はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

恋と報酬と 211 [恋と報酬と]

ほどなくして、美高は帰って行った。

このまま居座るのではと心配していただけに、美影はホッと胸を撫で下ろした。

「んで、結局美高は何しに来たの?」海が無頓着に言う。

君に会いに来たに決まっているでしょう。と、よほど言ってしまおうかとも思ったけど、なにも花村をこれ以上不安にさせることはない。可哀想な花村は誰かに海を取られてしまわないかと、常にビクビクしているのだから。

「え?お肉持ってきたんでしょう」陸はそれ以外の理由なんてないでしょとばかりに言って、ブッチを抱いたまま立ち上がった。「俺ちょっと昼寝するね」ブッチと縁側で横になる。片隅に丸めてあったタオルケットを足で器用に掴むと、枕代わりに頭の下に置いた。

「片付けどうすんだよ」海がぷりぷりと言う。

「ん?はーなちゃん、よろしくね」陸は甘ったるい声を出し、背中を向けた。本気で昼寝をするらしい。

「勝手に俺の花村を使うなよ」海は花村の腕をぐっと掴んで、すでに台所へ行きかけていた恋人を引き戻した。

まるでおもちゃを奪われそうになった子供みたいだと、美影は思った。普段は見向きもしないのに、他人の目に留まった途端、所有欲を露わにする。

それでも花村が嬉しそうなので、これもこれで悪くはないのだろう。

「じゃあ海、一緒にしよ」花村が嬉々として言う。

「えぇ……俺だって昼寝したい」所有欲はあっても、動くのは嫌らしい。海は畳の上に身を投げ出し、目をとろんとさせた。

仕方がない。「花村、僕が手伝う。二人でやればすぐに終わるから、そのあと一緒に昼寝でも何でもすればいいでしょう」

皿とカップを流しに置き、花村がスポンジを手に取った。狭い台所では花村は余計に大きく見えた。それでもここに馴染んでいる。うらやましい。

「花村、ちょっと訊いてもいい?」

「なんですか?」花村はスポンジに液体洗剤を一滴だけ垂らすと、大きな手でスポンジを揉んだ。みるみるうちに泡が立つ。

「君は海のどこが好きなの?」

花村は相好を崩した。いわゆるデレデレという顔つきだ。「なんですか急に?」

「不思議に思ったから、訊いただけ」

「それ、愚問ってやつですよ」

「かもしれないね」美影はあっさり返した。人を好きになるのに理由なんてないって、最近やっと気付いた。もちろん聖文さんを好きになる理由は数え切れないほどあるけど。

花村はかまわず続ける。「だって、海は僕の初めての友達で恋人なんです。自由なとこはありますけど、それってなんだか猫みたいでかわいいでしょ?」

かわいい!?

美影は顔をひきつらせた。「花村がそれでいいなら別に僕がとやかく言うことではないけど」気を付けなきゃダメだよ、という言葉は飲み込んだ。言われなくても分かっていると思うから。

「それより問題は美影さんの方ですよ。まさにいさんは手強いですよ」

「わかってるって」だから好きなんだから。

つづく


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恋と報酬と 212 [恋と報酬と]

夕方になり、朋とコウタが買い物から戻ってくると、双子はあたかもこれまで休みなく働いていたかのように振る舞った。

美影と花村はそれぞれ挨拶をし、夕食の手伝いを申し出た。

「そうだな、じゃがいもとにんじんの皮むきをお願いしようか。コウタ、ピーラーを美影さんに」朋は言って、大きな鍋を二つ取り出した。

カレー用ともうひとつは何用だろうかと、美影はテーブルに広げられた食材に目を向けた。マカロニ、ブロッコリー、卵、えび。他にもあるけど、これらから想像するにマカロニサラダかな?

