はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

花嫁の秘密 386 [花嫁の秘密]

列車がラムズデンの駅に滑り込んだ時には、アンジェラはいつもの格好に戻っていた。

メグは一等の客車の後方、二等車に乗っているので着替えを手伝ったのはクリスだ。言わずもがな、脱がせる方が得意なのだが、背中の小さなボタンを上までしっかり留めた時には、馴染みのある姿にホッとせずにはいられなかった。

ホームに降り立つと、この土地特有の乾いた冷たい風が歓迎の意を込めて吹きつけてきた。身を切るような寒さだ。クリスはアンジェラの前に立って、頭にフードをかぶせた。この冬新調したコートだが、まさかラムズデンが初披露の場になるとは思っていなかった。真っ白なファーに縁どられたアンジェラの顔は愛らしく、クリスはここが駅のホームだということを忘れ、思わずキスをしかけた。

「ごほんっ」

雑踏の中でもよく聞こえた咳払いはダグラスのもので、クリスは自分が立っている場所とアンジェラを早く暖かな場所へ連れて行くいという、いま夫がすべきことを思い出し、まじめな顔つきで振り返った。

カバンを手に立つダグラスの横には、神妙な顔つきのクラーケンが背中を丸めて立っていた。後ろの方では従僕とメグがキビキビとポーターに指示して荷物を運ばせている。

「旦那様……」クラーケンはまず何を言うべきか言葉が見つからず、そのまま頭を垂れた。今回の騒動で疲労の色は見えるが、白髪はあまり増えていないし、やはり引退するにはまだ早い。

領地の管理を引き継いだモリソンが金を持ち逃げした責任を感じているのだろうが、さすがにこれは想定外だ。それに責任があるとすれば、領主であるクリスにある。だがこれを機にクラーケンが戻ってきてくれれば、クリスとしては憂いがひとつ減る。

「久しぶりだな、クラーケン。詳しい話はフォークナーから聞いている。お前からも話を聞きたいが、まずは屋敷へ着いてからでいいか。アンジェラ、ラムズデンのメイフィールドの土地を管理している、クラーケンだ。クラーケン、妻のアンジェラだ」

クリスの後ろに隠れていたアンジェラは、ひょっこり顔を出してクラーケンに笑いかけた。

「こんにちは」正体がばれないようにと言葉少なだ。少し前まで男装をして息巻いていたとは思えない。

「ああ奥様、こんな形でお目にかかることになろうとは――」待ち望んでいた瞬間が自分の失態――実際は違うが――と重なって、クラーケンは顔をくしゃくしゃにして再び頭を垂れた。

「遅くなってごめんなさい」アンジェラにいま言えることはこれだけだ。

クリスはクラーケンの肩に優しく手を置き、これまでの苦労をねぎらった。

「さあ、行こう」

つづく


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