はじめまして。
BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。
コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。
花嫁の秘密 240 [花嫁の秘密]
「それで、どうして君たちは自分の家に帰らないんだ?」サミーは背後の二人に向かって言った。玄関広間で出迎えた執事に脱いだ手袋を無言で差し出し、小さく溜息を吐く。
居心地のいい場所から無理やり連れ出され、一日かけてようやく自分の屋敷に――正確にはクリスのだが――たどり着いたというのに、僕はまだ解放されないというのか?
「だって、火の入っていない屋敷に戻れると思う?てっきりクリスが一緒に電報を送ってくれたものだと思っていたよ。もしくはハニーがね」セシルは気後れすることもなく、まるで我が家のように脱いだコートを従僕に手渡す。
確かにセシルの言うとおりだ。クリスはなぜ一緒に電報を打たなかったのだろうか。コートニー邸も開けておけと書き添えるだけでよかったのに、もしかしてわざとなのか?
「エリックは自分のアパートに戻ったらどうだ?」無駄だとわかっていても言わずにはいられなかった。エリックは手袋もコートもすでに脱いでいるし、朝にはきっちり締めていたネクタイもフェルリッジを出発してまもなく外している。あれはただのパフォーマンスに過ぎなかったのだ。
「俺だって暖かい家に帰りたいさ。ちょうど腹も減ったことだし」そう言ってわざとらしく腹を擦る。
「クラブにでも行けばいいだろう?何のために高い会費を払っているんだ」
「今夜は人に会いたい気分じゃない。明日にはコートニー邸に移るから一晩くらいいいだろう?」
エリックが馴れ馴れしく触れてこようとしたので、サミーはさっと身を引いた。
「そうだよ、サミー。おなかがすいて僕死にそう」セシルが悲痛な声を上げる。
道中あれだけ色々食べていたのに、セシルの胃はいったいどうなっているのだろう。
「だってさ、プラット。三人分の食事を用意できる?」サミーは抵抗するのを諦め、辛抱強く待っていた執事に念のため尋ねた。
「サミュエル様、もちろんでございます。お部屋の支度もすぐに整うと思います」プラットはサミーの不機嫌さなど意に介さず上機嫌で応える。ようやく仕事らしい仕事が出来るとあって喜んでいるようだ。
ロンドンの屋敷を開けるときは大抵ダグラスも一緒だ。その時プラットは副執事に甘んじることになり、態度には出さなくても不満だっただろう。でも、ダグラスは優秀で仕事ぶりを見ているだけで多くを学べる。だからこそプラットは若くして執事の地位を得ている。と言っても、もう四十近かったはずだ。
「図書室に軽くつまめるものを持ってきてくれるかな?」サミーは空腹ではなかったが、セシルが死にそうだと言うので仕方がない。エリックのことはどうでもいい。
「はい、ただいま」執事は言うが早いか滑るようにその場を辞した。
「さて、どうせなら話の続きでもするか」エリックが我が物顔で図書室へ向かう。
「他人の屋敷だということをお忘れなく」サミーは肩を並べ言う。
「他人?俺とはもう切っても切れない縁だということを忘れるなよ」
「リック、それを言うなら僕もだからね」セシルが二人の後ろから声をかける。
クリスとアンジェラが結婚している以上はね。サミーは心の中でつぶやいた。
けどこのつながりが切れることは、きっとないのだろう。そう思うと不思議な気がした。ほんの二年ほど前まではよく知らなかった男と縁続きになってしまった。もしもクリスがくだらない噂話に興味を持たず、アンジェラに出会うことがなければ、僕はまだあのアトリエに籠っていただろうか。そしてこの男に振り回されることもなかっただろうか。
考えたところで、クリスとアンジェラは結婚したし、僕はアトリエから出た。エリックに振り回されているし、いまのところ逃げる術もない。
それもあと少し、事件を解決するまでの辛抱だ。
つづく
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居心地のいい場所から無理やり連れ出され、一日かけてようやく自分の屋敷に――正確にはクリスのだが――たどり着いたというのに、僕はまだ解放されないというのか?
「だって、火の入っていない屋敷に戻れると思う?てっきりクリスが一緒に電報を送ってくれたものだと思っていたよ。もしくはハニーがね」セシルは気後れすることもなく、まるで我が家のように脱いだコートを従僕に手渡す。
確かにセシルの言うとおりだ。クリスはなぜ一緒に電報を打たなかったのだろうか。コートニー邸も開けておけと書き添えるだけでよかったのに、もしかしてわざとなのか?
「エリックは自分のアパートに戻ったらどうだ?」無駄だとわかっていても言わずにはいられなかった。エリックは手袋もコートもすでに脱いでいるし、朝にはきっちり締めていたネクタイもフェルリッジを出発してまもなく外している。あれはただのパフォーマンスに過ぎなかったのだ。
「俺だって暖かい家に帰りたいさ。ちょうど腹も減ったことだし」そう言ってわざとらしく腹を擦る。
「クラブにでも行けばいいだろう?何のために高い会費を払っているんだ」
「今夜は人に会いたい気分じゃない。明日にはコートニー邸に移るから一晩くらいいいだろう?」
エリックが馴れ馴れしく触れてこようとしたので、サミーはさっと身を引いた。
「そうだよ、サミー。おなかがすいて僕死にそう」セシルが悲痛な声を上げる。
道中あれだけ色々食べていたのに、セシルの胃はいったいどうなっているのだろう。
「だってさ、プラット。三人分の食事を用意できる?」サミーは抵抗するのを諦め、辛抱強く待っていた執事に念のため尋ねた。
「サミュエル様、もちろんでございます。お部屋の支度もすぐに整うと思います」プラットはサミーの不機嫌さなど意に介さず上機嫌で応える。ようやく仕事らしい仕事が出来るとあって喜んでいるようだ。
ロンドンの屋敷を開けるときは大抵ダグラスも一緒だ。その時プラットは副執事に甘んじることになり、態度には出さなくても不満だっただろう。でも、ダグラスは優秀で仕事ぶりを見ているだけで多くを学べる。だからこそプラットは若くして執事の地位を得ている。と言っても、もう四十近かったはずだ。
「図書室に軽くつまめるものを持ってきてくれるかな?」サミーは空腹ではなかったが、セシルが死にそうだと言うので仕方がない。エリックのことはどうでもいい。
「はい、ただいま」執事は言うが早いか滑るようにその場を辞した。
「さて、どうせなら話の続きでもするか」エリックが我が物顔で図書室へ向かう。
「他人の屋敷だということをお忘れなく」サミーは肩を並べ言う。
「他人?俺とはもう切っても切れない縁だということを忘れるなよ」
「リック、それを言うなら僕もだからね」セシルが二人の後ろから声をかける。
クリスとアンジェラが結婚している以上はね。サミーは心の中でつぶやいた。
けどこのつながりが切れることは、きっとないのだろう。そう思うと不思議な気がした。ほんの二年ほど前まではよく知らなかった男と縁続きになってしまった。もしもクリスがくだらない噂話に興味を持たず、アンジェラに出会うことがなければ、僕はまだあのアトリエに籠っていただろうか。そしてこの男に振り回されることもなかっただろうか。
考えたところで、クリスとアンジェラは結婚したし、僕はアトリエから出た。エリックに振り回されているし、いまのところ逃げる術もない。
それもあと少し、事件を解決するまでの辛抱だ。
つづく
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