はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

恋と報酬と 141 [恋と報酬と]

そうめんは流れていた。うどんもそばも流れている。

美影が期待した聖文は不在。

スタート地点は脚立のてっぺん。そこからくの字に組まれた竹のなかを流水と一緒に、今度はひやむぎが流れ落ちる。

「ピンク!ピンク!」と声をあげているのは迫田家の双子か島田家の双子か。その両方か。

「あいつら、よく食うよな」そう言って、高さ六〇センチほどの境界のブロック塀に腰掛ける美影の横にやって来たのは、全身黒尽くめのユーリ。父の言うところの忍者のような格好だ。真夏だというのに、まったく暑苦しさを感じさせないのは、ユーリが氷のような冷たい心の持ち主だからかもしれない。もちろん陸に対してだけは別だが。

「神宮先輩も結構食べてましたよ」

ユーリはさきほどまで陸と競争しながら、そうめんをわんこそばのように啜っていた。

「ユーリでいい」ユーリはそっけなく言い、微笑みのようなものを浮かべて流水に箸を突き立てる陸を見やった。「あいつらと一緒にいて、むきにならずにいられるか?」それは問いかけだったのか、自分に言い聞かせたものだったのか。

「いいえ」張り合うつもりがなくても、ついむきになってしまう。それは美影も同じだった。おかげでお腹がはち切れそうだ。

「ところで、お前はいつまでぐずぐずしているつもりだ?」ユーリはいきなり話題を変えた。「このままじゃどこかのクソ女に持って行かれるぞ」

「ぐずぐずするつもりはないんですけど……」これ以上どうしようもないのが現状。聖文さんに気持ちを知られて、拒絶された――はっきりとではないにしろ――今となっては、どこをどう進めばいいのか見当もつかない。

「朋ちゃん!アイス流して!!」

「バカ!無理に決まってるだろう」

「袋のまんまなら大丈夫だよ!」

「俺まさにいのアイスがいい!」

「うるさいっ!勝手に食え」

そうめんを流す係の朋がW双子に攻撃されている。

美影とユーリは顔を見合わせた。

「陸のどこが好きなんですか?」思わずそう訊かずにはいられなかった。陸の何がユーリの心を掴んだのか、前々から気になってはいたのだ。

「どこもくそもあるか。アイスを流せとか言う馬鹿だぞ」

「でも好きなんですよね」

ユーリは苦虫を噛み潰したような顔をした。「いいか、ひとついいこと教えてやろう。お前があの兄貴をどうにかしたいと思うなら、迷わず股の間に跪け」

ユーリの破廉恥極まりない言葉に、美影は怒りか恥ずかしさか、顔を真っ赤に染めた。でもそれでどうにかなるなら、ぜひ、ユーリにやり方を指導してもらおうではないか。

「そのくらいお安いご用です。その代り、指南役はまかせましたよ」

陸の反発が楽しみでならない。

つづく


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恋と報酬と 142 [恋と報酬と]

股の間に跪くという行為が何を意味するのか、恋愛初心者の美影とて知らぬわけではない。

事実、ユーリの股の間に跪く及川春人を目撃した事もあるし、そうされることを大抵の男性が好むということだって知っている。

大抵の男性の中に自分は含まれてしまうのか。キスさえも未経験の美影には判断がつかなかった。

では、聖文さんはどうだろう?

おそらく好きであろう。もちろん相手は女性限定で。

美影は切ないまでに大きな溜息を吐いた。隣でユーリが顔を顰め、立ち上がって陸の元へ戻った。ぐじぐじと思い悩むだけの美影に愛想を尽かせたかのようだが、実際は陸が恋しくなっただけのようだ。アイスを食べる陸を背中から抱き、欲しくもないアイスを一口ねだった。陸は素知らぬふりで、スプーンを自分の口に運んだ。アイスを分け合う気はないようだ。

