はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

Sの可愛い子犬 27 [Sの可愛い子犬]

「君の母方の親族は口が堅くてね……。わかっている事実だけ述べると、彼女にはアストンと結婚する前に別に婚約者がいた。私はその婚約者が君の父親ではないかと思っている」

漠然としていたものが形を現わそうとしている。けど本当の父親だという男が見つかったとしても、親子関係を確かめるすべがあるとは思えない。

「それで、父さん……アストンをジョンから引き離す、いや、ジョンから奪ったものを取り返せたりするのですか?」

「いや、子爵が多額の負債を抱えて破産したのは変わらない。たとえ、騙されていたとしても、最終判断は子爵によるものだったからね。だけど、それ以上にアストンは不当に子爵の土地や屋敷を手に入れている。それは取り返せるかもしれないが、それらを維持するだけの資力はない。だから結論から言えば、アストンを追い落とすだけの材料はあるが、ジョンには何も戻らない」

「別に、何もいらない。ジョンは俺がいればそれでいいはずだ」
本当にそうだろうかという疑問が頭をもたげる。ジョンはよくてもジョンの兄のためにも、土地や屋敷を奪い返す必要がある。

「そんなに辛そうな顔で言う事ではないな……。不安か?ジョンが自分から離れるのではと」

アルフレッドの言うように、ステフは不安でたまらなかった。本当にジョンも自分と同じ気持ちなのだろうかと、何度自問したかわからない。

ジョンがアストンから解放され元の暮らしに戻ったら、二人で過ごした日々のことなどすっぱり忘れてしまうのではと、不安な要素をあげればきりがない。けれども、ステフはジョンを信じていたし、信じるしかなかった。

仮に、もしも失うことになっても、ジョンを助けたい気持ちには変わりない。
結果がどうなろうとも、アルフレッドにすべてを託す、それがステフに出来る唯一のことだ。

「アルフレッド様、どうかジョンを助けてやってください」

アルフレッドはただ羨ましかった。
自然と顔は綻び、若い二人の為にできるだけの事をしてやりたいと思った。

「実は、アストンは同じような事を繰り返し行っているんだ。被害にあった者は他にもいる。この後の事は私に任せてくれれば、アストンはこの国の鉄道事業から撤退を余儀なくされ、きっとアメリカへ逃げ帰るだろうな。その後、ジョンと兄は私が保護しよう。というよりも、スタンレー伯爵が、だがね」

「わかりました。お願いします。俺は――」どうなるのだろうか?アストンが本当の父親じゃなくても、実際は父親だ。その非難を浴びることになるのだろうか?ジョンは……俺の事好きでいてくれるのだろうか?

どうしてもぐずぐずと考えてしまう。手放せないのに手放さなくてはならない状況に追い込まれ思考は迷子だ。何度決断しても、それを覆してしまう自分がいる。

「ジョンが幸せになるならそれでいいです」ステフは何とか声を絞り出した。

アルフレッドと話し終えたステフは、ジョンを探しに庭へ出た。小さな屋敷の小さな庭は手入れが行き届いていた。庭師すらいないホワイトヒルの屋敷とは大違いだ。

ジョンは薔薇園にいた。
この屋敷に住む少年と楽しそうに話をしていた。ステフと同じきらきらと輝く金色の髪に青い瞳のかわいらしい少年。きっと自慢の庭なのだろう。アーチ状になった薔薇を指さし、説明に夢中になっている。ジョンは瞳を輝かせ、少年と同じように指のさす方を見上げ真剣に話を聞いている。

ステフは二人の姿を見て、ジョンの本来の居場所を見たような気がした。

しばらく声をかけずに様子を見ていたら、ジョンがこっちに気づいた。ステフの姿を目にした途端、一緒にいた少年に向けていた笑顔よりも、もっと幸せそうな笑顔で駆け寄って来た。

俺のジョン。

ステフは誰にかまうことなく、両手を広げてジョンを受け止めた。どうせ見ているのはまだ幼い少年ひとりだけだ。二人がどういう関係かなんて、考えもしない年齢だろう。

少年とは軽く挨拶を交わし邸内へ一緒に戻ると、アルフレッドと伯爵に礼を述べホワイトヒルの屋敷へ戻った。

つづく


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Sの可愛い子犬 26 [Sの可愛い子犬]

執事がコーヒーを手に窓際のアルフレッドに歩み寄る姿を、ステフは無意識に目で追っていた。玄関広間でステフの前に立ちはだかった執事はあの時と同じ愛想のない顔をしていたが、どこかが違って見えた。

アルフレッドは甥だという伯爵とよく似ている。急いで駆けつけてくれるくらいだ、ジョンの言うようにきっと優しい人物なのだろう。

執事が銀のトレイに乗ったコーヒーを差し出したときステフは気づいた。かつてアルフレッドが何十年も前に口にしたあの言葉が、誰に向けられたものだったのか。

すべてを捨てても欲しいと思った相手――もしかすると、違う道の選び方もあるのかもしれない。
傍にいなくても、離れていても、繋がっている気持ちがあるのだと、その一瞬に教えられた気がした。

