はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

恋と報酬と 81 [恋と報酬と]

頭がガンガンする。

愚弟たちのキンキン声がいつもに増して腹立たしい。理不尽に怒鳴り散らしたい衝動に駆られながら、聖文は酒臭い自分に一番腹を立てていた。

誰がいつ、こんなに飲む予定だと言った?

無論、誰も言っていない。

勧めてもいない。

くそっ!あいつは底なしの大酒のみだ。二人でいったいいくつボトルを空けた?記憶がないほど空けたのは確かだが、支払いはどうなったのだろうか?

俺が払ったのか?

恐ろしいことだが、財布を開けた記憶がない。記憶がないだけなのか、本当に開けなかったのか。店じまいだと、森さんに追い出されたのは覚えている。おそらくそれが朝の五時ごろ、それからタクシーでまっすぐ家に帰った。だが、またしても財布を開けた記憶がない。

まあいい。財布ごと献上したのだろう。それでいいじゃないか。とにかくこの頭痛が収まるまで、何も考えたくない。

「行ってきま~す!」

眠ろうとしたところで、陸の馬鹿でかい声が階下から聞こえてきた。戸を閉めているのに、枕元で叫ばれているかのように頭に響いた。

「おい陸!弁当と美影さんの鞄忘れてるぞ!」朋が叫んだ。

美影さんの鞄とはなんだ?

「ああ、ごめんごめん」

「それと、例のアレ忘れるなよ」

「はいはい……いってきます……」

バタンッ!!

ことさら大きく音を立てて玄関ドアが閉まった。風で押されたのか、陸が手で押したのか、二日酔いの頭にはキツイ一撃だった。

聖文は頭を抱えた。ブッチが顔に両手(脚)を当ててぎゅうぅっと丸まる時の仕草によく似ている。

ちなみにブッチは酒の匂いが苦手だ。なのでまさにい帰宅と同時に家を飛び出して行った。しばらくは戻ってこないだろう。聖文の酒が抜けるまでは。

「じゃあ行ってくるね」

今度はコウタだ。いったいいつになったら寝かせてもらえるんだ?

「ああ、いってらっしゃい」と朋が言ったあとに、妙な間があった。

この家で妙なことはするなとあれだけ言っているのに、あの馬鹿二人はまったく言うことを聞こうとしない。

「学校終わったらカフェで合流ね。それまでに返事はもらえるかな?」

「陸次第だな」

また妙な間だ。それから静かに玄関のドアが開いて閉まった。

それが午前七時半のこと。

つづく


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恋と報酬と 82 [恋と報酬と]

昼に目覚めたとき、家には当然誰もいなかった。

聖文は静けさを束の間噛みしめ、よろよろと起き上がった。頭痛は幾分ましになったが、身体はぐったりとし、今日一日何もせずに過ごせるなら――もちろん静寂の中で――弟たちに臨時小遣いをやってもいい。

窓を開け網戸にすると、甘ったるい不快な空気を外に追い出した。

天気はまずまず。気分は最悪。飲んだ酒は良かったが、飲んだ相手が悪かった。

もう二度とごめんだ。

聖文はベッドに腰掛け、今朝朋が口にした『例のアレ』について思いを巡らせた。なににせよ、陸が絡んでいることは間違いないが、その少し前の『美影さんの鞄』というのも気になる。

さっぱり意味が分からないうえ、またなにかよからぬことをしでかしはしないだろうかと、気が気ではない。

部屋の空気清浄が終わる頃、鼻筋に皺を寄せさも不快気な顔つきのブッチが現れた。

「ぐふっ」だかなんだか喉の奥から奇妙な音を発し、踵を返してどすどすと階段を降りて行った。

おそらくだが、エサがないことを訴えたのだろう。さもなければ、ブッチが聖文に部屋を覗く事などあり得ない。

聖文は渋々重い腰を上げた。ちょうどそのタイミングで携帯電話が鳴り、聖文は思わずこめかみを押さえた。消音にしておけばよかったと後悔するのは後回しにし、新着メールをチェックした。

相手はシオだった。

このひと月ばかり会っていない親友が、昼間に連絡を寄こすのはとても珍しい。

聖文はメールを開いた。

――今夜空いているか?