「美影さんもどうぞ」

見上げると、麦わら帽子をかぶったコウタさんがまさにいのアイスを両手に持って、片方を差し出していた。

美影は手を伸ばして受け取り、コウタが隣に座るのを見守った。

「明日、お兄さんは家にいるの?」コウタは訊ね、日陰になった玄関脇に座り込んでいる朋に手招きをした。

「たぶんいると思います。日中はたまに出掛けていますけど、夕方以降外出する事はないので」そう言って美影は、手の中で溶けていくアイスを急いで口に入れた。

「どれくらい神経質なの?まさにいよりも敏感?」

美影は答えあぐねた。聖文の敏感具合を知らなかったからだ。

「騒音には耐えられないと思います」これだけは確かだ。だからこそ騒音のデパートのような迫田兄弟を家に招待したのだ。好きなだけ暴れてもらうために。

「花ちゃんが情報ゲットしたってさ」朋は言い、コウタの隣に腰を落とした。「あー、もうくたくた」

「おつかれさま。で、情報ってなに?」コウタは朋の口にアイスの乗ったスプーンを押し込みながら訊ねた。

朋はぺろりと飲み下し「美影さんのお兄さんについて」とだけ言い、コウタに向かって口を開けた。

「えっ?」と声をあげたのは美影。花村がどこにいるのか顔を巡らせた。庭にはいないので、おそらく海と家の中で涼みながらアイスを食べているのだろう。

もしも花村が、弟も知らない兄の秘密を掴んでいたとしたら、名ばかりの情報屋という汚名を返上し名誉を回復できるだろう。

コウタはもうひと匙、朋の形のいい魅力的な口にアイスを運び、話の続きを待った。

「四条美高二十四歳、どうやら痴情のもつれで銀行を退職したようだ。――と、花ちゃんのお父さんがどこからか探り出してきたってさ」

「喜助が?」コウタと美影の声が重なった。もはや呼び捨て。

つづく


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恋と報酬と 143 [恋と報酬と]

痴情のもつれ?

なんとも兄に似つかわしくない言葉。

家族であれ、他人であれ、恋人であれ、兄が人間関係をこじらせるなど想像もつかない。

唯一の例外は六歳年下の弟だけだ。

美影は敵意むき出しの兄を思って、溜息を吐いた。

それにしても花村喜助の情報収集能力のすごさには毎回驚かされる。プロであるから当然と言えばそれまでだが、どうやっても探れそうにない相手のことまで確実に探り出してくる。

だいたい、兄が銀行をやめたという話は、弟である美影でさえ昨日耳にしたばかりで、喜助が探ろうと思うに至る時間があったとは思えない。いったいどうなっているのか首を傾げずにはいられないが、この新たな情報を兄への攻撃材料とするつもりはなかった。

もしも将来自分が同じような立場に置かれたとしたら、やはり余計な口出しはして欲しくないと思うだろうから。

美影がそんな甘っちょろい事を思うのは勝手だが、隙あらば美高は容赦なく攻撃してくることを忘れてはいけない。しばらくは表立ってなにかを仕掛けてくることはなさそうだが、美影は常に警戒レベルを最大にしておくべきである。

知らぬ間にアイスのカップが空になっていた。ひざの上でカップを弄びながら視線を庭の向こうの小道に据え、朋の話に耳を傾けていた。

兄弟との会話は話題が移ろいやすく、いまはカフェについて話しているところだ。

「朋ちゃんはお店を任されてもう一年だよ。オーナーに言って、名前つけちゃおうよ」とコウタ。

通称“朋ちゃんのカフェ”は、オーナーが店をひとりで切り盛りしていた頃から名前がないままだ。電話もない。何かあれば朋の携帯に直通だ。

「まあ、名前はなくてもいいんだけどさ、営業日時が曖昧なのはどうにかしないといけないだろうな」

「土日祝を休みにしてはどうですか?」美影は提案した。学校の休みと連動するのが一番あのカフェにとっていいように思えた。

「やっぱそうだよなー。うちのお客さんは平日派だからな」朋は美影の提案をひとまず受け入れた。

コウタも隣でうんうんと頷く。

けど、そこで美影はふと思った。

日曜日、兄のせいで家にいたくない時、逃げ込める場所がないのは辛い。毎回迫田家にお邪魔するわけにもいかないし、そもそも遠い。
家が近所であれば何も問題はない。いつだって聖文さんに会えるし――

