はじめまして。
BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。
コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。
花嫁の秘密 244 [花嫁の秘密]
朝目覚めた時、そこにエリックはいなかった。
当たり前だ。ここは僕のベッドだし、エリックがいるはずがない。それでも昨夜眠りに落ちる前に言われた言葉が耳に残っている。それも鮮明に。
彼は僕を愛していると言った。いや、正確には愛してやれるといったか。どちらでも意味は同じように思うが、なんとなく違う気がした。
顔を洗い、着替えを済ませ、部屋を出ると廊下に見覚えのない従僕が立っていた。見栄えは悪くないが背が高すぎる。支度を手伝おうと待機していたのだろう。新入りだろうか?
「ひとりで平気だから下がっていいよ」そう言って、階下へ向かう。
お腹は、空いていない。この数日なぜか食欲がなく、その理由がわからずにいる。図書室へ入ると、セシルがいた。アンジェラによく似た彼はケーキの乗った皿を抱えて本を読んでいた。
「おはよう、セシル。朝食は済ませたのかい?」
「サミーおはよう。とっくに食べ終えて、おなかが空いたからお菓子を持ってきてもらったんだ。昨日は遅くまで起きていたの?」
セシルはサミーが寝坊するなんて珍しいと言いたいのだろう。とはいえ、まだかろうじて午前中だ。
「いや、すぐに寝たけど、ひどく疲れていたからね」サミーはソファに座り、言い訳がましく自分に言い聞かせた。嘘は吐いていない。ベッドに入ってからは本当にすぐ寝た。エリックが寝ろ寝ろとうるさくて、そのしつこさに辟易したが、結局気付けば朝だった。
「どうせリックが邪魔したんでしょ。いいよいいよ、わかってるから。リックはいつもそう」セシルは一方的に言って、マシュマロを口に放り込んだ。「ねえ、マシュマロって空気の塊みたいですぐなくなっちゃうよね。ぜんぜんお腹が満たされないよ」ついでにケーキも指先でつまんでぱくり。
「別のものを持ってきてもらおうか?何がいい?」いったいセシルはどれだけ食べたら満足するのだろう。ここにアンジェラがいれば、適切に対処するのだろうけど、あの子はいまここにはいない。
「実はさっきプラットにも同じこと聞かれてスコーンをお願いしたんだ。サミーのも忘れずに頼んだからね」
「ありがとう、朝食を食べ損ねたからちょうどいい」そう言ったものの、スコーンよりもココアが飲みたい気分だ。さっきの若い従僕にココアを持ってくるように言っておけばよかった。
「あ、そうそう、リックが夜の予定空けておけってさ」セシルは空になった皿を名残惜しげにソファテーブルに置いた。
「何かあるの?」サミーは尋ねた。
「たぶん、プルートスへ行くんじゃないかな?」
「昨日はそんなこと言っていなかったな。急にどうしたんだろう」もしかして僕が一人で行こうとしていることに気付いたのだろうか?
「僕も一緒にと言いたいんだけど、今夜は友達と約束しちゃったから二人で行ってきて。もう一人の正体も探ってきてね」セシルはごめんねと小首を傾げた。ちょっとした仕草がアンジェラとよく似ている。
「エリックが突き止められないのに、そんなにすぐに見つけられるかな?」
「リックは本当に知らないのかな?だってあのリックだよ。調査員だって何人も抱えているし、存在はつかめているのに正体がわからないなんてぼやけた話信じられないよ」
確かにセシルの言うとおりだ。けど、エリックの言葉に嘘はなかった。何か隠しているようではあったけど。
「ところで、君たちは自分の屋敷へ戻らないのか?」今の言い方はちょっと薄情だっただろうか。セシルが追い出されると勘違いしなければいいが。
「いつでも戻れるけど、しばらくここにいていいでしょ?あそこに一人でいるなんて嫌だよ」
「もちろん好きなだけいていいよ。それで、エリックは?」まさかとは思うけど、念のため。セシル同様ここにいるつもりなら、対応を考える必要がある。
「リックがあの屋敷に居着いたことなんてないから、自分のアパートへ行くんじゃないかな。どこのかは知らないけど、近くてここから五分の場所にひと部屋借りていたかな」セシルは上を向いて、思いつく限りの居場所を指折り数えている。指が三つ折れたところで数えるのを諦めたようだ。スコーンはまだかと振り返って戸口を見る。
「セシルは実際エリックが何者か知っているのかい?フェルリッジを発つ前に、俺はジャーナリストだと家族の前で啖呵を切っていたけど、もちろん違うとは言わない、けど――」とにかく胡散臭すぎるのだ。エリックは。
「言いたいことはよくわかるよ。結局リックが何をしているのかなんて誰にも分らないんだ。新聞に記事を載せたりしてるけど、政治的なこともあればハニーを守るためのちょっとしたコラムだったりね。今は暇そうにしてるけど、仕事だと言って数か月姿を見せないこともあるし、いないと思って油断してたらふいに姿を現わしたり」
「悪口でも言おうものならすっ飛んでくるわけだ」
「そうそう、だからサミーも下手なこと言わない方がいいよ。きっとこの屋敷にもリックのスパイが紛れ込んでいるんだからね」セシルは笑ったが、サミーは笑えない事実に気付いた。
あの若い従僕、彼こそエリックの送り込んだスパイだ。最初はプラットに教育されていて部屋に入ってこないのだと思っていたが、エリックが仕込んだのなら僕の寝室に入るような真似はさせないだろう。
そしてその従僕がスコーンと一緒にココアを持ってきたとき、疑いが確信に変わった。どうやらエリックは事細かく指示を出していたようだ。
つづく
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当たり前だ。ここは僕のベッドだし、エリックがいるはずがない。それでも昨夜眠りに落ちる前に言われた言葉が耳に残っている。それも鮮明に。
彼は僕を愛していると言った。いや、正確には愛してやれるといったか。どちらでも意味は同じように思うが、なんとなく違う気がした。
顔を洗い、着替えを済ませ、部屋を出ると廊下に見覚えのない従僕が立っていた。見栄えは悪くないが背が高すぎる。支度を手伝おうと待機していたのだろう。新入りだろうか?
