はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

恋と報酬と 101 [恋と報酬と]

こいつら楽しんでやがる。

特にシオ。

聖文は悪意の塊でしかない親友と、今後も親友でいるかどうかを本気で考え始めた。

「聖文さんは女性にはお詳しいのですか?」
隣に座る四条くんが真っ直ぐにこちらを見上げ、純粋そのものの瞳で訊いてきた。

何の悪意もなく訊かれては答えるしかない。聖文は慎重に言葉を選んだ。

「弟たちよりかは……」年齢も経験も上だが、『お詳しい』という程ではない。詳しかったら、彼女と別れるのにこれほど揉めたりはしなかっただろう。

「そりゃそうさ。陸も海も女の子とは付き合ったことないんだから」
朋が睨まれた仕返しとばかりに余計なことを口走った。これでは双子が男としか付き合ったことないと、暗に言っているようなものだ。

「え、俺女の子と付き合ったことあるよ」反論したのは海。陸以外は誰も知らなかったようで、一斉に驚きの声が上がった。

花村くんも知らなかったとは驚きだ。

「いつのこと?」シオが訊いた。

「中学の時かな?まあ、俺のことはいいじゃん。それよりもさ、まさにいがおっぱいフェチだったって事が問題でしょ?」

「はっ?お前何言ってんだ?」聖文は思わず声を荒げた。

これまでそういうフェチだったことはないし、ここで問題にもなっていない。だがこれでひとつはっきりした。上瀬が俺の元彼女だと誰もが気付いている。

「そうなんですか?」
四条くんがかなりの勢いで食いついてきた。彼もおっぱいフェチ――くそっ!間違えた。彼は、だ――なのだろうか?

当然俺はおっぱいフェチなどではないと、聖文は即座に否定しようとしたのだが、その前に、待ちに待ったごはんが揺れるおっぱいと共にやって来た。料理も一気に三品ほどテーブルに並べられた。

好物の伊勢海老のチリソースもある。聖文の気分は上向いた。

「俺やっぱエビチリ丼にする!」と言ったのは陸。

「じゃあ、俺も」と海も続く。

「じゃあ僕もそうしようかな」と四条くんが言うと、花村くんも「じゃあ僕も」と、結果即座にエビチリの奪い合いが始まった。

聖文も慌てて奪い合いに参加する。大人げないと言われようとも、ぷりっぷりの伊勢海老は必ずものにしなければならない。

神宮の誕生日だか何だか知らないが、金を払うのはこの俺だ。弟たちよりも多く胃の中に収める権利はある。

そんな聖文の好みを熟知する元カノが黙って見ているはずがなかった。尾頭付きの伊勢海老のチリソースはターンテーブルに二皿のっている。一皿に群がる高校生たちを尻目に、元カノはサーバーを巧みに操り、ユーリ、シオ、美影、そして聖文に料理をてきぱきと取り分けた。ユーリとシオの間にいる陸が飛ばされたのは、放っておいてもいいと判断したからだろう。

聖文は目の前に置かれた好物と彼女のよく手入れされた指先に視線を落としたまま、自分はどうして彼女と別れ、そもそもどうして付き合うことになったのだろうかと、しばし思いにふけった。

つづく


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恋と報酬と 102 [恋と報酬と]

ユーリの誕生日会を最大限に利用して、聖文さんとの仲を取り持ってくれるという話はいったいどうなったのだろうかと、美影は牛肉のオイスターソース炒めを食べながら思った。

そもそもだれもユーリの誕生日を祝おうとは思っていないようで、目の前の料理に夢中になっている。

ここまでお膳立てしてもらったのだから、やはり自分で何とかするほかないのだろう。

「ところで四条くんは、何の気まぐれでうちのバカの誕生日を祝ってやろうなんて思ったんだ?」シオが至極真面目な顔つきで、美影に尋ねた。

「おい、シオ!それは俺のことか」美影が答えるよりも早く、ユーリが牙を剥いた。

「まあまあ、去年はミジンコ以下だったんだからさ」陸は冗談か何かのつもりでユーリを宥めようとしたのだろうが、あえて指摘するまでもなく、あきらかに逆効果だった。

「お前はいちいちシオに色目を使うなっ」

「ばっ、ばか!なに恥ずかしいこと言っちゃってんの?みんなの前だぞ」陸は聖文の元カノにちらりと視線をやって、それからシオに目を向けた。これ以上ユーリを怒らすようなことはなにも言わないでと訴えるような真剣なまなざしだ。