ほら、いまだって――真っ白なYシャツにダーク系のズボンを穿いて、緩やかな上り坂をキビキビと歩いて近づいて来る。

「えっ!!あ、あれって、聖文さんですか?」

美影は思ったよりも大きな声を出していたようだ。庭にいる全員がすっかり手を止め、家に近づいて来る黒い人物――あくまでただの形容だ――に目を向けた。

「あ、ほんとだ」わりあい好意的な声。

「まさにいっ!」驚きの声。

「まさにいさんだー」尊敬の念のこもった声。

「うそうそ、早いじゃん!」焦る声。

聖文の帰宅に悲喜こもごも。

つづく


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恋と報酬と 144 [恋と報酬と]

ひとつ前のバス停で目覚めると、景色を確認して降車ボタンを押した。たっぷりと三〇分は熟睡していただろう。寝ぼけまなこを瞬かせ、ICカードを手に背筋を伸ばした。

「ありがとうございます」そう言って、聖文はバスを降りた。家までは歩いて一分。久しぶりの早朝出勤が効いたのか、脚が重い。

それでも、直線距離にして五〇メートルほど先に我が家が見えたとき、わずかながら足取りは軽くなった。

だがそれも、庭に餓鬼がうじゃうじゃといるのを目にするまでだった。

昨日の夜――しかも遅くに――、朋がそうめん流しをすると言っていたのを思い出した。こっちは仕事だ。勝手にやればいいと聞き流していたが、まだいるとは思わなかった。

いち、に、さん……最低でも七人はいる。出来るなら、帰って一時間ほどは休みたかったのだが――まだ夕方四時なので――諦めるしかないのだろうか。

元竹藪の空き地から、のっそりブッチが現れた。聖文と足取りを揃えて、帰宅の途へ着く。

ブッチが宴会に参加していなかったとは意外だ。好物がなかったのだろうか?あいつらのことだ。そうめん以外にもいろいろ流れただろうに。

「まさにいっ」

「まさにいさん!」

「おかえりー」

素通りは出来なさそうだが、何とか逃れるつもりだ。朝の四時起きだ。こいつらの相手をする力は残っていない。

「ただいま。もう終わったのか?」それを願って玄関に足を掛けたが、朋がしゃしゃり出てきた。

「お望みなら流すけど」そう言って、朋は庭の中央に設えられた竹を指し示した。

朋の魂胆は分かっている。コウタと並んで座っている四条くんが目に入った時から。ったく。朋の笑顔の裏に見え隠れする腹黒さを見抜けないほど、俺は馬鹿じゃない。

「いや、いい」聖文は軽く手をあげて、拒絶の意を示した。「腹は減っていない」

「あ、そう」と、朋はあっさり引き下がった。

しめしめ、と聖文は思った。

どうやら朋は満腹で思考が停止しているようだ。ほかの子達も動きが鈍い。

「中にいるから、なにかあったら言え」

聖文はそそくさと家の中に逃げ込んだ。幸いなことに誰も引き留めなかったが、
四条くんがこちらに一歩も近寄って来なかったのが気になる。

少し痩せたようだった。『お兄さんにいじめられてるんだ』とコウタが言っていたが、そのせいで俺を恐れているという事はないよな?どんな兄だか知らないが、俺は弟たちに理不尽な仕打ちをした事はない。一緒にされたくない。

「あ、まさにいおかえり」

和室から海の声が聞こえた。見ると、花村くんの膝に頭を置いて腹を出して横になっていた。

「お邪魔しています」花村くんは気まずそうに言い、視線を明後日の方向へ逸らしてしまった。恥ずかしくて仕方がないといった様子に聖文は同情した。海は恥というものを知らない。兄を寝っころがったまま出迎えて、平気な顔をしている。

「ああ」いろいろ言いたい事はあったが、その一言に留めた。

つづく


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恋と報酬と 145 [恋と報酬と]

ドスッ!