アルフレッドはくつろいだ様子でコーヒーを一口二口飲むと、ステフの方を見た。

「ステファン、君と二人で話がしたい。いいかな?」

とうとうきた。ステフは一瞬だけ執事の方に目をやり、アルフレッドを見据えた。「はい」と返事をして、ジョンの腕に軽く触れる。会話の行く末でジョンの未来に自分がいるのかいないのか決まるだろう。

「スティーヴン、ジョンを少しの間頼むよ」アルフレッドはコーヒーカップを執事に差し出し、窓辺から離れた。

執事がジョンを連れて部屋を出て行くと、アルフレッドは堅い表情でステフの向かいに腰を下ろした。

「ジョンがすべてを失って、君を手に入れたように、君もすべてを失ってもジョンが欲しいか?」

いきなり殴られた気分だ。アルフレッドの言うように、ジョンはステフの父のせいですべてを失った。わかってはいたが、その事実を突きつけられるとは思いもしなかった。だがここまで来て遠回しなやり取りをするほどの時間的な余裕はないのだから仕方ない。

「もちろんです」自分が失うものについて考える余裕はなかった。

「君の父親に不利な状況、いや、事によっては国内にはいられなくなるかもしれない、それでもか?」

それは父の悪事を暴くという意味なのだろう。国内にいられなくなるだけで済む話ならいいが、場合によっては投獄される可能性だってなくもない。

ステフはおそらく一番近くで父を見てきた。アストンが息子の前でだけはよき父親であろうとするような人物であれば、ステフは何も気づかずにいられただろう。具体的に何を知っているというわけではなかったが、父の資産が増えるということは、減った誰かがいるということは理解していた。

「……はい。父さんは俺をかわいがってくれていますが、それでも、ジョンを選びます。それに、もしかすると――」

言い淀んだステフの後を引き継ぐように、アルフレッドが言葉を繋ぐ。

「本当の父親ではないかもしれない?」

ステフは目を大きく見開き、驚きで声も出せなかった。ずっと心に秘めてきた疑問が疑問でなくなった瞬間だった。

「君は知っていたんだね。私の調べた限りでは、君の父親は別にいる」

「知っていたというか……なんとなくそう思っていただけです。だいたい、父さんには全然似ていないし……」だからこそ、父がどれだけ悪いことをしようと自分には関係ないと思ってきたのだ。

「確かに似ていないな」

ステフとアストンが並んでいて、親子だと思う者はほぼいないだろう。
ステフの髪は金色で瞳は碧だ、顔つきも顎のラインがシャープだし、体系もすらっと背が高く引き締まっている。それに引き替えアストンは、茶色い瞳に黒い髪、体系はどっしりとした大柄タイプで四角い顔をしている。それだけ見ても、共通点は全くない。

もちろん容姿だけで決めつけはできない。亡くなった母親に似たのだと言われれば、息子を溺愛するアストンがステフの父親ではないなどとは思いもしないだろう。

「俺の本当の父親のこと、何か知っているんですか?」

つづく


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Sの可愛い子犬 25 [Sの可愛い子犬]

ステフとジョンは、具体的にどうするべきかをまだ考えていなかった。二人で相談する時間も惜しんで必死に馬を駆った。幸いホワイトヒルからスタンレー伯爵の屋敷まではほぼ一本道で、道はかなり狭かったが迷うことなくたどり着けた。その間馬上でそれぞれ最善の方法を考えてはいたが、これといった案は浮かばなかった。

ステフは目の前の伯爵が大体の話は知っているようだったので、二人で逃げたいけどそれではジョンの兄が困ってしまうという事を説明した。ジョンを苦しめているのが自分の父だということも。

ひと通り聞き終えた伯爵は控えていた執事に声を掛けた。「スティーヴン、アルフに連絡はついたか?」

「ええ、すぐこちらへいらっしゃると連絡がございました」

「タイミングが良かったな」伯爵はそう言って二人を見た。

ステフとジョンは驚いた。
自分たちがこの屋敷へ来てまだ幾分の時間も経っていないのに、すでにアルフレッドにこの状況が伝わっていて、そしてそのアルフレッドがすぐ来るという――すぐというのがどのくらいの時間なのか、現在いる場所によるのだろうが、それでも自分たちのために駆けつけてくれるのはありがたかった。

伯爵の力を借りればきっと二人でどこへでも行けるだろう。けど今後どうするのか考えるのは伯爵でも弁護士でもなく俺たち二人だ。

ステフはそっとジョンの手を取った。冷静そうに見えたジョンの手は震えていた。

今すぐ抱き締めてやりたい。ここが自分の屋敷なら――今となってはそんなものは存在しなかったのだが――そうしていただろう。

ありがたいことに、伯爵はアルフレッドが到着するまでの間、今後について話し合うようにと二人にしてくれた。

抱き合うことはしなかったが、二人は身を寄せお互いの考えを出し合った。

逃げることは簡単だ。
しかし、アストンが黙っていないだろう。きっとジョンの兄は学校もやめさせられ、働かされることになるだろう。それよりももっとひどい目に遭うかもしれない。

ステフはジョンの母を頼ってみたらどうだと提案した。頼れる身内はお互いの母親しかいないのだが、ステフの母はアストンの後妻で、義理の息子を助けて自由に使えるお金を失うことはしないだろう。

