はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

花嫁の秘密 423 [花嫁の秘密]

ブラックがエリックに報告した時点でこうなると予想はしていたが、セシルまで巻き込むことは想定していなかった。

セシルとはお互いのそういう話をほんの少しだけしたことがある。確か来週には恋人に会えると言っていた。それなのにこんなところへ連れてきて、エリックはいったい何を考えているんだか。

のろのろとした足取りで居間へ向かいながら、マーカスの事を思った。いったい僕の何がマーカスを怒らせたのだろう。頭がすっきりすると、所々欠けていた記憶がよみがえってきた。つまり、マーカスは僕とジュリエットを結婚させまいとして、あんなことをしたということか?

サミーは頭を振った。

いや、違う。マーカスはたかがゴシップ紙のくだらない記事を真に受けたりはしない。一〇年以上会っていなくても、それは断言できる。それなら家庭教師をクビになったこと?父への恨みだとしたら、とんだとばっちりだ。それとも、僕が居留守を使ったことが気に入らなかったとか?誰でも居留守くらい使うのに、仕返しとしてはやり過ぎだ。

エリックの調査は終わったのだろうか。なにか聞けたらいいけど。

「グラント、それをどこへ?」

目の前を副執事がティーセットを手に横切った。

「サミュエル様」グラントは足を止め、身体ごと向き直った。「図書室のセシル様へ」と短く言う。

図書室?エリックはセシルを追い出したのか。「僕が持っていこう」

「いえ!あ、いえ……」あまりに強く否定しすぎて、グラントはいま出来得る限りで肩を縮めた。

グラントはブラックと一緒に後始末をしたのだから、当然なにがあったのかは知っている。そして責任も感じている。おそらくクリスの耳に入れば、彼はクビになるだろう。

「そうだね、肩が痛むし、任せるよ。出し終わったら居間にも同じものを運んでおいて。セシルに挨拶したらすぐに行くから」

「かしこまりました」グラントは廊下で足止めなど食らわなかったというように再び動き出した。

やれやれ、いまいったいどういう状況なのだろう。エリックがここでも屋敷内を掌握しているのは明らかだけど、少なくともブラックのような使用人は潜り込ませてはいない。

サミーは書斎に寄って書斎机の引き出しに鍵がかかっていることを確かめた。漁った形跡もないということは、目的のものはここにはなかったようだ。そういえば酒を飲まされたがどこから持ってきたのだろう。

図書室へ行くと、セシルはソファにちょこんと座ってぼんやりとしていた。いちおう手にはマドレーヌを持っていて、ひと口はかじったようだ。

「もっと何か持ってきてもらおうか?」声を掛けながら向かいに座る。

「サミー、起きて大丈夫なの?」セシルはサッと顔を上げ、心配顔で尋ねた。

「平気だよ」エリックになにを言われたのか想像はつく。セシルにこんな顔をさせるなんて兄として許せない。

「でも、その……」セシルはもどかしそうに口ごもった。きっと聞きたいことが色々あるに違いない。

「セシルこそ、こっちに来てよかったの?恋人からの連絡待ちなんだよね?」

「もう少し先だし、連絡があればハサウェイが知らせてくれるよ」

「ハサウェイ……ああ、君のところの執事ね」

「うん」セシルは手の中のマドレーヌを見おろした。押し潰されて崩れかけている。

「そういえば、昼食は食べたの?エリックはまだだと言っていたけど、なにかちゃんとしたものを用意させようか?」僕もなにか少しお腹に入れておきたいけど、吐き気が治まったとはいえ固形物は受け付けそうにない。

食欲も少し前に比べて戻ってきていたのに、またしばらくは紅茶と菓子で過ごす羽目になりそうだ。

「来るときに列車と馬車の中で食べたから平気。僕はここでゆっくりお茶してるから、サミーはリックのところへ行ってあげて」セシルはぎくしゃくと笑みを作った。気を使わせまいと気を使っているらしい。

確かに、いまの状態ではセシルに気を使わせるだけだ。それにエリックとは早急に話し合う必要がある。僕の従者をいったいどこへやったのか。いくら元主人とはいえ、勝手なことをされては困る。従うブラックもブラックだ。戻ったら契約について再確認する必要がありそうだ。

つづく


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