はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

花嫁の秘密 第九部 追加登場人物 [花嫁の秘密 登場人物紹介]

追加登場人物 (ちょっと増えてきたので覚え書き)

 <ラムズデン> リード家の領地のひとつ
 クラーケン(65)前土地管理人
 モリソン(32) 土地管理人
 フォークナー 弁護士

・リード家顧問弁護士
 バートランド(35)

・ロンドンリード邸執事
 プラット(40)

 <プルートス>(紳士クラブ)の会員
 デレク・ストーン(29) ブライアークリフ卿の長男
 シリル・フロウ(25)
 マックス・ホワイト(25)

 <ヘイウッド村>
 ウォルト夫妻 ラウンズベリー伯爵所有の屋敷の管理人
 ロイ・マシューズ(14)
 キャム・マシューズ(8)

※登場人物名、地名は架空のものです。
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花嫁の秘密 240 [花嫁の秘密]

「それで、どうして君たちは自分の家に帰らないんだ?」サミーは背後の二人に向かって言った。玄関広間で出迎えた執事に脱いだ手袋を無言で差し出し、小さく溜息を吐く。

居心地のいい場所から無理やり連れ出され、一日かけてようやく自分の屋敷に――正確にはクリスのだが――たどり着いたというのに、僕はまだ解放されないというのか?

「だって、火の入っていない屋敷に戻れると思う?てっきりクリスが一緒に電報を送ってくれたものだと思っていたよ。もしくはハニーがね」セシルは気後れすることもなく、まるで我が家のように脱いだコートを従僕に手渡す。

確かにセシルの言うとおりだ。クリスはなぜ一緒に電報を打たなかったのだろうか。コートニー邸も開けておけと書き添えるだけでよかったのに、もしかしてわざとなのか?

「エリックは自分のアパートに戻ったらどうだ?」無駄だとわかっていても言わずにはいられなかった。エリックは手袋もコートもすでに脱いでいるし、朝にはきっちり締めていたネクタイもフェルリッジを出発してまもなく外している。あれはただのパフォーマンスに過ぎなかったのだ。

「俺だって暖かい家に帰りたいさ。ちょうど腹も減ったことだし」そう言ってわざとらしく腹を擦る。

「クラブにでも行けばいいだろう?何のために高い会費を払っているんだ」

「今夜は人に会いたい気分じゃない。明日にはコートニー邸に移るから一晩くらいいいだろう?」

エリックが馴れ馴れしく触れてこようとしたので、サミーはさっと身を引いた。

「そうだよ、サミー。おなかがすいて僕死にそう」セシルが悲痛な声を上げる。

道中あれだけ色々食べていたのに、セシルの胃はいったいどうなっているのだろう。

「だってさ、プラット。三人分の食事を用意できる?」サミーは抵抗するのを諦め、辛抱強く待っていた執事に念のため尋ねた。

「サミュエル様、もちろんでございます。お部屋の支度もすぐに整うと思います」プラットはサミーの不機嫌さなど意に介さず上機嫌で応える。ようやく仕事らしい仕事が出来るとあって喜んでいるようだ。

ロンドンの屋敷を開けるときは大抵ダグラスも一緒だ。その時プラットは副執事に甘んじることになり、態度には出さなくても不満だっただろう。でも、ダグラスは優秀で仕事ぶりを見ているだけで多くを学べる。だからこそプラットは若くして執事の地位を得ている。と言っても、もう四十近かったはずだ。

「図書室に軽くつまめるものを持ってきてくれるかな?」サミーは空腹ではなかったが、セシルが死にそうだと言うので仕方がない。エリックのことはどうでもいい。

「はい、ただいま」執事は言うが早いか滑るようにその場を辞した。

「さて、どうせなら話の続きでもするか」エリックが我が物顔で図書室へ向かう。

「他人の屋敷だということをお忘れなく」サミーは肩を並べ言う。

「他人?俺とはもう切っても切れない縁だということを忘れるなよ」

「リック、それを言うなら僕もだからね」セシルが二人の後ろから声をかける。

クリスとアンジェラが結婚している以上はね。サミーは心の中でつぶやいた。
けどこのつながりが切れることは、きっとないのだろう。そう思うと不思議な気がした。ほんの二年ほど前まではよく知らなかった男と縁続きになってしまった。もしもクリスがくだらない噂話に興味を持たず、アンジェラに出会うことがなければ、僕はまだあのアトリエに籠っていただろうか。そしてこの男に振り回されることもなかっただろうか。