それはジョンの母も同じだった。母は実家に帰ったとジョンはアルフレッドに聞かされていたが、それが嘘だということはすぐにわかった。では本当はどこにいるのか。それがわかるほど、ジョンは母のことを知らなかった。ただ貧乏な生活ができるような人ではないことだけは確かだ。贅沢を好み、着飾るのが好きなのだと、今の生活になって気づくことができた。

「俺もお前も頼れる家族はいないってことだな」ステフは深いため息を吐いた。頼れる親戚はいただろうかと考えてみるが、この国で思い当たる人物はいなかった。

結局、二人の考えは行き止まりに突き当たってしまう。

「どうした、ジョン?不安か?」

ジョンは小さく首を振った。

「ジョン、お前が考えていることはわかってる。気にしなくていいんだ。俺はお前がいれば、なにもいらない」

ステフはジョンの考えを見透かしていた。付き合いは短くても、出会ってからずっと一緒に過ごしているのだ。考えすべてがわかるとは言わないが、表情から感情を読み取ることくらいはできる。

ジョンはステフに父親を捨てさせたくないと思っているのだ。

タイミングがいいのか悪いのか、アルフレッドが大股で部屋に入ってきた。ドアはずっと開かれたままで、きっと今の言葉も聞かれたに違いない。ステフの顔は沸騰寸前にまで熱くなった。

「スティーヴン、コーヒーを頼むよ」そうひと声かけてアルフレッドは窓際の椅子に座った。「君がステファンか……今の言葉――もう何十年も前に、私も一度だけ口にしたことがある。遠い昔だがな……」

アルフレッドは窓の外に目を向け、風に乗って舞う花びらを羨ましそうな目で見つめていた。目線をステフとジョンに戻すと、少し硬い口調で喋り始めた。

「自由が欲しい――そういう事だな。そのために多くの犠牲を払うことになる。特にステファン、君の方がね」

自由と犠牲――それはまるで一対のもので、片方だけではだめなのだ。
何の犠牲もなしに自由はなく、自由を得るためには犠牲が必要なのだ。

「別に、俺は失って怖いものはないですけど……こいつだけは手放したくない」ステフはもうずっと前に決断をしていた。

つづく


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Sの可愛い子犬 24 [Sの可愛い子犬]

「ステファン様に、ジョン・スチュワート様とおっしゃられる……こちらにどういった用件でいらっしゃったのでしょうか?」

ステフとジョンはスタンレー伯爵に面会を求めていたが、その職にはふさわしくない髭を生やした執事に阻まれていた。

「だからっ、何かあったら連絡しろって言われたんだよっ」
そう言われたのはジョンだったが、ステフはそんな細かいことを気にするタイプではない。

「お約束はございますか?」執事は当然言うであろうことを口にした。腹立たしいまでに無表情だ。

「はっ?緊急だから急いで来たんだよ」気の短いステフはさっさと伯爵を出さない執事に苛立っていた。

執事とステフの収拾のつきそうにもないやり取りに、ジョンが丁寧に口を挟む。

「あの、アルフレッド様になにかあればここへと教えていただいていて……失礼だとは思いましたが、急いでいたので連絡もせずに訪問してしまいました」

ジョンの説明に執事は途端に態度を変え、二人を応接間へと通した。

ステフは待たされる間落ち着きなく部屋をうろつき、伯爵はいったいどんな人物なのだろうかと考えていた。ジョンが言うには弁護士のアルフレッド・スタンレーは温和で優しい人らしい。その甥なのだから、伯爵もきっと――

ふと窓の外に目を向けると、庭のアーチを抜け男が歩いてくるのが見えた。背の高い黒髪の男、その傍には金色の髪をさらりと風に遊ばせながら寄り添う少年が見える。

暫くすると、二人を出迎えた執事に促されるように黒髪の男、この屋敷の主のエドワード・スタンレー伯爵が中へ入って来た。

二人はその存在感に圧倒された。しかもステフが思い描いていたような温和で優しい姿とはいいがたかった。

アッシュグレイの鋭い瞳が、二人を品定めするようにさっと横へ流れた。
今までそんなに態度がいいとも言えなかったステフは、慌ててジョンと並ぶようにソファの前に立った。

「それで、アルフにここを聞いてきたと」

男の発した低音の声は、二人を頭のてっぺんから押さえつけるほどの強さと威厳のあるものだった。
それは、ステフが怖気づくほどだった。

意外にも、ジョンは冷静に話を切り出した。

「はい、アルフレッド様が父とお知り合いだったそうで、助けて欲しい時はアルフレッド様かスタンレー伯爵に連絡するようにとおっしゃって下さいました。礼儀に反するとはわかっていましたが、どうしていいのかわからず急に訪問してしまいました。お許しください」

伯爵はジョンを品定めするようにじっと眺めていた。それからふいに表情を和らげると執事の名を呼んだ。

「スティーヴン」

執事がお茶とお菓子を持って入って来た。ひとまず追い返されることはないようだ。

「力を抜いて、ゆっくりしなさい。アルフから話はすべて聞いている。君たちの事もね――それで、私にどう助けて欲しいのだ?」

つづく


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Sの可愛い子犬 23 [Sの可愛い子犬]

