はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

花嫁の秘密 236 [花嫁の秘密]

朝食という名の別れの挨拶が済むと、サミーは愛用のステッキと銃を携え玄関前で待機する馬車に乗り込んだ。というより、エリックに急かされ無理やり乗せられたという方が正しい。

サミーは窓の外に目をやり、手を振るアンジェラに手を振り返した。今日二度目の見送りだからか、どことなく寂しげだ。クリスと二人で過ごすのも悪くはないだろうが、アンジェラのそばには家族か友人か、侍女以外の誰かがいたほうがいい。エリックの言うようにメグは頼りになるのだろう。けど彼女は所詮アンジェラの正体も知らないただの侍女でしかない。

馬車が動き出すとアンジェラの姿が視界から消えていき、仕方なく薄曇りの空に目を向ける。

きっと屋敷へ入るとき、玄関にぶら下がっているヤドリギの下でクリスとキスをするのだろう。そう思うと、みぞおちを殴られたかのように息苦しくなった。二人は結婚していてキス以上のこともしているというのに、いまさらなんだっていうんだ。サミーは時折自分を襲う嫉妬とも違う何かに苦しめられていた。

「本当にお前は諦めが悪いな」隣に座る男が言った。

エリックは図々しくも隣に座り、すべてを見透かすような瞳でこちらを見ている。

「なんでわざわざ僕の隣に座る?向こうに座ったらどうだ」

「なんでわざわざ弟の隣に座らなきゃならん」エリックが即座に言い返す。

「嫌なら僕はここに残るけど!」向かいの座席に座るセシルがぷりぷりと言う。食べるものはたっぷりあり暖かで居心地のいい場所から無理矢理窮屈な馬車に押し込められ、兄には隣に座りたくないと言われれば怒りもする。

「いや、お前はそこでゆったりしていろという意味だ」

「なんで僕まで……ハニーの邪魔なんてしないのに……」

セシルは遠ざかる屋敷を切なげに見つめている。本当に嫌々渋々なのだろう。それでも、行かないという選択をしないのは弟だからなのか、それともエリックの行動には何かしらの意味があって、それが正しいと思っているからなのか。

「邪魔をするなんて思っていない。ただ、時期をみて母様の所へ行って欲しいんだ」

へえ、昨夜はセシルは邪魔だと言っていたくせにとサミーは横目でエリックを見た。

「母様なら大丈夫だよ。それはリックだってわかっているでしょ」

「まあ、そうだな。ただものすごく怒っていることは確かだ」

「そうなのか?」サミーは驚いて尋ねた。

「ああ、ショックは受けただろうが、俺たちが知っていて黙っていたことに腹を立てているんだ」エリックが答える。

「そうそう。だから僕を生贄にするのはやめてよね」と、セシル。

「マーサは大丈夫なのか?」

「マーサは平気だ。母様はマーサに腹を立てるより、うらやましいって気持ちの方が大きいからな」

そういうものなのだろうか。サミーは理解しようと努めたが、隣に座る男のことも理解できないのに、ほとんど知らないソフィアのことなどわかるはずもない。

「それでセシル、どこでおろせばいい?」エリックはくつろいだ様子で、真紅のベルベットの座席に背を預けた。

「ロンドンまで出るよ。どうせ年明けにはロジャー兄様も出てくるし、コートニー邸を開けておくよ」
結局そうなるわけか。サミーはセシルに同情の目を向けた。

「エリックはどこへ?」念のため訊いておく。特別な意味はなく、こいつはあちこちに住まいを持っていて、いざという時居場所を掴むのに苦労するからだ。

「気になるか?」エリックが愉快げに眉を上げる。

「別に君がどこで寝起きしようが関係ないが、僕をあちこち連れまわす気なら居場所は知らせておいてもいいんじゃないのか?」

「確かに言うとおりだな。そうだな……向こうへ着くまでにどこにするか考えておく」

言うつもりはないってわけか。

つづく


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