はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

恋と報酬と 31 [恋と報酬と]

「ぼ、僕じゃないです!睨まないでくださいっ!」

殺気立つ美影に花村はあわてふためく。助けを求めて海を見るが、海は先ほどのユーリ同様、窮地に陥る恋人を愉快げに見るだけだ。

「なにが僕じゃないって?」美影は声を低めた。

「だ、だから……余計なことは言っていません……」花村の声は間もなく消え入った。

「まあまあ」見兼ねた海が美影を宥める。珍しい事もあるものだ。

「もちろん、聖文さんは思った通りの人だった」美影は姿勢を正した。

「それって恐いって事?」寝転がる海は可能な限り首を傾げた。

「さっきコウタさんも同じこと言っていたけど、そんなに恐いの?」

兄弟が口を揃えるほどなのだから、相当なのだろうと思う。けれどそれは聖文さんに備わった威厳というか、貫録というか、一家を統べる家長としての責務からだとは思うのだけれど。

「恐いなんてもんじゃないよっ!美影さんだってさっき庭で見たでしょ。どすの利いた一声で、ブッチが尻尾を巻いて逃げるのをさ。そのあとみんなが怒られてしゅんとなったのも見たでしょ?」

「見たけど、あれはまさかブッチが僕を歓迎しているとは思わなかったからでしょう?」

美影は『歓迎のもみもみ』で靴がダメになった事は気にしなかった。少なくとも、あの靴で家には辿り着けるのだから。

「ほんと、大歓迎だよねー。ブッチがこういう趣味だとは思わなかった。ああ見えて、肉食系の嫁と七匹の子持ちなんだよ」

「肉食系の嫁?」それと、こういう趣味とはどういうことだろう?

「ミケ子っていうんだけど、ブッチを誘惑して子供を作ったやり手だよ」

「目撃者は語るだね」花村がで口を挟む。友好的に会話に加わろうと必死だ。

美影は態度をやわらげた。花村はいつだって必死だ。特に海の前では。

「ブッチは肉食だと思っていたけど」美影は言った。草食だったとは、意外。

「陸に箱入り息子にされちゃったからね。案外軟弱なんだよ。で、美影さんは肉食系?まさにいをどうにかしようなんて思っているの?」海は屈託のない笑みを見せ、核心をついた。

美影は海の鋭い指摘に目を見開いた。よもや双子の片割れにまでばれていようとは。これでは聖文さん本人にばれるのも時間の問題だ。

つづく


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恋と報酬と 32 [恋と報酬と]

「失礼な。敬愛する聖文さんをどうにかしようなんて思うはずがない」

「誤魔化してもダメダメ。実はさ、俺、去年から怪しいと思ってたんだよね。保健室で俺の手当てしてくれた時からさ」

去年、そういうことがあったのは覚えている。
逃げる花村を海が追いかけていた時のことだ。珍しいと思って、美影は成り行きを図書室の窓から見守っていた。

海は無様にこけて両方の腕の肘から下を擦りむいた。膝も紫色に腫れ上がっていて、血が苦手だという花村の代わりに手当てをしたのだが、正直、美影も怖気づくほどの有様だった。

のちに聞いたところによれば、いつもとは逆の追いかけっこをしていた理由は、浮気者の海が他の男とキスをしていた現場を花村が目撃してしまったからなのだとか。

くだらない。
どうして花村は、こんな男を好きになってしまったのだろうか?聖文さんの弟というだけで、これっぽっちも魅力はないのに。

「美影さんて、案外わかりやすいよね」記憶を掘り起こしていた美影に、海がさらにひと言。

「どういう意味?」美影は純粋な疑問をぶつけた。生まれてこのかた、わかりやすいなどといわれた事はなかった。

「俺たちの前ではさ、ロボットみたいの無表情のくせに――あ、いまは違うけど――まさにいの前ではルーレットみたいに表情がコロコロ変わってる」

ロボット!?