突然手を離され書斎に取り残されたジョンはしばらくその場から動けずにいた。

ステフは自分の味方だと信じて、ついアストンを悪く言ってしまった。忘れてはいなかったが、アストンはステフの父親なのだ。悪く言われて怒らないわけがない。

一度口から出てしまった言葉は、いくら後悔しても取り消しようがない。ただここでステフと一緒にいたいという純粋な想いからだったが、言葉は慎重に選ぶべきだった。

ここを閉鎖したら僕はどこへ行けばいいのだろう。きっともうステフは僕を連れて行ってはくれない。アストンには働いて金を返せと言われているから屋敷の下働きとして行ける可能性はあるけど、もしかするとどこか遠くへやられる可能性もある。

以前のようには接してくれないかもしれないけど、望むままに何でもするからそばに置いてくださいと頼み込む他ない。ステフのすることならなんでも受け入れられる。好きだから何をされても平気。もしもこの屋敷に来た時のように藁のベッドで寝ることになっても、馬丁に殴られても、我慢するから僕を捨てないで。

ジョンも自然と秘密の場所に来ていた。まさか先客がいるとは思いもせず、木の根元に半分だけ入り込んだステフを見て驚いた。いったいここで何を?

「ステフ様……」

声をかけたが、ステフは顔をあげなかった。もう、僕とは口もききたくないのだろうか?
今なら必死に謝れば許してくれるかもしれない。ジョンは急いでステフの傍に跪いた。

「ステフ様、ごめんなさい。アストン――旦那様の事を悪く言って。僕はステフ様と一緒にいたいです。一緒にいられればどこにでも行きます、何でもします……許してください」

ジョンは額が地面につくほど頭を下げていたから、ステフがどんな表情をしているのかはわからなかった。

「ジョン、そのまま顔を上げるな」

「はい」

「俺と一緒なら、ロンドンでもどこでもついてくるのか?もしも、父さんにひどい目にあったとしてもか?」

「はい」

「俺が、父さんの――お前からすべてを奪ったアストンの息子でもか?」

「はい」

「わかった。顔を上げてそばに来い」

ジョンは必死にステフに縋りついた。もうこれ以上失うものがないのに、ステフまで失ったらどうやって生きていけばいいのかわからない。

「ジョン、ちょっとどいていろ。ここきついから外に出る」

ステフはジョンを押しのけ、窮屈な場所から出ると草の上に寝転んだ。ジョンもその横に寝ころび、空を見上げた。

「ジョン、よく聞け。二人でここを出よう。俺は別に屋敷暮らしをしたいとか贅沢したいなんて思ってないんだ。頑張ればなんとか暮らしていけるから、二人で逃げよう」

ステフはじっと上を見据えたままだったが、その手はジョンをしっかりと掴んでいた。ジョンはステフにすり寄り、胸の上の頭を乗せた。こうしていると二人で何でもできそうな気がしてくるから不思議だ。

実際は二人の力だけではどうにもならないし、ジョンには放っておくことのできない問題がある。

「僕もそうしたいです。でも……兄さんが――」

「そうかっ、くそっ!どうにか考えよう……」

「ステフ様、実は――」

ジョンはステフがロンドンへ行っていたときに、アルフレッドがここへ来たことを伝えた。何かあれば力になってくれることも。

「弁護士の甥だっていうその伯爵もお前の味方なのか?」

ずっと黙っていたことを責められるかと思ったが、ステフは意外にも今から行ってみようと言った。
屋敷が色々な準備に追われる中、二人は連絡もせずに、ホロウェルワースの伯爵邸を訪れていた。

つづく


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Sの可愛い子犬 22 [Sの可愛い子犬]

離れている間、ジョンがどれほど寂しがっていたのかステフには容易に想像できた。それはステフも同じ気持ちだったからに他ならないのだが、ジョンのように自分を慰めたりする余裕はなかった。ロンドンの屋敷には常に人の目があり一人で部屋にいても気の休まることがなかった。

毎日どれだけジョンの中にいる自分を想像したことか。
戻ったら真っ先にジョンの口に張り詰めた自身を突っ込んで泣かせてやろうと思っていたし、それが済んだら長い時間をかけてたっぷりと愛撫し焦れたジョンが懇願する姿を堪能しようと思っていた。部屋に閉じ込め気の済むまで何度も何度も抱くつもりだった。そしてステフは考えていたすべてのことを実行した。

またしばらく二人だけの平穏な日常が続くと思っていた矢先、アストンの命でこの屋敷を引き払い全員ロンドンに移ることになった。使用人たちからは急な事に不満の声も上がったが、田舎暮らしよりも都会のきらびやかな生活の方が何倍も魅力的だとすぐに気付き、大忙しで準備を始めた。

「どうして急に?あんなところ行きたくもないのに……」

早朝突然の知らせを受けたステフは、アストンがロンドンで退屈を極めていた息子にホワイトヒルに戻ってもいいと突然言った理由がこれだったのだとようやく理解した。最初からすぐに呼び戻すつもりだったのだ。