考えたところで、クリスとアンジェラは結婚したし、僕はアトリエから出た。エリックに振り回されているし、いまのところ逃げる術もない。

それもあと少し、事件を解決するまでの辛抱だ。

つづく


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花嫁の秘密 239 [花嫁の秘密]

クリスマスを前に突然家族バラバラで過ごすことになってしまい、さすがのアンジェラも我慢しきれなかった自分に嫌気が差していた。いつかは秘密を明かさなければならない時が来るとしても、それはいまではなかったはず。どうしていつものように聞き流せなかったのだろう。

「ハニーが言ってしまわなければ私が言っていた」

クリスはそう慰めてくれたけど、領地の問題で大切な時期にサミーまでここを離れてしまい、本当はすごく困っているはず。

いまちょうど弁護士が来ていて、難しい話をしているところだ。クリスと同じ赤毛で歳は少し上だろうか、何も知らない人が見ると兄弟のように見えなくもない。もしかして親戚か何かなのだろうか?

クリスは間もなくラムズデンへ行ってしまう。すぐに戻ってくると言っていたけど、サミーが言うにはそんなに簡単な話ではないらしい。

そうなると、一緒に行った方がいいのかしら?

アンジェラはしばらく物思いにふけっていたが、自分にもやるべきことがあるのだとメグを自分の小さな執務室に呼んだ。普段はメイド頭との打ち合わせなど、屋敷を切り盛りするための部屋だが、今はもっぱら例の計画を練るための場所となっている。

「奥様、仕立屋から帽子が届きましたので、お部屋に運んでおきました」
メグは執務室に入るなりきびきびと言い、背筋を伸ばして書き物机の前に立った。

「ありがとう、メグ。中は確認した?」

「はい。注文通り、田舎紳士ふうの鳥打帽でした」

アンジェラは笑みをこぼした。メグは田舎紳士ふうの鳥打帽がどんなものか知っているのだろうか。きっと知っているのだろう。いかにもな小道具を次々と揃えていくアンジェラに助言をするほどだし、前の主人は何と言っても舞台女優だったメリッサだ。

メリッサに変装を手伝ってもらえないのは残念だけど、メグがいるからきっと大丈夫。

「ねえ、メグ。そこの椅子に座って」アンジェラは言いながら机を離れ、クッションのきいた椅子に場所を移した。主人が座ったのを見て、メグも椅子に浅く腰掛ける。

「クリスが留守の間実家へ帰ろうと思うの。お母様があの状態だからちょっと大変だと思うけど、ロイに会いに行くにはやっぱりアップル・ゲートにいるのが一番だと思うの」

「旦那様は四,五日で戻ってこられるのでは?」

「サミーがきっともう少しかかるって。弁護士――バートランドさんとの話が終わったら、クリスとその辺の話をする予定だから、わたしたちが作戦を詰めるのはそれからということにはなるけど」

メグが素早く考えを巡らせる様子をアンジェラは興味深く眺めた。メグは表情をほとんど変えない。だから何を考えているのか探ろうとするのは無駄でしかない。でも必ず的確な答えをくれる。

「ロイ・マシューズに会いに行かれるのなら、アップル・ゲートからが最適だと思います。歩いても三十分ほどの距離ですし、何かあった時の対処もしやすいでしょう」

「何かって、何があるの?」アンジェラは尋ねた。

「奥様は以前襲われました。今後もないと言い切れますか?」メグがわずかにあご先を上げた。危険はすぐそばにあるのだと言いたげだ。

アンジェラは黒幕を暴くために行動しようとしている。死者を二人出したあの襲撃事件の犯人は野放しで、今もどこかでアンジェラの命を狙っている、かもしれない。正直なところ断言できるほどの情報はなく、もう命なんて狙われていないかもしれないし、ただじっと息を潜めて機会を覗っているだけかもしれない。

犯行動機さえわかれば犯人もわかるのに。アンジェラにわかるのは死んだ実行犯は誰かに雇われていたことだけ。加担したロイは人を殺すなんて微塵も思っていなかった。

「危険は承知よ。だから変装して行くの」侯爵の愛人セシルとしてだけど。

「ウォルト夫妻にはどう説明を?」

ウォルト夫妻はロイとその弟を引き取って育ててくれている、今はほとんど使われていない屋敷の管理人だ。

「アンジェラとしては会いに行けないし、セシルとしても会いにも行けないし、どうしたらいいのかしら?」

メグ以外誰にも協力を頼めないのが悔しい。兄たちは事件の舞台となった屋敷を知っているし、きっと黒幕が誰かも知っている。知っていて教えてくれないのだからどうしようもない。