「感情を露にするのはよくない事だと母に教えられたから」美影は自信なさげに言った。物心ついた頃から、ずっとそうしてきた。それを否定するような――ロボットと表現されることが褒め言葉だとは思えなかったので――言葉は誰からも聞いた事はなかった。

「お母さん、厳しいんだ。まさにいみたい」海が呟く。

「確かに厳しいけど、聖文さんとは似ても似つかない」

「まあ、男と女だもん。似てるわけないよ」

そういう意味ではないと、美影は否定したかった。

聖文さんの厳しさには弟に対する愛情が込められているし、随所にその愛情を垣間見ることが出来るけど、僕の母は違う。怒っていても笑っていても、その表情に愛情を見出すことは出来なかった。けっして愛していないわけではないと信じているけど、十八歳になろうとしているいまになっても、一度も感じた事はなかった。

もちろん、幼い頃の記憶が全部あるわけではないのだけれど。

「でもさー、美影さんとまさにいって組み合わせ、想像がつかないよ」海は頭の下に組んだ手を置き、天井を見上げてくすくすと笑った。

馬鹿にしているの?

美影は怒りか苛立ちか、眉をつり上げた。

つづく


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恋と報酬と 33 [恋と報酬と]

海は、自分が押してはいけないスイッチを押しそうになっていることに気付いた。のんびり仰向けている場合ではないと、慌てて腹這いになった。

「あ、ごめん。今のは失言。おい、花村。なにかいい情報はないの?まさにいに関するさ」

花村はとばっちりを受けたくないのか、即答だった。「なにもないよっ!」

「バカ!ひとつくらいはあるだろ!お前、情報屋じゃん」

花村の情報にも限界というものはある。

「そう言う海こそ家族じゃん」花村が反論する。

「仕方ないじゃん。家族は選べないんだからさ」不満げにこぼす海。

「それはこっちのセリフだよ」家族が変わり者の父ひとりの花村は、海よりも不満げだ。

「それ、まだ続く?」美影はうんざりと言った。痴話喧嘩のようなじゃれつきに付き合うほど寛容ではない。

「もうっ。花村のせいで睨まれちゃったじゃん。んじゃ、この話はお終いね。ケチャップのいい匂いもしてきたことだし」

「何か手伝うべきかな?」美影は誰ともなしに尋ねた。

「どーかな?単に邪魔になるだけな気がするけど。あの二人、年中いちゃついてるからさ」海が言った。

「それを言うなら、陸と神宮先輩もでしょう?」散歩も二人で出掛け、戻ってからも二人で部屋に引きこもっている。なにをしているのか想像はしたくないけれど。

「神宮先輩!気持ち悪いっ!ユーリでいいよあんなやつ。俺、ユーリのことあんま好きじゃないんだよね。陸と大差ないのに――つーか、ほとんど一緒なのにさ、俺のことゴミみたいに扱うんだよ、あいつ」

「君と双子の兄は全然違うよ。確かに容姿や声はそっくりだけど――」美影が言い終わらないいうちに、「海の方がひねくれてる」と花村があとを引き継いだ。

美影は同意の意味を込めて、ゆっくりと頷いた。

「な、なんだよ!花村そんなこと言うんなら別れたっていいんだぞ」海は畳の上で、丘に打ちあげられた魚のようにじたばたともがいた。

感情を発散するのが上手だなと、美影は思った。「でも、君は花村がいないとダメなんじゃない?」

「はっ!そんなわけないよ」海はあごをあげた。

「さみしがりやで甘えん坊のくせに?」美影は冷ややかに海を見おろした。

「そうだよ。僕がいないとダメでしょ?」花村がおろおろと口を挟む。捨てられたら死んでやるとでも言い出しかねない狼狽えっぷりだ。

「ふんっ。甘えさせてくれるやつなら他にもいる」

「まあ、そうだね」そこは認める。花村と別れてもすぐに新しい恋人は出来るだろう。

「だめだめ!美影さん、話を変な方向に持っていくのやめてください」花村はヒステリックに言った。

「持っていっていないでしょう?」

話が逸れたのは自分のせいではないはずだ。けれども、もともと何の話をしていたのかは、さっぱり思い出せなかった。

つづく


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恋と報酬と 34 [恋と報酬と]

オムライスはどうやって作られていくのだろうか?