父さんはこの屋敷を捨てるつもりだ。そのうちこの屋敷を売るかもしれないし、誰かに貸すかもしれないが、自分たちがここで暮らすことはもうないのだ。それなら屋敷ひとつ息子にくれてやろうとは思わないのだろうか?別荘として置いておいてくれと言えばきっと応じてくれるだろう。

「ステフ様……」
ジョンがタイミングを見計らって、執事との話が終わったステフのいる書斎へやってきた。その顔は不安に満ちていて、この屋敷を閉じることをすでに知っているようだ。

ジョンは自分だけ置いて行かれるとでも思ったのだろうか?父さんが何を言おうがこれだけは譲れない。ジョンはずっと俺のそばに置いておく。

「どうした、そんな顔して。お前は俺のものだって言ったろ。向こうへは一緒に行くからな」ステフは手を伸ばしてジョンをそばに引き寄せた。

「はい……でも、僕はロンドンに行きたくないです……アストンのいる所には行きたくないです」ジョンは棒立ちのまま表情も硬いままだ。

ふいにステフの背に冷や汗が伝った。
ジョンは俺と一緒ならどこへでもついてくると思っていたのに――

ステフはジョンの腕から手を離し立ち上がると、そのまま書斎を後にした。腹が立っていたのもあるが、同時に悲しくもあった。

父がジョンを嫌っていることはステフも分かっている。それが単に貴族だからという問題ではないことも。ジョンの父親といったい何があったのだろう。

ジョンもそんなアストンを恐れ嫌っている。
その間にいるステフは、どんなことがあってもジョンを守ってやるつもりだ。どちらかを選べと言われれば、迷わずジョンを選ぶだろう。けれどもステフはまだ何の力もない子供で、父親の力なくしてジョンを守ることなどできないことも理解している。

父がそれなりにあくどいやり方で財産を増やし、今住んでいる屋敷を手に入れた事も知っている。別に自分には関係ないと気にしてもいなかったが、ジョンと出会って考えは変わっていた。

だがジョンから見れば、ステフは自分からすべてを奪った男の息子なのだ。

「やっぱり……嫌だよな……」

ぽつりと呟き顔を上げれば、二人の秘密の場所へ来ていることに気づいた。
ステフはジョンがいつもするように木の根元の穴に入った。

「キツイな……あいつどうやってここに――」

空洞にすっぽりと収まりステフを見上げたあの綺麗な瞳を思い出した。瞳の中に虹が入り込んだようにきらきらしていた。あの輝きがもしかすると二度と見られなくなるかもしれない、そう思うと底知れぬ恐怖がステフを襲った。このままではジョンを失う。

ステフは幼子みたいに膝を抱え、脳裏に浮かぶジョンを思いながら初めて涙した。
ジョンを失う恐怖に体がガタガタと震える。

ただの玩具がお気に入りの玩具になり、もうこれなしでは生きていけないまでになってしまった。ほんの小さな存在がかけがえのない存在になっている。どうすればいい?ジョンを説得するか?嫌だと言っても無理に連れていくしか方法はない。父さんにはジョンのことは俺に任せてくれと頼めば、きっと悪いようにはしない。向こうへ行けば一緒に学校だって行ける。そう悪いことではないはずだ。

それでもステフはジョンを失う恐怖に涙が止まらなかった。

つづく


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アンディの仕事 後編 [伯爵と少年]

「弁護士というのは、屋敷の中でも……まったく」
エドワードはぶつくさと文句を言いながら、部屋に入るや閉じたドアの前に立ったままアンディの服を脱がせ始めた。

以前ならシャツ一枚を脱がすだけでよかったのに、上着を脱がし、ウェストコートを脱がし、ネクタイを外し――こういう時のアンディは大抵がエドワードにされるがままだ。

薄手のリンネルのシャツの下では、アンディの小さな尖りがぷっくりと浮き出ている。
エドワードはシャツの上からその突起を指先で弄びながら、アンディにキスをする。
最初は軽く唇を揉みほぐすように啄ばみ、だんだん深く口づける。

こんなふうに昼間からアンディとベッドで過ごせるのも、長い留守の間に二人の寝室を造ったおかげだ。一旦ここへ引っ込めば、もう誰も邪魔はしない。邪魔をしようものなら、それが例えこの屋敷に必要不可欠な執事だったとしても容赦はしない。とにかく何があっても呼ばれるまでは部屋に入るなと言っている。

とはいえ、朝になれば主人を起こすためにスティーヴンはやって来るのだが。

シャツのボタンを器用にはずし、エドワードはアンディの素肌に触れた。肩を撫でるようにしてシャツを絨毯の上に落とす。

「エディ、待って」アンディは息継ぎのついでにエドワードを押し退けた。

待って?いまさら何を??

