はじめまして。
BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。
コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。
花嫁の秘密 238 [花嫁の秘密]
サミーとエリック、そしてセシルが慌ただしく屋敷を発って間もなくして、リード家の顧問弁護士バートランドが重そうなかばんを携えてやってきた。クリスと同じ赤毛でつい最近父親から役目を引き継いだところだ。まだ三十五歳と若いが、長年父親のそばで仕事をしてきて、経験もそこそこあるし細かいことに気がつく優秀な男だ。
「それで、どうだ?」クリスはいくつかの書類に目を通しながら尋ねた。思ったよりも収益が上がっていないのが気になる。
「幸いなことに、土地を担保に借り入れなどはしていなかったようです」バートランドは淡々と言い、クリスに見せるべき書類を次々と目の前に出していく。
「被害は年末の支払い用に調達していた金だけか……それだけ持っていったいどこへ?妻子はどうなった」モリソンの捜索は地元の人間に任せているが見つかるのも時間の問題だろう。
「それだけといっても、大金です。モリソンに目立った借金などはなかったようですが、愛人ができたのではという噂です。小作人たちは怒り心頭で、妻子に危険が及びそうでしたので実家に帰したそうです」
「支払いは無事済んだのだろう?」
「ええ、ですが、クリスマスはおろか年越しさえ危うかったわけですからそうそう怒りは収まりません。怒りの矛先は侯爵へも向いております」
「私に?」クリスは驚いて顔を上げ、バートランドの茶色の瞳をひたと見据えた。
「はい、クラーケンを排除してモリソンのような無能を土地管理人に据えたのは侯爵だと」バートランドはそこで言葉を切った。躊躇ったのち続ける。「彼らはあなたが結婚した後も奥様を連れていらっしゃらないことも不満に思っております。もちろん、サミュエル様がそのあたりの事情は説明されてはいますが……」
「事情?どんな事情だ?」
まるでサミーが取りなしたから、小作人たちはかろうじて暴動を起こしていないのだと言わんばかりだ。
「その、奥様はまだ幼く……学ぶこともたくさんありますし……」
頭が空っぽとでも言いたいのだろうか?いや、サミーがアンジェラのことをそんなふうに言うはずない。
世間のことを何も知らなかったアンジェラを無理やり娶ったと、俺を悪者にしたに違いない。そう言ったとして、間違いではないのが悔しいところだが。
「クラーケンはどうしてる?」クリスは気持ちを落ち着けようと、話を戻した。
「かなり責任を感じているようです。モリソンを推薦したのは彼ですからね。しかし今回帳簿を見直し、問題点をいくつか指摘したのはクラーケンです。侯爵さえよろしければ仕事に復帰したいと申しております」
バートランドの口調はそうすべきだと告げていた。クリスにクラーケンの申し出を断る理由はない。モリソンが起こした問題の穴埋めを出来るのは今のところ彼だけだ。
「そうしろと伝えてくれ。どちらにせよ、私が一度向こうへ様子を見に行かなければならないだろう」
「もちろん、そうされた方がいいと思います。できれば、奥様も同行されるのがよろしいかと」
「お前にそこまで口出しする権利があるか?」
「いえ……」
「まあ、お前の言いたいこともわかる」アンジェラを皆に紹介したい気持ちと秘密を守るために隠しておきたい気持ちとがせめぎあっている。今年はロジャーの結婚が一大イベントとなるだろうが、忙しくなる前にアンジェラも一度ラムズデンに連れて行っておく方がいいだろう。
だが、アンジェラ襲撃事件が未解決のままだ。いつまた襲われるとも限らないのに頼りにしていたS&Jに調査を断られた。ほかに頼むという手もあるのだろうが、アンジェラの秘密を知る彼らをおいて誰に頼めるというのだろう。
問題は山積みなのに身体はひとつしかなく、当てにしていたステフとジョンは協力を拒否し、サミーもコートニー家の兄弟と行ってしまった。いっそバートランドに真実を告げてしまえば、ことは楽に進むのではと思ってしまう。
バートランドが父親に代わって事務所の所長になる前は、秘書としてクリスの補佐をしていた。領地の運営に関しては、ほとんどバートランドから教わったと言ってもいい。各地をまわって小作人から意見を聞き、どう対処すべきか意見をくれもした。何より、数字に強いのがバートランドの強みだ。