「僕は何をしましょうか?」花村が手持ち無沙汰に手をもじもじと組み合わせながら訊く。

「そうだね、もしよければ、双子たちを手伝って洗濯物をやっつけてくれたらありがたい。花ちゃんは取り込むだけでいいからね。畳むのはあいつらにやらせて」

朋さんは双子たちの扱いも花村の扱いも心得ている。兄も少しくらい見習って欲しいものだ。そうしたら、もっと兄と仲良くできるのに。お互い協力だってできる。

「わかりました!」花村は大役を授かって光栄と言わんばかりに台所を飛び出していった。海の傍にいられれば、それだけで満足できる男だ。

美影は椅子のひとつに座り、ぎこちない手つきでじゃがいもの皮むきを始めた。普段、家の手伝いをしない美影でも、ピーラーを使った皮むきくらいは出来る。手先は元々器用な方だ。

「作戦、考えた?」コウタは冷蔵庫を閉めると振り返って言った。

「いいえ」美影はつと手を止めて答えた。

だったらいい考えがあるとばかりにコウタがにんまりする。「僕さ、考えたんだけど、計画変更した方がよくない?」

「変更?一緒に風呂には入らないってことか?」朋は玉ねぎを手に振り返った。

コウタは頷いた。「だって、まさにい帰るの遅いでしょ。だったら、寝支度済ませて、ベッドで待ってる方がよくない?」余りに大胆な発言。

コウタさんは時々、こういうことをさらりと言う。これが双子ならからかわれていると思うところだ。「勉強はどうするんです?」美影はいたって冷静に訊ねた。内心ではドキドキが止まらず、卒倒しそうだった。

「うん、まあそうだよね。ベッドでしちゃえば」とコウタ。

美影は状況を整理しようと深呼吸をした。「でも、僕はコウタさんの部屋で寝る予定ですよね?」

「あ、それも変更。今朝くじびきしたから、あとで発表するね」コウタはにっこりして、包丁を振った。

あ、危ない。

「発表しなくても予想はつくけどね」朋はふふっと笑った。

「言っておくけど、公正なくじなんだから」コウタはぷうっと頬を膨らませた。ズルなんかしていないという主張だ。

僕は引いていないけど、と美影は思ったが口には出さなかった。コウタさんのすることは予想もつかないことが多いと聞く。けれど、それには計算し尽くされた理由が存在すると美影は思っている。

ともかく、くじの結果が楽しみだ。

つづく


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恋と報酬と 213 [恋と報酬と]

「じゃがいもはふかしたのにしてって言ったじゃん!」

「マッシュルームは?入れた?」

腹を空かせた双子が騒ぎ出した。

「うるさい。手伝わないやつは文句を言う資格なしだ」朋は双子にスパチュラを突きつけた。

「手伝ってるじゃん!洗濯もんやったし、お風呂掃除だってしたもんね」海は片足をどんと床に叩きつけ不満を露わにした。

「お風呂は花ちゃんがやったんだろう?」朋が海をねめつける。

「花村は俺のもんだから、俺がやったのと同じなんだよ」海が反論する。

理不尽な言い分に慣れっこの花村は笑って肩をすくめるだけだ。

もう少し強気に出ればいいのにと、美影はゆで卵の殻をむきながら思った。

「もういいから、先にお風呂入りなよ」台所を仕切るコウタが双子を追い払う。

「そうしろ。おまえらは忘れているようだから言っておくが、今日明日と勉強合宿だから特別メニューなんだぞ。美影さんが持ってきてくれた刺身、食いたくないのか?」朋が脅すように言う。

「食べたい!食べたいに決まってんじゃん!!」双子が声を揃え足を踏み鳴らした。ここまで必死だと、さすがに笑える。

朋は呆れて首を振った。

「美影さんも、それ終わったら、先にお風呂入っちゃいな」

「はい」美影は礼儀正しく素直に応じた。

「え?美影さんはまさにいとお風呂でしょ」陸が疑問を呈する。

「計画変更。美影さんはもっとすごいことするんだから」コウタがにっこり笑顔で振り返った。「でーきた!」カレーが仕上がったようだ。

「またコウタが変なこと言い出した」海はくるりと背を向け、花村を押して風呂場に向かった。

陸の方はコウタの計画が気になるようで、興味津々の顔で居残った。

「すごいことってなに?やっぱ襲っちゃうの?でもさ、そんなこと美影さんに出来るとは思えないんだけど」当然の疑問。

「ええ、僕もそう思います」美影は陸に賛同した。どんな協力を取り付けても、美影が聖文に襲いかかるなど不可能。

「この際、思い切った方がいいと思うんだよね。最近はさ、まさにいに美影さんのことあれこれ言っても、前ほど否定的じゃないって言うかさ」朋の言葉に、美影の頭に疑問が二つ三つ浮かび上がった。

あれこれって?否定的って?

