はじめまして。
BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。
コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。
花嫁の秘密 406 [花嫁の秘密]
「大丈夫だ。少しぼんやりするだけだ」
マーカスはサミーの血の気の引いた頬を指の背でゆっくりと撫でた。昔と変わらない。青白い顔で弱弱しく横たわる姿はあの頃と同じ。
「なぜ、こんなことを?」
なぜ、か。自分でもよくわからない。腹を立てていたが、ここへ来てサミュエルが何も変わっていなかったとわかったいまは、もうどうでもよくなった。いや、変わってはいた。クラブ通いをし、ゴシップ紙の常連になるくらいには。想像もしていなかったことだ。転機は父親の死か?
「確かめに来たと言っただろう」マーカスは部屋を見まわした。もっとよくサミュエルの顔が見たい。だが部屋の明かりをつければ、見つかる危険は高まる。そこまでの危険を冒す価値があるだろうか。
マーカスは思わず失笑した。危険も何も今更というもの。
「僕が結婚するのが、そんなにおかしいか?」
サミュエルは笑われたと勘違いしたようだ。だがこの言い方からすると、結婚もあり得るということか。「いいや」と適当に返事をしたが、気に入らなかったようだ。
「何も知らないくせに」無知で愚かだと決めつけるような口調だ。
確かに知らない。あのあとサミュエルが誰と付き合いどんな経験をしたのか。だが、俺が最初の男なのは変わらない。
「そう怒るな。どうしてよりによって兄の元恋人に近づいたりした?どんな女か知らなかったわけじゃないだろ」もし知らなかったとしたら、兄弟揃って間抜けとしか言いようがない。
「彼女は、ただの友人で、それ以上のものはない。これで満足か?」サミーは淡々と言って、わざとらしくため息を吐いた。目は閉じていて、眉間に皺が寄っている。意識をしっかり保とうとしているようだが、そろそろ限界だろう。
「サミュエル、昔話をしようか。それとも、直接思い出させてやろうか?」マーカスはサミーに覆いかぶさった。これで少しは暖かい。とはいえ言うほど寒くもないが。
「なぜ、いまになってここへ来た?十二年もあったのに……」サミーはマーカスを押しのけるように二人の間に手を置いた。力はほとんど入っていない。
「まさか、責めているのか?」この反応は意外だった。サミュエルと俺は違う道をずっと進んでいたし、今回気まぐれに会おうと思わなければきっと死ぬまで会うことはなかっただろう。大袈裟でもなんでもなく、少なくとも先代の侯爵が亡くなるまでは、会うことはおろか近づくことすらできなかったはずだ。
「そんなことはしない。ただ知りたいだけだ」サミーは苦しげに息を吐き、目を開けてマーカスを見た。感情の読み取れない冷たい瞳。あの頃はまだかわいげがあった。
「理由などない。だいたい理由を知ったからといって、どうなるもんでもないだろう?俺はクビになってここを去った。これまで会う必要もなかったから会わなかっただけだ」あの時起こったことを今更とやかく言ったところで、自分が不快になるだけだ。過去は過去でしかない。
「僕もそうだ。もう会う必要はない」
会いたくないと突っぱねれば、逆効果だと教えてやるべきか。「サミュエル、何を怖がっている」
答えを聞く必要はなかったし、聞くつもりもなかった。どちらにせよ喋ることはできない。マーカスはサミーの前髪を掴んでベッドに押し付け唇を塞いだ。ほのかに残るブランデーの香りに交じる大人の男の匂い。
昔のサミュエルはもういない。それでいい。変わっていないと思っていたのは幻想で、お互いあれからずいぶん変わった。
変わらないのは、ただひとつ。
サミュエルはいまでも俺のものだということ。
つづく
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マーカスはサミーの血の気の引いた頬を指の背でゆっくりと撫でた。昔と変わらない。青白い顔で弱弱しく横たわる姿はあの頃と同じ。
「なぜ、こんなことを?」
なぜ、か。自分でもよくわからない。腹を立てていたが、ここへ来てサミュエルが何も変わっていなかったとわかったいまは、もうどうでもよくなった。いや、変わってはいた。クラブ通いをし、ゴシップ紙の常連になるくらいには。想像もしていなかったことだ。転機は父親の死か?
「確かめに来たと言っただろう」マーカスは部屋を見まわした。もっとよくサミュエルの顔が見たい。だが部屋の明かりをつければ、見つかる危険は高まる。そこまでの危険を冒す価値があるだろうか。
マーカスは思わず失笑した。危険も何も今更というもの。
「僕が結婚するのが、そんなにおかしいか?」
サミュエルは笑われたと勘違いしたようだ。だがこの言い方からすると、結婚もあり得るということか。「いいや」と適当に返事をしたが、気に入らなかったようだ。
「何も知らないくせに」無知で愚かだと決めつけるような口調だ。
確かに知らない。あのあとサミュエルが誰と付き合いどんな経験をしたのか。だが、俺が最初の男なのは変わらない。
「そう怒るな。どうしてよりによって兄の元恋人に近づいたりした?どんな女か知らなかったわけじゃないだろ」もし知らなかったとしたら、兄弟揃って間抜けとしか言いようがない。
「彼女は、ただの友人で、それ以上のものはない。これで満足か?」サミーは淡々と言って、わざとらしくため息を吐いた。目は閉じていて、眉間に皺が寄っている。意識をしっかり保とうとしているようだが、そろそろ限界だろう。
「サミュエル、昔話をしようか。それとも、直接思い出させてやろうか?」マーカスはサミーに覆いかぶさった。これで少しは暖かい。とはいえ言うほど寒くもないが。
「なぜ、いまになってここへ来た?十二年もあったのに……」サミーはマーカスを押しのけるように二人の間に手を置いた。力はほとんど入っていない。
「まさか、責めているのか?」この反応は意外だった。サミュエルと俺は違う道をずっと進んでいたし、今回気まぐれに会おうと思わなければきっと死ぬまで会うことはなかっただろう。大袈裟でもなんでもなく、少なくとも先代の侯爵が亡くなるまでは、会うことはおろか近づくことすらできなかったはずだ。
「そんなことはしない。ただ知りたいだけだ」サミーは苦しげに息を吐き、目を開けてマーカスを見た。感情の読み取れない冷たい瞳。あの頃はまだかわいげがあった。
「理由などない。だいたい理由を知ったからといって、どうなるもんでもないだろう?俺はクビになってここを去った。これまで会う必要もなかったから会わなかっただけだ」あの時起こったことを今更とやかく言ったところで、自分が不快になるだけだ。過去は過去でしかない。
「僕もそうだ。もう会う必要はない」
会いたくないと突っぱねれば、逆効果だと教えてやるべきか。「サミュエル、何を怖がっている」
答えを聞く必要はなかったし、聞くつもりもなかった。どちらにせよ喋ることはできない。マーカスはサミーの前髪を掴んでベッドに押し付け唇を塞いだ。ほのかに残るブランデーの香りに交じる大人の男の匂い。
昔のサミュエルはもういない。それでいい。変わっていないと思っていたのは幻想で、お互いあれからずいぶん変わった。
変わらないのは、ただひとつ。
サミュエルはいまでも俺のものだということ。
つづく
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