聖文は呻いた。

時間はいくらでもあるが酒は飲みたくない。

――なにか用か?

――もしかして、今日休みか?

――ああ。

送信した途端、電話がかかって来た。

聖文は携帯を耳から少し離して電話に出た。不機嫌そのもので。

「なんだ?」

『暇か?』

「暇じゃない」俺には休息が必要だ。丸一日くらいは。

『三〇分ほどで着く。支度をしておけ』シオは聖文の言葉など無視だ。

「お前、俺を殺す気か?」本気のセリフだ。

『それは楽しそうだ』シオはくくっと笑った。

「シャワーを浴びる」そう言って聖文は電話を切った。

あいつが三〇分と言ったなら、時間は二〇分しかない。

いったい何の用かは知らないが、運転しなくてもいいのがせめてもの救いだ。

つづく


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恋と報酬と 83 [恋と報酬と]

エコとは程遠いシオの車が、ガソリンをまき散らしながら迫田家の狭い庭に入って来た。

聖文は渋面でブルーグレーの高級車を出迎えた。

「ひどい顔だな」シオは運転席の窓を開け、開口一番言った。

「お前のせいでな」聖文は憎まれ口を叩きながら助手席に乗り込んだ。

「酒くさいな」そう言ってシオはすべての窓を全開にした。

「うるさい」聖文はシートにもたれ掛かり目を閉じた。「どこへ行く気だ?」

車は勢いよくバックし始め、まもなく県道へと出た。

シオはなかなか行先を言わなかった。おそらくまだ決めていないのだろう。無計画に行動しないシオでも親友相手だと違う。と言いたいところだが、行先を決めていないだけで、明確な用があることだけは確かだ。面倒なことじゃなければいいがと、聖文は目を瞑ったまま思った。

「昼、まだだろう?」

そう訊かれて、思いの外腹が減っていることに気付いた。

「ああ、なにかさっぱりしたものが食いたい」昨夜のこってりした何か――もちろん花村喜助のことだが――を打ち消すようなものを。

「しゃぶしゃぶでも食うか?」

「いや、もっとあっさりしたなにか……ざる蕎麦とか」

「お、いいね。いい店知ってるからそこへ行こう」シオが上機嫌で言う。「そう遠くはないから、一時間もかからないはずだ」

「任せる」聖文は不機嫌に返した。シオの機嫌がいいときは、必ずよくない事が起こる。せめて美味い蕎麦にありつくまでは何事も起こらなければいいが。

と思った矢先、そう現実は甘くない事を思い知らされる。

「今日、陸くんから連絡があったぞ」シオが出し抜けに言った。

「陸がなんだって?」聖文は頓狂な声を出し飛び起きた。

「我がいとこの誕生日会に出席して欲しいそうだ。あれから一年経つのにまだ続いているとは思わなかった」

くそっ!陸のやつ。「ただの友達だ」念を押すように言う。「この前陸の誕生日を祝ってくれたから、そのお返しだろう」

「まあ、そうだろうな」

まったくそうは思っていない口調だ。

「もちろん断ったんだろう?」

シオが不敵な笑みを見せた。「当然、出席するさ」

「バカじゃないのか?」

「そう思うか?去年随分楽しんだから、今年も楽しめそうだと思ってな。お前も当然来るだろう?」

それは問いかけなのか、決定事項なのか。聖文はその忌まわしき日が仕事でありますようにと祈らずにはいられなかった。

つづく


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恋と報酬と 84 [恋と報酬と]