ふと、美影にそんな疑問を抱かせるほど、とても美味しそうな匂いが廊下を伝って部屋中に満ちていた。

もちろん手順は知っている。

ケチャップで味付けしたごはんを卵で包むというものだ。

実のところ、それ以外、知らない。

「ねえ、ふわふわとカチカチどっちがいい?」

ふいの問いかけに、美影は哀れな花村から声の主に目を向けた。

戸口にはエプロン姿のコウタさんが立っていた。

美影はそこで初めて、和室の戸がずっと開きっぱなしだったことに気付いた。ずっと廊下の壁に掛けてある鏡に映る玄関の壁に飾られた不思議な絵を目にしていたというのに。

「俺、ふわふわ。花村はカチカチね」

海はなんの躊躇いもなく答えた。美影はふわふわとカチカチの意味が分からず、少しだけ首を傾げた。

「オムライスの卵のことだよ。美影さんはどっち?」せっかちな海が返事を促す。

オムライスの卵のことだという事はなんとなくわかっていた。なんとなくだけれども。

美影は偉そうに仕切る海に腹を立てながらも、落ち着いた調子で言った。

「簡単な方でいいです」

八人分も作るとなれば、相当な労力だろう。何もせず座っている身としては、ほんの少しでも負担をやわらげてあげたいと思うのが、ごくごく普通の考え方だ。

「どっちでも一緒だけど、ふわふわの方が楽かな」

「では、ふわふわでお願いします」

「了解。じゃ、海、テーブル出しておいて。台所は狭いからこっちで食べるから。出来たら呼ぶから自分の皿を持って移動してね」コウタは言い残し、台所へ戻っていった。

「花村、そこのテーブル出して」海は寝転がったまま指示を出した。

「はいはい」と大儀そうな口調ではあるが、快諾する花村。にやけた顔を見る限り、あごで使われることに喜びを感じているようだ。

「手伝うよ」美影は立ちがあった。一定の姿勢を長く続けていたせいで、骨がひとつ音を立てたが、ブッチが乗っていない正座であれば足が痺れることはない。

見ると、大人数の集まりには欠かせない座敷用の長テーブルが、横向きに壁際に立て掛けてある。手伝うまでもなくすぐに準備が出来そうだ。

けれど何か手伝わなければ申し訳ないので、美影は花村とテーブルの脚を起こして部屋の真ん中に据えた。その際海の身体を下敷きにしそうだったが、美影はまったく気にしなかった。

「準備オッケーだね」と何もしていない海が言う。

準備は出来ていないと、美影は心の中で呟いた。これから聖文さんと顔を合わせる、そう思っただけで、さっきまでオムライスのために空いていた胃のスペースがみるみるうちに縮んで、キリキリと痛み始めた。

これが緊張をあらわすサインだということは、さきほど知ったばかりだ。

つづく


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恋と報酬と 35 [恋と報酬と]

聖文はモニャと映る姫の最新画像をプリントアウトしながら、なぜこんなことをしているのだろうかと自身を訝った。

弟たちは唯一の妹をいちおう可愛いとは思っているようだが、一度も会ったことがないうえ、あまりに歳が離れているせいか、ほとんど関心を示さない。困ったものだが、本当に困った存在なのは、いつまで経っても一時帰国さえしない両親の方だ。

もはや息子たちを――五人もいるのに!――捨てたも同然だ。

けれども、今帰ってくるのは、すごく困る。

理由は口にするまでもない。

それでもあえて言うが(言いたくて堪らないので)、まともな恋愛をしている者がひとりもいないからだ。唯一まともなのが、途中で家族に加わったブッチだ。言わずもがな猫だが、あっぱれなことに妻子持ちだ。