「アンディ、私を苦しめるのはやめてくれ」もしもこれ以上触れるなとでも言おうものなら、ベッドに縛り付けて朝まで離さないから覚悟するんだ。

「エディ、苦しいの?大丈夫?」青い瞳が心配そうに見上げてくる。

「いや、そういうことではないんだよ、アンディ」

「よかった。ぼく、汗かいちゃったからシャワー浴びてきていい?」

「アンディ、汗くらい誰でもかくから気にしなくていいんだ。あとで一緒に風呂に入ればいいだろう?」

まったく。これから嫌というほど汗をかくというのにアンディの綺麗好きにも困ったものだ。それもこれも、ロンドンでのあの五年間がそうさせるのだと思うと、エドワードも強くは言えない部分がある。風呂はおろか食事さえままならなかったのが日常だったのだ。

結局エドワードはアンディと一緒にシャワーを浴びることにした。その気になればバスルームでそのままアンディを奪うことだってできる。

寝室に併設されたバスルームが大いに役立っているということは言うまでもない。屋敷の大幅な改築で一番気に入っている場所と言ってもいい。

二人で仲良くシャワーを浴び、ベッドへと向かう。アンディが風邪をひかないように暖炉には火が入れられていた。

もちろん、シャワーの準備もこの部屋への気遣いも、この屋敷の優秀な使用人たちによるものだ。
ここへ戻ってきて、やっと二人は伴侶として誰もがうらやむような結婚生活が送れるようになった。誰に隠すこともなく堂々としていられるのも、理解ある者たちのおかげだ。

寝室が一緒になってからというもの、エドワードの欲求は増すばかり。
このままでは毎日アンディを求めてしまいそうで、さすがのエドワードも寝室は従来通り別にしようかと思ったほどだ。しかしそれはほんの一瞬だった。

アンディはエドワードが抱きしめて眠らないと、いつの間にかベッドの端で丸くなって落ちそうになっているのだ。おそらく幼いころから変わらない眠り方なのだろう。小さなベッドでも、大きなベッドでもそれは変わらない。

それがこの屋敷へ戻ってからほとんどエドワードがその腕から放すことがないのだから、幼いころからの癖もそのうち消えてしまうだろうと想像する。

そしてこの日ももちろん腕の中から放すことはないのだろう。

「なあ、アンディ。ひとつ言ってもいいかい?」
ベッドの中ですることは何もひとつとは限らない。仲良しの秘訣は会話にあるとエドワードは思っている。もしも気に入らないことがあれば、改善を求めることもある。

「うん、どうしたの?」

「ここで弁護士として村の者を相手にするのはいいが、アンディのその綺麗なさらさらと流れる髪を、撫でつけるのはやめてくれないか?」

弁護士としてのアンディはエドワードの注文で特別に仕立てたスーツに身を包み、さらさらの金髪をほぼ七対三の割合で左右にぴっちりと撫でつけているのだ。そのかわいいおでこが村の者には人気らしい。

「そう?エディ嫌?ピップおばさんがその方が弁護士らしいからって勧めてくれたんだけど、似合ってない?」アンディは汗で額に貼りつく前髪を指先でつまみながら、不安げにエドワードに訊き返した。

そう言われてしまうとエドワードも困るのだが……。
似合っていないのではない。エドワードの中ではアンディはいつまでも出会った時のままの姿でいて欲しくて、だから新しい髪型は少し大人びて見えてしまい――いや、本当は違う。

アンディの愛らしいおでこは、エドワードがアンディの髪を梳き、掻きあげたときにだけ見えるもので、自分以外の人に見せたくないのだ。

もしも誰の目にも触れさせることなく閉じ込めておけるなら、きっとそうしていただろう。それだけエドワードは独占欲が強く嫉妬深いのだ。

まさかそんな理由だとは思いもしないアンディは、結局髪型は元に戻すことにした。

「あら、あら、アンディちゃん、今日はさらさらヘアーなのね」
「やっぱりそっちの方がかわいいわ」
「ほんと、ほんと」

この日もアンディ目当ての村のご婦人方がホワイト・ローズ邸の応接間を占拠していた。
メアリがお茶を持ってやってくると、彼女たちは持参したお茶菓子をテーブルいっぱいに広げ、メアリもお茶に誘う。最初は遠慮していたメアリも、アンディに誘われ空いた時間に参加することもしばしば。

そしてそれは、ひょっこり応接間を覗いたエドワードも例外ではない。

「あら、伯爵様」
「ほんとだ、伯爵様」
「アンディちゃん、伯爵様がいらっしゃったよ。一緒にお茶でもどうぞって、ほら言ってあげなさい」

いったい誰がここの主人なのか。アンディは顔を真っ赤にして「エドワード様も一緒にいかがですか?」と誘う。

エドワードはありったけの威厳をかき集めて断ることもできるのだが、アンディに誘われて断るような愚か者ではない。それにこうしてアンディの仕事を支えるのも伴侶としての役目だ。

「あら、アンディちゃん。今日はエディって呼ばないのかい?」ピップおばさんが鋭い指摘をする。

いったいいつどこで、アンディがエドワードをエディと呼んでいると知ったのか、村のご婦人方に知らないことはないのだとは知る由もなかった。

おわり


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アンディの仕事 前編 [伯爵と少年]

弁護士になったアンディとエドワードがホロウェルワースに戻ってからのお話(再掲)