美影はこの日最後の授業が終わると、図書室へ行く習慣をすっとばして、急いでカフェに向かった。

カランカラン。

ドアベルが軽快な音を立てて美影を迎えた。

「いらっしゃい」と、もちろん朋の極上の笑顔つきだ。

「こんにちは」美影はきょろきょろと無人の店内を見回した。

一番乗りだ。

「陸は朝一番で鞄を届けたのかな?」朋が美影の手元を見て言う。

「はい。彼にしてはいつもよりも早い時間に」美影は言い、カウンターのいつもの席に座った。「コウタさんはまだですか?」

「ああ、早くて四時半頃かな」朋は壁に掛かったアンティークの鳩時計に目を向けた。もう間もなくというところだ。

「これ借りていた携帯です」

美影はコウタの携帯電話を差し出した。朋はにこりと笑ってそれを受け取り、大事そうにポケットにしまった。

これでひとまず他人の携帯電話を拝借しているという居心地の悪さからは解放された。美影はほっと息をつき、コーヒーカップを手にした。

「クッキーは適当に取って」

美影は頷きひとまずコーヒーを口にした。目の前のクッキージャーから大振りなクッキーを二枚取って、ソーサーに乗せた。実はおなかぺこぺこだ。

「花ちゃんから詳しい報告あった?」朋は自分のカップに残ったコーヒーを注ぎながら訊ねた。

「いいえ」

美影は花村の怠慢ぶりを思って、にわかに腹立たしさがこみあげてきた。追跡を途中で断念しなければならなかったのは仕方がない。けれど、後を引き継いだ父親から何か――ほんの些細なことでも――聞き出して然り。なのに何の情報も得ぬまま、報告さえない。(報告がないということは情報を得ていないということだ)

あれで情報屋を名乗るとは厚顔無恥も甚だしい。

「陸の方はうまくやったみたいだな」朋は背後のスツールを引き寄せて、コーヒーを手に腰を下ろした。

「では、結城さんは来てくれるんですか?」美影は驚きと喜びが入り混じった声で訊き返した。

「あれ?陸から聞いていない?」

「はい。朝会ったきり、今日はほかの誰にも会っていないんです。でも中華料理のお店は予約しておきました。九名で」

といっても、予約したのは父だけれど。事情をすっかり話すと――もちろん美影の恋心云々や、出席するものの大半が恋人同士だという事は秘密だ――、父は社長の権限でもって必ず席を押さえると約束してくれた。昼前には連絡があり――学校が携帯電話禁止だと忘れている行為だ――個室を押さえたと、かなり上機嫌だった。

お父さんにとって聖文さんは、息子にしたいほどのお気に入りなのだ。

僕と結婚できたなら、それはあっさりと叶うのに、と美影はブルーマウンテンブレンドを啜りながらぼんやりと思うのだった。

つづく


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恋と報酬と 85 [恋と報酬と]

陸にとって、ユーリの誕生日は厄日以外にはなりそうになかった。

ユーリと無事仲直りできたのはいいけれど、とんでもない大役を任された。

ユーリの誕生日会にまさにいをなにがなんでも出席させるために、シオを呼べという。ユーリは渋々自分の誕生日会を開くことに同意したらしいけど、シオが来るとなると話は別だ。

だって!ユーリとシオは犬猿の仲だもんっ!

陸は泣きたくなった。

どっちが犬でどっちが猿かわかんないけど――どっちも違うしっ!――、恐ろしいのは、ユーリがシオに全く必要のない嫉妬をすること。

俺がちょっとでも愛想よくすると、へらへらしやがってと鬼の形相で睨みつけてくる。そりゃユーリのいとこだもん!愛想よくするさっ!

それでも仲直りの代償としてシオに電話をしなければならない。それは早ければ早い方がいい。恐怖を長時間味わうなんて耐えられないから。

陸は覚悟を決めて、シオに電話をかけた。もしも、もしも三回コールで出なかったら、また明日ということにしようと思いながら。

残念なことに、シオは電話に出るのが早かった。

まるでこっちの窮状を察しているかのようだ。

『おはよう、陸くん。なにかあった?』

声だけ聞くととても優しそうなのだが、一癖も二癖もある、まさにいと同じ人種のシオ。

「おはようございます、結城さん。実はお願いがあって……」と陸はすこぶる低姿勢で、ユーリの誕生日会開催を告げ、出席をお願いした。

場所や出席メンバー、まさにいにはまだ伝えていないこと、出来ればシオに誘って欲しいことをうまい具合に盛り込み、シオが二つ返事で了承してくれた時には手が汗でべちょべちょになっていた。

