はじめまして。
BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。
コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。
花嫁の秘密 354 [花嫁の秘密]
サミーはジュリエットに腕を差し出した。ジュリエットは遠慮することなく腕を大胆に絡め、ぴたりと寄り添った。
後ろで舌打ちのような音が聞こえたが無視した。ちらりと振り返ると、苦い顔をしながらメリッサに腕を差し出しているところだった。エリックの不満などいちいち聞いていられない。僕には僕のやり方があると言ったはずだ。
歩道を流れる人々はみな同じ方向へ歩いている。ウッドワース・ガーデンズは少し中心部から外れているが、市民の憩いの場所として親しまれている。カウントダウンのイベントで花火を打ち上げるのは初めての試みらしい。
おかげで公園周辺は大渋滞だ。近くに住む者は冬の夜道を歩くこともなく、人々に揉まれることもなく、暖かな場所で花火を見学できるわけだ。こういう時に部屋を貸し出せば、なかなかいい儲けになりそうだ。
通りのあちこちから、売り子の声と共に様々な匂いが漂ってくる。たいていはみな無視して通り過ぎていくが、まだ湯気の立ちのぼる揚げたてのチップスには、つい足を止めてしまうようだ。
「今夜を楽しめているかい?ディナーはどうだった?」サミーは遠慮せず尋ねた。今夜の相手が誰だったのかジュリエットが口にするか興味があったし、黙って歩くだけなら今夜誘った意味がない。
「思っていたよりも、忙しい一日になったわ。ディナーは、そうね――」ジュリエットはそこで考え込むように間を開けた。「ええ、楽しめたわ」サミーの反応を伺うようにそっと見上げる。
嫉妬しているように見せるべきなのはわかっていたが、そうまでして聞きたい内容かといえば、そんなことはなく、どうしても知りたかったらエリックに聞けば済む。
「そう、それならよかった。そのあとでこんなに歩かせてしまって申し訳ない」正直なところ、こうなるのは目に見えていた。馬車で向かっていた人のほとんどはサミーたちが降りた場所付近で、同じように歩いて向かうことを選択している。別方向からの道もおそらく似たような状況だろう。
「予想はしていたのよ。きっとこの辺は渋滞するだろうって。だから歩きやすいブーツを履いてきたの」ジュリエットは得意げに答えた。
予想ね。おおかた、エリックが送り込んだディナーの相手が口を出したのだろう。そうでなければ、ジュリエットが素直に馬車を降りたりするものか。
「賢明だ。僕も少しは予想していたけど、ここまでとは思わなかった。まるで昼間みたいに賑やかだしね」
「ほんとね。主催はウッドワース卿かしら?どんな方か存じ上げないけど、あの辺り一帯、彼の所有地よね」
「僕も彼がどんな人かは知らないな。でもあそこを公園として解放しているくらいだから、いい人なんだろうね」これまでひとつも興味を持たなかった人物について語るのはなんだか滑稽な気がした。エリックに聞けば彼がどんな人物かすぐに答えてくれるだろうか。勝手に年寄りだと思っているけど、実は若いかもしれない。
通りを行く人が時々振り返ってメリッサを見ている。紙とペンがあればサインでも貰おうと小さなカバンやポケットを探る者もいる。彼女に視線が集まる姿をジュリエットはどんな気持ちで見ているのだろう。
ジュリエットはメリッサに負けず劣らず目立つ容姿をしている。ただ今夜は襟巻を映えさせるために暗色――深いグリーン――のコートを選んだのが敗因だろう。つまり僕の贈り物が裏目に出たというわけだけど、これはエリックの作戦が成功していることを意味する。
すべてエリックの思い通りだ。
つづく
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後ろで舌打ちのような音が聞こえたが無視した。ちらりと振り返ると、苦い顔をしながらメリッサに腕を差し出しているところだった。エリックの不満などいちいち聞いていられない。僕には僕のやり方があると言ったはずだ。
歩道を流れる人々はみな同じ方向へ歩いている。ウッドワース・ガーデンズは少し中心部から外れているが、市民の憩いの場所として親しまれている。カウントダウンのイベントで花火を打ち上げるのは初めての試みらしい。
おかげで公園周辺は大渋滞だ。近くに住む者は冬の夜道を歩くこともなく、人々に揉まれることもなく、暖かな場所で花火を見学できるわけだ。こういう時に部屋を貸し出せば、なかなかいい儲けになりそうだ。
通りのあちこちから、売り子の声と共に様々な匂いが漂ってくる。たいていはみな無視して通り過ぎていくが、まだ湯気の立ちのぼる揚げたてのチップスには、つい足を止めてしまうようだ。
「今夜を楽しめているかい?ディナーはどうだった?」サミーは遠慮せず尋ねた。今夜の相手が誰だったのかジュリエットが口にするか興味があったし、黙って歩くだけなら今夜誘った意味がない。
「思っていたよりも、忙しい一日になったわ。ディナーは、そうね――」ジュリエットはそこで考え込むように間を開けた。「ええ、楽しめたわ」サミーの反応を伺うようにそっと見上げる。
嫉妬しているように見せるべきなのはわかっていたが、そうまでして聞きたい内容かといえば、そんなことはなく、どうしても知りたかったらエリックに聞けば済む。
「そう、それならよかった。そのあとでこんなに歩かせてしまって申し訳ない」正直なところ、こうなるのは目に見えていた。馬車で向かっていた人のほとんどはサミーたちが降りた場所付近で、同じように歩いて向かうことを選択している。別方向からの道もおそらく似たような状況だろう。
「予想はしていたのよ。きっとこの辺は渋滞するだろうって。だから歩きやすいブーツを履いてきたの」ジュリエットは得意げに答えた。
予想ね。おおかた、エリックが送り込んだディナーの相手が口を出したのだろう。そうでなければ、ジュリエットが素直に馬車を降りたりするものか。
「賢明だ。僕も少しは予想していたけど、ここまでとは思わなかった。まるで昼間みたいに賑やかだしね」
「ほんとね。主催はウッドワース卿かしら?どんな方か存じ上げないけど、あの辺り一帯、彼の所有地よね」
「僕も彼がどんな人かは知らないな。でもあそこを公園として解放しているくらいだから、いい人なんだろうね」これまでひとつも興味を持たなかった人物について語るのはなんだか滑稽な気がした。エリックに聞けば彼がどんな人物かすぐに答えてくれるだろうか。勝手に年寄りだと思っているけど、実は若いかもしれない。
通りを行く人が時々振り返ってメリッサを見ている。紙とペンがあればサインでも貰おうと小さなカバンやポケットを探る者もいる。彼女に視線が集まる姿をジュリエットはどんな気持ちで見ているのだろう。
ジュリエットはメリッサに負けず劣らず目立つ容姿をしている。ただ今夜は襟巻を映えさせるために暗色――深いグリーン――のコートを選んだのが敗因だろう。つまり僕の贈り物が裏目に出たというわけだけど、これはエリックの作戦が成功していることを意味する。
すべてエリックの思い通りだ。
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