はじめまして。
BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。
コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。
花嫁の秘密 387 [花嫁の秘密]
駅の周辺は想像していたよりも栄えていて、商店と住宅が立ち並ぶ通りを抜けると煙突から煙を吐き出している工場がいくつか点在していた。それを過ぎるとひたすら牧草地が広がっていて、いまはなだらかな丘を登っている。
「ハニー、もしかして緊張しているのかい?」
そう尋ねられて、アンジェラは隣に座るクリスに目を向けた。窓の外は冷たい風がヒューヒューと魔女の悲鳴のような音を立てている。
「少しだけ」アンジェラは正直に答えた。生まれてこの方、こんな遠くまで来たのは初めてなのだから仕方がない。自分ではもう少し気楽に臨める旅だと思っていたけど、駅で出迎えたクラーケンを見たときその考えは間違っていたことに気づかされた。
今回の問題が起きた一因には、クリスがラムズデンへ行くのを先延ばしにしていたこともある。それは紛れもなくアンジェラのせいで、おそらく問題が起きなければまだもう少し先になっていただろう。
アンジェラが同行することになったのも、クリスマスに物騒な贈り物が届いたからで、急遽出迎えることになったクラーケンがこれまで不満のひとつもなかったかのように、会えただけで感激していたことを思えば、自分のここでの役割を考え直して当然だ。
「屋敷へ着いたら、荷解きをしながらゆっくりしているといい」クリスは革の手袋をしたままの手で、アンジェラの膝にそっと手を置いた。
「クリスは?」アンジェラは尋ねた。でも、聞くまでもなくクリスのすべきことは決まっている。
「私は弁護士を交えて事の詳細と今後の対応を話し合う。サミーが先に対処してくれていたから、ほとんど報告だけだろうけど、モリソンの処遇もあるからな」
「モリソンて人、見つかったの?」
「ああ、国境付近で捕らえたらしい。このまま警察に引き渡してもいいんだが、妻子のことも考えてやらないと。フォークナーがモリソンの妻から話を聞いているから、それを聞いてから決めようと思う」頭の痛い問題だと、クリスは渋面を作った。こんな顔はアンジェラの他には見せられない。
アンジェラはクリスの右腕をさすった。
クリスは難しい決断を迫られている。なるべく穏便に事を収めたくても、生活を脅かされた村人は黙っていない。クリスがモリソンに厳しい罰を下すことを望むに決まっている。
「わたしにできることはある?」
「たくさんあるよ。まずはこうしてそばにいてくれること、それから村人が屋敷に突撃してきたら、熱い紅茶とショートブレッドでもてなしてくれるとすごく助かる」
クリスは冗談のつもりで言ったのかもしれないけど、十分にあり得そうな状況に、アンジェラは侯爵夫人としてどんなふうに対応すればいいのか真剣に考え始めた。
馬車が入口の門を抜けると、クリーム色をした屋敷が見えてきた。石造りの屋敷は二階建てで、窓が規則的に並び、四本の円柱が正面玄関の張り出した屋根を支えている。
二台の馬車が連なるようにして水の出ていない噴水の周りをまわって、玄関ポーチの前に止まった。
出迎えた使用人は二人。
もしかして、歓迎されていないのかしら。
つづく
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「ハニー、もしかして緊張しているのかい?」
そう尋ねられて、アンジェラは隣に座るクリスに目を向けた。窓の外は冷たい風がヒューヒューと魔女の悲鳴のような音を立てている。
「少しだけ」アンジェラは正直に答えた。生まれてこの方、こんな遠くまで来たのは初めてなのだから仕方がない。自分ではもう少し気楽に臨める旅だと思っていたけど、駅で出迎えたクラーケンを見たときその考えは間違っていたことに気づかされた。
今回の問題が起きた一因には、クリスがラムズデンへ行くのを先延ばしにしていたこともある。それは紛れもなくアンジェラのせいで、おそらく問題が起きなければまだもう少し先になっていただろう。
アンジェラが同行することになったのも、クリスマスに物騒な贈り物が届いたからで、急遽出迎えることになったクラーケンがこれまで不満のひとつもなかったかのように、会えただけで感激していたことを思えば、自分のここでの役割を考え直して当然だ。
「屋敷へ着いたら、荷解きをしながらゆっくりしているといい」クリスは革の手袋をしたままの手で、アンジェラの膝にそっと手を置いた。
「クリスは?」アンジェラは尋ねた。でも、聞くまでもなくクリスのすべきことは決まっている。
「私は弁護士を交えて事の詳細と今後の対応を話し合う。サミーが先に対処してくれていたから、ほとんど報告だけだろうけど、モリソンの処遇もあるからな」
「モリソンて人、見つかったの?」
「ああ、国境付近で捕らえたらしい。このまま警察に引き渡してもいいんだが、妻子のことも考えてやらないと。フォークナーがモリソンの妻から話を聞いているから、それを聞いてから決めようと思う」頭の痛い問題だと、クリスは渋面を作った。こんな顔はアンジェラの他には見せられない。
アンジェラはクリスの右腕をさすった。
クリスは難しい決断を迫られている。なるべく穏便に事を収めたくても、生活を脅かされた村人は黙っていない。クリスがモリソンに厳しい罰を下すことを望むに決まっている。
「わたしにできることはある?」
「たくさんあるよ。まずはこうしてそばにいてくれること、それから村人が屋敷に突撃してきたら、熱い紅茶とショートブレッドでもてなしてくれるとすごく助かる」
クリスは冗談のつもりで言ったのかもしれないけど、十分にあり得そうな状況に、アンジェラは侯爵夫人としてどんなふうに対応すればいいのか真剣に考え始めた。
馬車が入口の門を抜けると、クリーム色をした屋敷が見えてきた。石造りの屋敷は二階建てで、窓が規則的に並び、四本の円柱が正面玄関の張り出した屋根を支えている。
二台の馬車が連なるようにして水の出ていない噴水の周りをまわって、玄関ポーチの前に止まった。
出迎えた使用人は二人。
もしかして、歓迎されていないのかしら。
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