二人で静かに穏やかに過ごしているはずだったのだが……。

「なんなんだこれは!」

ホワイト・ローズ邸の主、エドワード・スタンレー伯爵は思わず声を荒げた。

この屋敷でお茶会が開かれるなど聞いていないし、呼ばれてもいない。一応見慣れた面々であるが、村のご婦人方が集まっていったい何をしているのやら。

「あらっ、伯爵様」
「ほんとだ、伯爵様だ――」
「アンディちゃん、伯爵様が来たよ」

「あっ……あぁ、エドワード様……」
アンディは恥ずかしいやら申し訳ないやら、顔を真っ赤にし応接間の入口に立つエドワードに怒らないでと目で訴える。

「エドワード様、アンディ様はまだお仕事中ですので、お茶の時間はもう少し後にされては?」
スティーヴンがエドワードの耳元でそっと囁いた。

「いーのよっ、あたしたちが帰るから。じゃあ、アンディちゃんまたねぇ」
「アンディちゃん、ほら、伯爵様とお茶飲んできなさい」
応接間にいた村人たちが、ソファからゆっくりと腰を上げ、フレンチ窓からぞろぞろと帰って行く。

少なからず領民に対して威厳を保ちたかったエドワードは、明らかに軽くあしらわれムッとしていたが、邪魔者が消えてくれるならそれに越したことはない。

「アンディ、ここはいつから集会所になったのだ?仕事ではなかったのか?」エドワードは気まずさを誤魔化すようにぶつくさ言いながら、窓辺でご婦人たちを見送るアンディに近寄り肩を抱いた。

「あの……」

「仕事でございます」答えに詰まったアンディの後をスティーヴンが引き継ぐ。

「何が仕事だ。村の年寄どもが集まって、アンディが何の仕事をしているというのだ?」

後ろでスティーヴンのため息のようなものが聞こえた。私に意見しようというのか?

「エドワード様、お言葉ですが、そのような言い方をされては、アンディ様がかわいそうです。村人たちはアンディ様にお仕事の依頼をされていたのですよ」

仕事の依頼?それならアンディの仕事部屋ですればいいだろう。なにもこんな応接間で楽しそうにお茶を飲むことはない。

ふとアンディを見ると、目に涙を浮かべ、なんとか泣かないように口をきゅっと引き結んでいた。

ああ、私はまたやってしまったのだろうか。

「アンディ、そうなのか?あの、私はてっきり……」

てっきりなんなのだろうか?エドワードは、村人たちに嫉妬をしていたに違いないのだが、しかし、伯爵邸の応接間の風景とは思えない状態になっていたのは確かだ。

アンディが弁護士として屋敷に戻ってからというもの、なぜか訪問客が絶えないのだ。
その人数は日に日に増しているようで――

スティーヴンは主人が言い訳しやすいように、静かに部屋を出た。

「エディ、ごめんなさい。オリーヴさんもピップおばさんも、僕に仕事の依頼に来てくれて」
「それにしては、まだまだいっぱいいたようだが」
「他の人も、一応そうみたい……」

別にエドワードはアンディに謝らせたいわけでも、この状況の説明をして欲しいわけでもなかった。ただ、アンディはスタンレー家の顧問弁護士で――つまり、独占したいだけなのだ。
聞いてみれば、村人の依頼というのは遺言状の作成が多いようだが、実際は腰が痛いだのなんだのの健康上の悩みや、孫の成長や家族の愚痴、小麦が高いなど――小麦の価格についてはあとで調査する必要があるが――そのほとんどが世間話だ。

みんなアンディに会いたくて、仕事依頼を口実にこの屋敷までやって来るのだ。ありがたいことに、いつも土産付きで。

「アンディ、今日はもう仕事は終わりにしよう。さあ、涙を拭いて――」

アンディは溢れそうになっていた涙を指先で払うと、両腕をエドワードの背に回しぎゅっと抱き付いた。

「最近は忙しかったから、今日はゆっくりと過ごそう」

なかなか二人の時間が持てなかったのは忙しいだけでなく、エドワードが本邸とこことを行き来していて、留守にすることもあったためだ。アンディも依頼された書類の作成にかかりきりでなかなか暇を見つけられなかった。

というわけで、エドワードの欲求はとっくに限界を超えている。

「アンディ、このまま抱きかかえて上にあがってもいいのだが」

熱っぽく見つめられ、アンディの体に火がつく。そのまま身を委ねてもいいのだが、さすがに大人になったアンディはエドワードに寄り添い寝室へと向かった。

つづく


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Sの可愛い子犬 21 [Sの可愛い子犬]

ジョンは退屈な日々を過ごしながら、時折アルフレッドのことを考えていた。

彼は弁護士で彼の甥は伯爵だ。君を助けたいと言った言葉に嘘はないと思う。任せていれば兄も一緒に助けてくれるだろう。けど、アルフレッドの力を借りればきっとステフと引き離されてしまう。

ずっと逃げ出したいと思っていたのに、いまやそれを恐れている。

いつものように図書室で過ごしていたら、屋敷に向かってやって来る軽装馬車が目に入った。また誰か来たのだろうか。ここで様子をうかがうべきか部屋に戻るべきか悩んでいるうちに、馬車は玄関前に停まった。

執事が――自分でそう名乗っているだけ――慌てた様子で廊下を駆けていく。客が来るとは思いもしなかったのだろう。対応を誤ればきっとアストンは容赦なくクビにするはずだ。

ジョンは窓際を離れ、部屋に戻ることにした。巻き込まれるのは遠慮したい。

「ジョン!戻ったぞ!」

玄関広間でステフが叫んでいる。そんなに大きな声を出さなくても――え?ステフ?

