はじめまして。
BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。
コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。
花嫁の秘密 239 [花嫁の秘密]
クリスマスを前に突然家族バラバラで過ごすことになってしまい、さすがのアンジェラも我慢しきれなかった自分に嫌気が差していた。いつかは秘密を明かさなければならない時が来るとしても、それはいまではなかったはず。どうしていつものように聞き流せなかったのだろう。
「ハニーが言ってしまわなければ私が言っていた」
クリスはそう慰めてくれたけど、領地の問題で大切な時期にサミーまでここを離れてしまい、本当はすごく困っているはず。
いまちょうど弁護士が来ていて、難しい話をしているところだ。クリスと同じ赤毛で歳は少し上だろうか、何も知らない人が見ると兄弟のように見えなくもない。もしかして親戚か何かなのだろうか?
クリスは間もなくラムズデンへ行ってしまう。すぐに戻ってくると言っていたけど、サミーが言うにはそんなに簡単な話ではないらしい。
そうなると、一緒に行った方がいいのかしら?
アンジェラはしばらく物思いにふけっていたが、自分にもやるべきことがあるのだとメグを自分の小さな執務室に呼んだ。普段はメイド頭との打ち合わせなど、屋敷を切り盛りするための部屋だが、今はもっぱら例の計画を練るための場所となっている。
「奥様、仕立屋から帽子が届きましたので、お部屋に運んでおきました」
メグは執務室に入るなりきびきびと言い、背筋を伸ばして書き物机の前に立った。
「ありがとう、メグ。中は確認した?」
「はい。注文通り、田舎紳士ふうの鳥打帽でした」
アンジェラは笑みをこぼした。メグは田舎紳士ふうの鳥打帽がどんなものか知っているのだろうか。きっと知っているのだろう。いかにもな小道具を次々と揃えていくアンジェラに助言をするほどだし、前の主人は何と言っても舞台女優だったメリッサだ。
メリッサに変装を手伝ってもらえないのは残念だけど、メグがいるからきっと大丈夫。
「ねえ、メグ。そこの椅子に座って」アンジェラは言いながら机を離れ、クッションのきいた椅子に場所を移した。主人が座ったのを見て、メグも椅子に浅く腰掛ける。
「クリスが留守の間実家へ帰ろうと思うの。お母様があの状態だからちょっと大変だと思うけど、ロイに会いに行くにはやっぱりアップル・ゲートにいるのが一番だと思うの」
「旦那様は四,五日で戻ってこられるのでは?」
「サミーがきっともう少しかかるって。弁護士――バートランドさんとの話が終わったら、クリスとその辺の話をする予定だから、わたしたちが作戦を詰めるのはそれからということにはなるけど」
メグが素早く考えを巡らせる様子をアンジェラは興味深く眺めた。メグは表情をほとんど変えない。だから何を考えているのか探ろうとするのは無駄でしかない。でも必ず的確な答えをくれる。
「ロイ・マシューズに会いに行かれるのなら、アップル・ゲートからが最適だと思います。歩いても三十分ほどの距離ですし、何かあった時の対処もしやすいでしょう」
「何かって、何があるの?」アンジェラは尋ねた。
「奥様は以前襲われました。今後もないと言い切れますか?」メグがわずかにあご先を上げた。危険はすぐそばにあるのだと言いたげだ。
アンジェラは黒幕を暴くために行動しようとしている。死者を二人出したあの襲撃事件の犯人は野放しで、今もどこかでアンジェラの命を狙っている、かもしれない。正直なところ断言できるほどの情報はなく、もう命なんて狙われていないかもしれないし、ただじっと息を潜めて機会を覗っているだけかもしれない。
犯行動機さえわかれば犯人もわかるのに。アンジェラにわかるのは死んだ実行犯は誰かに雇われていたことだけ。加担したロイは人を殺すなんて微塵も思っていなかった。
「危険は承知よ。だから変装して行くの」侯爵の愛人セシルとしてだけど。
「ウォルト夫妻にはどう説明を?」
ウォルト夫妻はロイとその弟を引き取って育ててくれている、今はほとんど使われていない屋敷の管理人だ。
「アンジェラとしては会いに行けないし、セシルとしても会いにも行けないし、どうしたらいいのかしら?」
メグ以外誰にも協力を頼めないのが悔しい。兄たちは事件の舞台となった屋敷を知っているし、きっと黒幕が誰かも知っている。知っていて教えてくれないのだからどうしようもない。
「ウォルト夫妻を外出させてはいかがでしょか?」
「それはいい考えだけど、寒い中外へ出てもらうのは申し訳ないわ」
アンジェラは悩んだ末、ロイに手紙を出すことにした。知りたいことがあるから、二人きりで会いたいと素直に告げるのだ。
断られたら、強行突破するまで。正体を明かしてでもロイから情報を聞き出す。
つづく
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「ハニーが言ってしまわなければ私が言っていた」
クリスはそう慰めてくれたけど、領地の問題で大切な時期にサミーまでここを離れてしまい、本当はすごく困っているはず。
いまちょうど弁護士が来ていて、難しい話をしているところだ。クリスと同じ赤毛で歳は少し上だろうか、何も知らない人が見ると兄弟のように見えなくもない。もしかして親戚か何かなのだろうか?