「まさにい!そろそろできるよー!」

階下からコウタが呼ばわった。

聖文はプリンターから排出された写真を手にして、部屋を出た。

ギィギィとところどころ軋む階段を慎重におりながら、写真一枚で場を繋ぐことが出来るだろうかと思い悩む。気を遣うのは長男の性とでも言おうか――遣う相手はひとりだが――、四条くんが周りに上手く溶け込めず、ポツンとしている姿を見るのは忍びない。コウタと朋とはなんとか打ち解けたようだが、もしも四条くんが朋に普通とは違う感情を抱いていたとしたら、近づきすぎないように見守る必要がある。

くそっ!俺は何を考えているんだ。四条くんが朋によからぬ感情を抱いているはずがない。彼はそういう子ではない。俺の目に狂いはない!はずだ……。

ああ、早いところ――どこかは知らないが――家に送り届けてしまいたい。必要以上に長居をさせて、なにか悪い影響を与えてしまっては、のちのち出世に響かないとも限らない。

聖文は人並みに出世したい男である。自分の能力に見合うだけのポジションにつければそれでいいのだが、まったく関係のない事で、そのささやかな地位向上を阻止されたらたまったものではない。

台所を覗くと、テーブルの上には卵にくるまれたオムライスと、ケチャップライスだけが形よく盛られた皿とがあった。コウタはフライパンの中の卵を激しくかき混ぜ、あっという間にふわふわの半熟オムレツを作り上げた。それをライスに乗せ、またフライパンにとき卵を流し込んだ。

聖文が見惚れてしまう程の手際の良さで八人分のオムライスが仕上がり、号令と共に、各自が皿を取りにやって来た。

どうやら食べる場所は台所ではないようだ。椅子がひとつ足りないし、ここはなにより狭い。

聖文はふわふわ卵の乗ったオムライスを片手に和室へ向かった。

つづく


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恋と報酬と 36 [恋と報酬と]

騒々しさも胃の痛みもなんのその。

美影はちゃっかり聖文の左隣を陣取り、ふわふわたまごの乗ったオムライスを、それはそれは上品に頂いていた。

騒々しさに慣れはしても、食事における品性をおろそかにする事はない。

「花村、カチカチの方ちょっとちょうだい」

隣りを見ると、海が花村のオムライスの崩れていない部分をすくい取っているところだった。花村の承諾は必要ないらしい。

「じゃあ、海のふわふわ、一口食べさせて」

花村はへらへらと海の皿にスプーンを侵入させたが、あと一歩及ばず。

「は?ダメに決まってんだろ!」と一蹴され、すごすごと退散した。これでは不公平だし、体格からしても花村には不満が残るだろう。

それでも花村はへらへらしたままだ。好きということは、そういう理不尽なことにさえ目をつむれるということなのだろうか?

美影は自分と聖文とで、いまのやり取りを想像してみた。

が、まったく想像できなかった。

あまりに無理な話だ。

ひとが食べているものに勝手に手を出すという行為自体、ありえないし、出来っこない。

立場を逆にしても同じだった。

聖文が美影のオムライスを『ちょっとちょうだい』などと言って掠め取る姿は想像できない。そんなせこいことが出来るのは双子のどちらかか、その両方だけと決まっている。

「ねえ、朋ちゃん。カチカチのちょっと食べてもいい?僕のふわふわあげるから」

美影の目の前でカチカチとふわふわの好意的な交換が行われた。

双子だけではなかった。これは、いわゆる……カップルなら当然する(べき)ことなのだろうか?美影は末席――いやいや、あそこは上座だ――に座る、ユーリに目をやった。隣の陸とは目も合わせず、お互い黙々と自分のオムライスに集中している。

必ずしも、ではないようだ。

美影は右半身に集中している神経をピリピリとさせながら、黄金色のたまごを口に運んだ。

男八人がオムライスを食べる姿はそれは見事なものだ。和室は六畳ほどでささやかな板張りの縁側が付いているだけだが、不思議と狭さは感じなかった。網戸から心地よい風が吹き込んできているからか、それとも単に、家族そろって食事という理想的な姿に心が満たされているからなのか。

共働きの両親に家を出ている兄や姉。食事をひとりでするのは当たり前のことで、日常だった。むしろ両親と一緒――両親が揃うことはほとんどないけれど――の時は落ち着かなささえ感じていた。

根っから一人が好きなのだ。これまではそう思い込んでいた。

この家から戻った時、同じように思えるだろうか?ひとりの食事が気楽だと、その方がいいと思えるのだろうか?

