はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

満ちる月 6 [満ちる月]

まったく気持ちの悪い男だ。
空は帰りのタクシーの中でひとりごちた。

この引き抜き話は確かに条件だけ見れば破格といってもいいだろう。
だが、あの男は好きになれない。ならば到底会社も好きになれそうにもない。仕事をするうえで重要視する事でもないが、空の心は好条件にもかかわらず前向きではなかった。

あの男の言うとおり、不当に評価する会社にひと泡吹かせたいという思いもないわけではない。だがそれ以上に社長に対しての恩義が大きすぎる。

それに数日前に見た望月の表情。あれは辛い片想いから脱した顔だった。恋が実ったとは思えなかった。まだ、その瞳の奥には儚く散った恋心が見え隠れしているのだから。
しかし、今なら望月を自分のものに出来るかもしれない。
もちろん以前に比べればその確率が上がったというだけなのだが、それでも彼を上手く慰める自信はあった。心も身体も満足させてやれると。

あの表情を見てからというもの毎日店に顔を出している。
もはや仕事よりも望月に会うために行っているようなものだが、そんな馬鹿げた行為をする自分が嫌いではなかった。むしろ初めてこんな風に舞い上がっている自分に心地よさすら感じていた。

タクシーが自宅マンション前で止まった。
このマンションは空が三十歳の時に購入したものだ。結婚などする気はさらさらないのだから、妻と二人で新居探しをするなどという行為も必要ない。
けれどやはり自分の城というものは、男は手に入れたいと思ってしまうものなのだ。

タクシーを降り、思わず夜空を見上げた。
満月だった。
それも特大だ。
しかも、近い。
いまにも頭上に落ちてきそうなほど近く大きな月を見上げ、思ったのは望月の事だった。

本当に馬鹿げている。
こんな風に自分の心のすべてを独占した者などいなかった。同じように望月の心も自分で満たしたいと思うのは、身勝手な想いなのだろうか。

月はただ煌々と頭上で輝くだけだった。

翌日、空は店に顔を出した。
このところ頻繁に顔を出す空に望月は少し戸惑いにも似た表情を浮かべたりする。
そんな表情につい苛ついてしまうのだが、それは一瞬にして消えてしまい、いつものように自然と優しく微笑んでしまう。

ワインセラーを覗き、在庫をチェックする。
立地条件からすると安価なワインがよく出そうなのだが、意外にも高いワインもそこそこ出ている。ワインの銘柄のチョイスも悪くない。
まあ、それもそのはずこれはすべて高塚物産から仕入れているのだから、悪いはずがない。そのなかでもよりいいものを仕入れていると言いかえた方がいい。

「空さん、ちょっといいですか?」
望月のその声に、空は手にしていたワインをセラーに戻す。

「なんだい?」

「一周年のワインの事で」

ああ、そうかこの店も出来て一年が経つのか。
ということはそれと同じ期間、望月に密かな想いを抱いていることになる。

つづく


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