「じゃあ、お願いしますね。俺、結城さんのこと頼りにしてますから」

陸は震える指先で、通話終了のボタンを押した。こんなセリフ、ユーリに聞かれでもしたら殺されちゃう。

保健室のベッドの腰掛ける陸は、情けないことに腰を抜かしていた。ということで、そのまま一時限目をさぼってしまった。

つづく


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恋と報酬と 86 [恋と報酬と]

陸が自分に与えられた役目をきっちり果たし、もぞもぞとベッドに潜り込んでいたそのころ、海は珍しく不機嫌な花村に腹を立てていた。

朝になって知った、花村がまさにいを尾行していたというおいしい話。

一番最後に聞く羽目になって――俺は花村の恋人なのに!――どれだけ屈辱的だったことか。

こっぴどく責め立ててやろうと思っていたのに、花村はなぜかぷりぷりと怒っていて、こっちの怒りには全く気づいていない。

朝の挨拶もそこそこに、席に着いた海のそばに須山が近づいてきた。去年の今頃は坊主だった須山は以前と同じふわふわのウェーブヘアに戻っている。

「あいつと別れたの?だったら嬉しいけど」

相変わらず諦めの悪い男だ。まあ、嫌いじゃないけどね。で、つい、気を持たせるような事を言ってしまう。

「まだ別れてない。でもあいつが俺の神経に障ることばっかするようなら、考えなくもないけどね」

「別れちゃいなよ」

「ちょっと須山!」花村がうなりながら近づいてきた。もともと不機嫌なうえに須山への怒りも相まってか、かなり凶暴化している。

「うるさいのが来たな。海、またあとでな」須山は唇をきゅっとすぼめキスを飛ばすと、そそくさと立ち去った。

海はどぎまぎしながら、それをちゃっかり受けとめた。

「なんか用?」打って変わって花村にはキツイ態度で応じる。

「え、え、海怒ってるの?」

怒ってるのはお前だろう!

「ふんっ!お前、俺に秘密にできると思ったのかよ。まさにいのあとつけたんだって?」

花村は哀れなほど狼狽えて、土下座する勢いでその場にしゃがみ込んだ。

「ご、ごめんなさい。でも、美影さんのためにやったことで……まさにい、彼女と一緒だったから、それで――」

「ばかばかっ!違うよ。俺にちゃんと報告しなかったから怒ってるんだよ。なに勘違いしてんだよ」誰がまさにいのあとつけたからって怒るかよ。

「あ、そうなの?よかった~」花村はへなへなと座り込んだ。

「よかったじゃないよ。で、どうなったの?途中から喜助に交代したんだろう?」

「わかんないんだ。お父さんが全然教えてくれなくてさ。朝まで帰ってこなかったんだよ、あの人!」

「まさにいも朝帰りだったよ。まさか、一緒に?」飲んでたのか、何か別のことをやってたのか……。

「くそうっ!帰ったら、なにがなんでも訊き出してやるっ!」

花村ひとりヒートアップしていて先生が教室に入って来た事にも気づいていない。

やれやれ。

「んじゃさ、俺が訊き出してやるから、一緒に花村んち行こう」

そうして放課後、海は真相究明のため――ただの好奇心だが――花村と、喜助が死んだように眠る雑居ビルへと意気揚々と向かった。学校を出たところで、ユーリの車を見た気がしたが、陸がそこにいることは間違いないだろう。

帰ったら、情報交換といこう。

つづく


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恋と報酬と 87 [恋と報酬と]

誕生日を利用させてもらうとは言われたが、盛大にパーティーを開くとは言われなかった。どうせ朋のカフェでちょちょっと集まるだけの、いつもの午後と何ら変わりない日になると思っていた。

それがなんだ?