ジョンは先ほどの執事同様、慌てて方向転換し玄関へ急いだ。予定はひと月だったはずなのに、何かあったのだろうか。

気の短いステフが玄関で待っているはずもなく、ジョンを見つけるや大股で近づいてきて腕を掴むと図書室へ引き込んだ。

「ステフ様お帰りなさい」
ステフは答える代わりにキスをした。とろけるような優しいキスではなく、気持ちをぶつけるだけの荒々しいキスだったが、ジョンの体は喜びでいっぱいになった。

「どうでしたか、ロンドンは?」

「そんなくだらないこと聞くな。とにかく、退屈だった。楽しくもない会食につきあわされて、我ながらよく我慢したと思う」

「あの、僕も、ステフ様がいなくて退屈でした」

「そうか、それで一人でやったのか?」ステフはすべてを見透かしたように意地悪く微笑み、ジョンの尻をぎゅっと掴んだ。

どうしてバレたんだろう。「はい……寂しくて」

「まったく、たった十日も我慢できないとはな」ステフの声は呆れていた。

ジョンの気持ちはしぼんだ。
ステフは平気だったのだろうか?たった十日と言うけど、僕は一日一日が気の遠くなるほど長く感じた。本当はひと月会えない予定だったと思うと、今ステフが目の前にいるのが夢ではないかと思うほどだ。

「なんでそんな顔する?俺が戻って嬉しくないのか?」

嬉しいに決まっている。

ジョンは情けない顔を見られないように、ステフにひしと抱きついた。アルフレッドに会ってから神経質になりすぎているところがある。考えてもわからないことに答えを求めても仕方ないのに。アストンが僕をどうしようとステフは僕を想ってくれている。

「おい!まさか、またあいつらに何かされたのか?」ステフはジョンの顔を両手で挟むと自身から引き離した。「どいつだ?あの偉そうなやつか?」ジョンが視線をどこにもやらないようにがっちりと固定する。

「いいえ、なにもされてないです。ただ、離れるのがこんなに辛いなんて思ってもなくて……」ジョンは正直な気持ちをステフに伝えたが、留守中耳にした噂のことやアルフレッドのことを言うことはできなかった。

「だったらしばらく俺のベッドで過ごすか?朝も昼も夜もずっと飽きるまで」

きっと飽きることなんてない。ステフもそう思ってくれていたらいいのに。

つづく


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Sの可愛い子犬 20 [Sの可愛い子犬]

ホワイトヒルのコッパー邸で――今はアストン邸と呼ぶべきだろうか――何が起きているのかはある程度把握していたつもりだったが、状況はアルフレッドが思っていたものとは違っていた。

「正直に言うと、アストンは子爵を恨んでいた。だから子爵からすべてを奪い、君を引き取り――君は本当に酷い事はされていないのか?」

ジョンがここへ来た当初は酷い扱いを受けていたと聞いている。今は改善されているようだが、アストンがこのまま何もせずにいるとは思えなかった。

コッパー子爵がアストンに騙されたのはほぼ間違いないのだが、証拠らしい証拠は今のところなく、ジョンの前で言い切るべきではなかったのかもしれない。世間的に見れば多少強引な方法で財産を増やしただけの男で、現段階では、アストンは子供たちの後継人だ。

親族は手を差し延べもせず、ジョンの母親にいたっては子爵が亡くなる前にすでに愛人と逃げていた。
このことはジョンにはどうしても言えなかったが、そのうち知ることになるだろう。

「あの……最初は、厩舎で働いていました。でもっ、でも、ステフ様のおかげでお屋敷の中に住めて、勉強もさせて貰っています。ステフ様は悪くないんです!アストンとは……違うはず」ジョンはアルフレッドをまっすぐに見て訴えかけた。

(ステフ様――アストンの息子か……)

アルフレッドは息子のステファンについてある情報を掴んでいた。もしかするとこれが切り札になるかもしれない。

「君は、ステファンが好きなのかな?」

アルフレッドには分かった。
かつて自分もそうだった様に、ジョンの瞳は恋という魔法にかかったようにきらきらと輝いている。もちろん本当のことが言えて安堵しているのもあるのだろうが、ジョンの口からステファンの名前が出た途端表情が一変したのは見逃しようがない。

「僕……アストンは嫌いだけど、ステフ様は好きなんです」

「そうか、君を助けに来たのだけど、ステファンとは離れたくはないのかな?」

「――はい。でもっ……アストンのいるこの屋敷は嫌です」

アルフレッドは作戦を変更せざるを得なかった。
好きな相手と引き離される辛さをジョンには経験させたくない。ステファンも同じ気持ちならなおさら。

ひとまず、アストンがこの屋敷へ戻るまでには時間がある。その間に、準備を整えて出直すしかないだろう。

「では、今日のところは帰るけど、もしもなにか緊急な用事があれば連絡をして欲しい。もし私に連絡がつかなければ、この近くに私の甥がいるからそちらでもいい」

アルフレッドはそれらの連絡先を教えると、伸びをするように立ち上がり林を抜けて去って行った。

つづく


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