「あ、それ、俺も気付いてた。前はさ、美影さんがまさにいを好きだって言ったら、そんなことあり得ないって否定してたけど、最近はまんざらでもないって感じなんだよね」と陸。

「僕が聖文さんを好きだって話題が食卓にのぼるってことですか?」美影は穏やかとは言い難い口調で問いただした。正直、薄々は気付いていたし、そうでないことなど想像もしていなかった。

「しょっちゅうね」陸が答えた。

美影は眩暈を覚え、かくんと頭を垂れた。

つづく


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恋と報酬と 214 [恋と報酬と]

聖文が帰宅したのは、午後十一時を少し回った頃だった。

これでも、予定よりも早い帰宅。仕事よりも疲れそうな事態が、安らげるはずの我が家で待っているのは、もはや避けようがない。

玄関を開けると、普段なら決して見ることのない光景が、そこにあった。

「おかえりなさい」

三つ指こそついていなかったが、四条くんが見事な立ち姿で出迎えてくれた。

「ああ、ただいま」妙に照れくさくて、心ならずも狼狽えてしまった。

それにしても、誰かに出迎えられたのはいつ以来だろうか。愚弟どもが待ちかまえているときは、なにかしら問題が起きたときで、それは出迎えとは言わない。

「まさにいさん、おかえりなさい」和室からひょっこり顔を出したのは花村くんだ。彼もまた、礼儀正しさを持ち合わせている、いまどき貴重な存在だ。こと、迫田家にあっては。

「ただいま。勉強ははかどってる?」

「ええ、まぁ……」花村くんは曖昧に返事をすると、奥に引っ込んでしまった。どうやら海に呼びつけられたようだ。

「この匂いはカレーだな」玄関を上がりながら言う。

「当たりです。マカロニサラダは僕も少し手伝いました。お刺身にビールもありますよ」四条くんは脇に避け、一歩後ろを付いてくる。

刺身にビール。そそられる言葉だ。

明日は遅番だし、ちょっとくらい飲んだところでどうってことない。だが、これから彼に勉強を教えなければならないというのに、酒臭いのはどうかと思う。まぁ、ビール少しくらいなら平気か。

結局、仕事終わりのビールという誘惑には勝てなかった。

聖文は二階の自分の部屋には上がらず、台所へ直行した。まずは腹ごしらえだ。

いや、待て。

先に風呂か?

「まさにい、おかえり。先にお風呂入っちゃって。その間に支度するから」コウタは兄の姿を見るや、椅子から立ち上がって、まるで母親のような口をきいた。

まあ、これもいつものことだ。

「ああ、わかった」聖文は素直に従った。風呂に入ってさっぱりしたほうが、刺身とビールが格段に美味くなることを知っているから。

「コウタさん、僕手伝います」

四条くんの声を後ろで聞きながら、着替えを取りに自分の部屋にあがった。

ガラガラと引き戸を開けると、そこにまた、見慣れない光景があった。

部屋のど真ん中に、布団が積み上げられていたのだ。

聖文の部屋は和室だが、ずっと以前からベッドで寝ている。布団など、無用だ。

これはいったいどういうことかと、考えるまでもなかった。

どうやら、四条くんが今夜ここで眠ることになったようだ。

これが引いたくじの結果か?

三番は何番と部屋を一緒に使うという事になったのだ?あとで、くじの責任者のコウタに訊いてみようではないか。

どうせ、くだらないたくらみだろうが!

つづく


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恋と報酬と 215 [恋と報酬と]

聖文が風呂場に行ったのを見るや、双子と花村が足音ひとつ立てずに、興奮しきりで台所へやって来た。

いよいよだね、というふうに目を輝かせているのは、ここ最近不機嫌で妙に冷静に成り行きを見守っていた陸だ。

「本当に大丈夫なの?」疑り深い目で美影を見る。やはり冷静だ。

「大丈夫なはずないでしょう」美影は激しく脈打つ心臓に手を当て、微かに震える声で返した。平常心を保とうと何度となく呼吸を整えてはいるが、まったく効果はない。過呼吸になっていないのが不思議なほどだ。