考えただけで、怖くなった。

美影は箸ならぬスプーンを止めた。

これを食べ終えたら、帰らなければならない。残り半分。食べなかったからといって、帰らなくていいということは、絶対にない。

だったら残った時間、どう有効に使う?また招待してもらえるように、双子に媚を売っておく?それとも、恥ずかしいとかどうとか四の五の言わず、全面的な協力を朋さんとコウタさんにお願いする?

とりあえず、両方でいってみよう。

つづく


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恋と報酬と 37 [恋と報酬と]

「ねえ、まさにいって付き合ってる人とかいるの?」

そう尋ねたのは、上座に陣取るユーリのわきに座る陸だ。長いテーブルの下座に座る聖文からはちょっとやそっとでは手の届かない位置にいる。

聖文はいまの質問に、なにか前兆のようなものがあっただろうかと、ここまでの流れを振り返った。

オムライスを食べながらの雑談のなかには、どう考えても恋愛話は含まれていなかった。次の食事当番がどうとか、風呂の掃除がどうとか、連休明けのテストがやばいだの、どうでもいいような話題ばかりで実に我が家らしい会話だった。

気になる事といえば、朋がコウタにオムライスを食べさせてやったくらいだが、もともと世話好きの朋のする事だ、誰も気に留めてはいなかったはずだ。コウタが『あ~ん』とか恋人くさい事でもしない限り――コウタは絶対そんな事はしない!――は。

「ねえ、どうなの?」

再度の問いかけに、聖文は苛々と陸を睨みつけた。

「なぜそんなことを訊く?」場違いな質問には我慢できない。茶化すつもりなら、相手を間違えている。

聖文の一言で、みるみるうちに陸は蒼ざめた。大嫌いなピーマンを口いっぱいに押し込まれたような顔で「もうっ!だから言ったじゃん!」と、ユーリの肩をげんこつで小突いた。

どうやら犯人は神宮優羽里のようだ。聖文は真正面を見据えた。この男はいつだって気にくわない。弟を手玉に取ってさぞや愉快だろう。痛烈なひと言でも浴びせてやろうと口を開きかけたが、ふとスプーンのカチャカチャ音がぴたりと止まっていることに気付いて、状況判断の為に口を閉じた。

全員の視線がこちらに集中している。残らず。

「彼女とかいるの?」陸に変わって朋が尋ねる。

「いるの?」と驚きもあらわなのは海だ。まさにいに彼女なんているわけないじゃん!と言った口ぶりだ。

聖文はむかっ腹が立ったので言ってやった。

「彼女は――いる。別に関係ないだろう?」

「ほんとにっ!」と誰よりも驚いたのは、なぜかコウタだ。

そんなに驚く事でもないだろうに。

「職場の方ですか?」

コウタに続いて畳み掛けるように質問したのは、四条くんだ。将来ホテルで働く予定の彼は、どうやら職場恋愛にも関心があるらしい。

だが聖文は、これ以上誰の質問にも答える気はなかった。自分のことを話題にされるのは、影で悪口を言われるよりも嫌いだ。だから――「もうこの話は終いだ!」と、ぴしゃりと言って、席を立った。

つづく


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恋と報酬と 38 [恋と報酬と]

足元がガラガラと音を立てて崩れていくのがわかった。

美影は眩暈を覚えその場に倒れてしまいそうだったが、なにせ座っているので倒れる事はない。もちろん、座っている場所は畳の上なので、ガラガラと音もしていなかった。

隣に座る海が、元気出せよと肩を叩いてきた。

美影が平静だったなら、厚かましい海の手を無駄のない動きで払いのけていただろう。けれども美影は、只今、大混乱中だ。ざわざわと妙な感覚の残る左肩は無視して、目の前に座るコウタに縋るような目を向けた。