「ウォルト夫妻を外出させてはいかがでしょか?」

「それはいい考えだけど、寒い中外へ出てもらうのは申し訳ないわ」

アンジェラは悩んだ末、ロイに手紙を出すことにした。知りたいことがあるから、二人きりで会いたいと素直に告げるのだ。

断られたら、強行突破するまで。正体を明かしてでもロイから情報を聞き出す。

つづく


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花嫁の秘密 238 [花嫁の秘密]

サミーとエリック、そしてセシルが慌ただしく屋敷を発って間もなくして、リード家の顧問弁護士バートランドが重そうなかばんを携えてやってきた。クリスと同じ赤毛でつい最近父親から役目を引き継いだところだ。まだ三十五歳と若いが、長年父親のそばで仕事をしてきて、経験もそこそこあるし細かいことに気がつく優秀な男だ。

「それで、どうだ?」クリスはいくつかの書類に目を通しながら尋ねた。思ったよりも収益が上がっていないのが気になる。

「幸いなことに、土地を担保に借り入れなどはしていなかったようです」バートランドは淡々と言い、クリスに見せるべき書類を次々と目の前に出していく。

「被害は年末の支払い用に調達していた金だけか……それだけ持っていったいどこへ?妻子はどうなった」モリソンの捜索は地元の人間に任せているが見つかるのも時間の問題だろう。

「それだけといっても、大金です。モリソンに目立った借金などはなかったようですが、愛人ができたのではという噂です。小作人たちは怒り心頭で、妻子に危険が及びそうでしたので実家に帰したそうです」

「支払いは無事済んだのだろう?」

「ええ、ですが、クリスマスはおろか年越しさえ危うかったわけですからそうそう怒りは収まりません。怒りの矛先は侯爵へも向いております」

「私に?」クリスは驚いて顔を上げ、バートランドの茶色の瞳をひたと見据えた。

「はい、クラーケンを排除してモリソンのような無能を土地管理人に据えたのは侯爵だと」バートランドはそこで言葉を切った。躊躇ったのち続ける。「彼らはあなたが結婚した後も奥様を連れていらっしゃらないことも不満に思っております。もちろん、サミュエル様がそのあたりの事情は説明されてはいますが……」

「事情?どんな事情だ?」

まるでサミーが取りなしたから、小作人たちはかろうじて暴動を起こしていないのだと言わんばかりだ。

「その、奥様はまだ幼く……学ぶこともたくさんありますし……」

頭が空っぽとでも言いたいのだろうか?いや、サミーがアンジェラのことをそんなふうに言うはずない。
世間のことを何も知らなかったアンジェラを無理やり娶ったと、俺を悪者にしたに違いない。そう言ったとして、間違いではないのが悔しいところだが。

「クラーケンはどうしてる?」クリスは気持ちを落ち着けようと、話を戻した。

「かなり責任を感じているようです。モリソンを推薦したのは彼ですからね。しかし今回帳簿を見直し、問題点をいくつか指摘したのはクラーケンです。侯爵さえよろしければ仕事に復帰したいと申しております」

バートランドの口調はそうすべきだと告げていた。クリスにクラーケンの申し出を断る理由はない。モリソンが起こした問題の穴埋めを出来るのは今のところ彼だけだ。

「そうしろと伝えてくれ。どちらにせよ、私が一度向こうへ様子を見に行かなければならないだろう」

「もちろん、そうされた方がいいと思います。できれば、奥様も同行されるのがよろしいかと」

「お前にそこまで口出しする権利があるか?」

「いえ……」

「まあ、お前の言いたいこともわかる」アンジェラを皆に紹介したい気持ちと秘密を守るために隠しておきたい気持ちとがせめぎあっている。今年はロジャーの結婚が一大イベントとなるだろうが、忙しくなる前にアンジェラも一度ラムズデンに連れて行っておく方がいいだろう。

だが、アンジェラ襲撃事件が未解決のままだ。いつまた襲われるとも限らないのに頼りにしていたS&Jに調査を断られた。ほかに頼むという手もあるのだろうが、アンジェラの秘密を知る彼らをおいて誰に頼めるというのだろう。

