はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
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花嫁の秘密 389 [花嫁の秘密]

サミーは苺の果肉の入ったアイスクリームをひとすくいして口に入れた。なかなか美味しい。

「それで?アンジェラは無事に出発できたの?」もしそうでなければ、この場にセシルはいなかっただろう。計画通りに事が進んだからこそ、ここにいる。

「それがさ、大変だったんだよ。リックには馬車の中で少し話したんだけど――」セシルがマフィンにかぶりついたので話が中断した。

「ハニーは男装をして屋敷を出たらしい」エリックが代わりに続ける。「それでクリスと揉めたらしい」

男装?なぜという疑問しかない。

「ソフィアに打ち明けたことと関係あるのかな?もしかしてアビーにも、もう?」もしも秘密を知る者が増えたなら、早めに把握しておきたい。それによって自分が対処すべきことも変わってくる。

セシルはマフィンを紅茶で喉の奥へと流し込んだ。「ううん、アビーにはもう少しあとでって母様が。男装をしたのは、目くらましって言ってたけど、前から衣装は揃えていたみたい」

「前から?てっきりお前が変装用の衣装を用意したのかと思っていたが……」エリックの心配の種がまた増えたようだ。難しい顔をして黙り込んだ。

アンジェラが衣装を用意したのは、おそらく今回の旅とは無関係だ。だとしたら、いったい何をしようとしていたのか。あの子は突拍子もないことを思いつくから、考えがわかるとしたら実の兄たちしかいない。

「ハニーはたぶんまだ諦めていないな」エリックが呟いた。

「諦めてない?ああ、そういうことか」セシルはようやく合点がいったと、呆れ口調で言った。「ハニーはしつこいから仕方ないよ」

アンジェラの粘り強さには完全に同意だと、サミーは頷いた。「二人とも説明してくれるかな」おおよその見当はついたけど、まさかという気持ちの方が大きい。もしあの事件の事なら、一人でできることなどないからだ。

エリックはメレンゲをひとつ口に放り込み、深くため息を吐いた。「ハニーは黒幕探しを諦めていない。それは想定の範囲内だが、問題はクリスと手を組んでいるのかどうかだ」

「ハニーの事だから、自分でどうにかしようとしているんじゃない?」セシルが言った。食べかけのエクレアでアイスクリームをすくっている。

「そもそもクリスは事件は終わったと思っているだろう。僕が犯人を撃ち殺したから、下手に探ったりはしないはずだ」探ることで僕だけでなく、アンジェラにも火の粉が降りかかるから、慎重にならざるを得ない。

「いや、クリスはずっと疑っていた。S&Jにも調査を依頼している。あらかじめ断るよう言っておいてよかったよ。けどクリスマスに届いた箱のせいで、疑いがはっきりとした形あるものになった。俺たちが隠そうとしていたことにも当然気づいていて、ああっ!くそっ――クリスは意地でも真実を暴こうとするし、ハニーに手を貸すしかなくなる」

エリックは苛立ちもあらわに立ち上がると、キャビネットの前の飾りワゴンからデキャンタを取って戻ってきた。中身はなんだろう。減っても、気づけば当然のように満たされているけど、たまには酒の在庫リストに目を通しておいた方がよさそうだ。

「手を組んでいると?」エリックが座るのを待って、サミーは訊いた。

エリックは空のティーカップに琥珀色の液体を注いだ。酒を飲むには早い時間だが、見ようによっては紅茶に見えなくもない。「二人でちゃんと協力すればいいが、クリスにハニーを抑えられると思うか?今回ラムズデンへ行かせたのはよかった。これでしばらくは身動き取れないだろうから、その間に対処する」そこまで言って、ようやくカップに口をつけた。

「それで思い出したけど、あの屋敷、現在の持ち主が不明だ。君、何か知っているんじゃない?」ブラックに調べさせようと思っている一件だが、エリックが何か知っているなら、いま確かめておいて損はない。

「あの屋敷?」セシルがアイスの器から顔を上げる。「って、どの屋敷?」

「持ち主は俺だ。辿ってもわからないようにしているから、調べるだけ無駄だ。それにもう屋敷はない」

屋敷はない、か。やっぱりエリックの仕業だったか。やけにあっさりと答えたのは気になるけど、知らないよりもましだ。

「例えばクリスが調べても、ジュリエットにも君にも行き着かないってことでいいのか?」サミーは念を押すように尋ねた。あの事件は闇に葬るのが誰にとっても望ましい。

つづく


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