「まさにいのホテルでみんなで中華を食べようってさ。予約は美影さんがしたって。で……」

で?その先を聞くのが恐ろしいのはなぜだろうか?

「それでね、シオも呼んだから。何か欲しいものがあったら先に言っておけってさ」

ユーリはせっかく仲直りした陸の首を絞めたくなるほど、頭に血がのぼった。

もちろんかわいい陸の首を絞めたりするものか。代わりにシートを倒して上にのしかかり、噛みつくようなキスをお見舞いしてやった。

陸はとろけたチーズのようになり、はだけた白シャツからツンと立った乳首を覗かせた。昨日存分にかわいがってやったのに、もうこうやって誘って、いやらしいったらない。くそっ、これは陸がよく使う言い回しだ。

「陸、出かけるのはナシだ。家に帰るぞ」
すぐにでもことに及びたいのを我慢して、ユーリは路肩に止めていた車を発進させた。寿司を食べに行く予定だったが、まずは陸を食べてから、出前でも取ればいいだろう。

陸はぶうぶう文句を垂れるかと思ったが、惚けたように頷くだけだった。それからごそごそと脇を探ってシートを起こすと、身体をこちらに傾げ甘い声で言った。

「誕生日会、来てくれるでしょう?」

陸のおねだりに逆らえるはずない。もちろん兄弟のすることにも。

「俺の、誕生日会だからな」

「ああ、よかった。これでまさにいに告げ口されなくて済む。朋ちゃんたらほんとエグいんだから」陸はホッとしてシートにもたれた。

どうやら朋が陸を脅したようだ。夜中に陸を家に帰すのがどれだけ辛かったことか。陸はまさにいに怒られると半べそだったが、まさにいの方が帰宅が遅くて助かったらしい。

告げ口されたってどうってことないし、されたところで家を追い出されでもすれば、かえって好都合だ。

それが一緒に暮らす立派な理由になるのだから。

まあ、そんなに現実は甘くない。陸が高校を卒業するまで、まだ二年近く我慢しなければならないだろう。

仮に、まさにいと美影がくっつけば展開は変わってくるだろうが。

やはり、俺の誕生日を盛大な催しにする必要がありそうだ。この際、シオの協力も取り付けて、なにがなんでもあのちぐはぐな二人をくっつけてやろうじゃないか。

つづく


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恋と報酬と 88 [恋と報酬と]

海は何度か花村とえっちした事のあるベッドに飛び乗り、そこに横たわる男を思い切り揺さぶった。

「おい!喜助、起きろっ!」

喜助は微動だにしなかった。

海は喜助に跨った。

「ちょっと、海っ!」花村は父親に跨る恋人を見兼ねて声をあげた。いくら肌掛けを挟んでいても、密着する二人を放っておけるほどの広い心は持ち合わせていない。

海は花村を無視した。「おー、きー、ろー」と言葉を区切って飛び跳ねて、腰を左右に揺らした。

喜助の腕がにょきっと伸びて、海の腰を掴んだ。身体をひねって、海を引き倒すと、あっという間に上下が逆転していた。

裸の喜助に、海は息をのんだ。そしてお腹に当たる巨根に釘付けになった。

さすがは親子。同じくらい大きい。

「父さんっ!海からおりてよっっ」花村が半狂乱で父親に襲い掛かった。

「こいつが誘ったんだ」喜助はニヤリと笑って、腰を前後した。

「ば、ばかっ!擦りつけるなよッ!どけどけっ」海はじたばたもがいたが、花村同様の巨体を押し退けることは出来なかった。

「拓海、こいつはいつもこんなふうに暴れるのか?やりづらいだろう?」喜助はニタニタしながら、海からもベッドからもおりると、そのままシャワーを浴びにバスルームへ消えた。