問題は山積みなのに身体はひとつしかなく、当てにしていたステフとジョンは協力を拒否し、サミーもコートニー家の兄弟と行ってしまった。いっそバートランドに真実を告げてしまえば、ことは楽に進むのではと思ってしまう。

バートランドが父親に代わって事務所の所長になる前は、秘書としてクリスの補佐をしていた。領地の運営に関しては、ほとんどバートランドから教わったと言ってもいい。各地をまわって小作人から意見を聞き、どう対処すべきか意見をくれもした。何より、数字に強いのがバートランドの強みだ。

だが、これ以上のリスクを背負うのは危険すぎる。クリスはいたって事務的な話し合いにとどめ、年明け早々にラムズデンをひとりで訪問することで着地した。

つづく


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花嫁の秘密 237 [花嫁の秘密]

「それで、リックたちは何を企んでいるの?」セシルはポークソテーにたっぷりとマッシュポテトをナイフで塗りつけ、ニコニコ顔で口に運んだ。

途中立ち寄った街で休憩がてら昼食をとることになったが、ここ<フェアリー&ピッグス>は当たりだった。妖精と子ブタちゃんの看板の意味は豚肉料理が絶品なのと、この辺一帯は妖精の住処だから、らしい。川辺には近づいてはダメだと店主に言われた。

「僕は何も。巻き込まれただけだ」そう言ってエリックを見るサミーはアップルパイをちまちまつついている。つつくだけで食べている気配はない。

エリックはエールを飲み干し揚げたてのポテトをつまんで口に放ると、サミーの方に皿を押しやった。

「誤魔化そうたって無駄だよ。僕はクリスマスのごちそうを取り上げられたんだから、何をするつもりなのか知る権利はあるはずだよ」このミートソースのマカロニもなかなかだけど、やっぱりポークソテーが最高においしい。

「別に誤魔化したりしない。お前が協力したいっていうなら、させてやってもいいぞ。クリスマスイヴにブライアークリフ卿が慈善事業の一環でパーティーを開く。一緒に行くか?」エリックは手をあげて給仕係にエールのお代わりを頼んだ。

「ブライアークリフ……ああ、あの人か、なんだってそんな集まりに参加を?」サミーが尋ねたところで、ジョッキを持った給仕係がグラスを満たしにやって来た。豪快に注ぐと次のテーブルへ行ってしまった。

「ああ!白髭伯爵ね。リック、伯爵と知り合いなの?」気難しいので有名なブライアークリフ卿のパーティーにまで呼ばれているなんて、リックの顔の広さはほんと侮れない。

「いいや、直接面識はない。まあ、ロゼッタ夫人とは懇意にしているみたいだがな」そう言ってサミーを見る。「俺が用があるのは息子のデレクの方だ」

「あのろくでなしに何の用だ?」サミーは辛辣に吐き捨てた。

セシルは思わずぎょっとした。記憶にある限り、サミーがこんな物言いをするのはハニーを救出した時に見て以来だ。普段は感情の起伏を表に出すようなことはしない。リック相手に時々イライラしているみたいだけど、それは僕だって同じだ。

「そのろくでなしは、プルートスの会員だ」にやりと笑う。いつもの何か企んでいるあの顔だ。

「まさか、君――」

「四人のうちの一人だ」

「ねえ、いったい何の話をしているの?」セシルはじれったくなって尋ねた。

「お前は知らなくていい」

「いや、僕だって知りたい!その白髭伯爵の集まりに参加するならなおさらね」

「僕たちの最終的な獲物がジュリエットなのは、セシルも知っているね」エリックと違って相手を煙に巻こうとしないサミーが、いったいどこまで喋ってくれるのか、セシルは興味を惹かれただ黙って頷いた。「ジュリエットは再びアンジェラを襲うだろう。そのためには」

「金が必要だ」エリックがサミーを遮るようにして言葉をつなぐ。「ジュリエットはその金をサミーから引き出そうとしている」

「サミーは出さないでしょう?」セシルは驚いて声を上げた。

「こいつはジュリエットがそう思うように、わざわざ仕向けたんだ。おかげでハニーとこいつと両方守らなきゃならない羽目になった」

「だって、そうしなきゃ彼女の動きが分からないだろう?それに自分の身は自分で守れるからお構いなく」サミーは苛立って、アップルパイにフォークを突き刺した。きっとリックのこともアップルパイのように串刺しにしたいに違いない。

「そのせいであいつらに目をつけられたんだぞ。セシル、こいつはいま賭けの対象になっている。ジュリエットと結婚するかどうか――」

「そして僕が一年以内に殺されるか」

二人ともいったい何言ってるの?もう、僕の頭じゃ追いつかないよ。

「結婚して殺される方に掛けたのが。デレク・ストーン、シリル・フロウ、マックス・ホワイト」

「僕は結婚しない方に掛けたんだ。えらいだろう」

真剣な顔つきのリックとは違い、サミーはどことなしか楽しんでいる様子だ。自分が物騒な賭けの対象にされているのに平気なのだろうか?