「まぁ、なんとかなるでしょ」海はあっけらかんと言って、最短距離で冷蔵庫まで行った。目当ては冷凍庫のまさにいのアイス。

美影は血の気の引いた顔で海を睨んだ。

言うは易く行うは難し。

聖文さんの守りは鉄壁。アイスのように時間が経てば溶けてしまうようなものではない。

朋さんやコウタさんには悪いけど、襲い掛かるなんて不可能。

けど、気持ちはきちんと伝えようと思う。黙ったまま気持ちを察してもらおうなんて虫のいい話は終わり。どうせもう知られてはいるのだけれど。

「僕に任せておきなって」コウタは自信たっぷりに言って、とっておきの一皿を冷蔵庫から取り出した。それとビールも忘れずに。

「うわぁ~。まさにいのだけ、いいやつのってる」海は刺身の乗った皿を覗き込み、ラップをぺらりとめくった。

コウタがその手をぴしゃりとやる。「もうっ。食べたでしょう」

「お前らはいいから、アイス持って向こうに行ってろ」朋は手を払って野次馬を追い払った。

「僕も勉強部屋に戻ります。聖文さんもゆっくりと食事をしたいでしょうし」美影は食卓に料理が並べられたのを見届けて言った。

「ゆっくりしてたら、美影さんとの時間がなくなっちゃうじゃん。急いで食べさせるから安心して」

冗談なのか本気なのか。

美影は苦笑しながら台所を出て、廊下の、お風呂場の前で立ち止まって、中の様子に耳を澄ませた。

ばしゃばしゃと水音が聞こえ、カタンと洗面器がタイルとぶつかる音がした。

抗いがたい誘惑が美影を襲う。ドアを開ければ、そこに裸の聖文がいるのだ。覗いてみたいと思っても何ら不思議ではない。

「美影さん、アイス持って行きなよ」

朋に後ろから呼び掛けられて、やましさいっぱいの美影は飛び上がって驚いた。

つづく


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恋と報酬と 216 [恋と報酬と]

コウタは当然のようにそこで茶を飲み、朋は自分の部屋からにやにやと様子をうかがい、四条くんはコウタの隣で静かにアイスを食べている。

風呂から上がった聖文は、この状況に不満を覚えた。風呂上がりの姿を他人に見られるというのはひどく恥ずかしいものだし、弟たちが自分たちのたくらみが成功したと思っているところも気に入らない。

けれどもテーブルに並べられた料理とビールに、一瞬だが気が紛れた。

待て!あれはなんだ?

あまりに豪勢な刺身の盛り合わせに、聖文はめまいを覚えた。

これはどこからどう見ても、四条くんが持って来たものに違いない。サザエの殻が乗っているあたり、絶対の自信を持って言える。

「コウタ、勝手に部屋に入ったのか?」

直接、布団に関しての疑問を突きつけはしなかった。くじの結果がいったいどうなっているのかも、言及は避けた。

それは聖文なりに美影を気遣ってのことだ。刺身のことも考慮した。

「お布団を運び込んだだけだよ。机の上を触ったりなんかしていないからね」

誰もそんなことは訊いていないが、わざわざ言うあたり、実に計算高い。責めどころが分からなくなったではないか。

「部屋割りがどうなったのか聞いていないが」質問を、より直接的なものに変更した。

「あれ、そうだっけ?」朋が脇からわざとらしげに言う。

「あ、そうそう。まさにいは三番だったでしょ。だから美影さんと一緒」コウタがあっけらかんと言う。

だから美影さんと一緒?どういう基準なのか、四条くんがいったい何番を引いたのか不明だ。その辺の説明を一切省いて、こっちが納得するとでも?

聖文は一切見ないようにしていた美影に目を向けた。スプーンを口に入れたままの彼と目が合う。

見てみろ。四条くんも納得いかないという顏をしているではないか。

聖文はコウタをギロリと睨み、口ほどにものを言うとされている目で訴えたが、コウタはどこ吹く風の素知らぬふり。

「花村くんはどこで寝るんだ?」くじは何番だ?

「花ちゃんは陸と海と一緒」コウタは、他に選択肢がある?というふうに答えた。

おやおや?部屋がひとつ余るぞ。

「和室は?」

「勉強部屋だよ」

くそっ!もはや避けようがないというわけか。いまさら四条くんにコウタの部屋を使えとも言えないし。ったく、そもそもなぜそうしなかったのか、理由は明白だ。

まあ、一晩くらいのことで目くじらを立てることもない。同じベッドで寝ろと言う訳じゃあるまいし。

「四条くんはそれでよかったのかい?」聖文はなおもあがいた。

「はい。聖文さんさえよければ」

そう言われて、嫌だと言えるまっとうな人間がいるだろうか?