鈍い音とともに、太ももに強い衝撃を受けた。それはまるで拷問さながら、漬物石を落とされたかのような衝撃。美影は恥ずかしながら「うっ」と声を漏らしてしまった。

もちろん乗っているのは漬物石などではなく、聖文とともに帰宅した妻子持ちのブッチだ。丸々とした身体を華麗に跳び上がらせ――残念ながらそこは見逃したが――肉付きの悪い太ももに着地し、ワンウォッシュジーンズに豪快に爪をくい込ませると、ブチブチと音を立てて爪を研ぎ始めた。

チクっと肌に爪が当たっているような痛みを感じたが、これもブッチなりの挨拶なのかもしれない。美影は耐えた。

「ブッチッ!なにしてるのー!」気付いたコウタが悲鳴に近い声をあげ、ブッチを美影の太ももからひきはがした。

ブチブチッ!

無理矢理だったため、被害は拡大した。

「わわっ。ごめんなさい美影さん。もうっ、ブッチ!ダメじゃん。陸、ブッチ持ってって」

わきの下に両手を入れられ、お腹を晒されるという辱めを受けているブッチは、太い尻尾でコウタの腕をバシンと叩いた。じたばたともがき何とか逃れようと試みる。どうやら、陸にくっついているユーリが気にくわないようだ。

「妙に美影さんに懐いちゃってるんだよねー」陸は言いながら、コウタからブッチを受け取った。

「こいつじゃなくて、兄貴の方に乗って欲しかったんじゃないのか?」陸に纏わりつくユーリがにやつきながら言う。

美影は立ち上がって、ユーリを睨みつけた。「そういうこと、みんなの前で言うのはやめてください」二人きりの時ならまだしも、大勢の前で聖文さんを辱めるなんて許せない。

ブッチも陸の腕の中から「フーーッ!」と応戦してくれた。

「美影先輩はまさにいさんが好きなんですよね!」うきうきとした声で口を挟んだのは島田家の双子の兄の方。航だ。

「僕たちも応援してますっ!」今度は弟の方。翔。

美影は天を仰いだ。いったいどれほどの人が知っているのだろう。

「ばかっ。内緒だって言ったじゃん!」

どうやら犯人は陸のようだ。海も共犯かもしれない。

「よし、お前ら。片付けるから手伝え」朋の号令がかかった。

迫田家の兄を崇拝する島田双子は威勢のいい返事をして、朋に駆け寄った。

「美影さん、一緒に洗い物しようか?」コウタはやっと立ち上がって、美影を見上げた。

美影は頷き、散乱する食器類の回収に動き出した。さっきもこうやってスムーズに動けたらよかったのに。お帰りなさいと駆け寄って、ほんの少しでも話しが出来たらよかったのに。情けない。胸はドキドキして、足は根が生えたみたいに動かなくなって、腰だって抜けていた。

聖文さんに礼儀知らずだと思われていたらどうしよう。もちろん僕がブロック塀に座っていたことに気付いていたらの話だけれど。

ああ、気が滅入る。

その他大勢でしかなかったとしたら、望みはないに等しい。あるとも思っていないのだけれど。

つづく


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恋と報酬と 146 [恋と報酬と]

美影は洗い物を済ませると、夕飯も一緒にというコウタたちの申し出を断って、迫田家をあとにした。

「まさにいに挨拶して帰りなよ」と二階に上がる事を勧められたが、さすがにそこまで図々しくはなれなかった。

玄関で挨拶するのが精一杯。少しだけ大きめの声で「お邪魔しました」と。

家に帰ると、兄がリビングで待ち構えていた。

どうして覗いてしまったのだろう。そのまま部屋にあがれば良かったのに。

雑誌らしきものを手にのんべんだらりとソファに座る兄は、美影の姿を目の端に捉えるや否や言った。「お前は遊んでばっかりだな」

美影はカッとなった。

遊んでばっかりなどとよくも言えたものだ。十九日間、僕がどこにいたか知っているくせに。「そういう兄さんは、そのソファが随分とお気に入りのようですね」

迫田家で溢れるほどのパワーを充電してきた美影はいつになく強気だった。

兄の顔が憤怒に歪んだ。手の中の雑誌がぐしゃりと潰される。

美影はそれを見て満足げにのどを鳴らすと――まるでブッチのよう――踵を返して、自分部屋に向かった。

階段をそろりそろりとあがっていると、リビングから派手な音が聞こえてきた。どうやら兄が雑誌をテーブルに叩きつけ、その拍子に飲み残しのグラス――おそらく中身はアイスティー――が倒れ、強化ガラスの上に氷が散らばったようだ。