「ほらっ!まただ」

まさかここで痴話喧嘩を始めるつもり?それはまずいでしょ?迫田兄弟のあれこれを知らない元カノに、聖文さんが弱みを握られることになるのでは?弟は男と付き合っていて、兄弟でも付き合っていて、しかも本人は男に想いを寄せられている。

ああ、それはダメ。何ひとつ知られてはいけない。

美影は慄きつつ、素知らぬふりを決め込む元カノが頭の中では何を考えているのか探ろうとした。いかにもホテルのスタッフというような、好感のもてる表情を崩そうとはしない彼女から、読み取れるものがあるとは思えなかったけれど、ちらちらと様子を見ずにはいられなかった。

「ユーリ、冗談はその辺にしておけ。彼女が本気にするだろう?」シオは聖文の元カノに向かって言った。

「そうだ。陸もいい加減にしろ」聖文もやれやれと呆れたように言い、視線を振って朋に次を促した。

朋は鬼兄に逆らおうなどとは思わなかった。「そうそう。うちでは鉄板ネタでも、本気にした人から白い目で見られるのは俺たちなんだぞ。ったく」誰に白い目で見られても関係ないというスタンスを取っている朋としては、複雑なところだろう。

美影は黙って元カノを観察し、いまのやりとりを彼女がちゃんと冗談だと受け止めていることを確認した。

情報収集において、観察はとても有効な技術のひとつである。

つづく


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恋と報酬と 103 [恋と報酬と]

なにかとヒヤヒヤしぱっなしのユーリの誕生日会にちょっとした騒動が舞い込んできたのは、デザートに杏仁豆腐とマンゴーアイスと追加でバニラアイスやらチョコアイスやらが出てきた頃だった。

身体にぴったりと添うアイボリーのスーツに身を包んだ女性が、大きな花束を手に部屋に入って来た。

「こんばんは。主役のぼうやはどこかしら?」

女性慣れしていない者がほとんどを占める室内は、しんと静まり返った。大きな胸の次は、フェロモンぷんぷん。おそらくは兄弟たちの母親よりも歳は上だろうが、頑張れば三〇半ばに見えなくもない。

「おばさん誰?」空気の読めない陸が訊いた。

おばさんと呼ばれた女性はいささかムッとしたようで、ピンヒールを絨毯に突き刺しながら陸のそばまでやって来た。

「ぼうやが主役?」おばさんの反撃だ。

陸はムッとして「ぼうやじゃないし、主役はこっちだから」ユーリの腕を掴んで思い切り揺さぶった。

「余計なことを言うな」女嫌いのユーリが食いしばった歯の隙間から言葉を絞り出した。

「あら、それじゃああなたが神宮優羽里?意外だわ」

「なにが意外なの?」そう訊いたのは海。

「あらだって――」謎のおばさんは海の顔を見て言葉を切った。陸を見て、海を見る。「同じ顔ね」

「双子だからです」ずっと下を向いていた美影が顔をあげた。「――お母さん」

「お母さん?!」と、ぼうやたちの声がいい感じに調和した。

「まあ、やめてよ」お母さんと言われて、おばさんは大袈裟に震えてみせた。

「おばさん、美影さんのお母さんなの?」と驚きつつ尋ねた陸だが、アイスが溶けかけているのを見て慌ててスプーンを手にした。バニラアイスを口に含み、喜びに顔をとろかせると「で、ユーリの何が意外なの?」と再度尋ねた。

「美影がこんな可愛い子とお友達になれるとは思っていなかったからよ。でも、よく見ると――あら、迫田くん」

美影母の視線は聖文に向いていたが、この部屋には五人ほど迫田くんがいる。

「お母さん」美影が窘めるような声をあげた。「ご存じのとおり、今日は神宮先輩の誕生日で、いつも僕が仲良くさせてもらっている友人と一緒に祝おうという集まりなんです。邪魔をしないでください」

「お父さんから聞いて全部知っているわ。あなたのお友達は、迫田くんと花村くんだけなんでしょう?」

「おばさん、花村のこと知ってるの?」アイスを無事に食べ終えた海が訊いた。

何度もおばさんと呼ばれ、持って来た花束も受け取ってもらえないうえ、ずっと立ったままの美影母は、少々苛立っていたからか、つい口を滑らせた。

「もちろんよ。だってお母様とはお友達ですもの」

つづく


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恋と報酬と 104 [恋と報酬と]