「俺は別にいいが……」

ほらな。

つづく


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恋と報酬と 217 [恋と報酬と]

コウタの押しの強さにはさすがの聖文もお手上げだ。誰もが恐れる長兄をこわがらないのだからどうしようもない。

おかげで聖文は、たくらみに片足どころか腰までどっぷり浸かってしまった。

美影は賞賛の拍手をコウタに送った。もちろんテーブルの下でこっそりと。

「勉強はどう?あいつらと一緒だと進まないんじゃない?」聖文は今日がどういう日なのかを、自分の言葉で再認識した。

「そんなことはありません」美影は勉強嫌いの双子が邪魔だ、などとはおくびにも出さなかった。

「美影さんはあいつらなんかに影響されたりなんかしないよ」朋が向こうの方から口を挟む。

いっそ同じテーブルに着けと聖文は苛立たしげに思った。

「そうそう。あ、まさにいビール」コウタが聖文の手元のグラスを見て言う。手酌は幸せが逃げるとかなんとか言って、せかせかと空のグラスを満たす。

酔わせてどうするつもりだ?という疑問が聖文の脳裏をかすめた。が、カレーに入っている肉が旨すぎてグラスが手放せない。

まさかこれも頂き物なのか?

「そうだよ、それ美影さんが持って来てくれたんだ」コウタが聖文の心の声に答えた。

どうやら、聖文は心の声を口に出していたらしい。

「お世話になるのですから当然です」美影は控えめに言い、聖文の反応をこっそり伺った。

「だったら、しっかり勉強を教えなきゃな。次のテストでは一番がとれるように」聖文は借りは返さなければというようにきっぱりと言い、ビールをゴクゴクと飲んだ。ますますコウタの思うつぼだ。

「美影さん、すごく頭いいから、一番とるのなんて簡単なんじゃない?」勉強にしろ何にしろ平均的なコウタは、羨望の眼差しを美影に向けた。

「そんなことありません。いつも五番あたりをうろちょろしていますから」アイスを食べ終えた美影は、スプーンを置いて、ごちそうさまでしたと軽く手を合わせた。

「それでもすごいけどなー」と朋。

「朋ちゃんだって頭良いくせに」コウタが拗ねたように言う。

それもそのはず。朋はコウタのレベルに合わせて地元の公立高校に行ったのだから。頭脳レベルだけで言えば、双子なんか足元にも及ばないし、聖文ほどではなくとも常に上位付近に留まっていられただろう。

「まあね。それは否定しないけど」へたに謙遜しないのがいい男の条件である。

「たとえば、なぜパーフェクトが取れないか気にしたことはある?」聖文が美影に質問する。

美影が悩んでいる間に、コウタが当たり前のことを指摘する。「気にするも何も、どこか間違えたから一〇〇点じゃないわけでしょ」

聖文はそれを美影の答えとし、さらに質問を浴びせる。「それは分からない問題だった?それとも解けない問題?もしくはうっかりミス?」

「解けない問題だったと思います」美影は真剣な顔つきで答えた。

「それじゃあ、うっかりミスはなし?それで点を落としたことはない?」

「あると思います」

「よし。それは自分でどうにか出来るな。解けなかった問題だけを集中してやろう。自分の苦手とする問題は把握しているだろう?」

「はい」美影は更に真剣な面持ちで頷いた。

「二人ともすごいね」コウタは、ほうっと大きく息を吐いた。頭のいい者同士の会話は聞いていて疲れるようだ。

「和室でゴロゴロしているあいつらに聞かせてやりたいよ」朋が嘆かわしげに言う。

「あいつらはおまえが責任を持って見ろ」聖文は口ばっかりの朋にぴしゃりと言い、食事に戻った。

つづく


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恋と報酬と 218 [恋と報酬と]

勉強部屋に残っているのは聖文と美影だけとなった。

双子は早々に部屋に引き上げ、教えていた朋も退散し、それでも頑張っていた花村も海に呼ばれて部屋を出ていき、そのついでにブッチも隣の部屋に行ってしまった。

「今日のところはここまでにしたら」コウタがクマのぬいぐるみを片手に現れた。

「まだ始めたばかりだぞ」怪訝な顔つきでクマを見る。なぜクマ?まさかアレを朋の代わりに抱いて寝るとか?