だが、これ以上のリスクを背負うのは危険すぎる。クリスはいたって事務的な話し合いにとどめ、年明け早々にラムズデンをひとりで訪問することで着地した。
つづく
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「それで、どうだ?」クリスはいくつかの書類に目を通しながら尋ねた。思ったよりも収益が上がっていないのが気になる。
「幸いなことに、土地を担保に借り入れなどはしていなかったようです」バートランドは淡々と言い、クリスに見せるべき書類を次々と目の前に出していく。
「被害は年末の支払い用に調達していた金だけか……それだけ持っていったいどこへ?妻子はどうなった」モリソンの捜索は地元の人間に任せているが見つかるのも時間の問題だろう。
「それだけといっても、大金です。モリソンに目立った借金などはなかったようですが、愛人ができたのではという噂です。小作人たちは怒り心頭で、妻子に危険が及びそうでしたので実家に帰したそうです」
「支払いは無事済んだのだろう?」
「ええ、ですが、クリスマスはおろか年越しさえ危うかったわけですからそうそう怒りは収まりません。怒りの矛先は侯爵へも向いております」
「私に?」クリスは驚いて顔を上げ、バートランドの茶色の瞳をひたと見据えた。
「はい、クラーケンを排除してモリソンのような無能を土地管理人に据えたのは侯爵だと」バートランドはそこで言葉を切った。躊躇ったのち続ける。「彼らはあなたが結婚した後も奥様を連れていらっしゃらないことも不満に思っております。もちろん、サミュエル様がそのあたりの事情は説明されてはいますが……」
「事情?どんな事情だ?」
まるでサミーが取りなしたから、小作人たちはかろうじて暴動を起こしていないのだと言わんばかりだ。
「その、奥様はまだ幼く……学ぶこともたくさんありますし……」
頭が空っぽとでも言いたいのだろうか?いや、サミーがアンジェラのことをそんなふうに言うはずない。
世間のことを何も知らなかったアンジェラを無理やり娶ったと、俺を悪者にしたに違いない。そう言ったとして、間違いではないのが悔しいところだが。
「クラーケンはどうしてる?」クリスは気持ちを落ち着けようと、話を戻した。
「かなり責任を感じているようです。モリソンを推薦したのは彼ですからね。しかし今回帳簿を見直し、問題点をいくつか指摘したのはクラーケンです。侯爵さえよろしければ仕事に復帰したいと申しております」
バートランドの口調はそうすべきだと告げていた。クリスにクラーケンの申し出を断る理由はない。モリソンが起こした問題の穴埋めを出来るのは今のところ彼だけだ。
「そうしろと伝えてくれ。どちらにせよ、私が一度向こうへ様子を見に行かなければならないだろう」
「もちろん、そうされた方がいいと思います。できれば、奥様も同行されるのがよろしいかと」
「お前にそこまで口出しする権利があるか?」
「いえ……」
「まあ、お前の言いたいこともわかる」アンジェラを皆に紹介したい気持ちと秘密を守るために隠しておきたい気持ちとがせめぎあっている。今年はロジャーの結婚が一大イベントとなるだろうが、忙しくなる前にアンジェラも一度ラムズデンに連れて行っておく方がいいだろう。
だが、アンジェラ襲撃事件が未解決のままだ。いつまた襲われるとも限らないのに頼りにしていたS&Jに調査を断られた。ほかに頼むという手もあるのだろうが、アンジェラの秘密を知る彼らをおいて誰に頼めるというのだろう。
問題は山積みなのに身体はひとつしかなく、当てにしていたステフとジョンは協力を拒否し、サミーもコートニー家の兄弟と行ってしまった。いっそバートランドに真実を告げてしまえば、ことは楽に進むのではと思ってしまう。
バートランドが父親に代わって事務所の所長になる前は、秘書としてクリスの補佐をしていた。領地の運営に関しては、ほとんどバートランドから教わったと言ってもいい。各地をまわって小作人から意見を聞き、どう対処すべきか意見をくれもした。何より、数字に強いのがバートランドの強みだ。
だが、これ以上のリスクを背負うのは危険すぎる。クリスはいたって事務的な話し合いにとどめ、年明け早々にラムズデンをひとりで訪問することで着地した。
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