美影母は、パニック状態になった美影によって退出を余儀なくされた。

四条親子が部屋の外でどんな会話をしているのか、気にはなったが、追いかけて様子を見に行くまでの勇気は、聖文にはなかった。

出来ることなら関わり合いになりたくない。それが本音だ。

「まさにいあの人知ってるの?まさにいのこと見て『あら、迫田くん』って言ってたけど――まさか元カノじゃないよね!」

好奇心の塊が、にやけた顔で何を言うかと思えば――

「バカかっ!」聖文は陸に向かって怒鳴った。

間に座るシオが、わざとらしく指先で耳の穴を覆った。腹立つ!

「そうなの、まさにい?」向かいに座るコウタが、悪気があるのかないのか、陸のくだらない冗談に乗った。

「ずいぶんと間口が広いんだな」ユーリがせせら笑うように言った。同じ空間に女がいなくなったとたん強気だ。

「まさにい、あの人って、ブライダルサロンの人だよね?」朋が口を挟んだ。

「お前職場で手出し過ぎだ」とシオ。ニヤリと笑うその顔がユーリとよく似ている。いとこというより、まるで兄弟のようだ。

「お前ら、言っておくが、彼女と俺は何のかかわりもない。同じホテル内で働いてはいるが、ほとんど顔を合わせることもないんだ。だから今の今まで、彼女が四条くんの母親だとは知らなかったし、社長夫人だということも知らなかった。そうだな、朋」

どうして俺が愚弟どもに言い訳のような説明をしなきゃならない?

「う、うん。そうだね。俺も彼女のことは知っているけど、美影さんのお母さんだとは思いもしなかった。結構似てるのにな……」朋は模範的な解答をした。そうするしかなかったから。

「花村のお母さんと友達だって!」花村と共に放心状態になっていた海が、ハッと我に返って言った。「花村知ってた?」

花村はぼんやりと頷いた。

「友達だって知ってたの?」海が金切り声を出した。

「知らないよっ!美影さんのお母さんがホテルの人だっていうのは知ってたって事」花村も美影同様パニック状態だ。

「聖文、四条くんの様子を見に行った方がよくないか?」シオが余計な提案をした。

ここで席を立たなければ、俺はどういう人間だと判断されることになる?

最低。おそらくはそう罵られるだろう。

聖文は席を立った。

つづく


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恋と報酬と 105 [恋と報酬と]

美影はトイレの隅にいた。

めそめそ泣いたりする気はなかったけれど、母親のあまりに無作法な振る舞いに、平常心を保つことが出来なかった。

店の外に出てたまたまそこに父がいなかったなら、きっとひどく怒鳴り散らしていたに違いない。これまで一度も親に対して声を荒げた事なんかないのに。

コツンと音がした。

誰かがトイレに入って来た音だ。

コツン、コツン。

歩幅が聖文さんと同じ。背中に感じる気配も聖文さんのもの。いま一番顔を見られたくないけど、一番そばにいて欲しい人。花村を傷つけるつもりなんかなかったことを、知っておいて欲しい人。

「四条くん、大丈夫?」

低音の心地よい、優しい声。

ああ、僕は、本当にこの人が好き。

振り返ってしまったら、母と同じようにとんでもない振る舞いをしてしまうと分かっていたけれど、振り返らずにはいられなかった。

「大丈夫?」

もう一度聞こえた声は、もっとずっと近くで、その近さに驚いてしまった。

手を伸ばさなくても触れられそうな距離。

あとからこの時の行動を感情とともに言い表せと言われたら、まったく記憶にないとしか言えないだろう。

それほど無心で、美影は大好きな人の胸に飛び込んでいた。

ここは公共の場所で、隅っこにいるとはいえ、人目に付きやすい。聖文さんはここで働いていて、もしかすると表には元彼女もいるかもしれないし、僕のお父さんもいるかもしれない。

でも、どうしようもなかった。

つづく


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恋と報酬と 106 [恋と報酬と]

ひとまず、聖文は泣きべそをかく美影の背中をトントンと優しく叩いた。

掛ける言葉が見つからず――いまの状況がよく分からなかったので――、かといって黙って抱きしめるような場面でもなく、浮かせた手の持って行き場がなかったからだ。

しかしこのままというわけにはいかない。過度のスキンシップは、見様によってはひどくまずい展開になる可能性がある。

「お母さんは帰ったの?」聖文は幼子に話し掛けるように、囁きかけた。泣く子の宥め方などさっぱりだったが、コウタを慰める朋の真似をしてみた。コウタはいまだに双子どもにいじめられている。情けないことだ。

「お父さんが連れて行きました」囁きが返ってきた。

聖文は両手をあげたまま、わずかに見下ろした。

「社長が?」なぜ?

