はじめまして。
BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。
コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。
花嫁の秘密 415 [花嫁の秘密]
ブラックは絨毯に転がるグラスを拾いながら、従者の役目はいったい何だっただろうかと考えた。
誰がどんな役目を担おうとも、俺の役目は主人――サミュエル・リードを守ること以外にない。調べものなんかはただの雑務だ。命じられたとしても優先すべきことではない。
ロンドンでの調べ物は他の者に任せて、この人と一緒の列車に乗るべきだった。そうしなかった結果がこれだ。
ブラックはサミーの手首に触れ脈を取った。静かにゆっくりと脈打っていて、そのうち止まってしまいそうなほど弱弱しかった。嘔吐しているが吐き出すものはなかったようで、喉を詰まらせる心配はなさそうだ。
ここでぐずぐずしていては取り返しのつかないことになりかねない。ブラックはこれからすべきことを頭の中で整理しつつ、部屋を飛び出した。愚かにも危うく判断を間違えるところだった。
グラントを談話室で見つけると、さっそくいくつか指示を出した。これまで指示されることはあってもしたことはなかったが、そう難しいことではなかった。
「下僕を二人借りていいか?バスタブを運びたい。それと湯をたっぷり用意するように言ってくれ」
「ええ、もちろん。サミュエル様はこんな朝早くに入浴を?」急なことにもグラントは冷静に応じた。
「ああ」グラントにどこまで言うべきか迷ったが、ほとんど隠さず言うしかない。「誰か、ドクター・キャノンを呼びにやってくれ。急ぎだ」
「ミスター・キャノンは獣医ですよ」グラントが驚いた様子で言う。
「獣医でもあの方の主治医だろう?」詳しくは知らないが、そう聞いている。
「そうだとは言えませんけど、何かあれば呼ぶのはあの人ですね。でも、サミュエル様はいったいどうしたんです?」グラントは納得いかないといった調子でぶつくさと言った。夜の間に起こったことにはまったく気づいていないようだ。
「それから、屋敷に誰か侵入した形跡がないか調べてくれ」ブラックはグラントの質問を無視した。
「侵入?いったい誰が?戸締りはしていますし、門も閉じています」黒い眉が眉間にギュッと寄せられる。
「俺はここへ誰に止められるでもなく入ってきた」言いたいことはわかるなと、グラントを睨むように見る。「それに閉じているのは正門だけだろう?裏手はどうだ?見回りを強化するように言われてなかったのか?」
「誰か侵入したんですね。サミュエル様は無事ですか?」グラントはようやく事態を把握したようだ。顔つきが途端に引き締まる。
「無事だ。だが医者がいる」
「すぐに呼びに行かせます」グラントはその場を離れ、ブラックの指示通りに下僕を動かした。詳しい理由は告げられなくとも何かが起こったことは誰もが察し、階下はにわかに騒々しくなった。「いまは旦那様と奥様が留守にしていますし、あのことはごく一部の者しか知らないんです」
物騒な贈り物のことは発見した庭師と、ダグラスとメグを除けばグラントと他数人しか知らない。けれどよくないことが起こったと誰もが薄々気づいている。そうでなければ、ゆっくり年越しするはずだった二人がクリスマスの翌日に慌てて屋敷を離れるはずがないからだ。
「話はあとだ。新しいシーツをくれ、俺はサミュエル様のところへ戻る。グラントはさっき言ったように屋敷の中と外を確認してくれ」
ブラックはシーツを片手に階段を駆け上がりながら、このことをすぐにでも報告すべきか否か頭を悩ませていた。言えばどうなるか目に見えていたが、言わないという選択肢は存在しなかった。
つづく
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誰がどんな役目を担おうとも、俺の役目は主人――サミュエル・リードを守ること以外にない。調べものなんかはただの雑務だ。命じられたとしても優先すべきことではない。
ロンドンでの調べ物は他の者に任せて、この人と一緒の列車に乗るべきだった。そうしなかった結果がこれだ。
ブラックはサミーの手首に触れ脈を取った。静かにゆっくりと脈打っていて、そのうち止まってしまいそうなほど弱弱しかった。嘔吐しているが吐き出すものはなかったようで、喉を詰まらせる心配はなさそうだ。
ここでぐずぐずしていては取り返しのつかないことになりかねない。ブラックはこれからすべきことを頭の中で整理しつつ、部屋を飛び出した。愚かにも危うく判断を間違えるところだった。
グラントを談話室で見つけると、さっそくいくつか指示を出した。これまで指示されることはあってもしたことはなかったが、そう難しいことではなかった。
「下僕を二人借りていいか?バスタブを運びたい。それと湯をたっぷり用意するように言ってくれ」
「ええ、もちろん。サミュエル様はこんな朝早くに入浴を?」急なことにもグラントは冷静に応じた。
「ああ」グラントにどこまで言うべきか迷ったが、ほとんど隠さず言うしかない。「誰か、ドクター・キャノンを呼びにやってくれ。急ぎだ」
「ミスター・キャノンは獣医ですよ」グラントが驚いた様子で言う。
「獣医でもあの方の主治医だろう?」詳しくは知らないが、そう聞いている。
「そうだとは言えませんけど、何かあれば呼ぶのはあの人ですね。でも、サミュエル様はいったいどうしたんです?」グラントは納得いかないといった調子でぶつくさと言った。夜の間に起こったことにはまったく気づいていないようだ。
「それから、屋敷に誰か侵入した形跡がないか調べてくれ」ブラックはグラントの質問を無視した。
「侵入?いったい誰が?戸締りはしていますし、門も閉じています」黒い眉が眉間にギュッと寄せられる。
「俺はここへ誰に止められるでもなく入ってきた」言いたいことはわかるなと、グラントを睨むように見る。「それに閉じているのは正門だけだろう?裏手はどうだ?見回りを強化するように言われてなかったのか?」
「誰か侵入したんですね。サミュエル様は無事ですか?」グラントはようやく事態を把握したようだ。顔つきが途端に引き締まる。
「無事だ。だが医者がいる」
「すぐに呼びに行かせます」グラントはその場を離れ、ブラックの指示通りに下僕を動かした。詳しい理由は告げられなくとも何かが起こったことは誰もが察し、階下はにわかに騒々しくなった。「いまは旦那様と奥様が留守にしていますし、あのことはごく一部の者しか知らないんです」
物騒な贈り物のことは発見した庭師と、ダグラスとメグを除けばグラントと他数人しか知らない。けれどよくないことが起こったと誰もが薄々気づいている。そうでなければ、ゆっくり年越しするはずだった二人がクリスマスの翌日に慌てて屋敷を離れるはずがないからだ。
「話はあとだ。新しいシーツをくれ、俺はサミュエル様のところへ戻る。グラントはさっき言ったように屋敷の中と外を確認してくれ」
ブラックはシーツを片手に階段を駆け上がりながら、このことをすぐにでも報告すべきか否か頭を悩ませていた。言えばどうなるか目に見えていたが、言わないという選択肢は存在しなかった。
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