、今はそのベーコンでも食ってろ」そうでも言わないと、一日中ぶちぶち言われる羽目になる。食べ物の恨みは恐ろしい。

「あ、そうだ。ロジャー兄様から手紙が来てたよ。昨日向こうに届いてたみたい」

「ロジャーから?なんだって?」面倒なことでなければいいが。

「母様が来たってだけ。向こうは賑やかそうだけど、ハニーは寂しくないかな?」

「クリスがいれば別にそれでかまわないだろう。ゆっくり過ごせて結構なことだ」

サミーを見ると、昨日のカードゲームの時のような無表情さで、今朝届いたばかりの新聞に目を落としていた。まったく、なんてわかりやすいんだ。人妻が好きなら好きで勝手に想っておけばいい。

こいつはもう俺のものだ。

つづく


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花嫁の秘密 258 [花嫁の秘密]

やっぱりおかしい。エリックが遠慮するなんてありえない。
いったい僕になんて言って欲しい?抱いてくれと懇願して欲しいのか?せめてもう少し飲んでおけばよかった。そうすれば、こんなに細かいこと気にならなくて済んだのに。

でも、今夜はエリックを押し退ける気にならない。

サミーは灯りの中にぼんやりと浮かび上がるエリックの口元に目をやった。いつも皮肉ばかりでイライラさせられる唇は、いまにも僕に襲い掛かろうと様子をうかがっている。エリックのキスは、まあ、悪くない。そもそもこんなにしつこくキスをしてくるのはエリックくらいなものだ。

そう思っていたら唇が重ねられた。しっとりとした唇は力強く、それでいて優しくて、他の誰のものとも違った。舌を絡められて背中がぞくりと震えた。意識しないようにしても、下腹部に熱が溜まっていくのがわかる。

サミーは考えるのをやめて、エリックの首に腕を回しじっくりと味わった。長い髪に指を絡めるとエリックは呻き、同じようにうなじにかかる伸びすぎた襟足に指を絡めてきた。そのまま後頭部を鷲掴まれキスを深める。

エリックの唇が進む先を想像して体が震えた。エリックはきっと背中の醜い傷跡にも口づける。マーカスが見ようとさえしなかった傷跡は、あの頃に比べて少しはマシになっただろうか?もしもあの時、相手がマーカスではなくエリックだったら、背中をベッドに押し付けられることはなかっただろうか。

エリックは僕が撃たれた直後でも抱くような男だ。きっと気にせず抱くだろう。そういえば、僕が殺した男はエリックが跡形もなく片付けた。どうやったのか今度時間がある時に聞いてみよう。

サミーは意識を目の前の男へ戻した。お前の考えなどお見通しだと言わんばかりの顔で、僕を見つめている。

「他の男の事でも考えていたか?」

「そんな余裕あるように見えるか?」余裕など微塵もないのに、なぜかマーカスのことを考えていた。そしてアンジェラを襲ったあの男のことも。「余計なことを言う暇があったら、早く僕を脱がせたらどうだい?」

「自分から脱いだっていいんだ。いや、別に脱がなくてもいいか」

「適当に扱う気なら、僕は寝るよ」

「お前を適当に扱ったことなどないだろう?ったく、本当に面倒な男だな、お前ってやつは。いいから、素直に抱かれろ。他の奴のことは考えるな」

それからはもう、余計なことは考えなかった。

つづく


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花嫁の秘密 257 [花嫁の秘密]

話をするだけだった。もちろんサミーに触れるのは当然で、キスもするつもりだった。腕の中に手に入れたくてたまらない男がいるのに、何もせずにいられるはずがない。

サミーはなぜかほぼ無抵抗だ。いったい何を考えているのだろう。

俺がジュリエットのことを隠しているように――もちろん明日の夕方までの話だ――サミーも何か隠しているのだろうか?例えばデレクとの関係とか。

ふいに激しい嫉妬が湧きあがり、エリックはサミーの顔を両手で挟むと考えを読み取ろうと瞳を覗き込んだ。さすがに枕元の灯りだけではそこまではわからなかったが、少し驚いているようだ。

「急にどうしたんだ?」サミーが不思議そうに尋ねる。キスをやめて欲しくなかったのだろうか?それとももっと体に触れて欲しいのだろうか。そう勘違いしてもおかしくない声音だ。