そういえば、確かリックは四人と――あと一人はいったい誰なのだろう。

つづく


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花嫁の秘密 236 [花嫁の秘密]

朝食という名の別れの挨拶が済むと、サミーは愛用のステッキと銃を携え玄関前で待機する馬車に乗り込んだ。というより、エリックに急かされ無理やり乗せられたという方が正しい。

サミーは窓の外に目をやり、手を振るアンジェラに手を振り返した。今日二度目の見送りだからか、どことなく寂しげだ。クリスと二人で過ごすのも悪くはないだろうが、アンジェラのそばには家族か友人か、侍女以外の誰かがいたほうがいい。エリックの言うようにメグは頼りになるのだろう。けど彼女は所詮アンジェラの正体も知らないただの侍女でしかない。

馬車が動き出すとアンジェラの姿が視界から消えていき、仕方なく薄曇りの空に目を向ける。

きっと屋敷へ入るとき、玄関にぶら下がっているヤドリギの下でクリスとキスをするのだろう。そう思うと、みぞおちを殴られたかのように息苦しくなった。二人は結婚していてキス以上のこともしているというのに、いまさらなんだっていうんだ。サミーは時折自分を襲う嫉妬とも違う何かに苦しめられていた。

「本当にお前は諦めが悪いな」隣に座る男が言った。

エリックは図々しくも隣に座り、すべてを見透かすような瞳でこちらを見ている。

「なんでわざわざ僕の隣に座る?向こうに座ったらどうだ」

「なんでわざわざ弟の隣に座らなきゃならん」エリックが即座に言い返す。

「嫌なら僕はここに残るけど!」向かいの座席に座るセシルがぷりぷりと言う。食べるものはたっぷりあり暖かで居心地のいい場所から無理矢理窮屈な馬車に押し込められ、兄には隣に座りたくないと言われれば怒りもする。

「いや、お前はそこでゆったりしていろという意味だ」

「なんで僕まで……ハニーの邪魔なんてしないのに……」

セシルは遠ざかる屋敷を切なげに見つめている。本当に嫌々渋々なのだろう。それでも、行かないという選択をしないのは弟だからなのか、それともエリックの行動には何かしらの意味があって、それが正しいと思っているからなのか。

「邪魔をするなんて思っていない。ただ、時期をみて母様の所へ行って欲しいんだ」

へえ、昨夜はセシルは邪魔だと言っていたくせにとサミーは横目でエリックを見た。

「母様なら大丈夫だよ。それはリックだってわかっているでしょ」

「まあ、そうだな。ただものすごく怒っていることは確かだ」

「そうなのか?」サミーは驚いて尋ねた。

「ああ、ショックは受けただろうが、俺たちが知っていて黙っていたことに腹を立てているんだ」エリックが答える。

「そうそう。だから僕を生贄にするのはやめてよね」と、セシル。

「マーサは大丈夫なのか?」

「マーサは平気だ。母様はマーサに腹を立てるより、うらやましいって気持ちの方が大きいからな」

そういうものなのだろうか。サミーは理解しようと努めたが、隣に座る男のことも理解できないのに、ほとんど知らないソフィアのことなどわかるはずもない。

「それでセシル、どこでおろせばいい?」エリックはくつろいだ様子で、真紅のベルベットの座席に背を預けた。

「ロンドンまで出るよ。どうせ年明けにはロジャー兄様も出てくるし、コートニー邸を開けておくよ」
結局そうなるわけか。サミーはセシルに同情の目を向けた。

「エリックはどこへ?」念のため訊いておく。特別な意味はなく、こいつはあちこちに住まいを持っていて、いざという時居場所を掴むのに苦労するからだ。

「気になるか?」エリックが愉快げに眉を上げる。

「別に君がどこで寝起きしようが関係ないが、僕をあちこち連れまわす気なら居場所は知らせておいてもいいんじゃないのか?」

「確かに言うとおりだな。そうだな……向こうへ着くまでにどこにするか考えておく」

言うつもりはないってわけか。

つづく


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花嫁の秘密 235 [花嫁の秘密]