「もう、海……」花村はへなへなとベッドの端に腰を落とした。

「ごめん……」海は花村の怒りを感じ取って、早めに謝った。ついでにキスもしておいた。嫉妬深い恋人を持つと大変だ。

「海、あんまり父さんに近づかないで。あの人、何するかわかんないから」花村は海をぎゅっと抱いた。

海は花村の腕の中で身をよじった。「はいはい。でも今日は仕方ないだろう?昨日の事訊き出さなきゃいけないんだからさ。お前に出来るのか?」見上げてもう一度キスをする。これでもうグチグチ言わないだろう。

「さくらいでごはん食べる?」花村は不貞腐れたのか、話題を変えた。

海はお腹の具合を確かめ、話に乗った。「いいねぇ。俺、ハンバーグ。喜助におごってもらおうぜ」

「誰が、ハンバーグをおごるって?」

喜助が戻って来た。けれども花村は海を抱いたまま離そうとはしなかった。

つづく


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恋と報酬と 89 [恋と報酬と]

喜助はTシャツにステテコのような短パン姿で、洋食屋さくらいのいつも席にぞんざいに腰を下ろした。

海と花村は並んで座ると、そろってハンバーグ定食を注文した。喜助は相も変わらずミックスフライだ。

「それで、聖文ぼっちゃんの何が知りたいんだ?」喜助は言って、タバコをくわえた。禁煙中なので火はつけない。もとより店内は禁煙だ。

「昨日一緒に飲んでたの?」海は単刀直入に訊いた。

「肩を並べて、一皿のオードブルをつつき合っていたのを、一緒に飲むというならな」

「潔癖なまさにいがそんなことを?」他人に(兄弟を含む)皿をつつかれるのは嫌いなはずなのに。海は懐疑的な目を喜助に向けたが、喜助の関心事は他にあるようで、海の言葉はすっぱり聞き流された。

「まこ、ビール」喜助は苛々と火のついていないタバコを放った。

キッチンカウンターの向こうから、まこと呼ばれた脱サラして跡を継いだばかり(というほどでもないが)のオーナーシェフが慌てた様子で出てきた。

桜井誠――客である喜助に想いを寄せて早一年。金銭が発生する関係でしかないのだが(商売なので)、顎で使われることに喜びを感じている、とても純粋な男だ。

「すみません喜助さん」丁寧に泡を作りながら生ビールを細長いグラスに注ぐと、つまみ用にキャンディチーズを皿に盛って、テーブルにやって来た。
ちなみにこのチーズは喜助が好きだというだけで用意している、完全なるサービス品だ。

「まだ飲むの?」海は冷ややかな目を喜助に向けた。

「今日はまだ飲んでないだろう」至福の表情でぐびりとやる喜助。元いた場所に戻るようにと誠を目で追い払うと、フィルムをはがしたチーズをポンと口に入れた。

「朝まで飲んでたじゃん!」と、当然の指摘をする息子。

「俺の朝はさっき来たんだよ」と、喜助。もうひとつチーズを口に入れた。

海はやれやれと溜息をつき、チーズをかじって話を再開した。

「それで、まさにいからどんな話訊き出したの?ただ飲んでただけじゃないんでしょ?」

「とんだブラコンだな、お前の彼氏は」喜助は息子に向かって言い、それから得意げに続ける。「お前らがこそこそ何を探ってるのかはお見通しだが、まあこっちも仕事だあれこれ喋るつもりはない。けど、ひとついい情報をやろう。まさにいは、女はこりごりだと言ってたぞ!」

「そんなのどうでもいいよっ!」海はげらげらと下品に笑う喜助に向かって言った。

もっとこう、具体的な情報が欲しいのに、喜助は見た目からは想像もつかないほど口が堅い。

「そうだよ。彼女ともめたあとだもん、当然だよ」花村は口を尖らせた。

「おいおい。そのもめ事を解決してやったのは誰だと思ってるんだ?」

喜助の言葉に海と花村は目をぱちくりさせた。

「お前らが必死になってまさにいを仲間入りさせようとしているから、彼女と綺麗さっぱり別れさせてやったってのに――まあ、彼女は同じ職場だから、完璧に綺麗さっぱりとはいかないだろうがな」

