はじめまして。
BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。
コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。
花嫁の秘密 391 [花嫁の秘密]
クリスは書斎机に着き、目の前の報告書の束に目を落とした。その横にはこの数日で届いた手紙も置いてある。
クラーケンが書庫から数年分の帳簿を持ってくる間に、少しでも目を通しておくか。
なぜ書斎の本棚に置いておかないのか不思議だが、管理を任せきりにしておいた身としては不満を言える立場にはない。古びた絨毯やくすんだカーテンが記憶にあったが、すべて新しいものに変わっているのは、おそらくサミーの指示によるものだろう。
不満といえば、アンジェラは一人で大丈夫だろうか。部屋の支度が整うまで居間でゆっくりするように言ったが、知らない場所で落ち着けるはずもない。メグは荷解きが済むまで手は空かないだろうし、せめて弁護士が来るまでは一緒にいたいが、さすがにのんきに茶を飲んでいる場合でもない。
家政婦長のミセス・ワイアットに任せておけば、そう時間はかからず快適に過ごせるようになるだろうが、アンジェラも一緒だと事前に言っておかなかったせいで、少々手間取っている。
「旦那様、よろしいですか?」執事のアクロイドがおずおずと戸口に顔をのぞかせた。出迎えに手落ちがあったのではないかと、心配しているらしい。
「なんだ?」クリスは手紙を開封しながら返事をした。
「不足している使用人ですが、明日の朝には解消しそうです」
そんなものダグラスとメグがいればどうとでもなると言いたいところだが、クラーケンとフォークナーも今夜は泊まることになるだろうし、人手があるに越したことはない。それでも多すぎるのは困る。
「わかった。それはお前に任せる」クリスは顔を上げて、アクロイドを見た。以前とさほど変わってはいないが、髪の毛はやや後退しただろうか。確かダグラスとは面識があったはずだ。「今夜は人手が足りないだろうから、ダグラスを好きに使ってくれていい」
「ダグラスさんの力を借りられるとなれば、十分なもてなしができそうです」アクロイドの顔から不安の色が消えた。
もてなすのはアンジェラか。「アンジェラはどうしている?」
「はい。奥様は居間でワイアットさんお手製のスコーンを召し上がっていらっしゃいます」
ミセス・ワイアットは調理場にも入るのか?「料理人はいないのか?」クリスは訊いた。
「ああ、いえ、います。ワイアットさんのスコーンはこの辺でも評判なんです。きっと奥様もお気に召されるだろうと」アクロイドは慌てて説明した。人手不足とはいえ、さすがに料理人はいるようだ。
「それで、お気に召しているのか?」アクロイドの顔を見るに、聞くまでもない。アンジェラはきっと、にこにこしながらスコーンにかぶりついていることだろう。クロテッドクリームに果肉たっぷりのジャム。アンジェラはどちらを先に塗っていただろうか。
「ええ、それはもう」アクロイドは頬を緩めた。
そう言われて、このままここに留まっておけるはずもなく。「では、私もいただこう」
やるべきことを先送りにするのはよくないが、問題は一応解決している。それもこれもサミーのおかげだ。というわけでひとまず、愛する妻とミセス・ワイアット特製のスコーンを堪能するとしよう。
つづく
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クラーケンが書庫から数年分の帳簿を持ってくる間に、少しでも目を通しておくか。
なぜ書斎の本棚に置いておかないのか不思議だが、管理を任せきりにしておいた身としては不満を言える立場にはない。古びた絨毯やくすんだカーテンが記憶にあったが、すべて新しいものに変わっているのは、おそらくサミーの指示によるものだろう。
不満といえば、アンジェラは一人で大丈夫だろうか。部屋の支度が整うまで居間でゆっくりするように言ったが、知らない場所で落ち着けるはずもない。メグは荷解きが済むまで手は空かないだろうし、せめて弁護士が来るまでは一緒にいたいが、さすがにのんきに茶を飲んでいる場合でもない。
家政婦長のミセス・ワイアットに任せておけば、そう時間はかからず快適に過ごせるようになるだろうが、アンジェラも一緒だと事前に言っておかなかったせいで、少々手間取っている。
「旦那様、よろしいですか?」執事のアクロイドがおずおずと戸口に顔をのぞかせた。出迎えに手落ちがあったのではないかと、心配しているらしい。
「なんだ?」クリスは手紙を開封しながら返事をした。
「不足している使用人ですが、明日の朝には解消しそうです」
そんなものダグラスとメグがいればどうとでもなると言いたいところだが、クラーケンとフォークナーも今夜は泊まることになるだろうし、人手があるに越したことはない。それでも多すぎるのは困る。
「わかった。それはお前に任せる」クリスは顔を上げて、アクロイドを見た。以前とさほど変わってはいないが、髪の毛はやや後退しただろうか。確かダグラスとは面識があったはずだ。「今夜は人手が足りないだろうから、ダグラスを好きに使ってくれていい」
「ダグラスさんの力を借りられるとなれば、十分なもてなしができそうです」アクロイドの顔から不安の色が消えた。
もてなすのはアンジェラか。「アンジェラはどうしている?」
「はい。奥様は居間でワイアットさんお手製のスコーンを召し上がっていらっしゃいます」
ミセス・ワイアットは調理場にも入るのか?「料理人はいないのか?」クリスは訊いた。
「ああ、いえ、います。ワイアットさんのスコーンはこの辺でも評判なんです。きっと奥様もお気に召されるだろうと」アクロイドは慌てて説明した。人手不足とはいえ、さすがに料理人はいるようだ。
「それで、お気に召しているのか?」アクロイドの顔を見るに、聞くまでもない。アンジェラはきっと、にこにこしながらスコーンにかぶりついていることだろう。クロテッドクリームに果肉たっぷりのジャム。アンジェラはどちらを先に塗っていただろうか。
「ええ、それはもう」アクロイドは頬を緩めた。
そう言われて、このままここに留まっておけるはずもなく。「では、私もいただこう」
やるべきことを先送りにするのはよくないが、問題は一応解決している。それもこれもサミーのおかげだ。というわけでひとまず、愛する妻とミセス・ワイアット特製のスコーンを堪能するとしよう。
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