コウタは困ったように唇をすぼめた。問題が起きたとき、それを収拾する能力は持ち合わせていないのだ。

「聖文さんは怒ってしまったのでしょうか?僕が不躾な質問をしたから」美影はおどおどと尋ねた。美影を除く六人のうち、誰かが答えを知っているはずだと期待して。

「もとはといえば陸のせいでしょ?」いつ何時、自分にとばっちりがくるとも限らないので、海は早々に全責任を双子の兄に押し付けた。

「ちがうよっ!ユーリが訊けって言ったんだから、ユーリのせいだよ。さっきのまさにいの目、見たでしょ。すごく恐かった」陸は大袈裟に自分を抱きしめ、ぶるぶると震えてみせた。

確かに陸は大袈裟な男だが、美影も見ていたのでよく分かる。さっきの聖文さんの顔つきといったら……。そもそも、どうしてユーリは――いまさら神宮先輩などと呼ぶ気はなかった――そんな質問をしろと命じたのだろうか?

美影がユーリを見ると、ユーリはすべてを見透かすように眉を上げた。

知られているんだ!僕の恋心が。ああっ!穴があったら入りたい。むしろ、もう帰りたい。いまさら聖文さんに送ってもらうなんて、そんな厚かましいお願いなんてできるはずない。

「まさにいは怒ってなんかないよ。いつもああだし、自分のことは喋りたがらないんだ。だから気にすることない」朋は自信たっぷり言った。比較的歳が近いせいもあり、下三人の弟に比べると、長兄には詳しいのだ。

「それに、嘘かもしれないし……」コウタが突如言った。

嘘?恋人はいないって事?

美影はささやかな希望に必死にしがみついた。「聖文さんは、嘘をついたりするのですか?」

「まさにいは嘘つかないんじゃない?」と言ったのは陸。希望の灯がひとつ消えた。

「潔癖だもん!嘘つかないよ」海も同調した。隣で花村も頷く。灯がひとつ半、消えた。

「そうかな?時と場合によっては……って事もあり得るんじゃ?」と朋。再点火!

「あれは、嘘だ」

これまでほとんど口をきかなかったユーリが、静かにそう宣言した。

つづく


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恋と報酬と 39 [恋と報酬と]

美影は腹立ちと困惑、僅かばかりの期待とがないまぜになった顔つきで、こわいもの知らずの男を見やった。本人不在とはいえ、聖文を堂々と嘘つき呼ばわりできるのはユーリくらいなもの。

「嘘だという根拠は?」思わず口をついて出た。

「根拠?そんなものがいるのか?」

そう言ったユーリの目が、『根拠があろうがなかろうが、お前は嘘だと思いたいんだろう』と言っているようで、美影は何も言い返すことが出来なかった。

これ以上余計なことを口にすれば、墓穴を掘ることになる。と、思ったところで、はたと気づいた。

現時点で美影の聖文への恋心を知らないのは――この場にいない聖文は除く――、あまりに鈍感な陸だけとなった。それでも兄弟一能天気な陸に知られずに済むなら、この愚かな口を閉じておくべきだ。

「僕も嘘だと思う」コウタが声をあげた。今度は先ほどよりも確信に満ちた言い方だ。他の面々がぽかんとしているのも気にせず、隣の朋を上目遣いで見ながら話を続ける。「ほら、朋ちゃん、さっき話してたでしょ?まさにいって、彼女が出来ると行動パターンが変わるっていう、あれ。いまは普通だから、いないと思うんだよね」

「コウタが言うなら、いないんだろう」朋はあっさりと同意し、名残惜しげにオムライスの最後のひと口を口に運んだ。

「でもさっ、行動パターンが変わらないパターンもあるんじゃない?例えばさ、同じ職場だったら、毎日会えるじゃん。わざわざデートとかいらなくない?」海はスプーンを差し棒のように振り回し、賛同を求めた。

隣に座る美影はいつか叩かれるのではとヒヤヒヤしながら、さりげなく海から離れ、そそくさと食事に戻った。

心穏やかでなかった。
たとえ毎日会えたとしても、デートはするものだと思うし、現に一緒に住んでいる朋さんとコウタさんはしょっちゅうデートしていると言っていた。陸とユーリのことはあまり関心がないので知らないけれど、海と花村はデートする暇もないくらい一緒にいる。

「じゃあ今日はなにしてたんだろ?休みなのに朝からどっか行ってたじゃん」みんな忘れていない?とばかりに陸が言った。

ほら!やっぱり聖文さんは同じ職場の恋人とデートしていたんだ!