兄がアキさんを呼ばわる声が聞こえる。夕食の支度をしているアキさんに聞こえたかどうかを確認する前に、美影は階段をのぼりきり廊下の奥へと進んでいた。部屋の前まで来れば、もう階下の声は聞こえない。

部屋に入ると着替えのためシャツとジーンズを脱いだ。太ももに赤い点々が見えた。ブッチに引っ掻かれた箇所がぷくりと腫れている。

厚地のジーンズをも突き抜けるブッチの爪、恐るべし。

つづく


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恋と報酬と 147 [恋と報酬と]

翌日、朝食の最中、兄が突如噛みついてきた。

「お前、友達を家に招待したらしいな。勝手なことをして、ただで済むと思っているのか?」

毒々しいまでに攻撃的な兄に美影は言葉を失った。ただで済まない場合、いったいどうなるというのだろう。この場で殴られたりするのだろうか?父はすでに家を出ていて、母はいるのかいないのか姿は見ていない。ということで、殴られる可能性がないわけではない。

美高は美影が言い返せないでいるのを見て、至極満足気に笑った。口の端を慇懃に上げ、とても不愉快な笑みだった。

「しかも、本当に友達かどうかも疑わしい。なぜなら、お前には友達はひとりもいないからな」

さらなる一撃だった。

美影は唾を飲み込み、やっとのことで口を開いた。もはやトーストは喉を通りそうにもなかった。

「友達です。お父さんも、僕が聖文さんと友人だという事は承知しています」

「まさふみさん?気色悪い。あーあ、これだから男子校はな」美高は吐き捨てるように言い、一口大にカットされたりんごにフォークをぶすりとやった。

「男子校だからなんだと言うんですか?聖文さんは学校の先輩で、尊敬に値する人です。それはお父さんも認めています。兄さんだって知っているでしょう?」

「頭が良いくせにホテルなんかに就職した馬鹿のことか?父さんは仕事のことしか考えていない。それなりに使えるやつがいれば、そりゃ喜ぶだろうよ」美高はりんごの刺さったフォークをひと振りして、口に運んだ。

美影はショックのあまり呆然としてしまった。兄がそんなふうに考えていたなんて、信じられなかった。

ホテルなんか?

それは、聖文さんだけではなく父のことも悪く言っているに等しい。兄さんはお父さんに一番可愛がられていると思ったけど、兄さんの方はお父さんのことを必ずしも良くは思っていなかったという事?

シャリシャリという咀嚼音が思いの外耳障りだった。

美影は黙って席を立った。

午後になれば援軍がやって来る。個性的な五人からなる精鋭部隊だ。兄は聖文さんの存在に恐れをなすだろう。朋さんを見てその美しさに絶句するだろう。コウタさんで油断したところで、双子でとどめを刺す。双子は言いたい事を我慢したりしないし、訊きたい事があれば遠慮なしに訊ねる。動きだって制御できない。

きっと四条邸は混乱を極めるだろう。アキさんに冷静に対処してもらわなければ。

部屋に戻る頃には、落ち着きを取り戻していた。ついでに花村やユーリも誘ってみようか?そんな事を考える余裕さえあった。

つづく


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恋と報酬と 148 [恋と報酬と]

玄関に双子が立っていた。

出迎えたアキさんはこれほどまでにそっくりな双子を見たことがなかったのか、「お二人ですか?」と意味不明な質問をし、双子の返事を待たずして美影を呼ばわった。

「美影さん、お客様ですよ」

美影は午後からずっとリビングのソファでぐじぐじとしていたが、素早く立ち上がって、玄関へ急いだ。予定よりも早い時間だけど、大歓迎。

そこにはお揃いの服を着た双子が立っていた。パステル調の迷彩柄のTシャツに白のコットンハーフパンツという姿。にこにことしていて――いかにもよそ行きの顔だ――手には何かの包みを持っている。手土産だろうか?