「でも、もう一時半だし。僕は眠たいから寝るね」コウタはそう言って、ぎしぎしと音を立てながら階段を上って、自分の部屋に入った。耳を澄ませていたが確実にドアが閉まる音がし、本気で部屋を明け渡さない気だと、ようやく気付いた。

やはり今夜は四条くんと同じ部屋で寝なきゃならないか。

諦めの悪い聖文は、最後の最後までコウタが「僕の部屋で寝なよ」と美影に言うのを期待していたのだ。

だからこそほろ酔い加減のなか、進学塾の講師さながら黙々と課題を進めていたのだ。

「確かに、もう遅いな。そろそろ部屋に行くか」

ふいに、たったいま口にした言葉が特別な意味を持つことに気付く。まるで誘っているようにも聞こえなくもない。

どちらかといえば、誘われるのはこっちのほうなのに――

「すみません。時間のことまで考えていませんでした。聖文さんは明日も――もう今日ですけど――お仕事でしたよね」

「いや、俺の帰りが遅かったから」くだらないことを考えていたせいで、つい詫びるような言い方になってしまった。

「いえ、悪いのは僕です」

四条くんが真顔で言うものだから、こっちとしてもそれを打ち消さないわけにはいかない。もともと、どちらが悪いとかの話ではなかったのだから。

ほどなくして、二人は二階に上がった。部屋に入ると、妙に意識してしまうのはお互い様だった。

それなりに恋愛経験のある聖文だが、男に関してはまったくの未経験。当然だ。聖文の興味の対象は女性に限られるのだから。とはいえ、美影を女性のように扱うわけにも、弟たちのように雑に扱うわけにもいかず、思わせぶりな言動には、見て見ぬ振り気付いても気付かぬ振りをするしかなかった。

「あんなにごちそうを用意してもらったのに、中途半端になってしまって悪かったね」聖文はベッドに入るなり言った。

やはり、勉強を見る約束をしていたのにそれが出来ていないという事は、詫びて然るべき。仕事とはいえ、約束を違えたのだから。

やれやれ。いつの間に自分はこんなにも義理堅くなったのだろう。横になった途端酔いが回ったか?

「ごちそうを用意したのはコウタさんと朋さんです。僕も、少しだけ手伝いましたけど、でもほんの少しです」控えめな言い方は、褒めて欲しがっているようにも聞こえた。

だったら、褒めてやろうじゃないか。

なにせ今夜はやけに気分がいい。

美味い料理に酒、口先だけではない褒め言葉。ああ、コウタのやつ。酔わせて、持ち上げて、魂胆が見え見えなのに、術中にはまった気がするのは、やはり少し酔っているからなのだろうか?

だとしたら、作戦は大成功だ。

つづく


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恋と報酬と 219 [恋と報酬と]

ここまでお膳立てしてもらって、何も出来なかったでは済まされない。

かといって、僕に何が出来るというのだろう。並んで寝ていても、ベッドと布団では、天と地ほどの距離を感じる。

聖文さんに気まずい思いをさせるくらいなら、僕の取るに足りない恋心など捨ててしまった方がまし。

そう思う一方で、気持ちはどんどん高ぶり、気持ちを伝えたいという衝動が抑えきれなくなっている。

いい加減、好きだと伝えたらどうですか?と自分自身をけしかける。

どうせもうばれてしまっているのだから、どうってことないはず。

「聖文さん、まだ起きていらっしゃいますか?」

寝息とは違う息遣いから眠っていないとは思うけど。

「ああ、起きている」

警戒するような響き。

当然だと思う。あからさまに語調が変化したのだから。

でも言わなきゃ。たった一言でいい。余計なことは言わず「好きです」――そう!そう言えばいい。

あれ?もしかして、僕、今、声に出した?

「うん」という返事が聞こえ、やはり声に出していたのだと気付く。

優しくなだめるような「うん」。

その意味をどうとらえるべきか悩んでいると、次の言葉が美影の耳に届いた。

「憧れってことだよね」

違うっ!