クリスは間もなくラムズデンへ行ってしまう。すぐに戻ってくると言っていたけど、サミーが言うにはそんなに簡単な話ではないらしい。
そうなると、一緒に行った方がいいのかしら?
アンジェラはしばらく物思いにふけっていたが、自分にもやるべきことがあるのだとメグを自分の小さな執務室に呼んだ。普段はメイド頭との打ち合わせなど、屋敷を切り盛りするための部屋だが、今はもっぱら例の計画を練るための場所となっている。
「奥様、仕立屋から帽子が届きましたので、お部屋に運んでおきました」
メグは執務室に入るなりきびきびと言い、背筋を伸ばして書き物机の前に立った。
「ありがとう、メグ。中は確認した?」
「はい。注文通り、田舎紳士ふうの鳥打帽でした」
アンジェラは笑みをこぼした。メグは田舎紳士ふうの鳥打帽がどんなものか知っているのだろうか。きっと知っているのだろう。いかにもな小道具を次々と揃えていくアンジェラに助言をするほどだし、前の主人は何と言っても舞台女優だったメリッサだ。
メリッサに変装を手伝ってもらえないのは残念だけど、メグがいるからきっと大丈夫。
「ねえ、メグ。そこの椅子に座って」アンジェラは言いながら机を離れ、クッションのきいた椅子に場所を移した。主人が座ったのを見て、メグも椅子に浅く腰掛ける。
「クリスが留守の間実家へ帰ろうと思うの。お母様があの状態だからちょっと大変だと思うけど、ロイに会いに行くにはやっぱりアップル・ゲートにいるのが一番だと思うの」
「旦那様は四,五日で戻ってこられるのでは?」
「サミーがきっともう少しかかるって。弁護士――バートランドさんとの話が終わったら、クリスとその辺の話をする予定だから、わたしたちが作戦を詰めるのはそれからということにはなるけど」
メグが素早く考えを巡らせる様子をアンジェラは興味深く眺めた。メグは表情をほとんど変えない。だから何を考えているのか探ろうとするのは無駄でしかない。でも必ず的確な答えをくれる。
「ロイ・マシューズに会いに行かれるのなら、アップル・ゲートからが最適だと思います。歩いても三十分ほどの距離ですし、何かあった時の対処もしやすいでしょう」
「何かって、何があるの?」アンジェラは尋ねた。
「奥様は以前襲われました。今後もないと言い切れますか?」メグがわずかにあご先を上げた。危険はすぐそばにあるのだと言いたげだ。
アンジェラは黒幕を暴くために行動しようとしている。死者を二人出したあの襲撃事件の犯人は野放しで、今もどこかでアンジェラの命を狙っている、かもしれない。正直なところ断言できるほどの情報はなく、もう命なんて狙われていないかもしれないし、ただじっと息を潜めて機会を覗っているだけかもしれない。
犯行動機さえわかれば犯人もわかるのに。アンジェラにわかるのは死んだ実行犯は誰かに雇われていたことだけ。加担したロイは人を殺すなんて微塵も思っていなかった。
「危険は承知よ。だから変装して行くの」侯爵の愛人セシルとしてだけど。
「ウォルト夫妻にはどう説明を?」
ウォルト夫妻はロイとその弟を引き取って育ててくれている、今はほとんど使われていない屋敷の管理人だ。
「アンジェラとしては会いに行けないし、セシルとしても会いにも行けないし、どうしたらいいのかしら?」
メグ以外誰にも協力を頼めないのが悔しい。兄たちは事件の舞台となった屋敷を知っているし、きっと黒幕が誰かも知っている。知っていて教えてくれないのだからどうしようもない。
「ウォルト夫妻を外出させてはいかがでしょか?」
「それはいい考えだけど、寒い中外へ出てもらうのは申し訳ないわ」
アンジェラは悩んだ末、ロイに手紙を出すことにした。知りたいことがあるから、二人きりで会いたいと素直に告げるのだ。
断られたら、強行突破するまで。正体を明かしてでもロイから情報を聞き出す。
つづく
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