はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

花嫁の秘密 235 [花嫁の秘密]

サミーは迷った末、エリックの言葉を無視していつものように普段着で階下に降りた。一時間でここを出るというのがどこまで本気かわからなかったからだが、すでに玄関前に馬車が回されているのを見て、エリックはこうと決めたらそうする人間だということを思い知らされた。

朝食ルームへ入ると、アンジェラは物憂げにココアを飲んでいた。昨日の告白から間を空けずして母親がここを去ってしまったのだから、傷ついて当然だ。こんな時ほどそばにいてあげたいのにエリックがそれを許さない。サミーは苛立ちを抑えにこやかに声をかけた。

「アンジェラ、おはよう。ソフィアはもう出発したんだって?挨拶しておきたかったのに」

パッと顔をあげたアンジェラが、いつもと変わりない笑顔だったことにサミーは安堵した。

「サミー、おはよう。そうなの、お母様とマーサはアップル・ゲートに帰ってしまったの」

アンジェラの返事を聞きながらサイドボードへと向かう。これからエリックと長旅になるかと思うと食欲も失せる。せめて今年いっぱいはここで平穏に過ごせると思っていたのに、ささやか望みさえ許さないってわけか。しかもロンドンへ行くはっきりとした理由はまだ聞いていない。

「おはようハニー。寂しいだろうが俺たちもすぐにここを発つ」続いてやってきたエリックが前置きもなしに言う。サミーの姿を見て、顔をしかめる。「おい、支度をしろと言っただろう」

「リック、どうしたのその格好。いったい、どういうこと?」

アンジェラの驚きも当然だ。いつもは朝食を抜くか遅れるかのエリックが、あとは帽子をかぶるだけで完璧という格好をしているのだから。エリックはアンジェラに微笑んで、それからセシルに目を向けた。

「セシル、お前も支度しろ」

理不尽さで言えば、まったく何も知らされていない、セシルの方が上だろう。サミーは脂たっぷりのベーコンを横目に、保温されていたポットからココアを注ぎいつもの席へ向かう。

「え、どうして?僕はまだここにいるよ。母様もまっすぐにアップル・ゲートへは戻らないって言ってたし、ひとりは嫌だよ」セシルはたくさんのごちそうを目の前にしてここを去れなどとよく言えたものだと、兄を睨みつけた。

「恋人の所にでも行け。送って行ってやる」エリックはセシルの背後に立つと、椅子の背に両手を置いた。有無を言わせぬ姿勢だ。

兄の強引さに辟易したセシルは、前を向くとトーストを手にした。「い、行けるわけないだろ……」ぽつりと言う。

「クリスマスに家に入れてくれないようなやつなのか?まさか、既婚者じゃないだろうな?」

「違うよっ!いま彼は実家に帰っていて――」しまったと、口を噤んだが遅かった。セシルはトーストではなく唇を噛みしめた。

「知ってる。だから途中で降ろしてやるって言ってるんだ」

エリックが知らないはずなかった。知っていてこういうことを言うのがエリックなのを忘れていたセシルが悪い。

「とにかく、朝食を食べたらどうだ?」クリスが不機嫌に口を挟んだ。アンジェラの隣にサミーが座ったからだ。「ついでに、クリスマスをここで過ごさない理由を聞いてもいいだろうか?」

エリックはセシルの隣、サミーの向かいに座ると従僕にコーヒーを持ってくるように言った。

「仕事だ。他に何がある?」

「どうしてサミーも一緒に?」アンジェラが尋ねる。

「どうしてだろうね?僕も理由が聞きたい」サミーは言って、エリックを見た。

「僕もだよ」とセシル。

エリックに注がれる刺すような視線をかいくぐり、従僕がそろりとコーヒーをテーブルに置いた。

「仕事にどうしてもクソもない」

「エリック、レディがいる前での口の利き方には気をつけてもらおう」
レディとはもちろんアンジェラのことだ。

エリックは舌打ちをし、コーヒーを喉の奥に流し込んだ。「言っておくが、俺はジャーナリストだ。いつまでも田舎でのんびり過ごしているわけにはいかない。それから、クリスマスにいくつか招待を受けている。面倒だがすべてに顔を出しておかなければならない。仕事もあるが、これはロジャーのためでもある。ついでに、パーティーに参加するには連れがいる。クリス、サミーを借りるぞ」

エリックの言い訳にも似た説明を黙って聞いていたクリスは、アンジェラの方をちらりと見て返事をする。

「わかった。必要なものがあったら言ってくれ。それとサミー、向こうの屋敷を開けておくように電報を打っておく」

なんて物わかりのいい返事だ。エリックの取ってつけたような理由を鵜呑みにしたわけではないだろうが、僕を追い払えるなら理由なんてなんでもいいのだろう。

「僕には行かないという選択肢はないってわけか。いま向こうには誰がいるんだっけ?ダグラスを連れて行くわけにいかないよね」サミーは大きな溜息を吐き、向かいに座る男を恨めしげに見やった。「まあ、いいさ。どうせあちこち連れまわされてゆっくりできないだろうしね」

セシルが僕は?という顔をしていたが、残念ながら気に留めるものはいなかった。

つづく


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