ううん。違わないけど、でも、違う。

憧れの人を好きになっちゃったコウタさんと同じ。本当に好きで、もどかしくて、これが恋なのだと、改めて実感する。

どう言えば気持ちが伝わるのだろうかと、考えても、答えが見つかるとは思えない。

美影は恋に関して、あまりに経験不足だった。

「好きです。そして、憧れてもいます」どちらも偽りのない気持ち。

しばらくの沈黙。それから聖文さんの溜息。

美影は冷水を浴びたように身体が冷えていくのを感じた。これで終わった。気持ちを伝えられたのだから満足するべきなのに、残念でたまらない。あわよくばと考えていた自分はなんて馬鹿だったのだろう。

「コウタみたいなことを言うんだな」ふっと、緊張を解いた声。

「そうですね。たぶん、コウタさんが朋さんに抱いている気持ちと同じなのだと思います」

つまりは、男同士でキス出来ちゃうような好き。朋さんとコウタさんはそれ以上の関係みたいだけど、僕はまだそこまでは望んでいない。ただ、気持ちを通じ合わせて、キス、とまではいかなくても、抱き合うくらいはしたいかな。

「そっか、そうだよね。やっぱり、あいつらに影響されたせい?」

「そうだと思います。でも、僕の気持ちまでは彼らにどうすることも出来ません」美影は生真面目に答え、そっと息を吐き出した。

「本気なんだな。だったら、こういうことも望んでいる?」

言葉の意味を考える間もなく、聖文さんがベッドから転がり落ちてきて、上にのしかかっていた。

美影は驚きのあまり、舌を噛みそうになった。

つづく


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恋と報酬と 220 [恋と報酬と]

聖文の記憶にある限り、ここ最近、正体を無くすほど酔ったのは花村喜助と飲んだあの時だけだ。

コウタが何を思ってビールを勧めたのかは想像に難くないが、弟たちの罠にはまるほどは酔っちゃいない。だからこの行動も、酔ったゆえのものとは違う。

聖文は薄明りのもと、突然の事に狼狽える美影を見下ろした。見開かれた目は、瞬きを忘れたせいで不自然なほど大きく見えた。

目の前には愚弟どもにそそのかされ、憧れの人を好きだと思い込んでいる可哀相な子がいる。その子の目を覚まさせるのは兄である自分の役目だ。損な役回りだと思う。好かれるのは素直に嬉しいし――四条くんのような真面目で頭のいい子ならなおさら――懐いてくれるうちは面倒を見てあげたい。恋愛云々がなければ、こんな乱暴な手段には出なかったのに。

「ま、聖文さん、どうされたのですか?」

案外冷静に切り返してくるものだと、聖文は感心した。少しビビらせればと、安易に考えていたが、そう甘くはないということか?

「コウタと同じと言ったね。あいつらが何をしてるか知ってる?」

声を低めて脅すように言えば、相手がぞくりとするのがわかる。

四条くんは震えるように顔を左右に振り、息を詰めて次の言葉を待っている。

正直、あの二人が何をしているかなんて想像したくない。最初の頃、コウタは朋に襲い掛かられて泣いていた。あの時朋をぼこぼこにしてやったが、いまもう一度してやってもいいくらいだ。

そもそも、四条くんはコウタと同じと言うが、同じではないと思う。コウタの場合、朋が無理矢理迫ったからその気になっただけだ。お人好しにもほどがあるが、拒絶していたとしても、朋にうまく丸め込まれて、結局現在に至るだろう。

ある意味で、コウタは被害者だと聖文は思う。まだ被害を受けていない四条くんは、いまなら引き返せる位置にいる。こっちだって加害者にはなりたくない。

「恋人同士なら、こういうこともすると思うが――」そう言いながら、唇が触れ合うほど顔を近づける。もちろん、これ以上近付く気はないが。「それも覚悟の上?」

「覚悟とか、そういうのとは違います。僕は、ただ……」

ただ?

「自然の流れに任せたいと思います。無理にキス……とかして欲しいとは思いません。好きだという気持ちは変わりませんし、傍にいるだけで、満足です。でも、独占したい気持ちはあります」

真っ直ぐ過ぎる。

聖文はたじろいだ。女性の扱いにはかなり慣れたものだが、男性、しかもまだ子供と言っていいほどの歳の男の子の扱いには不慣れといってもいいだろう。

「プラトニックでいいと?」こんなこと訊いてどうする?

「聖文さんの心以外、何も望みません」きっぱりとした返事が返ってきた。

それが一番難しいのだと言うことに、彼は気付いていない。

もちろん、四条くんの事は好きだ。双子どもに比べると、格段に。二人と引き換えに弟にしてもいいくらいだが、恋人となると、話は別。

いったい、どうすれば、理解してくれるのだろう。

男子校特有の恋愛のあれこれが、どれほど現実離れしているかを。

こうなったら、実際、キスのひとつでもしてみるか?

つづく


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