はじめまして。
BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。
コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。
満ちる月 5 [満ちる月]
望月は仕事がオフの日には他の飲食店を食べ歩きするのが今一番の趣味だった。
もちろん仕事もかねてだったが、実際他にすることも無いのだ。
この日は和食のお店に来ていた。
小さな店だがカウンターのほか、個室の様な仕切りの座敷もあり、会社関係やカップルも割と利用する店だ。望月は一人で訪れていたが、座敷に通してもらった。
価格帯はまずまずで、料理の盛り付け、味共に満足のいくものだった。
あとは一緒に来る相手だなと、望月は自嘲気味に笑った。
恋人がいない状態が長く続いている。いたとしても長く続いたためしがない。
望月はお茶をすすると、ふっと溜息を吐いた。
ふっ切れたはずだと思ったのに、まだ未練がましく容の事を思っている自分がいる。以前のように苦しい気持ちにはならないが、一度だけ抱かれた記憶が今も鮮明によみがえってくる。ただその記憶も少し切ないものなのだが。
『では、二か月以内に返事を下さい』
いきなり耳に飛び込んできた言葉に、望月ははじかれたように意識を目の前の湯飲みに戻した。
ここが公の場――和食店の座敷――という事をすっかり忘れたかのように、容との一度だけの情事を思い出し身体を熱くしてしまっていた。
そんな自分に一人赤面し、とにかく店を出ようと席を立とうとした瞬間聞き覚えのある声が耳に届いた。
『わかりました。けど、いい返事が返ってくると期待し過ぎないでください』
『わかってます。が、しかし、あなたはもっと評価されるべき人だ。今の会社がきちんとあなたを評価しているとは思えない』
『だから、僕に声を掛けたのでしょう?正当に評価されていない僕を使って、ライバル会社を潰そうと。まあ、そんな事で潰れる事は無いでしょうが、嫌がらせには十分ですね』
『はははっ!そうです。嫌がらせには十分だ。大会社を潰そうとは全く思ってはいませんが、あなたがプロデュースしてくだされば、あの店は潰れるでしょうから。それで充分です』
『そしてそのまま業界のトップでも狙うおつもりですか?』
彼の嘲るような声に相手は唸った。
望月はそこまで聞いてそのまま店を出た。本当はもっと聞きたかったが、明らかに聞いてはいけない話だった。
彼は――空は別会社から誘われている。
ヘッドハンティングだ。
突然望月の鼓動が早くなり始めた。
いや、本当にそういう話だったのか?
たったいま耳にしたばかりの話を思い出そうとする。
とにかくせわしい街中を自分のマンションへ向かって進み始める。
『あの店は潰れる』とは、どこのことなのだろうか?まさかうちではないよな。
混乱する頭の中を整理することが出来なかった。
しかしふと気づいたのだが、空は浅野食品とは何の関係もないといえばないのだ。彼は高塚物産の社員なのだから。
だから、たとえ彼が別の会社に行ったとしても、望月にはあまり関係のない事で、きっと店にはまた別のマネージャーが来るだけだろう。
それに名ばかりのマネージャーがそんなに必要なのかどうか疑問だ。
一時混乱した望月だが、家に帰りついた頃にはさして重要な事でもないと思い直し、今夜耳にした会話などすでに忘れつつあった。
つづく
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もちろん仕事もかねてだったが、実際他にすることも無いのだ。
この日は和食のお店に来ていた。
小さな店だがカウンターのほか、個室の様な仕切りの座敷もあり、会社関係やカップルも割と利用する店だ。望月は一人で訪れていたが、座敷に通してもらった。
価格帯はまずまずで、料理の盛り付け、味共に満足のいくものだった。
あとは一緒に来る相手だなと、望月は自嘲気味に笑った。
恋人がいない状態が長く続いている。いたとしても長く続いたためしがない。
望月はお茶をすすると、ふっと溜息を吐いた。
ふっ切れたはずだと思ったのに、まだ未練がましく容の事を思っている自分がいる。以前のように苦しい気持ちにはならないが、一度だけ抱かれた記憶が今も鮮明によみがえってくる。ただその記憶も少し切ないものなのだが。
『では、二か月以内に返事を下さい』
いきなり耳に飛び込んできた言葉に、望月ははじかれたように意識を目の前の湯飲みに戻した。
ここが公の場――和食店の座敷――という事をすっかり忘れたかのように、容との一度だけの情事を思い出し身体を熱くしてしまっていた。
そんな自分に一人赤面し、とにかく店を出ようと席を立とうとした瞬間聞き覚えのある声が耳に届いた。
『わかりました。けど、いい返事が返ってくると期待し過ぎないでください』
『わかってます。が、しかし、あなたはもっと評価されるべき人だ。今の会社がきちんとあなたを評価しているとは思えない』
『だから、僕に声を掛けたのでしょう?正当に評価されていない僕を使って、ライバル会社を潰そうと。まあ、そんな事で潰れる事は無いでしょうが、嫌がらせには十分ですね』
『はははっ!そうです。嫌がらせには十分だ。大会社を潰そうとは全く思ってはいませんが、あなたがプロデュースしてくだされば、あの店は潰れるでしょうから。それで充分です』
『そしてそのまま業界のトップでも狙うおつもりですか?』
彼の嘲るような声に相手は唸った。
望月はそこまで聞いてそのまま店を出た。本当はもっと聞きたかったが、明らかに聞いてはいけない話だった。
彼は――空は別会社から誘われている。
ヘッドハンティングだ。
突然望月の鼓動が早くなり始めた。
いや、本当にそういう話だったのか?
たったいま耳にしたばかりの話を思い出そうとする。
とにかくせわしい街中を自分のマンションへ向かって進み始める。
『あの店は潰れる』とは、どこのことなのだろうか?まさかうちではないよな。
混乱する頭の中を整理することが出来なかった。
しかしふと気づいたのだが、空は浅野食品とは何の関係もないといえばないのだ。彼は高塚物産の社員なのだから。
だから、たとえ彼が別の会社に行ったとしても、望月にはあまり関係のない事で、きっと店にはまた別のマネージャーが来るだけだろう。
それに名ばかりのマネージャーがそんなに必要なのかどうか疑問だ。
一時混乱した望月だが、家に帰りついた頃にはさして重要な事でもないと思い直し、今夜耳にした会話などすでに忘れつつあった。
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2011-06-15 18:15
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