サミーは迷った末、エリックの言葉を無視していつものように普段着で階下に降りた。一時間でここを出るというのがどこまで本気かわからなかったからだが、すでに玄関前に馬車が回されているのを見て、エリックはこうと決めたらそうする人間だということを思い知らされた。

朝食ルームへ入ると、アンジェラは物憂げにココアを飲んでいた。昨日の告白から間を空けずして母親がここを去ってしまったのだから、傷ついて当然だ。こんな時ほどそばにいてあげたいのにエリックがそれを許さない。サミーは苛立ちを抑えにこやかに声をかけた。

「アンジェラ、おはよう。ソフィアはもう出発したんだって?挨拶しておきたかったのに」

パッと顔をあげたアンジェラが、いつもと変わりない笑顔だったことにサミーは安堵した。

「サミー、おはよう。そうなの、お母様とマーサはアップル・ゲートに帰ってしまったの」

アンジェラの返事を聞きながらサイドボードへと向かう。これからエリックと長旅になるかと思うと食欲も失せる。せめて今年いっぱいはここで平穏に過ごせると思っていたのに、ささやか望みさえ許さないってわけか。しかもロンドンへ行くはっきりとした理由はまだ聞いていない。

「おはようハニー。寂しいだろうが俺たちもすぐにここを発つ」続いてやってきたエリックが前置きもなしに言う。サミーの姿を見て、顔をしかめる。「おい、支度をしろと言っただろう」

「リック、どうしたのその格好。いったい、どういうこと?」

アンジェラの驚きも当然だ。いつもは朝食を抜くか遅れるかのエリックが、あとは帽子をかぶるだけで完璧という格好をしているのだから。エリックはアンジェラに微笑んで、それからセシルに目を向けた。

「セシル、お前も支度しろ」

理不尽さで言えば、まったく何も知らされていない、セシルの方が上だろう。サミーは脂たっぷりのベーコンを横目に、保温されていたポットからココアを注ぎいつもの席へ向かう。

「え、どうして?僕はまだここにいるよ。母様もまっすぐにアップル・ゲートへは戻らないって言ってたし、ひとりは嫌だよ」セシルはたくさんのごちそうを目の前にしてここを去れなどとよく言えたものだと、兄を睨みつけた。

「恋人の所にでも行け。送って行ってやる」エリックはセシルの背後に立つと、椅子の背に両手を置いた。有無を言わせぬ姿勢だ。

兄の強引さに辟易したセシルは、前を向くとトーストを手にした。「い、行けるわけないだろ……」ぽつりと言う。

「クリスマスに家に入れてくれないようなやつなのか?まさか、既婚者じゃないだろうな?」

「違うよっ!いま彼は実家に帰っていて――」しまったと、口を噤んだが遅かった。セシルはトーストではなく唇を噛みしめた。

「知ってる。だから途中で降ろしてやるって言ってるんだ」

エリックが知らないはずなかった。知っていてこういうことを言うのがエリックなのを忘れていたセシルが悪い。

「とにかく、朝食を食べたらどうだ?」クリスが不機嫌に口を挟んだ。アンジェラの隣にサミーが座ったからだ。「ついでに、クリスマスをここで過ごさない理由を聞いてもいいだろうか?」

エリックはセシルの隣、サミーの向かいに座ると従僕にコーヒーを持ってくるように言った。

「仕事だ。他に何がある?」

「どうしてサミーも一緒に?」アンジェラが尋ねる。

「どうしてだろうね?僕も理由が聞きたい」サミーは言って、エリックを見た。

「僕もだよ」とセシル。

エリックに注がれる刺すような視線をかいくぐり、従僕がそろりとコーヒーをテーブルに置いた。

「仕事にどうしてもクソもない」

「エリック、レディがいる前での口の利き方には気をつけてもらおう」
レディとはもちろんアンジェラのことだ。

エリックは舌打ちをし、コーヒーを喉の奥に流し込んだ。「言っておくが、俺はジャーナリストだ。いつまでも田舎でのんびり過ごしているわけにはいかない。それから、クリスマスにいくつか招待を受けている。面倒だがすべてに顔を出しておかなければならない。仕事もあるが、これはロジャーのためでもある。ついでに、パーティーに参加するには連れがいる。クリス、サミーを借りるぞ」