「たぶん、聖文さんに挨拶をしに来たのだと思います」

顏を上げた四条くんの目は潤んではいたが、もう泣いてはいなかった。おそらくはもともと人前で泣いたりするようなタイプではないのだろう。

「俺に?シオじゃなくて?」社長が一社員に挨拶をするなどあり得ない。結城の名を持つシオは挨拶されて当然だが。

「はい」とだけ言った四条くんは、首を軽く傾げ、頭を肩に寄り添わせてきた。

これはいよいよまずい状況ではないだろうかと聖文が思い始めたとき、運がいいのか悪いのか、トイレに人が入って来た。

聖文は思い切って腕をまわして美影を抱きとめ、背中をさすりながら個室へ促した。

「気持ち悪いなら吐いた方がいいぞ」

我ながらうまい誤魔化しだと思った。スーツ姿の中年の男性は、ちらりとこちらを見ただけで用を足すと、手を洗ってそそくさと出て行った。

聖文がホッと息を漏らすと、催眠術がとけたかのように美影がサッと飛び退いた。

「す、すみませんっ!ど、どうかしていました。こんなつもりでは――ただ、母があんな振る舞いをした事に驚いて……いつもは違うんです」

動きを封じられた野生動物のように個室でまごつく姿に、聖文は思わず笑みをこぼした。

確かに社長夫人の言動には度肝を抜かれた。ブライダルサロンでの印象とは違っていたし、物静かな息子とは正反対に思えたから。

だが笑ってばかりもいられない。息子さえも困惑させてしまった社長夫人は海と花村くんも混乱させた。花村くんの母親は死んだことにされているらしいが、思わぬところで生死どころか友人の一人が明らかになった。

やれやれ。あの二人のことは今後どうにかするとして、とにかく四条くんを席に戻さなければ。

そろそろ神宮の嫌いなケーキを出す頃だ。

つづく


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恋と報酬と 107 [恋と報酬と]

極度の興奮と緊張状態にあった美影は、ユーリの誕生日の最終仕上げの豪華なケーキと共に部屋に戻った。

呻き声と歓声があがるなか、花村だけは陰鬱にうつむいたままだ。美影の胸は痛んだ。そのうち真実を伝えるつもりだったが、それは今日ではなかったし、花村ももっと別の日を望んでいただろう。

聖文さんの情報と引き換えだなんて言わなければよかった。でもあの時はあの時で、お互い情報合戦を楽しんでいた。それが二人を繋ぐ唯一のものだったし、おかげで友人という関係も築けた。

それはもう崩壊してしまったのだろうか?

「四条くん大丈夫?聖文に何かされなかった?」

ふいに耳元で声がした。美影は、甘いものを脇によけゆったりとコーヒーを啜るシオに顔を向けた。シオは期待に目を輝かせていた。

何かしたのは僕の方。美影は頬を熱くした。昂る感情を抑えきれずとうとう抱きついてしまった。あの瞬間、頭は真っ白だったけれど、混乱していたせいだと言い切れるかどうか……。

美影は軽く微笑み――笑えるような状況ではなかったが――頷いた。

『大丈夫です。残念ながら、何もされていません』という意味だ。

シオは残念そうに肩をすくめ、ドアの外で元彼女と立ち話をしている聖文にちらりと視線をやった。美影はついシオの視線を追ってしまった。見たくないと思っていたのにもかかわらずだ。

きちんと忠告はされていた。

『いくら聖文が押しに弱い男だとしても、誰彼かまわずというわけじゃない』

別れた彼女は対象外という意味だったらいいのに。でも、この時の話の流れからすると、相手は女性限定で男は対象外だという意味だろう。

もしも元彼女が再び押したら、よりを戻すということもあり得るのだろうか?どんな理由で別れたのか分からない以上、この先どうなるかは美影が容易く想像できるものではない。