喜助はこれ見よがしな傲慢な溜息をつき、ビールを一気に飲み干した。

「喜助が、別れさせた?」海は囁くように言った。

「おい、言い方が悪いぞ海。言っておくが、聖文ぼっちゃんは別れたくて仕方がなかったんだからな。それはお前も知ってるだろうが、ったく。俺は可哀相な聖文ぼっちゃんを助けるために裏からちょっと手をまわしただけだ。俺って、優しいだろう?」

ひとり悦に入る喜助。海は喜助がどんな手を使ったのか想像するのが恐ろしく、ハンバーグが来るまでおとなしくチーズをしゃぶって待った。

つづく


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恋と報酬と 90 [恋と報酬と]

まさにいをぼっちゃん呼ばわりする喜助から、大した情報も得られなかったと意気消沈する海と花村だが、喜助がまさにいの元彼女に何らかの圧力をかけて手を引かせたという情報に迫田兄弟が沸くことは必至。

邪魔な喜助は食事を済ませると「用がある」と言って、お金だけ置いて店を出ていった。
これ幸いと、二人はひとまずこの情報の扱いについてデザートを食べながら相談し始めた。

「まさにいに言うべきだと思う?」

まさか聖文がその事実を知っているとは露ほども思っていない海が言った。

そして、自分の父親を多少なりとも理解している花村が申し訳なさそうに言う。

「知らないなら知らないままの方がいいけど、たぶん、まさにいは知ってると思う」

それはそれで面白い。海は口に含んだメロンシャーベットをゆっくりと味わうと、至福の吐息を漏らし、こっそり花村のデザートを伺った。シャーベットはまだある。

「お酒飲んでつい言っちゃったとか、そういうんじゃないってことだよね。驚かして、まさにいの滑稽な顔でも見てやろうって、そういうことだよね。とっておきのタイミングで言ったのかな?」

「どうかな……案外まさにいは勘付いてたかもね」花村は無意識のうちにデザートの皿を海に差し出していた。

背筋に震えが走った。「それあり得る。だってまさにいだもん」誰かに裏をかかれるなんて想像もつかない。「もしかして喜助が色々訊き出したんじゃなくって、まさにいが色々訊き出したんじゃない?だから喜助のやつ、偉そうに『お前らが何を探ってるのかは知ってるけど、何も言わんぞ』とか言っちゃってたんだよ」

「あれって、美影さんがまさにいのこと探ってるの――実際探ってるのは僕だけど――、知ってるっていう口ぶりだったよね?」

「それどころか、鬼まさに恋しちゃってるのもバレバレなんじゃない?まさか花村、言ってないよね?」海は肘で花村を小突いた。ついでにフォークをトライフルに突き刺す。

「言うわけないよっ!あの人にそんなこと言うくらいなら、舌を切った方がマシだよ」

「それじゃあ、キス出来ないじゃん」海はぼやき、上唇についた生クリームを舌先で拭った。トライフルって美味しい。

「もちろん、切るわけないよ」花村はごくりと唾をのんだ。

「美影さんには言う?喜助がやっちゃったって」

「彼女と綺麗に別れた事だけ伝えればよくない?父さんのせいで美影さんに嫌われるのやだ」

度胸のない花村に海は少しばかり呆れた。

「言えば、お母さんの情報くれるんじゃない?」

「美影さんは、母さんの居場所くらいいつだって教えてくれる。僕さえその気になればだけど、でもまだその時じゃない気がして……」

まさにいの情報と引き換えだと言った美影さんは、花村の心の準備が出来ていない事を知っていたのだろう。ノミの心臓を持つ花村に耐えきれないほどの情報なのだろうか?確か花村のお母さんは須山のお母さんと友達だって、須山が言っていた。

「まあ、いいんじゃない、生きてるんだし」海はにこりと笑って、花村の腕に手をまわした。生きてるだけじゃなく、きっとそばにいる。「で、誰に一番に話す?」

つづく


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