エリックの言い訳にも似た説明を黙って聞いていたクリスは、アンジェラの方をちらりと見て返事をする。

「わかった。必要なものがあったら言ってくれ。それとサミー、向こうの屋敷を開けておくように電報を打っておく」

なんて物わかりのいい返事だ。エリックの取ってつけたような理由を鵜呑みにしたわけではないだろうが、僕を追い払えるなら理由なんてなんでもいいのだろう。

「僕には行かないという選択肢はないってわけか。いま向こうには誰がいるんだっけ?ダグラスを連れて行くわけにいかないよね」サミーは大きな溜息を吐き、向かいに座る男を恨めしげに見やった。「まあ、いいさ。どうせあちこち連れまわされてゆっくりできないだろうしね」

セシルが僕は?という顔をしていたが、残念ながら気に留めるものはいなかった。

つづく


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花嫁の秘密 234 [花嫁の秘密]

寝間着の上にガウンを羽織っただけのアンジェラは、母の言いつけ通り馬車の車輪が動き出すとすぐに邸内へと入った。外はまだ白み始めたばかりで雪もちらほら残るなか、ソフィアとマーサはフェルリッジを発った。アップル・ゲートへはまっすぐ戻らず寄り道をするのだとか。

「朝食くらい食べて行ったらいいのにね。もう三十分出発を遅らせるだけでいいのに」同じように寝間着にガウン姿のセシルが軽く伸びをしながら言った。もうひと眠りしたそうに、ふわぁとあくびをする。

「ほんと、こんなに急いで帰らなくたっていいのに。わたしもクリスも寝間着姿よ」

クリスがアンジェラの肩を抱く。「このまま着替えて朝食を食べに行くか、ベッドでもう少しだけまどろむか、どっちがいい?」見上げたアンジェラの額に口づけ、返事を待つ。

昨夜は眠りが浅かったし、もうひと眠りするのも悪くないのかもしれない。お母様と短いとはいえきちんと話もできた。気持ちの整理に時間はかかるだろうけど、マーサがきっとうまくやってくれるはず。

「僕は部屋へ戻るよ。でも、朝食はちゃんと食べるから残しておいてね」セシルは言って、のそのそと階段をのぼっていった。

アンジェラとクリスも自然とセシルに続いた。待ちかねていたように背後で使用人が動き出す。アンジェラはクリスの差し出した腕を取り、大それた告白をする前と何ら変わりないことに安堵していた。

「別れなさいって言われると思っていたの」昨日からずっと不安に思っていたことを口にする。言葉にしてしまえばそうなってしまう気がして、胸の内にとどめていた。

「まあ、言ってもおかしくはなかった。冷静になって考えがまとまれば、可能性はある。けど、そうなったら私とハニーのために説得はするつもりだ」

「説得できるかしら?」アンジェラは立ち止まり、クリスを見上げた。

「最悪、ばらすと脅せばどうにかなるんじゃないかな?」いたって真剣な口調だが、口の端に笑みがこぼれている。

アンジェラは思わず笑ってしまった。ばれたらみんな無事では済まないのに、それが最善に思えたからだ。婚姻は無効になっても、二人が一緒にいることは誰にも邪魔できない。

「でも、ばれたらロジャー兄様に殺されちゃうわ。アビーのためにも違う作戦を立てましょう」

「ああ、そうだな。でも、ソフィアはきっとわかってくれる。ハニーは自分が男だって知らずに育ってきたし、私も結婚するまでは知らなかったと聞けば――」ふいに言葉を切る。「いや、待て、知ってて誰も教えてくれなかったと怒るだろうか?」

「その可能性はあるわ。お母様はゴシップが大好きだもの。こんな重大な秘密を家族の中で最後に聞かされるなんて屈辱だと思うわ」

なんだか目が冴えてきた。お母様が朝まで口をきいてくれなかったのは、それが原因かもしれない。もちろん驚きもあったと思う。けどそれ以上に悔しかったのかもしれない。こうなってしまったいきさつと今現在誰が秘密を知っているのか、マーサが伝えてくれて、それが思った以上に知られていることに衝撃を受けたのかも。家族以外で知っている人もいるし。

今以上に気を付けないと、本当に世間に正体がばれてしまうかもしれない。

つづく


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