「そっちこそ、今夜はどうした?」酔ってもいないのに、素直に抱かれようとしているなんて。

「どうって……君こそ、何か、いつもと違う」サミーは疑り深い目を向けてきた。見慣れた目つきだ。

「俺はいつも通り、お前が欲しいだけだ」エリックは答えた。ここまで素直に気持ちを吐き出すのは愚かすぎるが、駆け引きをしたい気分ではなかった。

「どうして急に?君の中で何が変わったんだ?」

「最初から何も変わっちゃいない」

「違うね。最初は僕のことを嫌っていた。アンジェラを害するなら容赦はしないってね」

ったく、ごちゃごちゃとうるさいやつだ。エリックは返事をする代わりに、サミーの口をふさいだ。舌で唇を開き中へ押し入る。確かにサミーの言うように、急に何かが変わった。その何かがわかれば苦労はしない。

サミーは抗議する代わりにキスを返してきた。縋るように抱きつき、熱い舌を絡めてくる。それだけで、勘違いしそうになる。サミーが俺を受け入れたのかと。おそらく、心以外は差し出すだろう。それでは満足できないと知っていながら。

エリックは唇をあごに押し当てそれから喉へと滑らせた。サミーが小さく呻き、エリックの胸に手を置いた。まさか今更拒もうって気じゃないだろうな。

エリックは自分の胸に置かれたサミーの手首を掴み口元に持っていった。「やめて欲しいか?」

サミーがまっすぐに見返してきた。「なぜそんなことを聞く?いままで聞いたことないくせに」

「まったく、他に言い方ってもんがあるだろう」馬鹿みたいだが、拒まれずにホッとしている。でもまあ、今夜はこうして触れ合うだけでいい。朝まで追い出されずにいられたら、今後の関係に期待が持てるだろう。

サミーがどうしてもしたいと言うなら、もちろん拒みはしない。

つづく


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花嫁の秘密 256 [花嫁の秘密]

サミーはベッドの中でまどろんでいた。
エリックとの外出は予想外に楽しめた。もちろん目的があり、楽しむために出かけたわけではなかったが、それでも久しぶりにまともに食事もしたし、ゲームの腕も鈍っていなくてホッとした。

少し前にセシルが戻ってきていたのは、ドアの閉まる音で気付いた。彼も今夜は楽しめただろうか?僕と違って朗らかで友人も多いのだろう。こっちへ来てすぐに呼び出されるくらいだ。
といっても、別に羨ましくはないのだけど。

サミーは寝返りを打とうとして、物音に気付いた。部屋に誰か――

「いったいどうして僕の部屋に?ちょっ!なに――」相手が誰だか確かめる間もなく――確かめる必要などないが――上掛けがめくられ、冷たい空気とともにエリックがベッドに入ってきた。

「気にするな」

「なんだって君は僕のベッドの潜り込んでくるんだ?」昨日は結局のそのまま眠ってしまったが、彼は朝までここにいたのだろうか?気になるけど、確かめるような愚かな真似はしたくない。

「少し話をするだけだ、寝てろ」そう言ってエリックは昨夜と同じように背中に貼りついた。左腕を回し、しっかりと抱き寄せる。

サミーは諦めて脱力した。抵抗したってエリックは好きにする。すでに鼻先を首筋に擦りつけていて、そのうち勝手に吸い付くに違いない。

「今夜の事?君の目的は達成できたのかな?四人目は現れなかったけど」そもそも四人目が誰だかわからないのに、いたって気づくはずもない。

「まあ、牽制はできたんじゃないかな」

「牽制?デレクは何も気にしてなさそうだったけど?」

「でも、動きは見せていた」

確かにね。どうせ僕をうまく葬る作戦でも立てていたんだろうよ。まったく腹の立つ。なんだってデレクなんかに殺されなきゃならない。いや、殺すのはジュリエットか。ジュリエットはもしも僕と結婚したら、本当に僕を殺すだろうか?クリスの存在がそれを阻みそうな気もするが、煽られればやりそうでもある。