ましてや恋愛をした事もない美影には、男女の親密なやり取りはまったくの謎だ。

「気にすることない。聖文は彼女の仕事ぶりに惚れていただけだ」シオが言った。

「だとしたら、今夜の彼女は完璧でしたね」皮肉ではなく本音で言った。

「いつもVIPの対応ばかりしているからね。子供の世話くらいどうってことない」

彼女にとって僕らは子供でしかない。だとしたら、聖文さんにとっても僕は子供で、弟のようなもので、トイレで抱き締めてくれたのは他人の目を誤魔化すためで、僕がどれだけ期待をしても無意味だという事。

「どうすれば――」聖文さんを僕のものに出来るのだろうか?

「時間を掛けても無駄。速攻」シオは美影の胸の内を読み、簡潔に答えた。

つづく


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恋と報酬と 108 [恋と報酬と]

聖文は戻って美影の横に座った。コーヒーをブラックのまま口に運び、フォークを手にしてケーキの角に突き刺した。ごっそりとすくい取ると、大きく開けた口に運んで、物欲しそうに見つめる海に睨みを利かせた。

機嫌は悪い。

上瀬と話をしなければならなかったからではない。今夜の礼を言って当然だし、もう恋人同士ではないとはいえ、嫌いなわけではない。好きでないわけでもない。恋愛感情がないだけで。

では、なぜ機嫌が悪い?いつの時点でそうなった?

思えばもともと機嫌は悪かった。祝いたくもない相手の誕生日を祝わなければならないと知った時から。それを言っては、元も子もない。

いま考えるべきことは、誰が、いつ、支払いを済ませたかということだ。誰が――によっては、のんきにコーヒーを飲んでいる場合ではない。

この会の言い出しっぺの朋が支払ったなら、何の問題もない。あいつは聞くところによると、俺より稼いでいるようだし、貯金もそこそこしているらしい。だから払って然るべきだが、おそらく違う。

となるとシオ。あいつはとにかく金持ちだ。自分のいとこの誕生日なのだから、他人の俺が払うより筋が通るというものだ。

「おい、シオ。ちょっといいか」

聖文は美影とやたらと密着してひそひそ話しこんでいるシオに声を掛けた。

「いますぐか?」シオはいささか迷惑そうだ。

そんな態度を取られて腹を立てない聖文ではない。「いますぐだ」念を押すように言い、席を立って部屋の隅に移動した。

まったく。四条くんと何の話があるのかは知らないが、顔を近づけ過ぎだ。これではまるで愚弟どもとその仲間たちと同じではないか。

まさか……シオは違うよな?

シオには彼女がいるし、それに四条くんは――他に、いるのだろう。好きというか、憧れというか、親しくしたいと思っている人物が。だからどうだというわけではないが、他に好きな人がいるのに誰彼かまわず親密な態度を取るのは、よろしくないのではないか?

いやいや。そんな事はどうでもいい!

「どうした?彼女とまだ揉めているのか?」長い脚をひけらかすように大股でゆったりとやって来たシオが、茶化すように言った。

「うるさい」ったく。口の減らない男だ。「お前、支払いを済ませたとか言わないよな?」

「なんだ?金が足りないのか?」シオは顔を引き締めた。

どうやらシオではないらしい。

「目の飛び出そうな金額だったとしても、このくらいの支払い能力はある」聖文は憮然と答えた。

「お前に支払い能力があるのにもかかわらず、誰かが支払いを済ませていた。そういうことか?まあ、可能性としては朋くんか――四条くんか、の二択だな」腕を組み二人の男に目をやる。

「四条くんは高校生だぞ」聖文は声をひそめた。

「でも、社長の息子だ」

「社長の息子だからと言って――」

「じゃあ、社長だろう」シオがニヤリと笑った。「そうじゃなければいいと思いたそうだが、残念だったな」

くそっ!