「こんにちは、美影さん」陸が言った。

「いらっしゃい。二人だけ?」

「三時ぴったり!」海が言った。美影の言葉は軽く無視された。

「今日のおやつはなんですか?」陸がアキさんに訊ねた。

アキさんはにこりとして「チーズケーキですよ」と答えた。

双子は「わーい!」と喜びの声をあげた。ぽんぽんと靴を脱いで玄関をあがったものの、はたと気づいて、小振りなお尻を突き出すようにして靴を揃え、アキさんに向き直った。

「あ、これお土産です」海はアキさんにコンビニの袋らしきものを差し出した。

「隣のおじさんがくれたキュウリとトマトです。お裾分け」

「まあ。ありがとう。ではこれは夕食の時に出しましょうね」アキさんはデレデレと言い、おやつの支度のためキッチンへ向かった。

「朋さんたちはいつごろ来るの?」美影は訊きながら、二人をリビングへ案内した。

「朋ちゃんとコウタは店に寄ってから来るって。来週から再開だから、ちょっと準備だってさ。んで、気になるまさにいだけどさ――うわっ!なにこれ?」陸は気になるまさにいの情報を中断して叫んだ。

「なにって、なに?」美影は二人を出迎える前と何ら変わりないリビングを見回し訊ねた。

「すごいね、陸!うちの一階くらいの広さはあるよね。玄関入った時はそうでもないかなと思ったけど、やっぱ違うね。美影さんち、お金持ちだ」海は感嘆の息を漏らし、一番座り心地のいいひとり掛けのソファに弾むようにして座った。

「ほんと、このソファすごく座り心地いいもん」陸は兄のお気に入りのソファの一角に腰をおろし、コロンと横になった。

兄が見たら口から火を噴きそうだ。

「意地悪なお兄さんはどこ?」海がきょろきょろしながら訊いてきた。

意地悪な「兄はいま外出中。もうすぐ帰ってくると思うけど」

「職安かな?」陸は言ってぷっと吹き出した。

「デートじゃない?」海はぷははと笑った。

失業ネタと、痴情のもつれネタは禁止だと再度忠告しておくべきだろうか?

いや、やめておこう。

双子たちにダメだと言う事は、それをやれと言うようなものだ。仮に兄に物怖じせず今と同じ言葉を口に出来たなら、それはそれで見物だ。

その時の兄の顔は見逃せないだろう。

それより、気になる聖文さんはいったいいつ到着するのだろうか?

つづく


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恋と報酬と 149 [恋と報酬と]

三人はてんでばらばらに座っていた。

美影は窓際のいつもの席。そうすると、出入り口近くの兄のお気に入りのソファに座る陸とはかなり距離が開く。海はリビングの一番奥の特別なお客様用のソファに深く腰掛け、チーズケーキの皿を大事そうに膝に乗せて、永遠に無くならないのではという程ちびちびと口に運んでいる。

「ところで、聖文さんは来るんだよね?」美影は声を張り上げた。広いリビングというのも考えものである。

「心配しなくても来るよ」海はフォークを振り、あきれたように言う。

「それにしてもさ、なーんにも進展しないよね。ほら、こういうのってスピード勝負じゃん」陸も呆れたように言い、同じようにフォークを振った。さすがは双子。

「わかってるよ」美影は渋々同意した。ユーリの誕生日の日、シオにも同じようなことを言われた。ぐずぐずしていたらダメなことくらいわかっているけど、この夏、図らずも二人は離れ離れにならざるをえなかった。もちろん、聖文さんが二人の間の距離を気にしていたとは思えないけれど。

「だってさ、陸なんてユーリと出会ったその日にやっちゃったわけじゃん」海は膝に置いていたケーキ皿をテーブルに戻し、コーヒーカップを手にした。

「ユーリは俺にひと目惚れだったんだからしょうがないじゃん!」尻軽呼ばわりされた陸は、唇を尖らせ反論する。もっとも、海の言い分は間違っていないので、補足といったところだろうか。

海は陸の言葉を難なく受け流し、話を続ける。「まあ、犯されたわけだけどさ。んで、俺はさ、花村がしつこいのなんの。付き合ってやらなきゃ、今頃花村のやつ橋から飛び降りちゃってるよ」