いっそ試しに結婚してみるか?条件を付けて――ああ、ダメだ。それだと僕は賭けに負けてしまうことになる。

会話が途切れ、エリックはその時を待っていたかのように耳の下の柔らかい場所に口づけた。そっと首筋を辿る。

「やめろと言わないのか?」囁き、また口づける。

「酔っているのか?」

「シャンパン一本で?」まさかという声。

「そのあとも飲んでいただろう」僕もあそこまで飲めたらどんなに楽しいだろうかと思う。

「帰ってからは飲んでいない。もういいから黙れ」

エリックはまわしていた腕を引き、サミーを自分の方に向かせた。もう一秒だって我慢できないというように荒っぽく口づける。唇を開かないという選択肢はなく、サミーは冷静さを失わないように別の何かを考えようとした。

確かにほんのり酒の味がするが、どちらかと言えばミントかな。それと身体から立ち上る石鹸の香りが鼻を擽った。背中に置かれていたエリックの手がいつの間にか腰を掴んでいる。硬くなったものを押し付けられ、その熱に思わず腰を引く。

「逃げるな」キスの合間に囁く。けっして高圧的ではなく、まるで懇願しているようだ。もしかして、僕を抱く気じゃないだろうね。

つづく


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花嫁の秘密 255 [花嫁の秘密]

エリックはいつになく機嫌のいいサミーを連れて早々と帰宅した。
セシルはまだ帰っていないようで、土産話をしたくてうずうずしているサミーは残念そうに自室へ戻って行った。

サミーがあそこまでカードゲームに強いとは思わなかった。いつだったか、前にハニーも含めて遊んだときは手加減をしていたに違いない。まったく。表情は顔に出さないし、おそらくあいつはカードを数えているか記憶している。本当にあそこで買収費用を調達しかねない。

プルートスの買収か。

悪くない、とエリックは思った。何も持たないサミーが、ようやく自分の物を手にする。

だが、プルートスは安くない。それがなんだ?サミーに居場所を与えられるなら、安いものだ。

とはいえ、それは今じゃない。目の前の問題が片付いたら、計画を進めることにしよう。もちろん褒美はたっぷりいただく。

エリックはひとり図書室へ向かった。そろそろ報告が来るはずだ。

暖炉の前の椅子に深く腰掛け、目を閉じる。四人目は姿を見せなかった。存在するのかさえ疑わしく思い始めたが、必ずもう一人いる。そう思ったきっかけは何だっただろうかと記憶を巡らす。知恵と金の両方を授け、あとの三人を思うように動かす。いや、デレク・ストーンはプライドが高く、指示されて動くなど冗談じゃないというタイプだ。動かされているとは思いもしないのだろう。

「いいタイミングだ。何かわかったか?」エリックは部屋の隅に気配を感じ、静かに問いかけた。

「ええ、メッセンジャーを捕まえて色々聞き出しましたよ」陰から姿を見せた男は、また別の陰に身を潜めた。手にはしっかりグラスが握られていた。中身は言わずもがな。

こいつのこういう遠慮のないところを気に入っている。

「それで?あいつはどこにメッセンジャーを送った?」

「ストーン邸からラッセルホテルへ」

ラッセルホテル?嫌な予感がする。メッセージを受けたストーン邸の誰かが――おそらくデレクがいつも使っている使い走りだろう――ホテルへ行けと指示を出したということか?

「もったいぶってないで続けろ」

「相手はジュリエット・オースティン。内容は――」

エリックは軽く手を上げ、男の言葉を遮った。「聞かなくてもわかる。明日のパーティーに招待したんだろう?」

「ご名答」

「ジュリエットはいつロンドンに出てきた?」サミーが田舎に戻っていると言っていたが、こっちで確認しておくべきだった。なぜジュリエットが田舎でおとなしくしていると思ったのだろう。サミーの動向は逐一チェックしているに違いないのに。

「昨日出て来たようです。ストーンも知らなかったようで、ごたついていましたね。結局ストーンはジュリエット・オースティンを田舎から引っ張ってこなくて済んで、ラッキーだったわけですが」

「お前も田舎まで行かなくて済んでよかったな」皮肉でも言わなきゃやってられるか。サミーになんて説明する?うまく対処するように助言をしてもいいが、おそらく反発して終わりだ。

「おかげさまで」そう言って男は、現れた時同様に静かに姿を消した。

つづく


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