「ひとりで平気だから下がっていいよ」そう言って、階下へ向かう。
お腹は、空いていない。この数日なぜか食欲がなく、その理由がわからずにいる。図書室へ入ると、セシルがいた。アンジェラによく似た彼はケーキの乗った皿を抱えて本を読んでいた。
「おはよう、セシル。朝食は済ませたのかい?」
「サミーおはよう。とっくに食べ終えて、おなかが空いたからお菓子を持ってきてもらったんだ。昨日は遅くまで起きていたの?」
セシルはサミーが寝坊するなんて珍しいと言いたいのだろう。とはいえ、まだかろうじて午前中だ。
「いや、すぐに寝たけど、ひどく疲れていたからね」サミーはソファに座り、言い訳がましく自分に言い聞かせた。嘘は吐いていない。ベッドに入ってからは本当にすぐ寝た。エリックが寝ろ寝ろとうるさくて、そのしつこさに辟易したが、結局気付けば朝だった。
「どうせリックが邪魔したんでしょ。いいよいいよ、わかってるから。リックはいつもそう」セシルは一方的に言って、マシュマロを口に放り込んだ。「ねえ、マシュマロって空気の塊みたいですぐなくなっちゃうよね。ぜんぜんお腹が満たされないよ」ついでにケーキも指先でつまんでぱくり。
「別のものを持ってきてもらおうか?何がいい?」いったいセシルはどれだけ食べたら満足するのだろう。ここにアンジェラがいれば、適切に対処するのだろうけど、あの子はいまここにはいない。
「実はさっきプラットにも同じこと聞かれてスコーンをお願いしたんだ。サミーのも忘れずに頼んだからね」
「ありがとう、朝食を食べ損ねたからちょうどいい」そう言ったものの、スコーンよりもココアが飲みたい気分だ。さっきの若い従僕にココアを持ってくるように言っておけばよかった。
「あ、そうそう、リックが夜の予定空けておけってさ」セシルは空になった皿を名残惜しげにソファテーブルに置いた。
「何かあるの?」サミーは尋ねた。
「たぶん、プルートスへ行くんじゃないかな?」
「昨日はそんなこと言っていなかったな。急にどうしたんだろう」もしかして僕が一人で行こうとしていることに気付いたのだろうか?
「僕も一緒にと言いたいんだけど、今夜は友達と約束しちゃったから二人で行ってきて。もう一人の正体も探ってきてね」セシルはごめんねと小首を傾げた。ちょっとした仕草がアンジェラとよく似ている。
「エリックが突き止められないのに、そんなにすぐに見つけられるかな?」
「リックは本当に知らないのかな?だってあのリックだよ。調査員だって何人も抱えているし、存在はつかめているのに正体がわからないなんてぼやけた話信じられないよ」
確かにセシルの言うとおりだ。けど、エリックの言葉に嘘はなかった。何か隠しているようではあったけど。
「ところで、君たちは自分の屋敷へ戻らないのか?」今の言い方はちょっと薄情だっただろうか。セシルが追い出されると勘違いしなければいいが。
「いつでも戻れるけど、しばらくここにいていいでしょ?あそこに一人でいるなんて嫌だよ」
「もちろん好きなだけいていいよ。それで、エリックは?」まさかとは思うけど、念のため。セシル同様ここにいるつもりなら、対応を考える必要がある。
「リックがあの屋敷に居着いたことなんてないから、自分のアパートへ行くんじゃないかな。どこのかは知らないけど、近くてここから五分の場所にひと部屋借りていたかな」セシルは上を向いて、思いつく限りの居場所を指折り数えている。指が三つ折れたところで数えるのを諦めたようだ。スコーンはまだかと振り返って戸口を見る。
「セシルは実際エリックが何者か知っているのかい?フェルリッジを発つ前に、俺はジャーナリストだと家族の前で啖呵を切っていたけど、もちろん違うとは言わない、けど――」とにかく胡散臭すぎるのだ。エリックは。
「言いたいことはよくわかるよ。結局リックが何をしているのかなんて誰にも分らないんだ。新聞に記事を載せたりしてるけど、政治的なこともあればハニーを守るためのちょっとしたコラムだったりね。今は暇そうにしてるけど、仕事だと言って数か月姿を見せないこともあるし、いないと思って油断してたらふいに姿を現わしたり」
「悪口でも言おうものならすっ飛んでくるわけだ」
「そうそう、だからサミーも下手なこと言わない方がいいよ。きっとこの屋敷にもリックのスパイが紛れ込んでいるんだからね」セシルは笑ったが、サミーは笑えない事実に気付いた。
あの若い従僕、彼こそエリックの送り込んだスパイだ。最初はプラットに教育されていて部屋に入ってこないのだと思っていたが、エリックが仕込んだのなら僕の寝室に入るような真似はさせないだろう。
そしてその従僕がスコーンと一緒にココアを持ってきたとき、疑いが確信に変わった。どうやらエリックは事細かく指示を出していたようだ。
つづく
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