つづく


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恋と報酬と 109 [恋と報酬と]

「それじゃあ、俺とコウタは海と花ちゃん」朋が言った。

会は終わりを迎え、誰がどの車に便乗するのかという話だ。

「俺はユーリと帰る」と陸。当然帰る場所はユーリのマンションだ。

聖文は非難するように眉を上げた。わざわざ門限を決めていないとはいえ、高校生が夜遅くまで帰宅しないのはよろしくない。居場所はわかってはいるが。

「今日中には帰る……」陸は渋々付け加えた。

隣でユーリが不満げに鼻を鳴らし「じゃあ、さっさと帰るぞ」と席を立った。

「ユーリ、座れ」礼も言わず帰ろうとする不作法ないとこに向かって、シオが冷然と言った。

ユーリは黙って腰を落とした。シオの機嫌を損ねてもいいことはないと知っているから。

「俺はこのあと人と会うから、聖文、お前が四条くんを送って行ってくれ」シオは無表情に親友を見た。内心ほくそ笑んでいるのは誰の目にも明らかだった。

「うんうん。そうしなよ、まさにい」と言ったのは陸だったか、海だったか、コウタだったか。

美影は、『とんでもない!ひとりで帰れます』と言いたいのを我慢して、捨て猫――おおよそ生後一か月の子猫――のような目で聖文を見つめた。

もちろん聖文は断るはずもない。

猫好きで、なおかつ縋るような目で見られるのが好きだからではない。美影を送って行くついでに、社長にどのような礼をすればいいのか探りを入れたかったからだ。

勘定が社長にまわされた事は確認した。金額が金額だけに、ありがとうございますで済む問題ではない。

対応次第では、お金では解決することが出来ない惨事にみまわれる可能性もある。

出世をしたい男――自らの力でもって――としては、なんとも頭の痛い事だ。

「鞄はシオの車の中だったな」と確認すると、縋るような目が喜びに煌めいた。

聖文は美影から目を逸らした。素直すぎる感情は扱いに困る。

「ねえ、このあと誰と会うの?」陸がシオに尋ねた。好奇心の虫が疼いたらしい。

シオは尋ねられたことに気をよくしたようで、上機嫌で答えた。「ん、彼女と――」そう言って一呼吸置くと「別れてくる」と宣言した。

「えっ!!」

「えぇぇ!」

と、みんなが驚きの声をあげるなか、ユーリだけは目の色を変え、急いで陸を抱えて出て行った。

困ったことに、嵐はどんどんやって来る。

つづく


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恋と報酬と 110 [恋と報酬と]

車はしばらく静かに道を辿っていた。

美影にとってその沈黙は心地よくもあり、そわそわと落ち着かなくもあった。

何か喋らなければと、隣でハンドルを握る聖文を見る。

非の打ちどころのない横顔。

美影は知らず知らずのうち、息を詰めてその横顔を見つめていた。

一方、チリチリと焼け付くような視線に気付かない聖文ではない。トイレでの一件で、美影の気持ちには気付いていた。だが所詮、憧れに毛が生えた程度のものだろうと高をくくっていた。

高校時代、告白された事は何度かある。もちろん相手は男だ。ほとんどは無言でやり過ごしたが、時にはひどく冷たくあしらうこともあった。

そんな聖文を美影は知らない。

それでよかったのだ。もしも当時の聖文を知っていたなら、憧れるどころか近づこうなどとは思いもしなかっただろう。

「結城さんの、アレって本当なのでしょうか?彼女と別れてくるとか、どうとかって……」

よりにもよってまず口にしたのがそんな話題だ。

「シオ?だろうな……あいつは冗談は言わないからな。ったく、何を思ってあんなことみんなの前で言ったんだか」

理由はわかっていてもあえて口にしないのか、それともあまりにらしくないシオの言動に、本当に戸惑い呆れているのか。

「あ、その先を右です」美影がとっさに指でさし示した方向は、少しだけ遠回りになる道順だった。やましさを打ち消すように、早口に言葉をつなぐ。「みんな驚いていましたね。結城さんに彼女がいるなんてって」

「あいつの私生活は謎だらけなんだ」そう言って、聖文は溜息を吐いた。「長い付き合いだが、何を考えているのか分からない事の方が多い」

「ひとの考えを読むのは得意なようですけど」思わず言って後悔した。これではシオに自分の気持ちを見抜かれていると、暗に述べたようなものだ。美影は膝の上の鞄を強く握りしめた。

ホテルへ向かう道すがら、『ずばり、聖文のこと好きなんだろう?』と言われた時、この人の前では嘘も誤魔化しも通用しないと悟った。適当な返事をしようものなら、一切の協力を拒絶されるだけではなく、排除されてしまうと感じた。

即答とはいかないまでも、ほとんど間を空けず『はい』と答えていた。

「四条くん」

改まった口調だ。

美影は身構えた。

つづく


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