いちいち大袈裟な海だが、花村は海を失うくらいなら本当に橋からでもどこからでも飛び降りかねない。そこまで想われるのは鬱陶しい反面、うらやましくもある。

「では、僕も聖文さんにしつこくまとわりつけと?」それも悪くない。と、美影は思った。

「まあ、そういうこと」と海。

「でも今日はさ、お兄さんをぎゃふんと言わす会なわけでしょ?どんな人か知らないけど、美影さんみたいな人なら、楽勝だよね」と陸。海と視線を交わし、ニタニタと笑った。

僕みたいだったら楽勝?いったいどういう意味なのか、確認する気にもならなかった。双子と出会ってからというもの、自分がどれほど変化したのか身に沁みている。兄だって双子の手に掛かれば、変わらざるをえない。

「美影。お客様か?」冷ややかな声。不快さを滲ませ、いかにも迷惑と言わんばかりの物言いだ。

噂をすれば。

美影は陸の背後、入口を塞ぐようにして立つ、兄に目をやった。

「御覧のとおりです」

兄に負けじと冷ややかに返した。

つづく


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恋と報酬と 150 [恋と報酬と]

四条美高は玄関に並ぶ二足のスニーカーを見て顔をしかめた。

サイズも色も全く同じ。汚れ方までどことなく似通っている。

来客者は双子か。

廊下を進むとリビングから楽しげな会話が聞こえてきた。

生意気な弟が友達であろうがなかろうが、誰かと楽しく過ごしていると思っただけで腹立たしさに襲われた。

最近は何かにつけ腹の立つことばかりだ。特にあの事があってからは。

美高は物思いを振り払った。ぐずぐずと考えるのは性に合わない。だが無職で暇を持て余している今の状況を考えれば、やはり自分の下した決断に後悔の念を差し挟まずにはいられなかった。

「美影。お客様か?」美高はリビングの入り口に立ち、まっすぐに弟を見据えた。左右の目の端に子供の姿をとらえた。ずいぶん年下の友人を選んだものだ。中等部のガキにしか相手にしてもらえないとは、情けない。

「御覧のとおりです」

相も変わらず愛想のないこと。しかも最近は反抗心をチラチラとのぞかせ、いつか噛みついてやろうと頃合いを見計らっているように思えてならない。

たかが弟のくせに、この俺に歯向かおうとするとは。ばあさんの家に送られたくらいでは気勢は削がれなかったということか。

「わりと似てるね。俺もっと違う感じ、想像してた」

美高は声の主に目をやった。

生意気にも俺のソファに座る双子の片割れが、食い入るようにこちらを見ている。あまりに無遠慮な視線に、美高はたじろいだ。美影に睨まれてもびくともしないが、屈託のない好奇に満ちた眼差しには怖気づいてしまう。

「わかるー!俺もちょっと違うの想像してたもん」

奥の方からも声が上がった。この二人が双子なのは間違いないが、どちらが兄で弟なのか、名前や年齢さえも未確認なのは気に入らない。

「例えば、どういうのを想像していた?えっと、君は――」と、美高は自己紹介を促した。

まずは手前の子から。

「眼鏡かけてると思った」手前の子は言った。名前は名乗らなかった。

「そうそう。俺もそう思ってた!」双子だから思考が同じなのか、とにかく眼鏡は必須だったようだ。

「うちの家系は目がいいんだ」美高は穏やかに答えた。実際は苛々しっぱなしだったが、なにも自分を相手のレベルにまで下げる必要はない。

「うちもそうだよ!」

二対の目が煌めいた。光栄だと言わんばかりだ。うむ。悪くない。

「美影、そろそろこのお友達の紹介でもしたらどうだ?」この愚図。美高は声に出さずに罵った。

美影は一瞬ムッとした顔をしたが、すぐに思い直したのか、いつもの無表情に戻った。

「兄さんの目の前にいるのが迫田陸。で、向こうにいるのが弟の海。僕のひとつ下です。もう少ししたら、彼らの兄もやってきます。朋さんとコウタさん、そして聖文さん」美影は一旦言葉を切った。美高がなにも言わずにいるのを見て、続けた。「陸、海。二番目の兄の美高。少し前までは別々に暮らしていたけど、いまは一緒に住んでいるんだ」

「よろしく」美高が言うと、陸と海の双子は満面の笑みで応じた。

「こちらこそ!」

うむ。まあ、悪くない。

つづく


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