「洗車でも行ってたんだろう?」朋は言って、空いた皿をテーブルの端に寄せた。

「あ、そうかも。車きれいになってたもん」海が言う。

「さっきブッチがボンネットに座ってたけど」花村がちょっとした情報を提供する。

兄弟が揃ってうめき声をあげた。

「ブッチのせいでまさにいの機嫌悪くなったらどうすんだよっ!プレゼント貰ったけど、誕生日のおこづかいはまだもらってないんだぞ!」

陸が暴れはじめた。双子だからか同じように海も暴れる。ユーリがたかが五千円だろうと陸を宥め、朋とコウタは皿を片付けがてら、アイスを持ってくると言い残して席を立った。

花村と美影は残された者同士、ちらりと目を合わせ、お互いを憐れみ合った。

つづく


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恋と報酬と 40 [恋と報酬と]

食後のアイスを断った美影は、花村と炭火の匂いのくすぶる庭にいた。

日はとっくに沈み辺りは暗かった。

二人は庭に設置されたセンサーライトの下で、新鮮な空気と一時の静けさを求め、しばらく無言で佇んでいた。

先に口を開いたのは美影だ。

「ねえ、花村。本当のところはどう思う?聖文さんに恋人はいると思う?」

この質問をするのに多少勇気はいったが、躊躇いはなかった。いまさら自分の気持ちを隠し立てしても仕方がないし――といっても、恋心だという確信が一〇〇%あるわけではないけれど――、必要な情報を得るには花村の協力が不可欠だ。

「コウタさんの言い分が正しいように思うけど、海の意見が一番それらしいように思いました」花村は声をひそめ慎重に答えた。

「つまりは、いるってことだよね?」職場に恋人が……。実のところ、美影は聖文の言葉に嘘があるとは思っていなかった。嘘だと思いたいのはやまやまだったけれど。

「おそらくは」即答とは言えなかったけど、花村の口調に迷いは感じられなかった。

「じゃあ、それ、調べてくれる?」花村への真剣な依頼は初めてだった。首が痛くなるのもかまわず、花村の意外にも可愛らしい瞳をじっと見つめる。

「本気ですか?」花村は怖気づいたように、半歩あとずさった。

花村の反応は当然だ。調査対象が恋人の兄なのだから。

「出来ない?」美影は半歩前に出た。

「出来ない事はないですけど、職場のひとなら、美影さんの方が調べやすいんじゃないですか?」

なかなかイエスと言ってくれない。依頼を断るつもりだろうか?

「そうかもね。僕ももちろん調べてみる。けど、花村の力を期待してる。知り得る限りのことを知りたいから」

この言葉で花村の決意は固まったようだ。誰かに頼られたい男を突き崩すには、その力を認めることが肝心だ。

「報酬は?」

花村にしては珍しく、きっぱりと要求した。やる気になってくれたので、報酬は奮発するつもりだ。

「君がずっと欲しがっていた情報でどうかな?父親の堅い口からはどうやっても引き出せなかった情報。もう諦めているなら別のにするけど……」

「それって?」花村の頬が興奮からか紅潮した。きっと情報の内容を察知したためだろう。

「そう、君のお母さんに関する情報」死んだことにされている花村の母親のこと。美影は彼女がどこの誰で今何をしているのか知っている。

花村の顔がいつになく真面目になった。「まさにいに関するありとあらゆる情報を集めるって約束します」

「期待しているよ。その期待に先行投資することも出来るけど?」母親の居場所を先に告げてもいいと言う意味だ。

「いい。情報は引き換えだから」花村は情報屋としてのプライドから美影の申し出をきっぱりと断った。

つづく


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